気候変動の影響 - 国立環境研究所...2018/12/04  · CLIMATE CHANGE ADAPTATION PLATFORM...

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気候変動の影響 国立環境研究所 気候変動適応センター 肱岡靖明 気候変動適応法施行記念国際シンポジウム 「地域は気候変動にどう備えるか?」 2018124日 @ベルサール半蔵門 HALL A

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気候変動の影響

国立環境研究所 気候変動適応センター

肱岡靖明

気候変動適応法施行記念国際シンポジウム

「地域は気候変動にどう備えるか?」

2018年12月4日 @ベルサール半蔵門 HALL A

2出典: 気象庁HP 世界の年平均気温 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html

― 細線(黒):各年の平均気温の基準値※からの偏差― 太線(青):偏差の5年移動平均― 直線(赤):長期的な変化傾向

※基準値は1981〜2010年の30年平均値

2000年までは、米国海洋大気庁(NOAA)が世界の気候変動の監視に供するために整備したGHCN(Global Historical Climatology Network)データすべてを使用しています(使用地点数は月により異なり、約300~3900地点)。2001年以降については、気象庁に入電した月気候気象通報(CLIMAT報)のデータをすべて使用しています(使用地点数は月により異なり、約1000~1300地点)。

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迫りくる気候変動(世界)2017年の世界年平均気温は1891年の統計開始以降,3番目に高い値

年平均気温は100年あたり約0.73℃の割合で上昇

世界全体において正偏差が大きかった年

①2016年(+0.45℃)②2015年(+0.42℃)③2017年(+0.38℃)④2014年(+0.27℃)⑤1998年(+0.22℃)

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迫り来る気候変動とその将来(世界):IPCC SR1.5観測された世界気温の変化と人為起源の排出・強制力様式化経路(下層将来)に呼応したモデル応答

人為起源による気温上昇は2017年の時点でおおよそ1.0℃上昇 現在の度合いで温暖化が進めば,2030年から2052年の間に1.5℃に達する可能性が高い

4出典: IPCC WGII AR5 SPM

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迫りくる気候変動(世界)ここ数十年における気候変動に起因する影響の世界的パターン

◇AR4では◇

すべての大陸及びほとんどの海洋の観測によって

得られた証拠は,多くの自然システムが地域的な

気候変動,とりわけ気温上昇の影響を受けつつあ

ることが示されていました。

【図の見方】 ~海洋生態系のアイコンを例として~

<アイコンの中の色>

ヨーロッパ

氷河・雪・氷永久凍土河川・湖・洪水干ばつ沿岸侵食海面水位影響

陸域生態系

森林火災

海洋生態系

食料生産

生活・健康・経済

地域規模の影響

確信度の幅を示す

気候変動に原因があることの確信度

中白: 気候変動による影響の度合いが小さい中塗: 気候変動による影響の度合いが大きい

【気候変動に起因する観測された影響】

アジア

オーストラレーシア※

アフリカ

中央・南アメリカ

南極

北極

北アメリカ

小島嶼

非常に低い 低い 中程度 高い 非常に

高い

(中塗)

気候変動による影響の度合いが大きい

(中白)

気候変動による影響の度合いが小さい

(濃色3つ+薄色1つ)→ 中程度~高い

(白抜き1つ)→ とても低い

<確信度>

※オーストラリアとニュージーランドにおける領土,沖合の海,海洋島,排他的経済水域として定義

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気候変動による将来影響(世界)世界年平均気温の変動(観測値と予測値)に対応する懸念材料に関連する追加的リスクの水準

出典: IPCC WGII AR5 SPM

1. 適応能力が限られる種やシステム、特に北極海氷・サンゴ礁システムが脅かされるリスク2. 熱波、極端な降水、沿岸洪水のような極端現象によるリスク3. 特に地域ごとに異なる作物生産や水の利用可能性の減少などの気候変動影響によるリスク4. 生態系の財やサービスの損失と関連する広範な生物多様性の損失リスクや世界経済への

損害のリスク5. 温暖化の進行に伴い、いくつかの物理システムあるいは生態系が曝される急激かつ不可逆

的な変化のリスク

陸域:種の喪失及び絶滅を含む,生物多様性及び生態系に対する影響は、2℃よりも1.5℃の方が低い.2℃よりも1.5℃に抑えることは、陸域、淡水、及び沿岸域の生態系が受ける影響を低減し、それらが提供する人間へのサービスをより多く保持

2℃よりも1.5℃に抑えることによって、海水温の上昇とそれに関連する海洋酸性度の上昇及び海洋酸素濃度水準の低下を低減。1.5℃に抑えることによって、海洋生物多様性、漁業資源、及び生態系、並びにこれらがもたらす人間への機能とサービスに対するリスクが減少

健康、生計、食料安全保障、水供給、人間の安全保障、及び経済成長に対する気候関連のリスクは、1.5℃の地球温暖化において増加、2℃においてはさらに増加

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迫り来る気候変動とその将来(世界):IPCC SR1.5

7出典: 気象庁HP 日本の年平均気温 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html

日本において正偏差が大きかった年①2016年(+0.88℃)②1990年(+0.78℃)③2004年(+0.77℃)④1998年(+0.75℃)⑤2015年(+0.69℃)

観測地点15地点;網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木、飯田、銚子、境、浜田、彦根、宮崎、多度津、名瀬、石垣島.長期間にわたって観測を継続している気象観測所の中から、都市化による影響が比較的少なく、また、特定の地域に偏らないように選定

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迫り来る気候変動(日本)世界より速いペースで気温が上昇している

年平均気温は1898~2016年のデータによると100年あたり約1.19℃の割合で上昇

特に1990年以降,高温となる年が頻出

8出典: 環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁 気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~気象庁 気候変動監視レポート2016 地球温暖化予測情報第9巻

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迫り来る気候変動とその将来(日本)真夏日・猛暑日の日数増加

最高気温30°C以上の真夏日と日最高気温35°C以上の猛暑日の年間日数は1931~2016年で増加傾向

猛暑日は10年あたり0.2日の割合で増加

RCP8.5シナリオを用いた予測では,21世紀末の猛暑日の年間日数も増加し,特に沖縄・奄美では年間で54日程度増加することが予測 猛暑日の年間日数の経年変化(上)、猛暑日の年間日数の将来変化(下)

(上)棒グラフは各年の値、青線は5年移動平均、赤線は期間にわたる変化傾向(下)棒グラフは20世紀末と21世紀末の日数の差、縦棒は年々変動の標準偏差

9出典: 環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁 気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~気象庁 気候変動監視レポート2016 地球温暖化予測情報第9巻

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迫り来る気候変動とその将来(日本)強い雨が増加している一方で降水日が減少

降水量が100mm以上の大雨の日数が増加し, 1時間降水量50mm以上の短時間強雨の発生回数も増加

日降水量1.0mm以上の日が減少し、弱い降水も含めた降水の日数も減少

RCP8.5シナリオでは21世紀末の短時間強雨の発生回数は、全ての地域及び季節で有意に増加すると予測

1時間降水量50mm以上の年間発生回数の経年変化(左上)日降水量1.0mm以上の年間日数の経年変化(右上)1時間降水量50mm以上の年間発生回数の将来変化(下)(左上)(右上) 棒グラフは各年の値、青線は5年移動平均、赤線は期間にわたる変化傾向(下)棒グラフは発生回数(灰:現在、青:将来)、縦棒は年々変動の標準偏

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様々な分野における将来予測される影響(日本)

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農林水産業への影響(日本):コメの収量・品質 気温上昇によるコメの白未熟粒や胴割粒の発生 一部地域や極端な高温年には収量の減少 RCP4.5シナリオでは近未来(2031~2050年)及び21世紀末(2081~2100年)には品質の高いコメの収量が増加する地域と減少する地域の偏りが大きくなる可能性が予測

出典: 環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁 気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~気象庁 気候変動監視レポート2016 地球温暖化予測情報第9巻

品質の高いコメの収量の変化率分布(適応策をとらない場合の20年平均値で、1981~2000年平均の値を100とした相対値)

高温で二酸化炭素濃度の高い環境ではコメの品質に重要なである整粒率(整った米粒の割合)が低下することが指摘されている

12出典: 環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁 気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~農林水産省 平成27年地球温暖化影響調査レポート 農林水産省気候変動適応計画(概要)西日本のモモ生産安定のための果肉障害対策技術の開発研究成果集

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農林水産業への影響(日本)果実の品質・栽培適地への影響

強い日射と高温による日焼け果の発生, 高温が続くことによる着色不良等の影響

ももでは特に高温になりやすく降雨の多い西日本のもも産地を中心に外見からは区別がつかず, 果実内部に「水浸状果肉褐変症」と呼ばれる果肉障害等が発生

うんしゅうみかんやぶどう等の栽培適地が変化

世界の平均気温が1990年代と比較して2°C上昇した場合, ワイン用ぶどうの栽培適地が北海道の標高の低い地域で広がる ぶどう(ピオーネ)の着色不良(左上)、りんご(ふじ)

の日焼け果(右上)りんごの着色不良(左下)、ももの水浸状果肉褐変症(右下)

13出典: 環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁 気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~水産庁 気候変動に対応した漁場整備方策に関するガイドライン

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自然生態系への影響(日本)藻場の衰退、消失

海水温上昇により, 浅場では藻場・干潟の分布域や構成種の減少等に伴う産業等への影響も懸念

2013年には九州北部から山口県に至る約200kmの海岸線沿いでアラメ・カジメ場の大規模な衰退現象が発生

RCP2.6シナリオとRCP8.5シナリオでは海水温の上昇に伴い21世紀末までに本州から九州沿岸のカジメの生息不適域が拡大する可能性

東シナ海北部海域の年平均海面水温平年差の経年変化(福岡管区気象台2018)青丸:平年差、太い青色実線:5年間移動平均値、太い赤色実線:長期変化傾向、 平年値:1981~2010年統計期間:1900~2017年、海面水温上昇率+1.23℃/100年

(左)海岸に打ち上がった大量の藻体(2013年)、(右)カジメ群

14出典: 環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁 気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~国土交通省水管理・国土保全局 平成29年7月九州北部豪雨による土砂災害の概要<速報版>Vol.6

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水環境、自然災害への影響(日本)流域の複合的な水害・土砂災害

近年豪雨の増加傾向が見られ, これに伴う土砂災害の激甚化・形態の変化が懸念

20017年九州北部豪雨災害では広範囲にわたる斜面崩壊や土石流が直接的な災害原因

多量の土砂が下流域に流出し, 河川を埋め尽くすような河床上昇を引き起こし, 甚大な洪水氾濫を拡大

2017年の九州北部豪雨による被害(福岡県朝倉市の赤谷川、小河内川、乙石川合流点付近における流木による被害)

15出典: 環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁 気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~環境省 熱中症環境保健マニュアル2018

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健康への影響(日本)熱中症による死亡者数は増加傾向にある

RCP8.5では 21世紀半ば(2031~2050年)の熱中症搬送者数は現状(1981~2000年)と比較して全国的に増加し, 特に東日本以北で2倍以上増加することが予測

次別男女別熱中症死亡数(1990~2016年)

16出典: 環境省 温暖化から日本を守る 適応への挑戦 2012

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気候変動への適応の重要性~適応と緩和の双方が不可欠~

17出典:

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適応とは

現実の気候または予想される気候及びその影響に対する調整の過程.人間システムにおいて,適応は害を和らげもしくは回避し,または有益な機会を活かそうとする.一部の自然システムにおいては,人間の介入は予想される気候やその影響に対する調整を促進する可能性がある

気候変動による悪影響を軽減するのみならず,気候変動による影響を有効に活用することも含む

18出典: STOP THE 温暖化 2005

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気候変動によるリスクとは? 気候変動による海面上昇

海岸浸食,高波等による沿岸被害の拡大

防波堤の建造・嵩上げによる防護といった適応策

19出典: 全国地球温暖化防止活動推進センター http://www.jccca.org/ipcc/ar5/wg1.html

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将来の地球の温度は?

20出典: IPCC WGII AR5 SPM

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気候変動のリスクマネジメント

社会経済的プロセス社会経済的経路

適応と緩和行動

ガバナンス

気候

自然変動性

人為起源の気候変動

リスクハザード

暴露

脆弱性

影響

温室効果ガスの排出及び土地利用変化

21出典: IPCC WGII AR5 SPM

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反復リスクマネジメント

22出典: IPCC WGII AR5 SPM

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機会の空間と気候にレジリエントな経路

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“持続可能な未来のために今必要なこと”

ご清聴ありがとうございましたThank you for your attention