ワイドスターⅡ衛星コアネットワークシステムの開発 - NTT …...50 NTT...

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49 NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 2 衛星移動通信サービス SIP FAX ゲートウェイ †  *1 IMS : 3GPP で標準仕様化された,固定 電話 NW や移動通信 NW などの通信サー ビスを,IP 技術やインターネット電話で 使われるプロトコルである SIP(* 4 参 照)で統合し,マルチメディアサービス を実現させる通信方式. *2 APN :企業ユーザなどが接続先として用 意する NW の接続ポイント名. 1. まえがき ドコモでは,回線交換で行ってい た音声サービスを IP 化するアプロ ーチとして,IMS(IP Multimedia Subsystem) *1 を用いて音声トラフィ ックを制御・伝送する IP ベースの コアネットワーク(以下,CS-IP NW)へのマイグレーションを実施 している[1].衛星移動通信を担う ネットワーク(NW)においても同 様のアプローチを採用し,開発を最 小限にするために,開発母体は CS- IP NW と共通にするなどの工夫を 行っている.パケット通信サービ スにおいては,FOMA サービスの パケット交換機である xGSN(Serv- ing/Gateway GPRS Support Node)と 接続することにより,既存の APN (Access Point Name) *2 サーバ側へ影 響を一切与えることなく,FOMA で 提供しているすべての APN へ衛星 端末(S - MS : Satellite-Mobile Sta- tion)から接続可能としている.ま た,FAX ゲートウェイサービスで は,FAX を蓄積可能にするなど,既 存衛星システムで実現できなかった 機能を具備している. 衛星システムの装置構成を図1 に示す.衛星移動通信システム専 用のコアNW装置として,AGS (Access Gateway for Satellite),S-CSN (Satellite-Call Session control Node), S - ASN(Satellite -Application Serving Node),S-MRN(Satellite-Media Resource Node)の新規開発を行い, MGN(Media Gateway Node),MPN (Media Processing Node),xGSN, IPSCP(IP Service Control Point)は, 既存の装置に開発を加える形態をと った.S - CSN,S - ASN,S - MRN の 母体開発を CS - IP NW と共通で行う ことにより,衛星移動通信システム を効率的かつ効果的に構築した. また,既存衛星システムと同様に 災害時での利用も想定しており,2 つの局舎に装置を分離して設置する ことで,片側の局舎が倒壊しても通 信サービスを継続できる冗長構成を 採用している. 本稿では,高速化対応衛星移動通 ワイドスターⅡ衛星コアネットワークシステムの開発 高速化に対応した新しい衛星移動通信サービス「ワイド スターⅡ」が 2010 年 4 月に開始された.データ通信の利用 拡大と低廉な料金での提供を実現するため,既存の PDC ベ ースの衛星システムを見直し,FOMA 音声 NW の IP 化と同 様に IMS ベースの新たな衛星移動通信システムを開発し た.本システムでは,GPRS 上で音声,FAX およびパケッ トサービスを提供し,音声呼制御は SIP を用いて実現して いる.これにより,FOMA で導入している音声付加サービ スを衛星端末へ提供することが容易となり,FOMA で提供 しているすべての APN に接続可能となった. 山本 やまもと たかし 河田 かわだ 隆弘 たかひろ ネットワーク開発部 多彩な衛星コミュニケーションを実現する 高速化対応衛星移動通信サービス 「ワイドスターⅡ」特集

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49NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 2

衛星移動通信サービス SIP FAXゲートウェイ

†  *1 IMS:3GPPで標準仕様化された,固定電話NWや移動通信NWなどの通信サービスを,IP技術やインターネット電話で使われるプロトコルであるSIP(*4参照)で統合し,マルチメディアサービスを実現させる通信方式.

*2 APN:企業ユーザなどが接続先として用意するNWの接続ポイント名.

1. まえがきドコモでは,回線交換で行ってい

た音声サービスをIP化するアプロ

ーチとして,IMS(IP Multimedia

Subsystem)*1を用いて音声トラフィ

ックを制御・伝送するIPベースの

コアネットワーク(以下,CS-IP

NW)へのマイグレーションを実施

している[1].衛星移動通信を担う

ネットワーク(NW)においても同

様のアプローチを採用し,開発を最

小限にするために,開発母体はCS-

IP NWと共通にするなどの工夫を

行っている.パケット通信サービ

スにおいては,FOMAサービスの

パケット交換機であるxGSN(Serv-

ing/Gateway GPRS Support Node)と

接続することにより,既存のAPN

(Access Point Name)*2サーバ側へ影

響を一切与えることなく,FOMAで

提供しているすべてのAPNへ衛星

端末(S-MS:Satellite-Mobile Sta-

tion)から接続可能としている.ま

た,FAXゲートウェイサービスで

は,FAXを蓄積可能にするなど,既

存衛星システムで実現できなかった

機能を具備している.

衛星システムの装置構成を図1

に示す.衛星移動通信システム専

用のコアNW装置として,AGS

(Access Gateway for Satellite),S-CSN

(Satellite-Call Session control Node),

S-ASN(Satellite-Application Serving

Node),S -MRN(Satellite-Media

Resource Node)の新規開発を行い,

MGN(Media Gateway Node),MPN

(Media Processing Node),xGSN,

IPSCP(IP Service Control Point)は,

既存の装置に開発を加える形態をと

った.S-CSN,S-ASN,S-MRNの

母体開発をCS-IP NWと共通で行う

ことにより,衛星移動通信システム

を効率的かつ効果的に構築した.

また,既存衛星システムと同様に

災害時での利用も想定しており,2

つの局舎に装置を分離して設置する

ことで,片側の局舎が倒壊しても通

信サービスを継続できる冗長構成を

採用している.

本稿では,高速化対応衛星移動通

ワイドスターⅡ衛星コアネットワークシステムの開発

高速化に対応した新しい衛星移動通信サービス「ワイド

スターⅡ」が2010年4月に開始された.データ通信の利用

拡大と低廉な料金での提供を実現するため,既存のPDCベ

ースの衛星システムを見直し,FOMA音声NWのIP化と同

様にIMSベースの新たな衛星移動通信システムを開発し

た.本システムでは,GPRS上で音声,FAXおよびパケッ

トサービスを提供し,音声呼制御はSIPを用いて実現して

いる.これにより,FOMAで導入している音声付加サービ

スを衛星端末へ提供することが容易となり,FOMAで提供

しているすべてのAPNに接続可能となった.

山本やまもと

隆たかし

河田か わ だ

隆弘たかひろ

ネットワーク開発部

多彩な衛星コミュニケーションを実現する高速化対応衛星移動通信サービス 「ワイドスターⅡ」特集

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ノート
高速化に対応した新しい衛星移動通信サービス「ワイドスターⅡ」が2010年4月に開始された.データ通信の利用拡大と低廉な料金での提供を実現するため,既存のPDCベースの衛星システムを見直し,FOMA音声NWのIP化と同様にIMSベースの新たな衛星移動通信システムを開発した.本システムでは,GPRS上で音声,FAXおよびパケットサービスを提供し,音声呼制御はSIPを用いて実現している.これにより,FOMAで導入している音声付加サービスを衛星端末へ提供することが容易となり,FOMAで提供しているすべてのAPNに接続可能となった.
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50 NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 2

ワイドスターⅡ衛星コアネットワークシステムの開発

信システムのコアネットワーク装置

の概要について解説する.

2.音声サービス2.1 衛星音声サービスの制御方式

衛星移動通信システムでは,音声

サービスを提供するためにCS - IP

NWベースの装置群を衛星専用とし

て設置している.S-CSN,S-ASNお

よびS-MRNは,標準のIMSと同等

の制御を行っており,S-CSNはセッ

ション制御*3,S-ASNはサービス制

御,S-MRNはガイダンス送出制御

を実施する.また,MGNはFOMA

網などの他網との接続制御を実施

し,CS-IP NWの装置と共用される.

CS-IP NWでは,プロトコル変換

を行うSIN(Signaling Interworking

Node for 3G access)を導入すること

で,既存3Gアクセス網に影響を与

えない方式を採用しているが,衛星

システムでは端末も新規に開発し,

端末とIMS網間においてエンドツー

エンドでのSIP(Session Initiation

Protocol)*4制御を実現する.そのた

めには,端末に対してIPコネクショ

ンを提供する必要があり,GPRS

(General Packet Radio Service)アク

セスを提供するAGSを導入するこ

とで,端末とIMS網の間のIPコネ

クションの確立を実現している.ま

た,留守番電話や転送電話などの既

存衛星サービスを継承する必要があ

り,衛星システムでは,S-ASNが音

声サービス制御を実施する AS

(Application Server)として動作す

る.

新しい衛星移動通信システムで特

徴的な点は,S-MSが,衛星用として

SIPに修正を行ったS-SIP(Satellite-

SIP)を終端するが,IPおよびRTP

(Real-time Transport Protocol)*5を終

端しないという点である.各ノード

がどのプロトコルを終端している

か,プロトコルスタックを図2に示

す.SIPでは,SDP(Session Descrip-

tion Protocol)*6を用いてメディアを

送受信するための情報を交換する

が,S-AP(Satellite-Access Point)が

RTPを終端するために,SIPで通知

されるSDP情報をS -MSだけでな

く,S-APにも通知する必要がある.

そのため,S-CSNにて,SDPが付与

*3 セッション制御:エンドツーエンド型の通信をNWで管理する機能.

*4 SIP:VoIPを用いたIP電話などで利用される,IETF(Internet Engineering TaskForce)で規格化された通話制御プロトコルの1つ.

*5 RTP:IETFで規格化された,音声や映像などをリアルタイムに配信するための

プロトコル.*6 SDP:マルチメディアセッションを開始

するために,IPアドレスなどの必要な情報を記述するためのプロトコル.呼制御プロトコルであるSIPのセッション情報の記述にも使われている.

顧客 LAN

衛星

S-MS

アンテナ

S-AP AGS

S-ASN S-CSN S-MRN

IPルータ網

IPSCP

MGN

xGSN (GGSN)

MPN (FPE)

PDC網

FOMA網

ビジネス Mopera

MoperaU インター ネット

iFAX

他網

図1 衛星通信システムネットワーク構成

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51NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 2

G.729

L1 L1

RTP

IP/UDP

GTP GTP

IP/UDP IP/UDP

L1/L2 L1/L2

GTP

IP/UDP L1/L2 L1/L2

IP/UDP IP/UDP IP/UDP

RTP

G.729

L1/L2

GTP

IP/UDP

L1/L2

S-MS

S-AP AGS (SSAR)

AGS (GSAR) S-MRN MGN

C-Plane:Control Plane GSAR:Gateway Satellite Access Router GTP:GPRS Tunnelling Protocol L1:Layer 1 L2:Layer 2

(a) U-Plane

S-SIP S-SIP

S-RRC

L2

L1

S-RRC

L2

L1

SIP

IP/UDP

GTP-U GTP-U

IP/UDP IP/UDP

L1/L2 L1/L2

GTP-U

IP/UDP L1/L2 L1/L2

IP/UDP IP/UDP IP/UDP

SIP

L1/L2

GTP-U

IP/UDP

L1/L2

S-MS

S-AP AGS (SSAR)

AGS (GSAR) S-CSN S-ASN MGN

(b) C-Plane

RANAP:Radio Access Network Application Part S-NWMP:Satellite-Network Management Protocol SSAR:Serving Satellite Access Router UDP:User Datagram Protocol U-Plane:User Plane

SM/GMM SM/GMM

S-RRC

L2

L1

S-RRC

L2

L1

RANAP RANAP

SIGTRAN SIGTRAN

IPIP/UDP

L1/L2 L1/L2

GTP

IP/UDP IP/UDP

S-NWMP

L1/L2 L1/L2

IP/UDP

S-NWMP

L1/L2

GTP

IP

L1/L2

S-MS

S-AP AGS (SSAR)

AGS (GSAR) S-CSN

(c) IP Connection Setup

図2 音声通信でのプロトコルスタック

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ワイドスターⅡ衛星コアネットワークシステムの開発

されたSIP信号を受信するたびに,

必要な情報をAGS経由でS-APに通

知している.

2.2 衛星音声サービスの発着信処理シーケンス

S -MSが電源ONを実施すると,

GMM(GPRS Mobility Manage-

ment)プロトコル*7にて信号がAGS

に送信され,AGSにおいてAttach処

理が実施される.さらに,SM(Ses-

sion Management)プロトコル*8の

信号がAGSへ送信され,音声専用

APNへのPDP(Packet Data Proto-

col)が確立される.つまり,GPRS

により,IPコネクションが提供され

る.その後,端末からRegistration*9

を要求するSIP信号が送信され,上

位ノード(S-CSN/S -ASN/IPSCP)

に対してIMSのRegistration制御が

実施され,各ノードにプロファイル

情報が作成される.Registration後の

基本発着信処理についての概要を図

3に示す.

*7 GMMプロトコル:パケット交換ドメインにおける位置登録・認証などの移動管理を行うプロトコル.

*8 SMプロトコル:パケット交換ドメインにおける発信・終話など,NWとの接続を行うプロトコル.

*9 Registration:SIPにおいては,移動端末がコンタクトアドレスをレジストラサーバに登録すること.IMSにおいては,IMS端末がホームNWに対して登録処理を行うこと.

S-AP S-APS-MS

Service Request

Diameter LocationInformationRequest

RAB : Radio Access Bearer SIP 衛星独自信号 その他

Diameter LocationInformationAnswer

INVITE(SDP)

ACKACK

ACKACK

ACK

INVITE(SDP)

INVITE(SDP) INVITE(SDP) Paging

183183

200(SDP) 200(SDP)

BYE[2]

200(SDP) UPDATE(SDP)

200(SDP)

180

180(SDP)

180(SDP)

UPDATE(SDP)

200(SDP)

Policing要求

Policing要求 GW Setup Request

GW Setup Request

180(SDP)

INVITE[2](SDP)

ACK[2]

200[2](SDP)

180

183

INVITE(SDP)

S-MSAGS S-MRN AGSS-CSN (P-CSCF)

S-CSN S-ASN

S-CSN S-ASN

S-CSN (P-CSCF)

IPSCP

発側 着側

●①

●②

●③

●④

●⑤

●⑥

●⑨

●⑪

●⑩

●⑦

●⑧

認証/秘匿/RAB設定

認証/秘匿/RAB設定

発サービス制御

着サービス制御

Policing要求 GW Setup Request

RBT

図3 発着信の概略シーケンス

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53NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 18 No. 2

手順①:

AGSは,発S-MSからの発信

により,端末と認証・秘匿処理

などのセキュリティ手順を実

施し,送信された発信要求

(INVITE)をS-CSNへ転送す

る.

手順②:

S-CSNはRegistrationが実施

されているS-ASNへINVITEを

送信する.

手順③:

S-ASNは発加入者を特定し,

契約状態の判定など,発信者側

のサービス制御を実施する.

手順④:

S-CSNは着加入者が収容され

るIPSCPへアクセスして着加入

者の在圏するS-CSNアドレス

を取得し,着S-CSNへINVITE

を送信する.

手順⑤:

着S-CSNは着加入者を特定

し,着S-ASNへINVITEを送信

する.これを受信した着S-ASN

では,着加入者の契約状態を判

定し発信側へ暫定応答(183)

を送信する.また,着信者側の

サービス制御を実施する.

手順⑥:

着S-ASNは着S-CSN経由で

着S-MSへINVITEを送信する.

この際,着AGSの存在を意識す

ることはない.

手順⑦:

着AGSは到達したパケット

をキューイングし,Paging処理

を実施する.着S-MSからの応

答後に認証・秘匿処理を実施し

て回線設定を行い,キューイン

グしていたパケットを着S-MS

に送信する.

手順⑧:

着S -MSからの呼出中信号

(180)を受信した着S-ASNは

RBT(Ring Back Tone)接続

を認識し,S -MRNに対して

INVITEを送信する.これに対

しS-MRNは,RBTを送出する

ためのSDPを設定した接続要

求応答(200)を着S-ASNに送

信する.

手順⑨:

SDP更新が完了した後,着S-

ASNは呼出中信号(180)を発

S-ASNに送信し,発S-ASNは

S-CSN経由で発S-MSに呼出中

信号を送出する.この際に,S-

CSN(P-CSCF(Proxy-Call Ses-

sion Control Function))はSDP

情報をAGS経由でS-APに送信

する.また着S-ASNは,これと

並行して手順⑧に対する確認応

答をS-MRNに対して返送する.

これを受信したS-MRNはRBT

を発側へ送信する.

手順⑩:

着加入者が応答した際に,着

S-MSから接続要求応答(200)

を受信した着S-CSN(P-CSCF)

は,SDP情報を着AGS経由で着

S-APに送信する.また,着S-

ASNはS-MRNへのセッション

解放を実施するとともに,発S-

MSとS-MRNとの間でSDP交

換していた状態から,発S-MS

と着S-MSとの間での接続に変

更を行うため,着S-MSのSDP

を設定した接続要求応答(200)

を発S-ASNに対して送信する.

手順⑪:

着S -MSから接続要求応答

(200)を受信した発S-ASNは,

発S-MSへ,着S-MSのSDPを設

定した更新情報(UPDATE)を

送信し,発S-MSから応答を受

信する.この際にも,発S-CSN

は,SDP情報をS-APに送信す

る.その後,発S-ASNは発S-MS

へ,もともとのINVITEに対す

る接続要求応答(200)を送信

する.これらの処理により,衛

星システムにおける通話が可能

となる.

3.データ通信サービス衛星システムの音声通信を提供す

るためのIPコネクションがAGSに

よって提供されるのは,前述のとお

りであるが,加えてデータ通信サー

ビスを提供するためのIPコネクシ

ョンも提供する.データ通信サービ

スは,NWの接続方式の観点では,

FAXゲートウェイサービス,パケッ

ト通信サービスおよびダイレクトコ

ネクトサービスの大きく3つに分け

られる.

3.1 FAXゲートウェイサービス

既存衛星FAXサービスの代替とな

るFAXゲートウェイサービスの提供

も,2010年4月から始まった.

従来の衛星FAXサービスは回線交

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ワイドスターⅡ衛星コアネットワークシステムの開発

換方式であったため,あて先が通話

中や圏外であった場合は,FAX通信

ができなかった.また,回線帯域が

狭い(ベストエフォート型で上り

4.8kbit/s,下り最大64kbit/s)ため

通信時間が長かった.

一方,新衛星のFAXゲートウェイ

サービスは,G3FAX機を用いてFAX

をIP網で送受信できるサービスで

あり,ITU(International Telecom-

munication Union)標準のT.37*10

(メール方式)を採用しており,圏

外時でも通信ができるように,ドコ

モ網内に新たに蓄積機能(最大3日)

を設けた.また,新衛星は,回線帯域

が広い(ベストエフォート型で上り

最大144kbit/s,下り最大384kbit/s)

ため通信時間が短く,利便性の向上

が図られている.

例として,FAXゲートウェイサー

ビスを提供するNW構成を図4に示

す.FAXの送受信を行う際は,衛星

移動端末のFAXアダプタにG3FAX

機を接続して利用する.FAXアダプ

タは,G3FAX信号とメールの相互

変換を行う.サービス提供形態は,

固定電話発―衛星移動端末着,衛星

移動端末発―固定電話着,衛星移動

端末発―衛星移動端末着の3パター

ンが存在する.衛星移動端末と固定

電話との間でFAXの送受信を行う

際は,NTTコミュニケーションズ

株式会社(NTT Com)が提供する

iFAX�*11サービスを利用する.ただ

し,衛星移動端末どうしでFAXの送

受信を行う際は,メディア処理ノー

ド*12であるMPN内で折り返して送

受信される.

MPNは,メールが届いた時点で

衛星移動端末に接続されたFAXアダ

プタに着信通知を行う.通知を受け

たFAXアダプタはMPNにNW接続

を行い,メール受信を行う.メール

受信完了後,FAXアダプタは,配下

に接続されたG3FAX機へ受信完了

した旨のメールをG3プロトコルに

変換して送信し,G3FAX機からFAX

が出力される.なお,iFAX相当のサ

*10 T.37:IP網上での電子メールを介して,G3FAX通信を実現するための伝送制御プロトコル.

*11 iFAX�:NTTコミュニケーションズ�の登録商標.

*12 メディア処理ノード:将来ネットワーク構想における付加サービスの高付加価値化のために,メディア系サービスイネーブラを統括する目的で開発されたノード.

G3FAX

FAXアダプタ

ドコモ

G3FAX

T.30 T.30TCP/IP -POP/SMTP- TCP/IP -SMTP-

PPPoE

G3FAXメール メール

NTT Comなど NTT東西など

S-MS

衛星

衛星網

U-Plane(FAX)

その他ISPサーバ

iFAX 公衆網

G3FAXS-AP

AGS MPN インター ネット

PPP:Point-to-Point Protocol PPPoE:Point-to-Point Protocol over Ethernet SMTP:Simple Mail Transfer Protocol

図4 FAXゲートウェイサービスNW構成

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ービスを提供している特定の他ISP

からの受信も,可能としている.

ドコモ網では,FAXメディア処理

装置(FPE:Fax Processing Equip-

ment)を新規開発し,MPNに実装

することでサービス提供を可能とし

ている.MPNにおけるFPE実装構

成を図5に示す.T.37機能をもつ

FPEは,汎用ソフトウェアや汎用イ

ンタフェースを独自拡張しつつ既存

ソフトウェア資産を有効活用してい

る.このように,高付加価値かつ安

価な汎用ソリューションを柔軟に取

り込み,開発期間・費用を大幅に削

減することに成功した.

3.2 その他サービスパケット通信サービスはFOMA

で提供されているデータ通信と同様

のサービスであり,i-modeに関連す

る通信を除いた,FOMAで提供して

いるすべてのAPNに接続すること

を目的としている.これを実現する

ため,AGSからxGSN(GGSN)に

接続する形態を採用した.この方式

のメリットは,収容されるAPN側

では新規設備の追加や設定変更を行

うことなく,S-MSからの接続を実

現できる点にある.また,AGSにて

xGSN(SGSN)と全く同一のGPRS

方式を採用することで,xGSN

(GGSN)に対しても一切の影響を与

えずに,衛星からの通信を実現して

いる.

ダイレクトコネクトサービスは,

既存衛星システムにおいて回線交換

上で実施していたデータ通信の代替

手段を目的としており,S-MSどう

しでIPによる通信を提供すること

ができる.各端末に固定IPアドレス

を割り当てることによって,発信者

は任意の端末へ着信をさせることが

可能である.

4.あとがき本稿では,衛星移動通信システム

高速化対応におけるCS-IP NW装置

について解説した.今後は,xGSN

(GGSN)の機能追加によるデータ通

信の拡張およびMPNの機能追加に

よるFAX通信の拡張が可能になる.

その結果,海上や山間部などのケー

タイのNWではカバーされていない

エリアのユーザに対して,音声・メ

ール・FAX変換を用いた緊急情報の

同報配信サービスに加え,IMSのア

ーキテクチャを活用した新衛星NW

を活かしたサービス拡充も可能とな

る.

文 献[1] 嶋田,ほか:“サービスの高度化と効率化に向けたFOMA音声ネットワークIP化の開発,”本誌,Vol.18,No.1,pp.6-14,Apr. 2010.

汎用/独自インタフェース

サービス制御機能

サービス制御装置

保守機能

STMSTM /IP 変換

メディア制御機能

メディア処理機能 (音声・映像)

データ ベース

汎用インタフェース

IPインタフェース IPインタフェース

FPE (T.37処理)

メディア 処理機能 (FAX)

各種 メディア処理装置

図5 MPNにおけるFPE実装構成

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