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10 1 15 14 あなたの声と受信料で 公共放送NHK 1 技研だより 第115号 2014/10 NHKでは、2016年の試験放送開始と、東京五輪が開催される2020年の本格普及に向けて、8Kスーパー ハイビジョン(8K)の研究・開発を進めています。8K映像は、画素数が3,300万(水平7,680 ×垂直4,320)で、 1秒間に撮影・表示する画像の枚数を示すフレーム周波数は、60Hzとその倍にあたる120Hzまでが国際規格 *1 として規定されています。8K映像機器では、これまでフレーム周波数60Hzが用いられてきましたが、スポー ツ競技のような動きの激しい被写体の撮影では、より鮮明で動きの滑らかな映像を表現できる120Hzが望まれ ていました。そこで、技研は、フレーム周波数120Hzで撮影することができる超小型8Kカメラを開発しました(写 1)。 今回、開発した8K/120Hz超小型カメラを用いて、ブラジルで開催された 「2014 FIFAワールドカップ」 を、競技場のスタンド席最上段から高倍率ズームレンズを使用して撮影しました(写真2)。フレーム周波数が 120Hzとなることで、世界最高峰の選手たちのスピード感あるプレーや迫力あるシュートシーン、連携のとれ たパスワークや華麗なテクニックなど、さまざまな映像をより鮮明な8K映像として撮影することに成功しました。 撮影した映像は、スポーツ競技の8K/120Hzの撮影映像としては世界で初めて、9月にオランダで開かれた 欧州最大の放送機器展示会であるIBC *2 2014にて上映し、8K/120Hz映像の鮮明さを多くの来場者に体験し ていただきました。今後も、 NHKは、より高品質な8K映像を視聴者の皆様にお届けすることを目指して、イメー ジセンサーやカメラの研究開発に取り組むとともに、8K/120Hzカメラを用いた多種多様なコンテンツの撮影 に挑戦していきます *1 ITU-R (国際電気通信連合 無線通信部門)のほか、SMPTE (米国映画テレビ技術者協会)ARIB (一般社団法人 電波産業会)において、8Kの映像方式として標準化 *2 IBC International Broadcasting Convention: 欧州最大の放送機器展示会/国際会議 8K/120Hz 超小型カメラで 2014 FIFA ワールドカップを撮影 写真 2 2014 FIFA ワールドカップでの撮影の様子 写真 1 8K/120Hz 超小型カメラ ©FIFA

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あなたの声と受信料で 公共放送NHK 1技研だより 第115号 2014/10

 NHKでは、2016年の試験放送開始と、東京五輪が開催される2020年の本格普及に向けて、8Kスーパーハイビジョン(8K)の研究・開発を進めています。8K映像は、画素数が3,300万(水平7,680×垂直4,320)で、1秒間に撮影・表示する画像の枚数を示すフレーム周波数は、60Hzとその倍にあたる120Hzまでが国際規格*1

として規定されています。8K映像機器では、これまでフレーム周波数60Hzが用いられてきましたが、スポーツ競技のような動きの激しい被写体の撮影では、より鮮明で動きの滑らかな映像を表現できる120Hzが望まれていました。そこで、技研は、フレーム周波数120Hzで撮影することができる超小型8Kカメラを開発しました(写真1)。

 今回、開発した8K/120Hz超小型カメラを用いて、ブラジルで開催された「2014 FIFAワールドカップ」を、競技場のスタンド席最上段から高倍率ズームレンズを使用して撮影しました(写真2)。フレーム周波数が120Hzとなることで、世界最高峰の選手たちのスピード感あるプレーや迫力あるシュートシーン、連携のとれたパスワークや華麗なテクニックなど、さまざまな映像をより鮮明な8K映像として撮影することに成功しました。

 撮影した映像は、スポーツ競技の8K/120Hzの撮影映像としては世界で初めて、9月にオランダで開かれた欧州最大の放送機器展示会であるIBC*2 2014にて上映し、8K/120Hz映像の鮮明さを多くの来場者に体験していただきました。今後も、NHKは、より高品質な8K映像を視聴者の皆様にお届けすることを目指して、イメージセンサーやカメラの研究開発に取り組むとともに、8K/120Hzカメラを用いた多種多様なコンテンツの撮影に挑戦していきます

*1 ITU-R(国際電気通信連合 無線通信部門)のほか、SMPTE(米国映画テレビ技術者協会) 、ARIB(一般社団法人 電波産業会)において、8Kの映像方式として標準化

*2 IBC(International Broadcasting Convention): 欧州最大の放送機器展示会/国際会議

8K/120Hz超小型カメラで2014 FIFA ワールドカップを撮影

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写真 2:2014 FIFAワールドカップでの撮影の様子写真 1:8K/120Hz超小型カメラ

©FIFA

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2 技研だより 第115号 2014/10

「SET EXPO 2014」で8Kスーパーハイビジョン地上伝送技術を紹介

「IBC2014」 最新の研究成果を体感していただきました

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 NHKは、8月24日から27日にブラジル・サンパウロで開催されたSET* EXPO 2014で、8Kのコンテンツ上映と地上伝送の展示を行いました。ブラジルでは、日本の地上デジタル放送方式ISDB-Tを基本とした方式が採用され、次世代の地上伝送技術にも高い関心があります。ブラジルのテレビジョン学会SETが主催するSET EXPOは、南米最大の放送機器展であり、NHKが展示ブースを出すのは今回が初めてです。オープニングセレモニーでは浜田技師長が基調講演を行い、8Kの研究開発への貢献に対して特別表彰を受賞しました。 NHKブースでは、一体型スピーカー付きの85インチ直視型液晶ディスプレーを用いて、「2014 FIFAワールドカップ」のダイジェスト映像を上映、地元開催の余韻が残る中、集客に効果を発揮しました。また、8K地上伝送技術の展示では、UHF帯の実験局免許を取得し、圧縮した8K映像を無線伝送するデモンストレーションを、南米で初めて実施しました。来場者からは、「8Kはいつ放送サービスが開始されるのか」、「ワンセグ相当のサービスは想定されているか」等の質問を受け、8Kの魅力や地上伝送の技術を存分にPRすることができました。 ワールドカップに続き、2年後にはリオデジャネイロ五輪を控えているブラジル。今後も、さらなる友好関係を築くとともに、国内外での8K技術の普及に向けた取り組みを進めていきます。

* SET (Brazilian Society of Television Engineering):ブラジルのテレビジョン学会

 NHKは、9月12日から16日に開催された欧州最大の放送機器展示会であるIBC2014で、8Kスーパーハイビジョン(8K)に関する最新研究成果を紹介しました。IBCは、毎年オランダのアムステルダムで開催され、170カ国から5万人を超える映像・放送の業界関係者が集まるイベントです。 展示では、8K映像を1秒間に120枚もの高速で撮影できる8K/120Hzシステムをデモンストレーションするとともに、2016年に予定されている衛星による8K試験放送の放送システムを紹介しました。特に、世界で初めて公開した「2014 FIFAワールドカップ」の8K/120Hzによる鮮明な撮影映像は、来場者の大きな関心を集めていました。 今回、NHKとFIFAによるワールドカップの8K制作・パブリックビューイングの挑戦的な試みが高く評価され、IBCアワードの審査員特別賞を受賞しました。今後も、技研は、2016年のリオデジャネイロ五輪、2020年の東京五輪に向けて、研究成果の実用化を加速していきます。

授与式の様子NHKブースの模様

NHKブースの模様

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 スマートフォンのように好きなアプリを自分で選んで、番組を見ながら利用できるテレビがあったら便利だと思いませんか。そんな未来のテレビを、ハイブリッドキャストの「放送外マネージドアプリ」が実現します。 ハイブリッドキャストは技研が研究開発を進め、昨年9月に開始した放送通信連携サービスです。放送波で送られる番組と通信ネットワークで送られるアプリケーション(アプリ)を組み合わせて、便利で豊かな放送サービスを実現します。現在、技研ではさらに魅力的なサービスを実現する研究開発に取り組んでおり、その中の一つが「放送外マネージドアプリ」という仕組みです。 現在のハイブリッドキャストでは、放送局が自局の番組に対してアプリを提供する前提で技術仕様を定めています。放送外マネージドアプリの導入で、放送局に限らず、様々な人や組織がアプリを開発し配布できるようになり、新しく以下のような機能が提供されます。

(1) 様々な事業者が提供する多様なアプリの中から、好みのものを選んで利用できる(2) どのチャンネルに切り替えても、アプリを継続して利用できる(3) 複数のアプリを同時に利用できる

 放送外マネージドアプリによってどんなことが実現できるのか、二つの想定サービス例を紹介します。●SNSや検索エンジンの分析から、テレビ視聴者の熱気をお知らせする 『盛り上がり番組通知サービス』 (図1)。今盛り上がっている番組がテレ

ビやタブレットに通知され、ボタン一つで選局できます。●視聴している番組の進行に合わせてタイミングよく関連情報を表示する 『番組関連情報配信サービス』 (図2)。テレビ画面に加え、連携するタブ

レットにも情報を表示。どのチャンネルを見ていても、アプリに表示された関連情報からネットサービスを簡単に利用することができます。

 今年6月、放送外マネージドアプリの仕組みが(一社) IPTVフォーラム*の拡張技術仕様に盛り込まれ、これを契機に放送と通信が連携する新たなサービスモデルの構築が期待されています。実用化に向け、これからも研究開発を進めていきます。

* IPTVフォーラム:NHKや民放、テレビメーカー、通信事業者などが参加する国内の標準化団体

ハイブリッドキャスト 放送外マネージドアプリ ~多様なアプリ利用の実現に向けて~

ハイブリッド放送システム研究部  遠藤 大礎

技研だより 第115号 2014/10

図 1:盛り上がり番組通知サービス

図 2:番組関連情報配信サービス

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技研だより 2014.10 第 115号NHK放送技術研究所〒157-8510 東京都世田谷区砧 1-10-11 Tel: 03-5494-1125(代表) Fax: 03-5494-3125 ホームページ: http://www.nhk.or.jp/strl/

技研だより 第115号 2014/10

 技研は、8K スーパーハイビジョン(8K)のさらにその先の放送サービスを目指して、空間像再生型立体テレビの研究開発を進めています。8K は、その画質の高さから究極の二次元テレビとして位置付けられます。空間像再生型立体テレビでは、奥行きも含めて、被写体が存在する空間を立体的に表現することができるテレビを目指しています。  映画館やアミューズメントパーク、家庭などで観ることのできる立体映像の多くは、特殊なメガネを必要とし、両眼を水平に保つ必要があります。人は物体が発したり反射する光を見て形や色を認識するため、被写体が存在する空間の光と同様な状態を立体テレビで再現できれば、特殊なメガネが不要で、自由な姿勢で立体像を観ることができます。こうした立体テレビを実現するために、インテグラル方式(IP)とホログラフィ方式(HG)の研究開発に取り組んでいます。

インテグラル方式(IP) IP は、小さなレンズを二次元状に配置したレンズアレーを用いて、被写体が存在する空間の光線を再現する方式です(図 1)。たくさんの光線を再現することで、立体像を観ることのできる範囲や、表示できる領域を拡大することができます。そこで、レンズアレーと複数のカメラやディスプレーを用いて、多くの光線を再現するための、撮影装置と表示装置の研究を進めています。また、レンズアレーの大きさの制約を受けずに広範囲の被写体を撮影することを目的として、複数台のカメラで撮影した多視点映像を用いて、光線を再現する技術の研究も進めています。

ホログラフィ方式(HG) 光の伝搬では、光線が密になると光を面として表現することができます。HG は、二次元状の縞模様(干渉縞)を用いて、光の面 * を再現する方式です(図 2)。高密度の多数の画素で干渉縞を表示することにより、立体像を観ることのできる範囲や、表示できる領域を拡大することができます。そこで、1 つの画素あたりの大きさを1ミクロン(1,000 分の1mm)以下で、多画素の干渉縞を表示するための、デバイス技術の研究を進めています。

 次回からの連載では、4 回にわたってこれらの技術を紹介していきます。

* 光の面:光は干渉や回折といった波としての性質を持つことから、光の面は「波面」とも表現される。

第1回 空間像再生型立体テレビの概要立体映像研究部 洗井 淳

連載 空間像再生型立体テレビ(全 5 回)この連載では、特殊なメガネを必要とせず自由な姿勢で観ることが可能な空間像再生型立体テレビについて、立体像を観ることのできる範囲や、表示できる領域を拡大する技術を紹介します。

図 1:インテグラル方式(IP)の原理

図 2:ホログラフィ方式(HG)の原理

レンズアレー立体像 光線群

立体像を表示できる範囲立体像を観ることのできる範囲

観察者

インテグラル方式(IP)

干渉縞立体像 光の面

立体像を表示できる範囲立体像を観ることのできる範囲

観察者

ホログラフィ方式(HG)