剛体の角運動量 - Tokyo Metropolitan University...h ≥ I...

4
5 剛体の角運動量 5.1 回転運動 一般の場合の剛体の回転の自由度は 3、運動方程式は dL dt = N (154) 成分ごとに書くと dL x dt = N x , dL y dt = N y , dL z dt = N z (155) ある瞬間での回転(あるいは回転軸が時間変化しない場合)を考え、回転軸を z 軸に選ぶと、 dL z dt = N z (156) が運動方程式、他の 2 自由度は z 軸の方向を指定する 角速度 ω:回転角度 ϕ(単位はラジアン)の時間変化 ω = dϕ dt (157) ω の符号は回転の向きを表す) 回転中心から距離 r の位置の速度の大きさ v v = dr dt (158) = rdϕ dt (159) = rω (160) 剛体が回転するとき、剛体の各部分での角速度は共通 慣性モーメント I :角運動量と角速度の比例係数、単位は質量 ×( 長さ ) 2 L z = I ω (161) 運動方程式を用いると dL z dt = N z = I dω dt (162) 同じ力のモーメントを与えた場合、I が大きい方が角加速度 dω/dt が小さい 意味:回転運動に対する 質量(剛体の回転させにくさ、回転の止めにくさ) 式の形が F = M dv dt と類似 より一般的には慣性モーメントテンソルの zz 成分に対応する 17

Transcript of 剛体の角運動量 - Tokyo Metropolitan University...h ≥ I...

Page 1: 剛体の角運動量 - Tokyo Metropolitan University...h ≥ I G、つまり重心を中心に回転するのが最も効率が良い(小さい 力で早く回る) • 証明

5 剛体の角運動量5.1 回転運動

• 一般の場合の剛体の回転の自由度は 3、運動方程式はdL

dt= N (154)

成分ごとに書くとdLx

dt= Nx,

dLy

dt= Ny,

dLz

dt= Nz (155)

• ある瞬間での回転(あるいは回転軸が時間変化しない場合)を考え、回転軸を z軸に選ぶと、dLz

dt= Nz (156)

が運動方程式、他の 2自由度は z軸の方向を指定する

• 角速度 ω:回転角度 ϕ(単位はラジアン)の時間変化

ω =dϕ

dt(157)

(ωの符号は回転の向きを表す)回転中心から距離 rの位置の速度の大きさ vは

v =

∣∣∣∣dr

dt

∣∣∣∣ (158)

=rdϕ

dt(159)

= rω (160)

剛体が回転するとき、剛体の各部分での角速度は共通

• 慣性モーメント I:角運動量と角速度の比例係数、単位は質量×(長さ )2

Lz = Iω (161)

運動方程式を用いるとdLz

dt= Nz = I

dt(162)

同じ力のモーメントを与えた場合、Iが大きい方が角加速度 dω/dtが小さい意味:回転運動に対する “質量”(剛体の回転させにくさ、回転の止めにくさ)←式の形が F = M

dv

dtと類似

より一般的には慣性モーメントテンソルの zz成分に対応する

17

Page 2: 剛体の角運動量 - Tokyo Metropolitan University...h ≥ I G、つまり重心を中心に回転するのが最も効率が良い(小さい 力で早く回る) • 証明

5.2 質点系の慣性モーメント• xy平面内(r = (x, y, 0))の質量mの質点の慣性モーメントz軸まわりの回転運動、運動の方向は位置ベクトルと直交するので

Lz = (r × p)z (163)

= rmv sin(π/2) (164)

= mr2ω (165)

ここで r =√

x2 + y2、式 (161)より Lz = Iωなので

I = mr2 (166)

• z ̸= 0の位置にある質点の慣性モーメント(r = (x, y, z))z軸まわりの回転運動、位置ベクトル rを z成分 r∥ = (0, 0, z)と xy面内成分 r⊥ = (x, y, 0)

に分割

r = r∥ + r⊥ (167)

Lz = (r × p)z (168)

= (r∥ × p)z + (r⊥ × p)z (169)

r∥は z方向を向いており、a× bは a、bのどちらにも垂直なので z成分は 0

Lz = (r⊥ × p)z (170)

= r⊥mv (171)

= mr2⊥ω (172)

I = mr2⊥ (173)

r⊥は回転軸から質点の距離、r⊥ = (x, y, 0)より

r2⊥ = x2 + y2 (174)

r⊥ =√

x2 + y2 (175)

zに依存しないことに注意

• 間の距離が固定された質点系の慣性モーメント

I =∑

i

mir2⊥,i (176)

r⊥,iは回転軸から質点 iの距離、角速度は共通

18

Page 3: 剛体の角運動量 - Tokyo Metropolitan University...h ≥ I G、つまり重心を中心に回転するのが最も効率が良い(小さい 力で早く回る) • 証明

5.3 剛体の慣性モーメント• 剛体の慣性モーメント

I =

∫ρ(r) r2⊥ dV (177)

rは剛体内部の位置座標(riに対応)、そこでの質量が ρ(r)dV(miに対応)r⊥は回転軸から位置 rまでの距離座標原点を通る z軸まわりの回転の場合

I =

∫ρ(r) (x2 + y2) dV (178)

• 具体例

– 位置 r1 = (a, 0, 0)に質量m1の質点が、位置 r2 = (−b, 0, 0)に質量m2の質点がある場合の原点まわりの慣性モーメント

I =2∑

i=1

mir2i (179)

= m1(r1)2 +m2(r2)

2 (180)

= m1a2 +m2b

2 (181)

– 一様線密度 λ0で長さ ℓの棒の重心まわりの慣性モーメント全質量M は棒の長さ ℓに線密度 λ0をかけたものなのでM = λ0ℓ

棒に沿って x軸をとり端点の座標を (ℓ/2, 0, 0)、(−ℓ/2, 0, 0)とすると、重心の x座標は

Rx =1

M

∫ ℓ/2

−ℓ/2dxλ0 x (182)

=λ0

M

[x2

2

]ℓ/2

−ℓ/2(183)

= 0 (184)

よって原点が重心(棒の長さの半分の点)慣性モーメントは、回転軸からの距離 r⊥が xなので

I =

∫ ℓ/2

−ℓ/2λ0 x2 dx (185)

= λ0

[x3

3

]ℓ/2

−ℓ/2(186)

= λ0

[ℓ3

24−(− ℓ3

24

)](187)

=λ0ℓ3

12(188)

=Mℓ2

12(189)

19

Page 4: 剛体の角運動量 - Tokyo Metropolitan University...h ≥ I G、つまり重心を中心に回転するのが最も効率が良い(小さい 力で早く回る) • 証明

5.4 平行軸の定理• 質量M の剛体の重心を通る軸まわりの慣性モーメント IGと、それと平行で距離 h離れた軸まわりの慣性モーメント Ih

Ih = IG +Mh2 (190)

• 意味:Mh2 ≥ 0より、Ih ≥ IG、つまり重心を中心に回転するのが最も効率が良い(小さい力で早く回る)

• 証明原点を重心にとった場合の重心を通る軸まわりの慣性モーメント IG

IG =

∫ρ(r) (x2 + y2) dV (191)

平行で距離 h離れた回転軸が通る座標を rh = (xh, yh, 0)とすると、軸と位置 r = (x, y, z)の点の距離は r⊥ − rh = (x− xh, y − yh, 0)となるので(dV = dxdydzに注意)

h2 = x2h + y2h (192)

Ih =

∫ρ(r) [(x− xh)

2 + (y − yh)2] dV (193)

=

∫ρ(r) (x2 − 2xxh + x2

h + y2 − 2yyh + y2h) dV (194)

=

∫ρ(r) (x2 + y2) dV −

∫ρ(r) (2xxh + 2yyh) dV + (x2

h + y2h)

∫ρ(r) dV (195)

= IG − 2xh

∫ρ(r) x dV − 2yh

∫ρ(r) y dV +Mh2 (196)

重心座標の定義より∫

ρ(r) x dV = MRx,

∫ρ(r) y dV = MRy (197)

だが、重心座標を原点にとったのでRx = Ry = 0、よって平行軸の定理 (190)を得る

20