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Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造 変化に関する研究( 本文(FULLTEXT) ) Author(s) 葛川, 幸隆 Report No.(Doctoral Degree) 博士(工学) 甲第107号 Issue Date 1999-03-25 Type 博士論文 Version publisher URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/1828 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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Title アモルファスカルコゲナイド半導体における可逆光構造変化に関する研究( 本文(FULLTEXT) )

Author(s) 葛川 幸隆

Report No(DoctoralDegree) 博士(工学) 甲第107号

Issue Date 1999-03-25

Type 博士論文

Version publisher

URL httphdlhandlenet20500120991828

この資料の著作権は各資料の著者学協会出版社等に帰属します

アモルファスカルコゲナイド半導体における可逆光構造変化に関する研究

Photo8truCtural Changes in

Chalcogenide Gla88e8

学位論文博士(工学)甲107

平成11年1月

葛川 幸隆

目次

第1章 序論

11アモルファス半導体

12 アモルファス半導体の分類

13 アモルファス半導体の歴史

14 As-Se(S)あるいはGe-Se(S)ガラスの応用

141 はじめに

142 光メモリ-の展開

143 相転移

144 光構造変化

145 フォトレジスト-の展開

15 本研究の目的と本論文の構成

参考文献

第2章 光誘起現象(バンドギャップ及び膜厚の変化)

21カルコゲナイドガラスにおける光誘起現象

22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

23 試料作製

231 As系とGe系試料の蒸着

232 光照射方法

233 熱処理方法

参考文献

1

4

6

8

ill

12

13

16

18

19

26

28

29

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚バンドギャップの測定

31 はじめに

32 試料基板の条件について

33 基板のサイズ及び測定位置

34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

35 バンドギャップ測定方法

参考文献

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャップの変化)

41 As系試料の光照射及び熱処理(アニーリング処理)

による膜厚とバンドギャップの変化

42 Ge系試料の光照射及び熱処理(アニーリング処理)

による膜厚とバンドギャップの変化

43 まとめ

参考文献

第5章 カルコゲナイド半導体における光及び

熱による誘起変化機構の考察

51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係

52 アモルファスカルコゲナイドガラスにおける

光照射による構造変化モデル(クーロン反発に

よる膨張とスリップモデル)

53 斜方蒸着におけるAs系カルコゲナイドガラス

の光照射による構造変化モデル

54 まとめ

参考文献

第6章 総括

本研究に関する発表論文

謝辞

34

36

44

45

52

53

59

64

65

66

67

78

82

83

第1章 序論

この章では sect11でアモルファス半導体の基礎について概説し sect12で

アモルファス半導体の分類について述べ sect13でアモルファス半導体の歴史

について述べ sect14で応用面について述べる最後にsect15で本研究の目的を

述べ本論文の構成を示す

sect11 アモルファス半導体

アモルファス半導体を用いた電子デバイスが水素化アモルファスシリ

コン太陽電池液晶ディスプレイ駆動用の薄膜トランジスタ(TFT)テレ

ビ映像素子等の言葉で最近新聞紙上を賑わしている既に実用化されてい

るもの 21世紀の夢の材料とまで言われているものもある

「アモルファス(amorphous)」とはギリシャ語のa-morph6から来ており

「はっきりとした形を持たないもの」とか 「分類できないもの」という意味

を持つ日本語では 「非晶質」 (結晶に非ず)無定型ガラス状という意

(a)結晶の構造 仲)アモルファスの構造

図1-1原子構造の概念

味で使用され構造的には最近接原子の数結合距離結合角など短距離秩序

はあるが結晶のように原子配列が規則的な周期構造のない即ち長距離秩序

1

は持たない固体を意味する 1図1-1はⅣ族の元素を例にとった原子構造を2

次元的に示した概念図である図1-1(a)の様な共有結合型結晶は 8-N則1に従

い4個の価電子が各隣接原子と共有結合することにより原子が規則正しく配

列し構造的に長距離秩序のある周期性を有しているこれに対しアモルファス

は図1-1(b)の様に周期性は存在しない2 しかし単に原子がランダムに存

在しているのではなく大部分の原子は8-N則に従って結合しており短距離秩

序を有しているこのためアモルファスにおいても結晶と同様にバンドモ

デルが適用できるしかし長距離秩序がないため波動関数が空間的に拡がっ

ておらずアモルファス固有のバンドの裾状態やギャップ中の局在準位など

電気的及び光学的特性に影響を与える電子状態が存在する代表的なアモルフ

ァス構造は図1-1(b)の黒丸のような8-N則で決まる配位数より一つ配位数の

1amp上

H屈孤

原子の空間配置

図1-2自由エネルギー配置

少ない状態の未結合手すなわちダングリングボンドPB)が存在する事である

これを以下欠陥というアモルファスの結合距離については結晶の結合距離に

比べて大きく変わるものでなく結晶の結合距離に比べせいぜいplusmn1以下の

変化でしかない結合角度については結晶の結合角度に比べて変化量が大き

くおおよそplusmn10程度の結合角度の変化が認められる場合がある

2

熱力学的にはアモルファス状態は自由エネルギー最小の平衡安定状態に

はなく自由エネルギーの極小値である非平衡準安定状態にある図1-2のA

点は熱平衡状態にある結晶を示しており全系の自由エネルギーが最小となる

値であるアモルファスは急冷法によって形成されるため点Aの熱平衡に達

する前に原子構造が凍結より自由エネルギーの高い非平衡状態である図12

のBCDの点をとる急冷の仕方によってとる点は異なるまた加熱や光励

起など外部からのエネルギーの供給によって例えばB点から熱的にさらに安

定な極小点Cに移ったり高い状態D点に変わったりするさらに高いエネル

ギーによってアモルファス状態から結晶状態-の相転移も生じるこの外部

エネルギーによる特性変化が原因でときには安定性や信頼性の点でアモルフ

ァス材料が 不信の眼で見られることがあるしかし図にも見られるよ

うに無数の異なる自由エネルギー極小の状態が存在するため結晶に比べてき

わめて多様性に富む材料である 3

アモルファス半導体をエネルギー空間で表現すると図1-3のように表され

図1-3 アモルファス半導体の電子状態

3

化学結合論的立場から見たバンド構造を図(1-4)に示す

反結合状態

孤立電子対

忘冊 +ト結合状態

十十

品i+ 十十

反結合性バンド

非結合性バンド

結合性バンド

伝革帯

価電子帯

原子==こgtボンド ==二=gt バンド

図1-4 化学結合論的立場から見たバンド構造(Ⅵ族カルコゲナイド系) 2

Ⅵ族元素を主体として構成されるカルコゲナイド系の場合には S2P4配置

の最外殻電子6個のうちS電子2個は各原子に局在した深いエネルギー状態に

あり P電子2個が2本の化学結合手として2配位結合構造を形成する残りの

2個のP電子は直接には結合に関与せず孤立電子対として周囲原子との弱

い(しかしおそらく複雑な)相互作用を通して価電子帯の頂上部を形成す

ると考えられる2

sect12 アモルファス半導体の分類

アモルファス物質も結晶と同様にその電気的特性の違いによって絶

縁体半導体金属に分類されるアモルファス半導体はさらにカルコゲ

ナイド系とテトラ-ドラル系に大別することができるテトラ-ドラル系は

siなどのⅣ族元素を主成分としており8-N則によって4配位で結合するた

め構造がかなりしっかりしていて柔軟性が少ないそのため普通は融液

凍結によってアモルファス(ガラス)にする事はできない気相からアモル

ファス薄膜を作製するのが一般的方法であるまた水素化によってダング

リングボンドを終端し欠陥密度を減少させることにより構造敏感性をもた

せることができるすなわち単結晶と同様価電子制御が可能となるカル

コゲナイド系は酸化物ガラスの延長線上にありⅥ族元素であるカルコゲン

元素と呼ばれている S Se Teが主成分となったものである Ⅵ族元素は

2配位で結合しており構造の柔軟性が大きいためガラスになりやすく別名

カルコゲナイドガラスと呼ばれている表1-1に典型的なアモルファス半導

体を示す 1 テトラ-ドラル系カルコゲナイド系共に共通した物性も有

4

するが次のような大きな相異点がある第一にテトラ-ドラル系はアモ

ルファス膜しか得られないがカルコゲナイド系の多くはバルクガラスも作

りうるテトラ-ドラル系はガラスとならずアモルファス膜を加熱すると

結晶化するこれに対してカルコゲナイド系はガラス転移現象を現すことが

多い第二にカルコゲナイド元素は種々の元素と化合して安定なアモル

ファス物質を作る SiやGeを主成分としたテトラ-ドラル系物質は構造

が硬く異種原子を取り組みにくい 2

テトラ-ドラル系 単元系 CSiGe

水素化単元系 CHSiⅢGe班

合金系Si)_GeSi)_xC

Si)_NSi)_xOx

水素化合金系Si)_GeHSi)_CH

Si)_NHSi)_0H

Ⅲ-v族 GaAsGaSbGap

カルコゲナイド系 単元系 SSeTe

Ⅴ-Ⅵ系 As)_xSAs)_SeAs)_Te

Ⅳ-Ⅵ系 Ge)_xSxGe)_SexGe)_Te

3元系 As-Se-TeAs-Ge-TeGe-Sb-S

4元系 As-Te-Si-Ge

Ⅴ族 AsSb

表1-1典型的なアモルファス半導体の分類2

酸化物ガラスとの関連では表1-2の周期律表で解るようにⅥ族元素は

上から下-0SSeTeと並んでおり 0がSSeTeで置き換わったものがカ

ルコゲナイド系材料と見なすことができる実際 GeO2 GeS2 GeSe2な

どのガラスを作ることができるたとえばGe-0とGe-Se結合を比べると

前者はイオン性が強く後者は共有結合と見なされるこの共有結合性が半

導体となる必須条件である

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

1 ⅠⅠ

2 Li B 0

3 Na Mg A1 Si P C1

4 KCu Zn Ga Ge As Br

5 Ag Cd Ⅰn Sn Sb Ⅰ

6 Au Hg Ti Pb Bi

表12 カルコゲナイド元素(SSeTe)と化合してガラス化する元素

5

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

一っ)

lJJiZ

sub》

lJ」

lt]ヽ

て】iZ

て】

A

6

4

2

0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

iZiiて】

く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 2: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

アモルファスカルコゲナイド半導体における可逆光構造変化に関する研究

Photo8truCtural Changes in

Chalcogenide Gla88e8

学位論文博士(工学)甲107

平成11年1月

葛川 幸隆

目次

第1章 序論

11アモルファス半導体

12 アモルファス半導体の分類

13 アモルファス半導体の歴史

14 As-Se(S)あるいはGe-Se(S)ガラスの応用

141 はじめに

142 光メモリ-の展開

143 相転移

144 光構造変化

145 フォトレジスト-の展開

15 本研究の目的と本論文の構成

参考文献

第2章 光誘起現象(バンドギャップ及び膜厚の変化)

21カルコゲナイドガラスにおける光誘起現象

22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

23 試料作製

231 As系とGe系試料の蒸着

232 光照射方法

233 熱処理方法

参考文献

1

4

6

8

ill

12

13

16

18

19

26

28

29

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚バンドギャップの測定

31 はじめに

32 試料基板の条件について

33 基板のサイズ及び測定位置

34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

35 バンドギャップ測定方法

参考文献

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャップの変化)

41 As系試料の光照射及び熱処理(アニーリング処理)

による膜厚とバンドギャップの変化

42 Ge系試料の光照射及び熱処理(アニーリング処理)

による膜厚とバンドギャップの変化

43 まとめ

参考文献

第5章 カルコゲナイド半導体における光及び

熱による誘起変化機構の考察

51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係

52 アモルファスカルコゲナイドガラスにおける

光照射による構造変化モデル(クーロン反発に

よる膨張とスリップモデル)

53 斜方蒸着におけるAs系カルコゲナイドガラス

の光照射による構造変化モデル

54 まとめ

参考文献

第6章 総括

本研究に関する発表論文

謝辞

34

36

44

45

52

53

59

64

65

66

67

78

82

83

第1章 序論

この章では sect11でアモルファス半導体の基礎について概説し sect12で

アモルファス半導体の分類について述べ sect13でアモルファス半導体の歴史

について述べ sect14で応用面について述べる最後にsect15で本研究の目的を

述べ本論文の構成を示す

sect11 アモルファス半導体

アモルファス半導体を用いた電子デバイスが水素化アモルファスシリ

コン太陽電池液晶ディスプレイ駆動用の薄膜トランジスタ(TFT)テレ

ビ映像素子等の言葉で最近新聞紙上を賑わしている既に実用化されてい

るもの 21世紀の夢の材料とまで言われているものもある

「アモルファス(amorphous)」とはギリシャ語のa-morph6から来ており

「はっきりとした形を持たないもの」とか 「分類できないもの」という意味

を持つ日本語では 「非晶質」 (結晶に非ず)無定型ガラス状という意

(a)結晶の構造 仲)アモルファスの構造

図1-1原子構造の概念

味で使用され構造的には最近接原子の数結合距離結合角など短距離秩序

はあるが結晶のように原子配列が規則的な周期構造のない即ち長距離秩序

1

は持たない固体を意味する 1図1-1はⅣ族の元素を例にとった原子構造を2

次元的に示した概念図である図1-1(a)の様な共有結合型結晶は 8-N則1に従

い4個の価電子が各隣接原子と共有結合することにより原子が規則正しく配

列し構造的に長距離秩序のある周期性を有しているこれに対しアモルファス

は図1-1(b)の様に周期性は存在しない2 しかし単に原子がランダムに存

在しているのではなく大部分の原子は8-N則に従って結合しており短距離秩

序を有しているこのためアモルファスにおいても結晶と同様にバンドモ

デルが適用できるしかし長距離秩序がないため波動関数が空間的に拡がっ

ておらずアモルファス固有のバンドの裾状態やギャップ中の局在準位など

電気的及び光学的特性に影響を与える電子状態が存在する代表的なアモルフ

ァス構造は図1-1(b)の黒丸のような8-N則で決まる配位数より一つ配位数の

1amp上

H屈孤

原子の空間配置

図1-2自由エネルギー配置

少ない状態の未結合手すなわちダングリングボンドPB)が存在する事である

これを以下欠陥というアモルファスの結合距離については結晶の結合距離に

比べて大きく変わるものでなく結晶の結合距離に比べせいぜいplusmn1以下の

変化でしかない結合角度については結晶の結合角度に比べて変化量が大き

くおおよそplusmn10程度の結合角度の変化が認められる場合がある

2

熱力学的にはアモルファス状態は自由エネルギー最小の平衡安定状態に

はなく自由エネルギーの極小値である非平衡準安定状態にある図1-2のA

点は熱平衡状態にある結晶を示しており全系の自由エネルギーが最小となる

値であるアモルファスは急冷法によって形成されるため点Aの熱平衡に達

する前に原子構造が凍結より自由エネルギーの高い非平衡状態である図12

のBCDの点をとる急冷の仕方によってとる点は異なるまた加熱や光励

起など外部からのエネルギーの供給によって例えばB点から熱的にさらに安

定な極小点Cに移ったり高い状態D点に変わったりするさらに高いエネル

ギーによってアモルファス状態から結晶状態-の相転移も生じるこの外部

エネルギーによる特性変化が原因でときには安定性や信頼性の点でアモルフ

ァス材料が 不信の眼で見られることがあるしかし図にも見られるよ

うに無数の異なる自由エネルギー極小の状態が存在するため結晶に比べてき

わめて多様性に富む材料である 3

アモルファス半導体をエネルギー空間で表現すると図1-3のように表され

図1-3 アモルファス半導体の電子状態

3

化学結合論的立場から見たバンド構造を図(1-4)に示す

反結合状態

孤立電子対

忘冊 +ト結合状態

十十

品i+ 十十

反結合性バンド

非結合性バンド

結合性バンド

伝革帯

価電子帯

原子==こgtボンド ==二=gt バンド

図1-4 化学結合論的立場から見たバンド構造(Ⅵ族カルコゲナイド系) 2

Ⅵ族元素を主体として構成されるカルコゲナイド系の場合には S2P4配置

の最外殻電子6個のうちS電子2個は各原子に局在した深いエネルギー状態に

あり P電子2個が2本の化学結合手として2配位結合構造を形成する残りの

2個のP電子は直接には結合に関与せず孤立電子対として周囲原子との弱

い(しかしおそらく複雑な)相互作用を通して価電子帯の頂上部を形成す

ると考えられる2

sect12 アモルファス半導体の分類

アモルファス物質も結晶と同様にその電気的特性の違いによって絶

縁体半導体金属に分類されるアモルファス半導体はさらにカルコゲ

ナイド系とテトラ-ドラル系に大別することができるテトラ-ドラル系は

siなどのⅣ族元素を主成分としており8-N則によって4配位で結合するた

め構造がかなりしっかりしていて柔軟性が少ないそのため普通は融液

凍結によってアモルファス(ガラス)にする事はできない気相からアモル

ファス薄膜を作製するのが一般的方法であるまた水素化によってダング

リングボンドを終端し欠陥密度を減少させることにより構造敏感性をもた

せることができるすなわち単結晶と同様価電子制御が可能となるカル

コゲナイド系は酸化物ガラスの延長線上にありⅥ族元素であるカルコゲン

元素と呼ばれている S Se Teが主成分となったものである Ⅵ族元素は

2配位で結合しており構造の柔軟性が大きいためガラスになりやすく別名

カルコゲナイドガラスと呼ばれている表1-1に典型的なアモルファス半導

体を示す 1 テトラ-ドラル系カルコゲナイド系共に共通した物性も有

4

するが次のような大きな相異点がある第一にテトラ-ドラル系はアモ

ルファス膜しか得られないがカルコゲナイド系の多くはバルクガラスも作

りうるテトラ-ドラル系はガラスとならずアモルファス膜を加熱すると

結晶化するこれに対してカルコゲナイド系はガラス転移現象を現すことが

多い第二にカルコゲナイド元素は種々の元素と化合して安定なアモル

ファス物質を作る SiやGeを主成分としたテトラ-ドラル系物質は構造

が硬く異種原子を取り組みにくい 2

テトラ-ドラル系 単元系 CSiGe

水素化単元系 CHSiⅢGe班

合金系Si)_GeSi)_xC

Si)_NSi)_xOx

水素化合金系Si)_GeHSi)_CH

Si)_NHSi)_0H

Ⅲ-v族 GaAsGaSbGap

カルコゲナイド系 単元系 SSeTe

Ⅴ-Ⅵ系 As)_xSAs)_SeAs)_Te

Ⅳ-Ⅵ系 Ge)_xSxGe)_SexGe)_Te

3元系 As-Se-TeAs-Ge-TeGe-Sb-S

4元系 As-Te-Si-Ge

Ⅴ族 AsSb

表1-1典型的なアモルファス半導体の分類2

酸化物ガラスとの関連では表1-2の周期律表で解るようにⅥ族元素は

上から下-0SSeTeと並んでおり 0がSSeTeで置き換わったものがカ

ルコゲナイド系材料と見なすことができる実際 GeO2 GeS2 GeSe2な

どのガラスを作ることができるたとえばGe-0とGe-Se結合を比べると

前者はイオン性が強く後者は共有結合と見なされるこの共有結合性が半

導体となる必須条件である

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

1 ⅠⅠ

2 Li B 0

3 Na Mg A1 Si P C1

4 KCu Zn Ga Ge As Br

5 Ag Cd Ⅰn Sn Sb Ⅰ

6 Au Hg Ti Pb Bi

表12 カルコゲナイド元素(SSeTe)と化合してガラス化する元素

5

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

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図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

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図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

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図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

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図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

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図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 3: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

目次

第1章 序論

11アモルファス半導体

12 アモルファス半導体の分類

13 アモルファス半導体の歴史

14 As-Se(S)あるいはGe-Se(S)ガラスの応用

141 はじめに

142 光メモリ-の展開

143 相転移

144 光構造変化

145 フォトレジスト-の展開

15 本研究の目的と本論文の構成

参考文献

第2章 光誘起現象(バンドギャップ及び膜厚の変化)

21カルコゲナイドガラスにおける光誘起現象

22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

23 試料作製

231 As系とGe系試料の蒸着

232 光照射方法

233 熱処理方法

参考文献

1

4

6

8

ill

12

13

16

18

19

26

28

29

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚バンドギャップの測定

31 はじめに

32 試料基板の条件について

33 基板のサイズ及び測定位置

34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

35 バンドギャップ測定方法

参考文献

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャップの変化)

41 As系試料の光照射及び熱処理(アニーリング処理)

による膜厚とバンドギャップの変化

42 Ge系試料の光照射及び熱処理(アニーリング処理)

による膜厚とバンドギャップの変化

43 まとめ

参考文献

第5章 カルコゲナイド半導体における光及び

熱による誘起変化機構の考察

51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係

52 アモルファスカルコゲナイドガラスにおける

光照射による構造変化モデル(クーロン反発に

よる膨張とスリップモデル)

53 斜方蒸着におけるAs系カルコゲナイドガラス

の光照射による構造変化モデル

54 まとめ

参考文献

第6章 総括

本研究に関する発表論文

謝辞

34

36

44

45

52

53

59

64

65

66

67

78

82

83

第1章 序論

この章では sect11でアモルファス半導体の基礎について概説し sect12で

アモルファス半導体の分類について述べ sect13でアモルファス半導体の歴史

について述べ sect14で応用面について述べる最後にsect15で本研究の目的を

述べ本論文の構成を示す

sect11 アモルファス半導体

アモルファス半導体を用いた電子デバイスが水素化アモルファスシリ

コン太陽電池液晶ディスプレイ駆動用の薄膜トランジスタ(TFT)テレ

ビ映像素子等の言葉で最近新聞紙上を賑わしている既に実用化されてい

るもの 21世紀の夢の材料とまで言われているものもある

「アモルファス(amorphous)」とはギリシャ語のa-morph6から来ており

「はっきりとした形を持たないもの」とか 「分類できないもの」という意味

を持つ日本語では 「非晶質」 (結晶に非ず)無定型ガラス状という意

(a)結晶の構造 仲)アモルファスの構造

図1-1原子構造の概念

味で使用され構造的には最近接原子の数結合距離結合角など短距離秩序

はあるが結晶のように原子配列が規則的な周期構造のない即ち長距離秩序

1

は持たない固体を意味する 1図1-1はⅣ族の元素を例にとった原子構造を2

次元的に示した概念図である図1-1(a)の様な共有結合型結晶は 8-N則1に従

い4個の価電子が各隣接原子と共有結合することにより原子が規則正しく配

列し構造的に長距離秩序のある周期性を有しているこれに対しアモルファス

は図1-1(b)の様に周期性は存在しない2 しかし単に原子がランダムに存

在しているのではなく大部分の原子は8-N則に従って結合しており短距離秩

序を有しているこのためアモルファスにおいても結晶と同様にバンドモ

デルが適用できるしかし長距離秩序がないため波動関数が空間的に拡がっ

ておらずアモルファス固有のバンドの裾状態やギャップ中の局在準位など

電気的及び光学的特性に影響を与える電子状態が存在する代表的なアモルフ

ァス構造は図1-1(b)の黒丸のような8-N則で決まる配位数より一つ配位数の

1amp上

H屈孤

原子の空間配置

図1-2自由エネルギー配置

少ない状態の未結合手すなわちダングリングボンドPB)が存在する事である

これを以下欠陥というアモルファスの結合距離については結晶の結合距離に

比べて大きく変わるものでなく結晶の結合距離に比べせいぜいplusmn1以下の

変化でしかない結合角度については結晶の結合角度に比べて変化量が大き

くおおよそplusmn10程度の結合角度の変化が認められる場合がある

2

熱力学的にはアモルファス状態は自由エネルギー最小の平衡安定状態に

はなく自由エネルギーの極小値である非平衡準安定状態にある図1-2のA

点は熱平衡状態にある結晶を示しており全系の自由エネルギーが最小となる

値であるアモルファスは急冷法によって形成されるため点Aの熱平衡に達

する前に原子構造が凍結より自由エネルギーの高い非平衡状態である図12

のBCDの点をとる急冷の仕方によってとる点は異なるまた加熱や光励

起など外部からのエネルギーの供給によって例えばB点から熱的にさらに安

定な極小点Cに移ったり高い状態D点に変わったりするさらに高いエネル

ギーによってアモルファス状態から結晶状態-の相転移も生じるこの外部

エネルギーによる特性変化が原因でときには安定性や信頼性の点でアモルフ

ァス材料が 不信の眼で見られることがあるしかし図にも見られるよ

うに無数の異なる自由エネルギー極小の状態が存在するため結晶に比べてき

わめて多様性に富む材料である 3

アモルファス半導体をエネルギー空間で表現すると図1-3のように表され

図1-3 アモルファス半導体の電子状態

3

化学結合論的立場から見たバンド構造を図(1-4)に示す

反結合状態

孤立電子対

忘冊 +ト結合状態

十十

品i+ 十十

反結合性バンド

非結合性バンド

結合性バンド

伝革帯

価電子帯

原子==こgtボンド ==二=gt バンド

図1-4 化学結合論的立場から見たバンド構造(Ⅵ族カルコゲナイド系) 2

Ⅵ族元素を主体として構成されるカルコゲナイド系の場合には S2P4配置

の最外殻電子6個のうちS電子2個は各原子に局在した深いエネルギー状態に

あり P電子2個が2本の化学結合手として2配位結合構造を形成する残りの

2個のP電子は直接には結合に関与せず孤立電子対として周囲原子との弱

い(しかしおそらく複雑な)相互作用を通して価電子帯の頂上部を形成す

ると考えられる2

sect12 アモルファス半導体の分類

アモルファス物質も結晶と同様にその電気的特性の違いによって絶

縁体半導体金属に分類されるアモルファス半導体はさらにカルコゲ

ナイド系とテトラ-ドラル系に大別することができるテトラ-ドラル系は

siなどのⅣ族元素を主成分としており8-N則によって4配位で結合するた

め構造がかなりしっかりしていて柔軟性が少ないそのため普通は融液

凍結によってアモルファス(ガラス)にする事はできない気相からアモル

ファス薄膜を作製するのが一般的方法であるまた水素化によってダング

リングボンドを終端し欠陥密度を減少させることにより構造敏感性をもた

せることができるすなわち単結晶と同様価電子制御が可能となるカル

コゲナイド系は酸化物ガラスの延長線上にありⅥ族元素であるカルコゲン

元素と呼ばれている S Se Teが主成分となったものである Ⅵ族元素は

2配位で結合しており構造の柔軟性が大きいためガラスになりやすく別名

カルコゲナイドガラスと呼ばれている表1-1に典型的なアモルファス半導

体を示す 1 テトラ-ドラル系カルコゲナイド系共に共通した物性も有

4

するが次のような大きな相異点がある第一にテトラ-ドラル系はアモ

ルファス膜しか得られないがカルコゲナイド系の多くはバルクガラスも作

りうるテトラ-ドラル系はガラスとならずアモルファス膜を加熱すると

結晶化するこれに対してカルコゲナイド系はガラス転移現象を現すことが

多い第二にカルコゲナイド元素は種々の元素と化合して安定なアモル

ファス物質を作る SiやGeを主成分としたテトラ-ドラル系物質は構造

が硬く異種原子を取り組みにくい 2

テトラ-ドラル系 単元系 CSiGe

水素化単元系 CHSiⅢGe班

合金系Si)_GeSi)_xC

Si)_NSi)_xOx

水素化合金系Si)_GeHSi)_CH

Si)_NHSi)_0H

Ⅲ-v族 GaAsGaSbGap

カルコゲナイド系 単元系 SSeTe

Ⅴ-Ⅵ系 As)_xSAs)_SeAs)_Te

Ⅳ-Ⅵ系 Ge)_xSxGe)_SexGe)_Te

3元系 As-Se-TeAs-Ge-TeGe-Sb-S

4元系 As-Te-Si-Ge

Ⅴ族 AsSb

表1-1典型的なアモルファス半導体の分類2

酸化物ガラスとの関連では表1-2の周期律表で解るようにⅥ族元素は

上から下-0SSeTeと並んでおり 0がSSeTeで置き換わったものがカ

ルコゲナイド系材料と見なすことができる実際 GeO2 GeS2 GeSe2な

どのガラスを作ることができるたとえばGe-0とGe-Se結合を比べると

前者はイオン性が強く後者は共有結合と見なされるこの共有結合性が半

導体となる必須条件である

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

1 ⅠⅠ

2 Li B 0

3 Na Mg A1 Si P C1

4 KCu Zn Ga Ge As Br

5 Ag Cd Ⅰn Sn Sb Ⅰ

6 Au Hg Ti Pb Bi

表12 カルコゲナイド元素(SSeTe)と化合してガラス化する元素

5

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

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l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

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図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

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C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

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tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

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図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

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ゴ ー4iココ

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図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

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図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

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く]=~iコ

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図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 4: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

33 基板のサイズ及び測定位置

34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

35 バンドギャップ測定方法

参考文献

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャップの変化)

41 As系試料の光照射及び熱処理(アニーリング処理)

による膜厚とバンドギャップの変化

42 Ge系試料の光照射及び熱処理(アニーリング処理)

による膜厚とバンドギャップの変化

43 まとめ

参考文献

第5章 カルコゲナイド半導体における光及び

熱による誘起変化機構の考察

51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係

52 アモルファスカルコゲナイドガラスにおける

光照射による構造変化モデル(クーロン反発に

よる膨張とスリップモデル)

53 斜方蒸着におけるAs系カルコゲナイドガラス

の光照射による構造変化モデル

54 まとめ

参考文献

第6章 総括

本研究に関する発表論文

謝辞

34

36

44

45

52

53

59

64

65

66

67

78

82

83

第1章 序論

この章では sect11でアモルファス半導体の基礎について概説し sect12で

アモルファス半導体の分類について述べ sect13でアモルファス半導体の歴史

について述べ sect14で応用面について述べる最後にsect15で本研究の目的を

述べ本論文の構成を示す

sect11 アモルファス半導体

アモルファス半導体を用いた電子デバイスが水素化アモルファスシリ

コン太陽電池液晶ディスプレイ駆動用の薄膜トランジスタ(TFT)テレ

ビ映像素子等の言葉で最近新聞紙上を賑わしている既に実用化されてい

るもの 21世紀の夢の材料とまで言われているものもある

「アモルファス(amorphous)」とはギリシャ語のa-morph6から来ており

「はっきりとした形を持たないもの」とか 「分類できないもの」という意味

を持つ日本語では 「非晶質」 (結晶に非ず)無定型ガラス状という意

(a)結晶の構造 仲)アモルファスの構造

図1-1原子構造の概念

味で使用され構造的には最近接原子の数結合距離結合角など短距離秩序

はあるが結晶のように原子配列が規則的な周期構造のない即ち長距離秩序

1

は持たない固体を意味する 1図1-1はⅣ族の元素を例にとった原子構造を2

次元的に示した概念図である図1-1(a)の様な共有結合型結晶は 8-N則1に従

い4個の価電子が各隣接原子と共有結合することにより原子が規則正しく配

列し構造的に長距離秩序のある周期性を有しているこれに対しアモルファス

は図1-1(b)の様に周期性は存在しない2 しかし単に原子がランダムに存

在しているのではなく大部分の原子は8-N則に従って結合しており短距離秩

序を有しているこのためアモルファスにおいても結晶と同様にバンドモ

デルが適用できるしかし長距離秩序がないため波動関数が空間的に拡がっ

ておらずアモルファス固有のバンドの裾状態やギャップ中の局在準位など

電気的及び光学的特性に影響を与える電子状態が存在する代表的なアモルフ

ァス構造は図1-1(b)の黒丸のような8-N則で決まる配位数より一つ配位数の

1amp上

H屈孤

原子の空間配置

図1-2自由エネルギー配置

少ない状態の未結合手すなわちダングリングボンドPB)が存在する事である

これを以下欠陥というアモルファスの結合距離については結晶の結合距離に

比べて大きく変わるものでなく結晶の結合距離に比べせいぜいplusmn1以下の

変化でしかない結合角度については結晶の結合角度に比べて変化量が大き

くおおよそplusmn10程度の結合角度の変化が認められる場合がある

2

熱力学的にはアモルファス状態は自由エネルギー最小の平衡安定状態に

はなく自由エネルギーの極小値である非平衡準安定状態にある図1-2のA

点は熱平衡状態にある結晶を示しており全系の自由エネルギーが最小となる

値であるアモルファスは急冷法によって形成されるため点Aの熱平衡に達

する前に原子構造が凍結より自由エネルギーの高い非平衡状態である図12

のBCDの点をとる急冷の仕方によってとる点は異なるまた加熱や光励

起など外部からのエネルギーの供給によって例えばB点から熱的にさらに安

定な極小点Cに移ったり高い状態D点に変わったりするさらに高いエネル

ギーによってアモルファス状態から結晶状態-の相転移も生じるこの外部

エネルギーによる特性変化が原因でときには安定性や信頼性の点でアモルフ

ァス材料が 不信の眼で見られることがあるしかし図にも見られるよ

うに無数の異なる自由エネルギー極小の状態が存在するため結晶に比べてき

わめて多様性に富む材料である 3

アモルファス半導体をエネルギー空間で表現すると図1-3のように表され

図1-3 アモルファス半導体の電子状態

3

化学結合論的立場から見たバンド構造を図(1-4)に示す

反結合状態

孤立電子対

忘冊 +ト結合状態

十十

品i+ 十十

反結合性バンド

非結合性バンド

結合性バンド

伝革帯

価電子帯

原子==こgtボンド ==二=gt バンド

図1-4 化学結合論的立場から見たバンド構造(Ⅵ族カルコゲナイド系) 2

Ⅵ族元素を主体として構成されるカルコゲナイド系の場合には S2P4配置

の最外殻電子6個のうちS電子2個は各原子に局在した深いエネルギー状態に

あり P電子2個が2本の化学結合手として2配位結合構造を形成する残りの

2個のP電子は直接には結合に関与せず孤立電子対として周囲原子との弱

い(しかしおそらく複雑な)相互作用を通して価電子帯の頂上部を形成す

ると考えられる2

sect12 アモルファス半導体の分類

アモルファス物質も結晶と同様にその電気的特性の違いによって絶

縁体半導体金属に分類されるアモルファス半導体はさらにカルコゲ

ナイド系とテトラ-ドラル系に大別することができるテトラ-ドラル系は

siなどのⅣ族元素を主成分としており8-N則によって4配位で結合するた

め構造がかなりしっかりしていて柔軟性が少ないそのため普通は融液

凍結によってアモルファス(ガラス)にする事はできない気相からアモル

ファス薄膜を作製するのが一般的方法であるまた水素化によってダング

リングボンドを終端し欠陥密度を減少させることにより構造敏感性をもた

せることができるすなわち単結晶と同様価電子制御が可能となるカル

コゲナイド系は酸化物ガラスの延長線上にありⅥ族元素であるカルコゲン

元素と呼ばれている S Se Teが主成分となったものである Ⅵ族元素は

2配位で結合しており構造の柔軟性が大きいためガラスになりやすく別名

カルコゲナイドガラスと呼ばれている表1-1に典型的なアモルファス半導

体を示す 1 テトラ-ドラル系カルコゲナイド系共に共通した物性も有

4

するが次のような大きな相異点がある第一にテトラ-ドラル系はアモ

ルファス膜しか得られないがカルコゲナイド系の多くはバルクガラスも作

りうるテトラ-ドラル系はガラスとならずアモルファス膜を加熱すると

結晶化するこれに対してカルコゲナイド系はガラス転移現象を現すことが

多い第二にカルコゲナイド元素は種々の元素と化合して安定なアモル

ファス物質を作る SiやGeを主成分としたテトラ-ドラル系物質は構造

が硬く異種原子を取り組みにくい 2

テトラ-ドラル系 単元系 CSiGe

水素化単元系 CHSiⅢGe班

合金系Si)_GeSi)_xC

Si)_NSi)_xOx

水素化合金系Si)_GeHSi)_CH

Si)_NHSi)_0H

Ⅲ-v族 GaAsGaSbGap

カルコゲナイド系 単元系 SSeTe

Ⅴ-Ⅵ系 As)_xSAs)_SeAs)_Te

Ⅳ-Ⅵ系 Ge)_xSxGe)_SexGe)_Te

3元系 As-Se-TeAs-Ge-TeGe-Sb-S

4元系 As-Te-Si-Ge

Ⅴ族 AsSb

表1-1典型的なアモルファス半導体の分類2

酸化物ガラスとの関連では表1-2の周期律表で解るようにⅥ族元素は

上から下-0SSeTeと並んでおり 0がSSeTeで置き換わったものがカ

ルコゲナイド系材料と見なすことができる実際 GeO2 GeS2 GeSe2な

どのガラスを作ることができるたとえばGe-0とGe-Se結合を比べると

前者はイオン性が強く後者は共有結合と見なされるこの共有結合性が半

導体となる必須条件である

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

1 ⅠⅠ

2 Li B 0

3 Na Mg A1 Si P C1

4 KCu Zn Ga Ge As Br

5 Ag Cd Ⅰn Sn Sb Ⅰ

6 Au Hg Ti Pb Bi

表12 カルコゲナイド元素(SSeTe)と化合してガラス化する元素

5

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

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sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

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4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

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lJJiZ

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6

4

2

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2

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図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

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切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

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図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

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山isubeequivヨ

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0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

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最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

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Page 5: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

第1章 序論

この章では sect11でアモルファス半導体の基礎について概説し sect12で

アモルファス半導体の分類について述べ sect13でアモルファス半導体の歴史

について述べ sect14で応用面について述べる最後にsect15で本研究の目的を

述べ本論文の構成を示す

sect11 アモルファス半導体

アモルファス半導体を用いた電子デバイスが水素化アモルファスシリ

コン太陽電池液晶ディスプレイ駆動用の薄膜トランジスタ(TFT)テレ

ビ映像素子等の言葉で最近新聞紙上を賑わしている既に実用化されてい

るもの 21世紀の夢の材料とまで言われているものもある

「アモルファス(amorphous)」とはギリシャ語のa-morph6から来ており

「はっきりとした形を持たないもの」とか 「分類できないもの」という意味

を持つ日本語では 「非晶質」 (結晶に非ず)無定型ガラス状という意

(a)結晶の構造 仲)アモルファスの構造

図1-1原子構造の概念

味で使用され構造的には最近接原子の数結合距離結合角など短距離秩序

はあるが結晶のように原子配列が規則的な周期構造のない即ち長距離秩序

1

は持たない固体を意味する 1図1-1はⅣ族の元素を例にとった原子構造を2

次元的に示した概念図である図1-1(a)の様な共有結合型結晶は 8-N則1に従

い4個の価電子が各隣接原子と共有結合することにより原子が規則正しく配

列し構造的に長距離秩序のある周期性を有しているこれに対しアモルファス

は図1-1(b)の様に周期性は存在しない2 しかし単に原子がランダムに存

在しているのではなく大部分の原子は8-N則に従って結合しており短距離秩

序を有しているこのためアモルファスにおいても結晶と同様にバンドモ

デルが適用できるしかし長距離秩序がないため波動関数が空間的に拡がっ

ておらずアモルファス固有のバンドの裾状態やギャップ中の局在準位など

電気的及び光学的特性に影響を与える電子状態が存在する代表的なアモルフ

ァス構造は図1-1(b)の黒丸のような8-N則で決まる配位数より一つ配位数の

1amp上

H屈孤

原子の空間配置

図1-2自由エネルギー配置

少ない状態の未結合手すなわちダングリングボンドPB)が存在する事である

これを以下欠陥というアモルファスの結合距離については結晶の結合距離に

比べて大きく変わるものでなく結晶の結合距離に比べせいぜいplusmn1以下の

変化でしかない結合角度については結晶の結合角度に比べて変化量が大き

くおおよそplusmn10程度の結合角度の変化が認められる場合がある

2

熱力学的にはアモルファス状態は自由エネルギー最小の平衡安定状態に

はなく自由エネルギーの極小値である非平衡準安定状態にある図1-2のA

点は熱平衡状態にある結晶を示しており全系の自由エネルギーが最小となる

値であるアモルファスは急冷法によって形成されるため点Aの熱平衡に達

する前に原子構造が凍結より自由エネルギーの高い非平衡状態である図12

のBCDの点をとる急冷の仕方によってとる点は異なるまた加熱や光励

起など外部からのエネルギーの供給によって例えばB点から熱的にさらに安

定な極小点Cに移ったり高い状態D点に変わったりするさらに高いエネル

ギーによってアモルファス状態から結晶状態-の相転移も生じるこの外部

エネルギーによる特性変化が原因でときには安定性や信頼性の点でアモルフ

ァス材料が 不信の眼で見られることがあるしかし図にも見られるよ

うに無数の異なる自由エネルギー極小の状態が存在するため結晶に比べてき

わめて多様性に富む材料である 3

アモルファス半導体をエネルギー空間で表現すると図1-3のように表され

図1-3 アモルファス半導体の電子状態

3

化学結合論的立場から見たバンド構造を図(1-4)に示す

反結合状態

孤立電子対

忘冊 +ト結合状態

十十

品i+ 十十

反結合性バンド

非結合性バンド

結合性バンド

伝革帯

価電子帯

原子==こgtボンド ==二=gt バンド

図1-4 化学結合論的立場から見たバンド構造(Ⅵ族カルコゲナイド系) 2

Ⅵ族元素を主体として構成されるカルコゲナイド系の場合には S2P4配置

の最外殻電子6個のうちS電子2個は各原子に局在した深いエネルギー状態に

あり P電子2個が2本の化学結合手として2配位結合構造を形成する残りの

2個のP電子は直接には結合に関与せず孤立電子対として周囲原子との弱

い(しかしおそらく複雑な)相互作用を通して価電子帯の頂上部を形成す

ると考えられる2

sect12 アモルファス半導体の分類

アモルファス物質も結晶と同様にその電気的特性の違いによって絶

縁体半導体金属に分類されるアモルファス半導体はさらにカルコゲ

ナイド系とテトラ-ドラル系に大別することができるテトラ-ドラル系は

siなどのⅣ族元素を主成分としており8-N則によって4配位で結合するた

め構造がかなりしっかりしていて柔軟性が少ないそのため普通は融液

凍結によってアモルファス(ガラス)にする事はできない気相からアモル

ファス薄膜を作製するのが一般的方法であるまた水素化によってダング

リングボンドを終端し欠陥密度を減少させることにより構造敏感性をもた

せることができるすなわち単結晶と同様価電子制御が可能となるカル

コゲナイド系は酸化物ガラスの延長線上にありⅥ族元素であるカルコゲン

元素と呼ばれている S Se Teが主成分となったものである Ⅵ族元素は

2配位で結合しており構造の柔軟性が大きいためガラスになりやすく別名

カルコゲナイドガラスと呼ばれている表1-1に典型的なアモルファス半導

体を示す 1 テトラ-ドラル系カルコゲナイド系共に共通した物性も有

4

するが次のような大きな相異点がある第一にテトラ-ドラル系はアモ

ルファス膜しか得られないがカルコゲナイド系の多くはバルクガラスも作

りうるテトラ-ドラル系はガラスとならずアモルファス膜を加熱すると

結晶化するこれに対してカルコゲナイド系はガラス転移現象を現すことが

多い第二にカルコゲナイド元素は種々の元素と化合して安定なアモル

ファス物質を作る SiやGeを主成分としたテトラ-ドラル系物質は構造

が硬く異種原子を取り組みにくい 2

テトラ-ドラル系 単元系 CSiGe

水素化単元系 CHSiⅢGe班

合金系Si)_GeSi)_xC

Si)_NSi)_xOx

水素化合金系Si)_GeHSi)_CH

Si)_NHSi)_0H

Ⅲ-v族 GaAsGaSbGap

カルコゲナイド系 単元系 SSeTe

Ⅴ-Ⅵ系 As)_xSAs)_SeAs)_Te

Ⅳ-Ⅵ系 Ge)_xSxGe)_SexGe)_Te

3元系 As-Se-TeAs-Ge-TeGe-Sb-S

4元系 As-Te-Si-Ge

Ⅴ族 AsSb

表1-1典型的なアモルファス半導体の分類2

酸化物ガラスとの関連では表1-2の周期律表で解るようにⅥ族元素は

上から下-0SSeTeと並んでおり 0がSSeTeで置き換わったものがカ

ルコゲナイド系材料と見なすことができる実際 GeO2 GeS2 GeSe2な

どのガラスを作ることができるたとえばGe-0とGe-Se結合を比べると

前者はイオン性が強く後者は共有結合と見なされるこの共有結合性が半

導体となる必須条件である

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

1 ⅠⅠ

2 Li B 0

3 Na Mg A1 Si P C1

4 KCu Zn Ga Ge As Br

5 Ag Cd Ⅰn Sn Sb Ⅰ

6 Au Hg Ti Pb Bi

表12 カルコゲナイド元素(SSeTe)と化合してガラス化する元素

5

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

一っ)

lJJiZ

sub》

lJ」

lt]ヽ

て】iZ

て】

A

6

4

2

0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

iZiiて】

く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 6: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

は持たない固体を意味する 1図1-1はⅣ族の元素を例にとった原子構造を2

次元的に示した概念図である図1-1(a)の様な共有結合型結晶は 8-N則1に従

い4個の価電子が各隣接原子と共有結合することにより原子が規則正しく配

列し構造的に長距離秩序のある周期性を有しているこれに対しアモルファス

は図1-1(b)の様に周期性は存在しない2 しかし単に原子がランダムに存

在しているのではなく大部分の原子は8-N則に従って結合しており短距離秩

序を有しているこのためアモルファスにおいても結晶と同様にバンドモ

デルが適用できるしかし長距離秩序がないため波動関数が空間的に拡がっ

ておらずアモルファス固有のバンドの裾状態やギャップ中の局在準位など

電気的及び光学的特性に影響を与える電子状態が存在する代表的なアモルフ

ァス構造は図1-1(b)の黒丸のような8-N則で決まる配位数より一つ配位数の

1amp上

H屈孤

原子の空間配置

図1-2自由エネルギー配置

少ない状態の未結合手すなわちダングリングボンドPB)が存在する事である

これを以下欠陥というアモルファスの結合距離については結晶の結合距離に

比べて大きく変わるものでなく結晶の結合距離に比べせいぜいplusmn1以下の

変化でしかない結合角度については結晶の結合角度に比べて変化量が大き

くおおよそplusmn10程度の結合角度の変化が認められる場合がある

2

熱力学的にはアモルファス状態は自由エネルギー最小の平衡安定状態に

はなく自由エネルギーの極小値である非平衡準安定状態にある図1-2のA

点は熱平衡状態にある結晶を示しており全系の自由エネルギーが最小となる

値であるアモルファスは急冷法によって形成されるため点Aの熱平衡に達

する前に原子構造が凍結より自由エネルギーの高い非平衡状態である図12

のBCDの点をとる急冷の仕方によってとる点は異なるまた加熱や光励

起など外部からのエネルギーの供給によって例えばB点から熱的にさらに安

定な極小点Cに移ったり高い状態D点に変わったりするさらに高いエネル

ギーによってアモルファス状態から結晶状態-の相転移も生じるこの外部

エネルギーによる特性変化が原因でときには安定性や信頼性の点でアモルフ

ァス材料が 不信の眼で見られることがあるしかし図にも見られるよ

うに無数の異なる自由エネルギー極小の状態が存在するため結晶に比べてき

わめて多様性に富む材料である 3

アモルファス半導体をエネルギー空間で表現すると図1-3のように表され

図1-3 アモルファス半導体の電子状態

3

化学結合論的立場から見たバンド構造を図(1-4)に示す

反結合状態

孤立電子対

忘冊 +ト結合状態

十十

品i+ 十十

反結合性バンド

非結合性バンド

結合性バンド

伝革帯

価電子帯

原子==こgtボンド ==二=gt バンド

図1-4 化学結合論的立場から見たバンド構造(Ⅵ族カルコゲナイド系) 2

Ⅵ族元素を主体として構成されるカルコゲナイド系の場合には S2P4配置

の最外殻電子6個のうちS電子2個は各原子に局在した深いエネルギー状態に

あり P電子2個が2本の化学結合手として2配位結合構造を形成する残りの

2個のP電子は直接には結合に関与せず孤立電子対として周囲原子との弱

い(しかしおそらく複雑な)相互作用を通して価電子帯の頂上部を形成す

ると考えられる2

sect12 アモルファス半導体の分類

アモルファス物質も結晶と同様にその電気的特性の違いによって絶

縁体半導体金属に分類されるアモルファス半導体はさらにカルコゲ

ナイド系とテトラ-ドラル系に大別することができるテトラ-ドラル系は

siなどのⅣ族元素を主成分としており8-N則によって4配位で結合するた

め構造がかなりしっかりしていて柔軟性が少ないそのため普通は融液

凍結によってアモルファス(ガラス)にする事はできない気相からアモル

ファス薄膜を作製するのが一般的方法であるまた水素化によってダング

リングボンドを終端し欠陥密度を減少させることにより構造敏感性をもた

せることができるすなわち単結晶と同様価電子制御が可能となるカル

コゲナイド系は酸化物ガラスの延長線上にありⅥ族元素であるカルコゲン

元素と呼ばれている S Se Teが主成分となったものである Ⅵ族元素は

2配位で結合しており構造の柔軟性が大きいためガラスになりやすく別名

カルコゲナイドガラスと呼ばれている表1-1に典型的なアモルファス半導

体を示す 1 テトラ-ドラル系カルコゲナイド系共に共通した物性も有

4

するが次のような大きな相異点がある第一にテトラ-ドラル系はアモ

ルファス膜しか得られないがカルコゲナイド系の多くはバルクガラスも作

りうるテトラ-ドラル系はガラスとならずアモルファス膜を加熱すると

結晶化するこれに対してカルコゲナイド系はガラス転移現象を現すことが

多い第二にカルコゲナイド元素は種々の元素と化合して安定なアモル

ファス物質を作る SiやGeを主成分としたテトラ-ドラル系物質は構造

が硬く異種原子を取り組みにくい 2

テトラ-ドラル系 単元系 CSiGe

水素化単元系 CHSiⅢGe班

合金系Si)_GeSi)_xC

Si)_NSi)_xOx

水素化合金系Si)_GeHSi)_CH

Si)_NHSi)_0H

Ⅲ-v族 GaAsGaSbGap

カルコゲナイド系 単元系 SSeTe

Ⅴ-Ⅵ系 As)_xSAs)_SeAs)_Te

Ⅳ-Ⅵ系 Ge)_xSxGe)_SexGe)_Te

3元系 As-Se-TeAs-Ge-TeGe-Sb-S

4元系 As-Te-Si-Ge

Ⅴ族 AsSb

表1-1典型的なアモルファス半導体の分類2

酸化物ガラスとの関連では表1-2の周期律表で解るようにⅥ族元素は

上から下-0SSeTeと並んでおり 0がSSeTeで置き換わったものがカ

ルコゲナイド系材料と見なすことができる実際 GeO2 GeS2 GeSe2な

どのガラスを作ることができるたとえばGe-0とGe-Se結合を比べると

前者はイオン性が強く後者は共有結合と見なされるこの共有結合性が半

導体となる必須条件である

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

1 ⅠⅠ

2 Li B 0

3 Na Mg A1 Si P C1

4 KCu Zn Ga Ge As Br

5 Ag Cd Ⅰn Sn Sb Ⅰ

6 Au Hg Ti Pb Bi

表12 カルコゲナイド元素(SSeTe)と化合してガラス化する元素

5

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

一っ)

lJJiZ

sub》

lJ」

lt]ヽ

て】iZ

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A

6

4

2

0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

iZiiて】

く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 7: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

熱力学的にはアモルファス状態は自由エネルギー最小の平衡安定状態に

はなく自由エネルギーの極小値である非平衡準安定状態にある図1-2のA

点は熱平衡状態にある結晶を示しており全系の自由エネルギーが最小となる

値であるアモルファスは急冷法によって形成されるため点Aの熱平衡に達

する前に原子構造が凍結より自由エネルギーの高い非平衡状態である図12

のBCDの点をとる急冷の仕方によってとる点は異なるまた加熱や光励

起など外部からのエネルギーの供給によって例えばB点から熱的にさらに安

定な極小点Cに移ったり高い状態D点に変わったりするさらに高いエネル

ギーによってアモルファス状態から結晶状態-の相転移も生じるこの外部

エネルギーによる特性変化が原因でときには安定性や信頼性の点でアモルフ

ァス材料が 不信の眼で見られることがあるしかし図にも見られるよ

うに無数の異なる自由エネルギー極小の状態が存在するため結晶に比べてき

わめて多様性に富む材料である 3

アモルファス半導体をエネルギー空間で表現すると図1-3のように表され

図1-3 アモルファス半導体の電子状態

3

化学結合論的立場から見たバンド構造を図(1-4)に示す

反結合状態

孤立電子対

忘冊 +ト結合状態

十十

品i+ 十十

反結合性バンド

非結合性バンド

結合性バンド

伝革帯

価電子帯

原子==こgtボンド ==二=gt バンド

図1-4 化学結合論的立場から見たバンド構造(Ⅵ族カルコゲナイド系) 2

Ⅵ族元素を主体として構成されるカルコゲナイド系の場合には S2P4配置

の最外殻電子6個のうちS電子2個は各原子に局在した深いエネルギー状態に

あり P電子2個が2本の化学結合手として2配位結合構造を形成する残りの

2個のP電子は直接には結合に関与せず孤立電子対として周囲原子との弱

い(しかしおそらく複雑な)相互作用を通して価電子帯の頂上部を形成す

ると考えられる2

sect12 アモルファス半導体の分類

アモルファス物質も結晶と同様にその電気的特性の違いによって絶

縁体半導体金属に分類されるアモルファス半導体はさらにカルコゲ

ナイド系とテトラ-ドラル系に大別することができるテトラ-ドラル系は

siなどのⅣ族元素を主成分としており8-N則によって4配位で結合するた

め構造がかなりしっかりしていて柔軟性が少ないそのため普通は融液

凍結によってアモルファス(ガラス)にする事はできない気相からアモル

ファス薄膜を作製するのが一般的方法であるまた水素化によってダング

リングボンドを終端し欠陥密度を減少させることにより構造敏感性をもた

せることができるすなわち単結晶と同様価電子制御が可能となるカル

コゲナイド系は酸化物ガラスの延長線上にありⅥ族元素であるカルコゲン

元素と呼ばれている S Se Teが主成分となったものである Ⅵ族元素は

2配位で結合しており構造の柔軟性が大きいためガラスになりやすく別名

カルコゲナイドガラスと呼ばれている表1-1に典型的なアモルファス半導

体を示す 1 テトラ-ドラル系カルコゲナイド系共に共通した物性も有

4

するが次のような大きな相異点がある第一にテトラ-ドラル系はアモ

ルファス膜しか得られないがカルコゲナイド系の多くはバルクガラスも作

りうるテトラ-ドラル系はガラスとならずアモルファス膜を加熱すると

結晶化するこれに対してカルコゲナイド系はガラス転移現象を現すことが

多い第二にカルコゲナイド元素は種々の元素と化合して安定なアモル

ファス物質を作る SiやGeを主成分としたテトラ-ドラル系物質は構造

が硬く異種原子を取り組みにくい 2

テトラ-ドラル系 単元系 CSiGe

水素化単元系 CHSiⅢGe班

合金系Si)_GeSi)_xC

Si)_NSi)_xOx

水素化合金系Si)_GeHSi)_CH

Si)_NHSi)_0H

Ⅲ-v族 GaAsGaSbGap

カルコゲナイド系 単元系 SSeTe

Ⅴ-Ⅵ系 As)_xSAs)_SeAs)_Te

Ⅳ-Ⅵ系 Ge)_xSxGe)_SexGe)_Te

3元系 As-Se-TeAs-Ge-TeGe-Sb-S

4元系 As-Te-Si-Ge

Ⅴ族 AsSb

表1-1典型的なアモルファス半導体の分類2

酸化物ガラスとの関連では表1-2の周期律表で解るようにⅥ族元素は

上から下-0SSeTeと並んでおり 0がSSeTeで置き換わったものがカ

ルコゲナイド系材料と見なすことができる実際 GeO2 GeS2 GeSe2な

どのガラスを作ることができるたとえばGe-0とGe-Se結合を比べると

前者はイオン性が強く後者は共有結合と見なされるこの共有結合性が半

導体となる必須条件である

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

1 ⅠⅠ

2 Li B 0

3 Na Mg A1 Si P C1

4 KCu Zn Ga Ge As Br

5 Ag Cd Ⅰn Sn Sb Ⅰ

6 Au Hg Ti Pb Bi

表12 カルコゲナイド元素(SSeTe)と化合してガラス化する元素

5

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

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4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

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lJJiZ

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6

4

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2

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図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

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く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 8: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

化学結合論的立場から見たバンド構造を図(1-4)に示す

反結合状態

孤立電子対

忘冊 +ト結合状態

十十

品i+ 十十

反結合性バンド

非結合性バンド

結合性バンド

伝革帯

価電子帯

原子==こgtボンド ==二=gt バンド

図1-4 化学結合論的立場から見たバンド構造(Ⅵ族カルコゲナイド系) 2

Ⅵ族元素を主体として構成されるカルコゲナイド系の場合には S2P4配置

の最外殻電子6個のうちS電子2個は各原子に局在した深いエネルギー状態に

あり P電子2個が2本の化学結合手として2配位結合構造を形成する残りの

2個のP電子は直接には結合に関与せず孤立電子対として周囲原子との弱

い(しかしおそらく複雑な)相互作用を通して価電子帯の頂上部を形成す

ると考えられる2

sect12 アモルファス半導体の分類

アモルファス物質も結晶と同様にその電気的特性の違いによって絶

縁体半導体金属に分類されるアモルファス半導体はさらにカルコゲ

ナイド系とテトラ-ドラル系に大別することができるテトラ-ドラル系は

siなどのⅣ族元素を主成分としており8-N則によって4配位で結合するた

め構造がかなりしっかりしていて柔軟性が少ないそのため普通は融液

凍結によってアモルファス(ガラス)にする事はできない気相からアモル

ファス薄膜を作製するのが一般的方法であるまた水素化によってダング

リングボンドを終端し欠陥密度を減少させることにより構造敏感性をもた

せることができるすなわち単結晶と同様価電子制御が可能となるカル

コゲナイド系は酸化物ガラスの延長線上にありⅥ族元素であるカルコゲン

元素と呼ばれている S Se Teが主成分となったものである Ⅵ族元素は

2配位で結合しており構造の柔軟性が大きいためガラスになりやすく別名

カルコゲナイドガラスと呼ばれている表1-1に典型的なアモルファス半導

体を示す 1 テトラ-ドラル系カルコゲナイド系共に共通した物性も有

4

するが次のような大きな相異点がある第一にテトラ-ドラル系はアモ

ルファス膜しか得られないがカルコゲナイド系の多くはバルクガラスも作

りうるテトラ-ドラル系はガラスとならずアモルファス膜を加熱すると

結晶化するこれに対してカルコゲナイド系はガラス転移現象を現すことが

多い第二にカルコゲナイド元素は種々の元素と化合して安定なアモル

ファス物質を作る SiやGeを主成分としたテトラ-ドラル系物質は構造

が硬く異種原子を取り組みにくい 2

テトラ-ドラル系 単元系 CSiGe

水素化単元系 CHSiⅢGe班

合金系Si)_GeSi)_xC

Si)_NSi)_xOx

水素化合金系Si)_GeHSi)_CH

Si)_NHSi)_0H

Ⅲ-v族 GaAsGaSbGap

カルコゲナイド系 単元系 SSeTe

Ⅴ-Ⅵ系 As)_xSAs)_SeAs)_Te

Ⅳ-Ⅵ系 Ge)_xSxGe)_SexGe)_Te

3元系 As-Se-TeAs-Ge-TeGe-Sb-S

4元系 As-Te-Si-Ge

Ⅴ族 AsSb

表1-1典型的なアモルファス半導体の分類2

酸化物ガラスとの関連では表1-2の周期律表で解るようにⅥ族元素は

上から下-0SSeTeと並んでおり 0がSSeTeで置き換わったものがカ

ルコゲナイド系材料と見なすことができる実際 GeO2 GeS2 GeSe2な

どのガラスを作ることができるたとえばGe-0とGe-Se結合を比べると

前者はイオン性が強く後者は共有結合と見なされるこの共有結合性が半

導体となる必須条件である

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

1 ⅠⅠ

2 Li B 0

3 Na Mg A1 Si P C1

4 KCu Zn Ga Ge As Br

5 Ag Cd Ⅰn Sn Sb Ⅰ

6 Au Hg Ti Pb Bi

表12 カルコゲナイド元素(SSeTe)と化合してガラス化する元素

5

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

一っ)

lJJiZ

sub》

lJ」

lt]ヽ

て】iZ

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A

6

4

2

0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

iZiiて】

く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 9: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

するが次のような大きな相異点がある第一にテトラ-ドラル系はアモ

ルファス膜しか得られないがカルコゲナイド系の多くはバルクガラスも作

りうるテトラ-ドラル系はガラスとならずアモルファス膜を加熱すると

結晶化するこれに対してカルコゲナイド系はガラス転移現象を現すことが

多い第二にカルコゲナイド元素は種々の元素と化合して安定なアモル

ファス物質を作る SiやGeを主成分としたテトラ-ドラル系物質は構造

が硬く異種原子を取り組みにくい 2

テトラ-ドラル系 単元系 CSiGe

水素化単元系 CHSiⅢGe班

合金系Si)_GeSi)_xC

Si)_NSi)_xOx

水素化合金系Si)_GeHSi)_CH

Si)_NHSi)_0H

Ⅲ-v族 GaAsGaSbGap

カルコゲナイド系 単元系 SSeTe

Ⅴ-Ⅵ系 As)_xSAs)_SeAs)_Te

Ⅳ-Ⅵ系 Ge)_xSxGe)_SexGe)_Te

3元系 As-Se-TeAs-Ge-TeGe-Sb-S

4元系 As-Te-Si-Ge

Ⅴ族 AsSb

表1-1典型的なアモルファス半導体の分類2

酸化物ガラスとの関連では表1-2の周期律表で解るようにⅥ族元素は

上から下-0SSeTeと並んでおり 0がSSeTeで置き換わったものがカ

ルコゲナイド系材料と見なすことができる実際 GeO2 GeS2 GeSe2な

どのガラスを作ることができるたとえばGe-0とGe-Se結合を比べると

前者はイオン性が強く後者は共有結合と見なされるこの共有結合性が半

導体となる必須条件である

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ

1 ⅠⅠ

2 Li B 0

3 Na Mg A1 Si P C1

4 KCu Zn Ga Ge As Br

5 Ag Cd Ⅰn Sn Sb Ⅰ

6 Au Hg Ti Pb Bi

表12 カルコゲナイド元素(SSeTe)と化合してガラス化する元素

5

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

一っ)

lJJiZ

sub》

lJ」

lt]ヽ

て】iZ

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A

6

4

2

0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

iZiiて】

く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 10: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

sect13 アモルファス半導体の歴史

アモルファス半導体が機能材料として初めて用いられたのは電子写真

(商標ⅩEROX)としてアモルファスSeの光伝導性を利用したもので1948

年に実用化された 4そしてその後アモルファスSeに関する研究がいろいろ

行われているこの流れとは別に 1950年代ロシアレニングラードのヨ

ツフェ研究所でKolomietsを中心とするグループがカルコゲナイド系材料

に結晶にならずアモルファス状態になる領域があることを発見し広範囲に

組成を変え精力的に研究を行ったそしてこの物質すなわちカルコゲナイ

ド系アモルファス半導体が構造敏感性を持っていないことを示した 5アモ

ルファス半導体が世界的に注目を浴びるきっかけとなったのは 1968年に

米国のベンチャー会社であるECD (Energy Conversion Devices lnc)の社長

Ovshinskyが TeAsSiGeからなるカルコゲナイド系アモルファス半導体

で従来単結晶系SiやGeでしか実現していなかった電気的スイッチ素子

やメモリ現象を発見したことがPbysicalReviewLetters6に発表されたこ

とによる

さらに注目を浴びたのは 1975年にイギリスのダンディ大学のSpear

とLeComberによって水素化アモルファスSiに不純物添加することによ

り価電子制御bn制御)ができ pn接合において整流特性や光起電力が見いだされたことであるそれまではアモルファス半導体は結晶半導体とは異な

り pn制御は不可能とされておりそのため機能材料としての応用分野も

かなり限られたものであった結晶Siなどのエレクトロニクスにおける華々

しい応用はその殆どがpn制御をその要としている 2それ故前述の発

見によりアモルファス半導体が光学的電気的デバイスとしてさらに期待

されまた実際に実用化されるようになったアモルファス半導体研究の発

展の中で忘れてはならない人はイギリスのMottである Mottは1930年代

からいろいろな分野で物理学に大きな寄与をした理論物理学者であるがア

モルファス半導体研究をたえず理論面から支えた功績によって1977年度ノ

ーベル物趣学賞を受賞している表13にアモルファス半導体の年表を掲げる

6

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

一っ)

lJJiZ

sub》

lJ」

lt]ヽ

て】iZ

て】

A

6

4

2

0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

iZiiて】

く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 11: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

1948a-Seの光伝導性を利用した電子写真

1955 カルコゲナイド系アモルファス半導体研究(Kolomietsらのレニ

ングラードグループ)

1968 As-Te-Si-Geの電気的スイッチメモリ(Ovshinsky)

1973 Se-As-Teによる撮像素子(日立-NHK)

1974 カルコゲナイド系における光構造変化の発見(電総研田中ら)

1975 水素化アモルファスSiで初めてpn制御と整流特性光起電力

の発見(Spear-LeComber)

1975 カルコゲナイド系における光誘起ESR(Bishopら)

1975- カルコゲナイド系におけるnegativeUの欠陥モデル(Street-

1976 MottおよびKastner-Adler-Fritzsche)

1977 a-SiHにおける光劣化の発見(Staebler-Wronski)1977 a-SiHを用いた太陽電池の発表1977 MottおよびAndersonノーベル物理学賞受賞

1980 アモルファスSi太陽電池の実用化(三洋電機富士電機)

表1-3 アモルファス半導体年表2

表13に掲げた研究の過程において種々の光誘起現象が確認されてい

るこれはアモルファス半導体にそのバンドギャップに相当するエネルギ

ーをもつバンドギャップ光を照射するとその物理的化学的機械的性質が変化するという現象である光誘起現象の原因は光子の吸収によって励

起される電子的なものと光吸収により発生する熱の効果が考えられるが7 未だ原因となる機構とその構造変化との対応が明確になっている現象は

少なく今なお研究が続けられている第2章及び第5章では本研究の対象

となる現象を詳述する

7

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

一っ)

lJJiZ

sub》

lJ」

lt]ヽ

て】iZ

て】

A

6

4

2

0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

iZiiて】

く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 12: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

sect14 A8-Se(S)あるいはGe-Se(S)

ガラスの応用

141 はじめに

アモルファスカルコゲナイドとアモルファスシリコンとは物性的にか

なり異なったところもあるが大面積受光デバイスのように共通の考え方が適

用できる応用もある電気的メモリ光メモリフォトレジスト電子写真

撮像デバイス太陽電池など多彩な応用の中にアモルファス半導体の特徴を見

いだすことができる 「アモルファス」という言葉と「半導体」という言葉は

もともと相容れない概念を包含しているそもそも「半導体」という概念が無

限周期構造を有する結晶モデルから導き出されたものであるから 「アモルフ

ァス」という概念とは直接結びつかないことになるしかし現在では「アモル

ファス半導体」と言う言葉で一般的に理解され応用されているためこの章

では特に厳密な区別をしないで応用面に焦点を当て考察していきたい

アモルファス半導体の応用の歴史をひもといてみてもやはり「アモルフ

ァス」という概念と「半導体」という概念とがちょうど縄のように寄り合わ

されているのを感じるある応用はこの材料のガラス的性質を利用しており

他の応用は半導体的な特性を利用しているというようにそして勿論両者

の特性を旨く併せて利用したところにこれまでの材料に無い独自の応用分野

が開けている表14はこれまでに提案されているアモルファス半導体デバイス

をまとめたものである 1デバイスの動作原理の欄に示されているようにアモ

ルファス状態と結晶状態との間の相転移に伴う物理的性質の変化を利用したも

のはどちらかといえばガラス的性質の応用であり光伝導性や接合特性を利用

したものは半導体的性質の応用であるといえる

アモルファス半導体が世界的な注目を集めたのは 1968年にアメリカの

Ovshinskyがカルコゲナイド系アモルファス半導体を用いて高速のスイッチ素

子やメモリ素子が作製されると発表したときであるが 6実はそれ以前にアモル

ファス半導体を用いたデバイスを基礎にした巨大な産業が出現していたそれ

はアモルファスセレン感光体を用いた電子複写機産業である

8

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

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てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

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4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

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A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

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lJJiZ

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6

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0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

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6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

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山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

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2

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2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 13: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

基礎現象 デバイスの動作原理使用材料 応用例

ダブル注入 バルク負性抵抗による導

電率の変化

Te-As-G(ラ-Si しきい値スイッチ

熱軟化 レーザ光照射による膜中 S()

As-Te-Se

大容量可逆メモリ

ポイドの発生 大容量画像ファイ

レーザ光照射による膜の

穴あけ

ノレ

結晶-アモルフア 電流パルス印加による導 Te-Ge-SbーS

Ge-Teor

リードモーストリ

ス転移 電率の変化 メモリ

光パルス印加による反射 大容量光メモリ

プリンタ

大容量光メモリ

電子ビームメモリ

非銀塩写真

率透過率の変化 Se-Te

レーザ光照射による導電

率の変化

光パルスと電流パルス同

Se-Te

(As-Te-Ge)-

時印加による書き込み光

パワーの低減

電子ビーム照射による二

次電子放出の変化

光照射による結晶核の生

成と加熱による結晶成長

CdS

Ge-Te-As

Te系

光構造変化 光照射による透過率の現

象と加熱による回復

光照射による屈折率の変

化と加熱による回復

光照射による化学的安定

性の変化

As-Se-S-Ge

As-Se-S-Ge

Se-Ge

可逆光メモリ

マイクロフィシユ

フォトレジスト

光ドーピング 金属ドープによる光透過

率の変化

金属ドープによる化学的

(As-S-Te)Ag

(Se-Ge)Ag

(S-Ge)Ag

画像記録

フォトレジスト

安定性の変化 電子線レジスト

金属ドープによる親水

悼親油性の変化

無処理印刷

光導電 蓄積電荷によるパターン

形成

ブロッキング接触を用い

たフォトダイオード

SeAs2Sea

Se-As-Te

電子写真

撮像管受光素子

光ストツビング 短波長光照射による長波

長光透過率の減少

As-S 光スイッチ

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

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C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

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図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

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図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

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図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

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図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

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図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 14: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

化学修飾 不純物ドープによる導電 (Ge-Te-Se-

率の制御 As)Ni

光起電力 p-i-n或いはショットキー

接合の障壁利用

Si 太陽電池

光導電 高抵抗膜-の電荷蓄積 Si 電子写真撮像管

電界効果 MⅠS構造における伝導度

変調

Si 薄膜トランジスタ

表ト4 アモルファス半導体デバイス1

アモルファスカルコゲナイド半導体については前述のように多種の応用

が提言されているが本稿ではこのうち光メモリとフォトレジストに

対する応用面について考察する

10

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

一っ)

lJJiZ

sub》

lJ」

lt]ヽ

て】iZ

て】

A

6

4

2

0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

iZiiて】

く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 15: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

142 光メモリ-の展開

情報の書き込み或いは読み出しまたはその両方に光を用いるメモリを

光メモリと呼ぶこの種のメモリはコンピュータの入出力装置や大容量ファイ

ルメモリあるいは民生用のビデオディスクなど-の応用がかなり進んでいる

アモルファス半導体特にアモルファスカルコゲナイドは均一な大面積薄

膜を作製することが比較的容易であり比較的低パワーの光照射によって大幅

な物性の変化を示すことが多いので光メモリの材料としては優れた材料であ

るといえる表1-5を見ると光メモリ関係の応用がいかに多いかが理解できる

アモルファス半導体の欠点の一つであるキャリア易動度の低さが光メモリ関

係の応用では表面に現れないためアモルファス半導体の特色を生かすことの

出来る分野であるともいえる光メモリに用いることの出来る物性変化として

は膜の相転移構造変化組成変化変形などを伴う光の反射率透過率屈

折率の変化などが考えられる

メカニズム 材料 分解能 感度 消去時間 繰返し回

flinesmmi fmJcm21 is) 敬

結晶化 Ge-As-Te等 500 int-102 10-6bit lt100

構造変化 As-Se-S-Ge専 gt104 --102 -1 gt104

光ドーピング As2S3+Ag等 gt104 -102

穴あけ As-Te-Se等 500 -102

光電流併用 As-Te-Ge-Cds 100 -10-1

光潜像+加熱 Se-Te等 500 10

表1-5 アモルファス半導体メモリの性能1

1 1

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

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1

0

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l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

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図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

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C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

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tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

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図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

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ゴ ー4iココ

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図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

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図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

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く]=~iコ

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図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

Page 16: アモルファス・カルコゲナイド半導体に - Gifu Universityrepository.lib.gifu-u.ac.jp/bitstream/20.500.12099/1828/...Title アモルファス・カルコゲナイド半導体における可逆光構造

143 相転移

アモルファス相と結晶相との間の相転移を利用したメモリである 8Ge-Te

系あるいはSe-Te系などのアモルファスカルコゲナイド半導体が結晶化する

とアモルファス相に比べて通常は光の吸収端が長波長側に移動し反射率

も増加して見たところ金属的になるこの光学的特性の差の最も直接的な応用

は非銀塩写真であるまたアモルファス相と結晶相との間の可逆的な相転移を

利用することも可能である電気的メモリが電流パルスによる発熱によって書

き込まれるのに対し光メモリは集光されたレーザ光線によって書き込まれる

書き込まれた部分の大きさはレーザ光のスポット径とパルスの持続時間などに

ょって決まるがその中の微結晶の粒径は10nm程度かそれ以下と考えられて

おり高密度メモリ-の応用が出来るいったん書き込んだ結晶相の部分を消

去して再びアモルファス相に戻すには電気的メモリと同様に光強度が強く

持続時間の短い光パルスを照射して結晶化した部分を溶融し急冷によって

再びアモルファス相に戻すことが出来るこのメモリの書き換えは薄膜材料

の溶融など形状の変化を伴いやすいプロセスを必要とするため多回数の繰り

返しが困難であるという欠点を持っている

1 2

144 光構造変化

Se-AsGe As-S系などのアモルファスカルコゲナイド半導体で見いださ

れた現象で相転移を伴うことなく短波長の光照射によって吸収端が長波長

側に移動し(光黒化 Photodarkening)加熱によって短波長側に移動する現

象がある 9この現象は最初Kenemanによって発見されたが諸外国のみ

ならず我国でも沢山の研究者の研究テーマとなりその機構のみならず応

用面についても多くの研究結果が報告されている本研究もその一端である

この変化の特徴はアモルファス相の中の二つの準安定状態間で起こるた

め膜の変形を伴うことが無く従って書き換え特性が104以上とずば抜けて優

れていることであるまた前述の相転移と異なって結晶化といった大幅な原子

配列の変化を含まず局所的な不規則性の変化に起因すると考えられることか

ら解像力の限界は1nm程度と殆ど原子レベルに近づくと考えられている

このことは昨今のメモリ事情がコンピュータメモリの大容量化-の進路を取

っていることから応用面について大きな展開が期待されるまたCD-ROMや

最近のDVDはDigital Versatile Discの略号として名付けられ映画音楽

コンピュータなど様々な用途に応用されマルチメディア用のパッケージメディ

アとしての記憶素子としてもてはやされているがアモルファスカルコゲナ

イド半導体が実採用されれば高集積メモリとして更なる大きな応用分野が開

かれるものと思われる

光メモリには書き込み読み出しに当然ながら光ビームが使われており

その光ピーヰの波長も近年短波長側に移行しつつあるつまりより高解像

度の方向にまたより高集積化の方向に向かっているその意味ではアモルフ

ァスカルコゲナイド半導体光メモリは格好の光メモリとなりうる要素を備え

ている例えば光ビームであるが CD-ROMのときは可視光の限度に近い

780nmのレーザ光を使用していたが DVDではさらに短波長の650nm或いは

635nmの真っ赤なレーザが採用されつつあるこれまでに680nmという安定

した波長のレーザが開発されていたが密度の向上の要求が大きいためそれ

を飛ばして一挙に650nm635nmの波長のレーザが採用されつつある 780nm

では材料はGaAl-As系のダブル-テロ接合の各種の光閉込め構造が開発され

使用されてきた 650nm635nmではGa-As系の基板にインジュームーガリウ

ム-アルミニュームーリン系の活性層を持っ材料が用いられているさらに青

色のレーザの開発が進められており試験室レベルでは既に完成の域にある

これは480nm程度の波長が期待できる 2000年までには安定な発光レーザが

入手出来そうでさらにDVDの高集積化が期待されている

1 3

しかしながら高集積メモリ特に光メモリについてはレーザの短波長側

-のシフト及び記憶素子自身の微細化のみで高集積メモリが実用化される訳

でなく図1-5に示すようにいろんなアプローチからの開発が必要である

図1-5 光ディスク高密度化-のアプローチ10

マルチメディアの第1世代ではCDファミリーをベースに転送速痩

15Mbps記録容量680Mバイトを軸としてパッケージメディア主体伝送

メディアが従のシステム展開で進んできた CDファミリーとコンパチブルな記

録メディアCD-Rの導入を契機としてオーディオ用のCDDA(Compact Disk

DigitalAu血)からデータ静止画動画をも記録できるCD-ROMビデオCD

-の急速なシステムの展開-拡大がなされ AVC業界は大きく変貌した 1995

年12月に高密度ディスクDVDが日欧のオディオビジュアルメーカ9社の合

意の下に企画統一されたこれは従来のCDファミリーに比べて転送速度

記録密度とも一桁上でありこれらがマーケットインされた1997年はマルチ

メディア第2世代の幕開けとなったより高品質の動画像情報を記録再生す

るにはメディアの記録密度の向上と情報の圧縮とを併用する必要がある同

様に伝送メディアにおいても高転送レート化と情報の圧縮との両者に依存せ

ざるを得ない図1-6は高密度ディスク(ROM)に対応する記録可能ディスク

はそれらのソフト制作上からもまたコンピュータのバックアップメモリと

しても重要である

14

磁気ヘッド

匡二

データで変調されたレ-ザ

一定強度のレーザ

T1一一夕で変調されたレーザ

光変調形光磁気TIJィスク 瑞気変調形光磁気ITJィスク 相変化形光子ィスク

図16 記録可能ディスクの記録方法10

光磁気ディスクはレーザ光の照射による熱とフェリ磁性記録層の磁気特

性との組み合わせで記録する方法で記録膜にはTbFeCo系の材料が使われる

光変調形と磁気変調形がある前者はレーザ光によりキュリー温度近傍まで上

げられた記録膜の照射部分が補助磁界の保磁力が低下して磁界の向きに磁化

が反転することを利用して記録する方法であるデータを重ね書きするオーバ

ライトが難しいのが難点である後者の磁気変調形は一定強度のレーザ光で

あらかじめ記録膜の磁気方向が反転できる温度にまで温めておき磁気-ツド

に流す電流の方向に従って磁界を反転させて記録する方法である

相変化形ディスクはGeTeSb系に記録膜に熱を加えることにより膜の相を

結晶状態からアモルファス状態に変化させ相の変化による光の反射率の差(結

晶状態の方が10-30高い10)を光-ツドで検出する方法である現在はレー

ザ光の波長780nm 35インチ両面で600Mバイトの記録容量データの転送

速度9Mbps程度が実用化されている面記録密度をさらに3-5倍向上させる

には短波長化とともに熱干渉による記録補償などの解決が必要であるが最

近の専門誌によると開発に成功したとの報告もあるまたレーザを短波長化し

ただけで今の高密度ディスクの2-3倍の高密度化が達成されこれに加えて

新しい記録方式や多値記録などが導入されればさらに一桁上の高密度ディス

クが期待できる本研究の結果が更なる高密度ディスクの誕生に少しでも役

に立てば幸いである

1 5

144 フォトレジスト-の展開

アモルファスカルコゲナイド半導体の光照射による構造変化は前節で

述べたようにほとんど原子レベルのサイズである1nm程度の高解像度を有し

ていると考えられるこの高解像度を生かして半導体製造プロセスにおける

フォトレジスト-の応用が考えられる DRAMの高集積開発競争は止まること

を知らず昨今の市場では64M (メガ)バイトのメモリが一般化してきている

DRAM製造メーカでは既に1G (ギガ)バイトの素子も研究室レベルで完成

しているメモリーの高密度化に従い当然ながらIC回路のデザインルールは

微細化の方向にある

フォトレジスト自身の高解像度は勿論のこと IC回路焼き付けに必要な露

光装置(ステッパー)の光源の波長が重要になってくるアモルファスカル

コゲナイド薄膜によるフォトレジスト-の応用が成った上でステッパー光源

の開発が必要である図1-7はDRAMの世代交代とデザインルール及びステッ

パーの光源について表したものである 1G以上のメモリーについてはステッ

パー方式でなく直接描画方式も取りざたされているがフォトレジストの必

要精度に関してはアモルファスカルコゲナイド薄膜で十分であると云えよう

図18は半導体製造のフォトプロセスを示している

84 86 88 i90 92 94 96 98 00 02 04 06

DRAM

世代

デザイン

ノレーノレ

使用光源

-l

-

lL i ハl

2OFLm 12FLm 08m 05JJm O35JJm 025JJm018JLm015JLm013JLm

図1-7 DRAMの世代交代とデザインルール及び光源の関係

16

Se-Ge膜蒸着

AgNo3溶液につける

露光

酸によるエッチング

アルカリによる

エッチング

基体(siO2Si3N4- )

エッチング

se-Ge膜除去

ネガプセご-

l

l l l l -

ポジプロセス

熱処理

I l l l- - l

図18 半導体製造のフォトプロセス1

1 7

sect15 本研究の目的と本論文の構成

これまでアモルファス半導体にバンドギャップに等しい光エネルギー

で光照射を行うと構造変化金属の拡散(フォトドープ)吸収端の移動

(バンドギャップの変化)並びに光学定数膜厚微少部分での硬度の変化

およびバルクと薄膜の化学特性の変化などさまざまな作用が生じることが

報告されている ll

これらの変化は可逆的なものと不可逆的なものがある光照射によっ

てAs2Se3およびAs2S3のアモルファス蒸着膜12に可逆的な光黒化現象

(Photodarkening PD)が生じることが初めて報告されたのは25年近く前

であるがアモルファス半導体における光黒化プロセスは依然として解明さ

れていない 11そして光照射によって誘起されたアモルファス半導体にお

ける可逆的不可逆的な変化の説明については多種多様な機構が提唱され

ている 1118-18

本研究では試料として光照射および熱処理によって膜厚およびバ

ンドギャップに大きな変化量を示す斜方蒸着により作製されたAs系およ

びGe系試料を採用したそれらの試料の膜厚およびバンドギャップを測

定し両者の関係を確定すること光照射及び熱による構造変化の究明を行

うことを目的とする

本論文は全6章からなる第1章ではアモルファス半導体の基礎的事

項応用面と共に本研究の背景目的を述べている第2章はアモルファ

スカルコゲナイド半導体における光誘起現象バンドギャップの変化に

ついての考察及び試料作製について述べる第3章では膜厚測定バンド

ギャップ等の測定方法について述べる第4章は膜厚及びバンドギャップの

変化に対する測定結果について述べる第5章は光及び熱による誘起現象の

機構の考察及び新しい光構造変化モデルについて述べる第6章は本研究の

総括について述べる

1 8

1田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

2清水立生アモルファス半導体(1994)培風館

3桑野幸観アモルファス(1985)講談社4RMSchaffert and CDOughton a Opt SocAmerica 38 (1948) 991

5NAGoryunova and BT Kolomiets J Tech Phys 25 (1955) 984

6 SR Ovshinsky Phys Rev Lett 21(1968) 1450

7 DL Staebler and CR Wronski Appl Phys Lett 31 (1977) 292

8 J Feinleib et al Appl Phys Lett 18 (1971) 254

9 SA Keneman Appl Phys Lett 19 (1971) 205

10中島平太郎井橋孝夫小川博司 CDファミリー(1996)オーム社ll K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phy臥44 (1995) 475

12 JP De Neufville SC Moss and SR Ovshinsky a Non-Cry告t Solids 13 (197374)191

13 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

14 Ke Tanaka Rev Solid State Sdegi4 (1990) 641

15 S氏 Elliott a Non-Cryst Solids 81 (1986) 71

16 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

17AV Kolobov and Ga Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

18 H Fritzsche Philos Mag B 68 (1993) 561

1 9

第2章 光誘起現象とバンドギャップ

及び膜厚の変化

sect21カルゲナイドガラスに於ける光誘起現象

前章でも述べたがアモルファスカルコゲナイド半導体における光照

射によるさまざまな誘起現象は未だに解明されていない論議されるべき主

な問題は次の二つである

(1)ミクロな構造変化とそのモデル化

(2)構造変化と光学ギャップの関係

これまでいくつかのモデルが提案されているこれらを紹介しながら本研究

で光誘起現象に対する新しいモデルを提案するこの新しいモデルは従来のモ

デルでは説明できなかった体積膨脹を説明できるモデルである

光照射によって生じるAs2Se3及びAs2S3のアモルファス蒸着膜における

光黒化現象(Pbotodarkening PD)或いはGeSe2及びGeS2のアモルファ

ス蒸着膜における光自化現象(Photobleaching PB)が報告されている1

光異化現象はdeNeuRTilleらによって報告されている 2しかし光黒化機構は

依然として解明されていない 3またHe-Neレ-ザビームでの光照射によ

り As2S3膜は可逆的な構造変化を示すことが報告されている4 Ge膜では

Kawaguchiらによって不可逆的なPB現象は光照射時の大気圧に左右される

ことが原因であると報告されている1

アモルファス半導体において光照射によって誘起される可逆的及び不可

逆的な変化の説明は多くの研究者から多種多様な機構が提案されている光

黒化について多くの研究者は光黒化の原因として孤立電子対(Lonepair

LP)の役割に重点をおいている即ち光異化発生の原因はカルコゲン孤立

電子対の相互作用における変化であると考え孤立電子対一孤立電子対の相互

作用が増加すると価電子帯(ValenceBandVB)が広くなりそれによっ

20

てバンドギャップが減少し光黒化現象が起こると考えている

これまでに提案されたモデルは次のように分類することができる図21

に光構造変化のモデルを図示するまず光照射によって原子(カルコゲン)の

位置が変わる 56これをモデル1と称する次は光照射によって原子間

の結合が切れたり変わったりする 78これをモデル2とするしかし

いずれのモデルも光照射によって励起されるのは特定の原子のみであるす

なわち原子の緩和を誘起する光異化または体積膨張(Volume Expansion

vE)が特定のカルコゲン原子周辺に生じるとしている例えばモデル1

に属する結合がねじれるモデル6では光子がカルコゲン原子上の特定の

孤立電子対に吸収され電子を放出しそれによって陽電荷を帯びるこの陽電

荷を帯びた原子はクーロン引力によって結合がねじれ最も近いカルコ

ゲン原子に近づく電子正孔の対が再結合した後原子が準安定位置に落ち

着くために孤立電子対一孤立電子対相互作用がさらに強力になりそれによっ

て価電子帯が広くなり光黒化が生じるしかしこのモデルは体積膨張(VE)

の発生を説明できない

一方 Elliott7はカルコゲナイドガラスで見られる可逆的光誘起現象(棉

造的機械的及び光学的変化)の大部分は分子間及び分子内での結合の切断

(または弱まり)の組み合わせをともなうー様な結合切断機構に基づいている

としている Kolobovら8は高精度広域Ⅹ線吸収微細構造四ⅩAFS Extended

x-ray absorption丘ne structure)測定及びラマン散乱測定から多重配位位置

の対間に動的結合が生じる事によって発生する光励起状態のセレンの配位数

の増加を見いだしたこれは孤立電子対の役割を実験で初めて証明し光に

ょる可逆的構造変化がアモルファスカルコゲナイドに固有である事を示した

これはモデル2に対応するしかしながら E11iottのモデルもKolobovらの

実験事実も光照射によって見られる体積変化(VE)を説明することができな

21

図2-1 a-Seを例にとった光構造変化モデルのいろいろ

表2-1にAs2Se3 As2S3 GeSe2及びGeS2の化学量論組成であるカルコゲ

ナイドガラスの光構造変化とPD特性を示す9この表の二段目は局所構造の柔

軟性の目安として平均配位数mおよび結合角の自由度(結合のイオン性)に

関連する電気陰性度の差(x A-XB)であるo mが同じであればx A-XBが大きい場合に 1ang喝VEoが大きくなる9

As2Se3 As2S3 GeSe2 GeS2

E[eV] 176 241 220 315

AE-0015 -0045 -0032 -0075

ーangWoVE 852times10ー3 182times10ー2 146times10~2 238times10~2

X^-XB 022 030 044 052

m 240 240 267 267

MQ

AVV

EV

33times10~3

44times10~3

61times10~3

60times10ー3

37times10~3 47times10ー3

Ⅹ線回MQ

折変化EV Yes

Yes

Yes

分光感度 α≧103cm~1 α≧103cm~1 α≧103cm~1

xA -XB 合金ABの組成元素の電気陰性度の差 m 平均配位数

表2-1光構造変化(及びPD)の物質依存性

22

前述のモデル1及びモデル2において根本的な問題点は特定の原子が

励起される理由を説明出来ないことである価電子帯の上部は孤立電子対バン

ドによって形成されているから特定の原子が励起される根拠はない励起さ

れる可能性はどの孤立電子対も同じであるため光異化や体積膨張はマクロ

スコピックまたはメゾスコピックの相互作用が優勢であると予想される従っ

て光異化または体積膨張の原因は個々の原子ではなくバンド状態(また

はバンドテイル)の電子や正孔であると考える

本研究では光黒化及び体積膨張の発生について新しいモデルを提案する

このモデルをモデル3 10とするこのモデルも孤立電子対の役割を考慮し

ているモデル3では光照射によってアモルファス特にカルコゲナイドを形

成する層が陰電荷を帯びそれがクーロン反発を引き起こすと考えるこのク

ーロン反発が膨張とすべりの原因となりそれによって体積膨張と光異化現象

が生じるこのモデルを用いれば体積膨張と光黒化現象が十分に旨く説明で

きるこのモデルの詳細は第5章で述べる

モデル1 2及びこれまでの過去の測定はすべて蒸発源に平行な基板での

蒸着(フラット蒸着)とバルクガラスについて提案されたものである光に

ょって誘起される現象は蒸着条件を変えることで例えば蒸着角度(斜方蒸

着)を変えることで現象を大幅に増大させることが可能である斜方蒸着に

おける膜は組成原子密度が低いため光を照射すると大きな変化が生じる可能

性があり実際に大きな変化が観測されたと報告されている 1114フラット蒸

着と斜方蒸着の違いにおけるさまざまな現象は次節で詳しく述べるそして

斜方蒸着における枇素系ゲルマニュウム系の大規模な光誘起現象の構造

変化モデルは モデル3 10を拡大し適用することで新しいモデルが提案でき

るこの新しいモデルは第5章で詳しく述べる

23

sect22 フラット蒸着と斜方蒸着における構造変化

バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光の照射は特定のアモルファ

スカルコゲナイド薄膜に様々な物理的 21115-17及び化学的特性1819の可逆的

及び不可逆的変化を生み出すことが知られている 11光収縮について -1の

光収縮が枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体で報告されている 1620光

収縮が増大できれば光学的記憶素子画像処理パターンの再現位相ホロ

グラフィ等21122123の領域での可能性がある a-Se-Ge膜についてSinghらの研究は 11膜の斜方蒸着によってすべての光誘起効果が大きくなることを報告

している図2-2で示すように蒸着角度8 0度でのアモルファスSeo75Geo25膜

では蒸着角度以外は同一条件で12もの光収縮が観測されている0

ILnUl

しU

Z

X

subesupe工ト一

LL)

LD

equiv

エU

iZ

O

トー

U

ltsub亡

しL

0

0

o 20 LO 60 80

ANGしE OF DEPOStTtON (degrecs卜」-

図2-2 a-Seo75Geo25膜(膜厚1 FLm)の蒸着角度

と膜厚の変位量の関係図11

図213でフラット蒸着と斜方蒸着を比較した斜方蒸着において大きな変

化量が観測されるのは蒸着時に膜がコラム形状となるため図24で示すよう

に薄膜の原子密度がより低くなるためといわれている 12その実験結果も確認さ

れている 11~13

24

図2-3 フラット蒸着と斜方蒸着の蒸着密度

10

ANGLE OF OEPOSmON( degrees)

80

7

i

ミsub)

勺こー

Lq

くsupZ

U

つ--

UI

equivlJ

sub)

図2-4蒸着角度と密度の関係図11

(80度で斜方蒸着されたaGeS2膜)

斜方蒸着された薄膜は大きな表面積とそれに付随するポイドや表面ダ

ングリングボンドを持つコラム構造になるということは良く知られているll

また Rajagopalanら12は80度で斜方蒸着されたGe系のカルコゲナイドは

光照射時に大きな不可逆的光収縮を示すその理由は斜方蒸着されたカルコ

ゲナイド膜のコラム構造に存在するミクロ空隙の崩壊によって引き起こされる

としている

25

sect23 試料作製

231 As系試料[As2Se(S)3]と

Ge系試料[GeSe(S)2]の蒸着

アモルファス物質は固体を液化あるいは気化させた後急冷し再び固

化させることにより作製されるすなわち急冷によって結晶成長を妨げる

ことでアモルファス状態を実現しているこれは結晶が十分な熱と時間をか

けて結晶成長させ作製されるのとは対照的である

薄膜作製法は気相状態にある原子分子イオンラジカルなどを基

板に堆積させる気相法と液体あるいは溶液から作成する液相法の2つに大

別される気相法はさらに真空蒸着法やスパッタリング法など物理現象を利

用した物理気相成長法(PVD Physical Vapor Deposition)と化学反応を利用

した化学気相成長法(CVD Chemical Vapor Deposition)とに分けられる本

研究に用いたカルコゲナイド系アモルファス半導体aAs2Se(S)8と a-

GeSe(S)2の薄膜はPVDである真空蒸着法で作製した真空蒸着法は真空

中でソースとよばれるバルクの蒸発源を加熱して気化させ気化した原子ま

たは分子を基板上に堆積させ膜形成を行う方法である

図25 室温蒸着時の装置概略図

26

図2-5に室温で蒸着を行う場合の概略図を示す装置は日本真空技術KK

EBB-6型である基板は蒸着前にトリクロロエチレンアセトンエタ

ノールにて超音波洗浄を行ったまた蒸着源には液相凍結法によって作製

された高純度バルクガラスを使用しこれをあらかじめ空焼きを施したボー

ト上に並べボートに交流電圧を印加し抵抗加熱することで試料を蒸発させ

基板に堆積させる

これまで本研究室で使用されてきた試料(例えば a-As2S3 a-As2Se3

a-GeSe2 a-GeS2など)は室温での蒸着で十分な冷却スピードが得られ結晶化は起こらない図2-5に示す真空ベルジャー内に設けられたモリブ

デンボート(Moボート)に蒸着材料を乗せて上方に80度の角度で設けら

れた基板固定具にシリコン基板(20mmX20mm)及びコ-ニング7059ガ

ラス(10mmX20mm)をセットするシリコン基板とコ-ニングガラスは

同一条件下での蒸着を必要とするため同じ基板固定金具に両基板をセット

して同時に蒸着を行った蒸着時の諸条件は次の通りである

真空度 -2times10-6Torr

基板温度 室温

表2-2 蒸着条件

27

232 光照射方法

図2-6 光照射器具

光照射の諸条件

材料 光源 照射強度 照射時間 真空度 ⅠR

カット

照射面積

Se系 ハロゲン 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

ランプ cm2 Tory フィルタ 5mm

S系 水銀灯 40mW 2時間 -2times10-4 水 直径

cm2 Torr フィルタ 5mm

表2-3 光照射の諸条件

28

233 熱処理方法

材料 温度 ガラス転移温度 熱処理時間 真空度

As2Se3 433K 443E 2時間 -2times10-6Torr

As2S3 453K 463K 2時間 -2times10-6Torr

GeSe2 473E 673K 2時間 -2times10-6Torr

GeS2 473K 673K 2時間 -2times10-6Torr

Tgガラス転移温度

表2-4 熱処理条件

熱処理温度についてはAs系はTg(ガラス転移温度)の10K低い温度で行っ

た Ge系はTgの200K低い温度で行った Ge系のTgは高いので Tg温度

近くで熱処理を行うと薄膜の蒸発現象が発生する従って本研究でも他の研

究者が採用した200 K低い熱処理温度を採用した

29

1 T Kawaguchi S Maruno andKe Tanaka J App Phy貞 73 (1993) 4560

2 aP De Neufvile SC Moss and SR Ovshinsky J Non-Cry告t Solids 13 (1973-1974)

191

3 K Shimakawa AV Kolobov and SR Elliott Adv Phys44 (1995) 475

4 H Hisakuni and Ke Tanaka Appl Phys Lett 65 (1994) 2925

5 K Tanaka J Non-Cryst Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sdegi4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cryst Solids 81 (1986) 7l

8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke TanakaPhys

Rev B 55 (1997) 726

9田中-宣アモルファス半導体の基礎(1982)オーム社

10 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and J Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

ll B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

12 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-cryst

Solid乱50 (1982) 29

13 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

14 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa intNon-Cryst Solids1 227-230 (1998)

715-718

15 JIP deNeufville Optical Properties of Solids New Developments edited by B0

Seraphin (Amsterdam North Holland) (1976) 437

16 ⅠShimizu and H Fritzsche J Appl Phys 47 (1976) 2969

17 BT Kolomiets SS Lantratova ⅤM Lyubin ⅤP Pukharov and MA Tagirdzhanov

Sov Phys Solid State 18 (1976) 686

18 Y Utsugi S Zembutsu Appl Phy乱Lett 27(1975) 508

19 H Nagai A Yoshikawa Y Toyoshima 0 Ochi and T Mizushima Appl Phys Lett

28 (1976) 145

20 H Hamanaka K Tanaka and S Iizima Solid State Commun 23 (1977) 63

21 D Goldscbmidt T Bemsteinn and PS RudⅢan Phys Status Solidi(a)41 (1977)

283

22 S Zembutsu Y Toyoshima T Igo and H Nagai Appl Opt 14 (1975) 3073

23 M Terao H Yamamoto SAsai and E Maruyama J Japan Soc Appl Phys

(Suppl)41 (1972) 68

30

第3章 試料基板の条件及び膜厚

バンドギャップの測定

sect31 はじめに

本研究遂行において試料の膜厚とバンドギャップの測定は必須の非常に大

切な測定項目である薄膜膜厚の測定はエリプソメータが一般的であるが本

研究では多量の膜厚測定が必要であるので手軽に測定でき高精度な膜厚測定

器が必要であるそのため膜厚計は光干渉式膜厚計を採用した膜厚のほかに

光学定数の屈折率(n)と吸収係数Oi)も必要なため市販の光干渉式膜厚計を改

造して基準膜厚計とした光干渉式膜厚計は測定薄膜に対し非破壊かつ非接触

で測定可能なため効率の良い測定が可能である一方光干渉式膜厚計の測

定値の信頼性を確かめるため触針式膜厚計を採用し光干渉式膜厚計の信頼性

を確保した光干渉式膜厚計の測定で高精度のデータを確保する必要がある

場合は測定試料基板は反射率の高い事が重要であるこのため本研究の試料

基板は今まであまり採用されていないシリコンウエハ及びコ-ニング7059

を基板として採用した以下の節で試料基板光干渉式膜厚計及びバンドギ

ャップ測定について述べる

本研究の特徴の一つは膜厚とバンドギャップの相関関係を明らかにするこ

とであるそのためには膜厚とバンドギャップの測定を正確に測定する必要

がある従来方法例えば光干渉式膜厚計でバンドギャップを算出できるし

uv-VIS-NIR分光分析によっても膜厚は算出できるしかしいずれの場合も測

定結果或いは算出結果は正確な値とはならない本研究ではこの間題を解決す

るため前述した光干渉式膜厚計で膜厚を測定し UVIVISINIR分光分析でバ

ンドギャップを算出し別個に正確に測定算出することに成功した

光干渉式膜厚計の測定正確さについて説明する本研究では作製試料の膜

厚を5000Å程度を目標に作製した一方光干渉式膜厚計の測定精度は前述

したがplusmn5Åである従って測定正確さについてはplusmn01となり正確な測定

といえるバンドギャップの算出は近似等を行って計算しており従来からエ

ラーの定義については論議されていないので本論文でも割愛する

31

sect32 試料基板の条件について

試料基板は後述する膜厚及びバンドギャップの測定のため下記の条件が

必要となる

1研究に用いる光干渉式膜厚測定器は試料基板の平面性が極力優れているこ

とと反射性が良好であることが必要である

2UV-VIRNIR分光分析によるバンドギャップ測定は試料基板の透明性が

良好であることが必要である

以上の必要条件を満足する基板として膜厚測定用にはシリコンウエハ基板(6

インチ)を採用した一方バンドギャップ測定用にはコ-ニング社製ガラス

7059を採用した

基板平面度データシリコン基板の反射率及びコ-ニング7059の透過率は表

3-1-33に示す

基板 平面粗度 測定サイズ 規格出所

シリコンウエハ Rmax 6インチ SEMⅠ

10Å (150mm) M18-`89

コ-ニング社

7059

Rmax

100Å-150Å

300mmX400mm Corning社資料

表3-1平面度データ

32

波長 反射率 波長 反射率

400nm 485 6328nm 350

450nm 420 650nm 345

500nm 385 700nm 340

550nm 370 750nm 335

600nm 355 800nm 330

表32 シリコンウエハの反射率(波長6328nmの反射率が公称反射率)

シリコン基板の反射率光を垂直入射したときの各波長における反射率

「信越半導体株式会社(SEMI)資料」による

材料 透過率 波長 板厚

7059 90以上 350nm--700nm 2m

表33 石英ガラスの透過率

コ-ニング社製ガラス7059の透明度光の透過率で規定

「Corning社資料」による

33

sect33 基板のサイズ及び測定位置

シリコン基板は20mmX20mmに切断しコ-ニング7059基板は10mm

times20mmに切断してアモルファス膜を蒸着したまた光照射の位置は図3-1に示すように各基板のほぼ中央にほぼ直径5mmの円の範囲を照射した

図3-1シリコン基板と光照射位置

膜厚の測定は図31に示すようにシリコン基板のほぼ中心付近に直径

5mmの光照射を行う測定ポイントは図3-2に示すように光照射範囲内で光照

射範囲の中心及びその中心から1皿皿及び2mm離れた位置で3時 6時 9時 12

時の位置の計9点を測定してその平均値をとって測定値とした一方光

照射範囲外の部分の測定点は図3-2に示すのように光照射範囲の中心より

4mm及び5mm離れた位置で3時 6時 9時 12時の位置の計8点を測定

してその平均値をとって測定値とした光照射前の試料の膜厚測定はシリコ

ン基板のほぼ中心を9点測定するその測定位置は図3-2の光照射の位置と同

じである

34

20mm

4mm

gsubgt

』】

EZn+-+

ーlIー++++

十十

lmm_llmm

射範囲

5mm

図3-2 シリコン基板の膜厚測定点

バンドギャップの測定は光照射前光照射後とも試料基板のコ-ニング

ガラス7059の中心付近を測定点とした

光照射部

Ig

subgtI-

1

図3-3 コ-ニングガラス7059基板と光照射位置

35

sect34 膜厚測定方法

341光干渉式膜厚測定装置の原理及び装置構成

現在半導体や液晶のプロセスラインで使用されている膜厚測定器には

さまざまな方式があるその中でも特に透明膜の測定は非破壊非接触の測

定を特徴とする光干渉式膜厚計(光干渉分光法)とエリプソメーター(偏光解

析法)が広く用いられているこれらはいずれも薄膜内部の光の多重反射に

ょる干渉効果を利用して膜厚を測定するエリプソメータは古くから評価実績

がありその測定の絶対値は一般に高く信頼されている一方光干渉式膜厚

計は換作の手軽さと良好な測定再現性及び微少スポット測定を特徴として

近年かなり普及しているまた測定の絶対精度も大幅な信頼性の改善がはか

られている

今回の膜厚測定は大日本スクリーン製造株式会社製の光干渉式膜厚計ラ

ムダエースⅤしM6000を使用した 1当装置は半導体液晶の薄膜測定用と

して市販されている今回光学定数(屈折率n吸収係数 k)をサンプル

に応じて測定することが必要なため付属しているコンピュータのプログラム

ソフトの改造を行って各定数の測定を容易にした光干渉式膜厚計の基本モデ

ルは図34に示すように照明型顕微鏡と分光器及びデータ処理部のコンピュ

ータから構成されている当膜厚計はサンプル面上の部分を組み込まれた照明型顕微鏡で観察しなが

ら微少領域で測定することができ最小測定スポットはcent 1〝m迄可能である

検出器はイメージセンサーを搭載した同時測光型の分光器を使用している

ccDで代表されるこのイメージセンサーは十分な出力信号のダイナミックレ

ンジを有している CCD受光素子個々の感度のばらつきはシューディング補

正を行うことにより解決しているこの分光器は同時測定機能と駆動部を有し

ない特徴を生かし全波長の情報を短時間でしかも光量変動などの外乱要素

を受けにくい形で出力が取り出せる検出情報の蓄積時間は数10ミリ秒以下と

高速なので全雑音の暗電流は微弱であるそのため波長スキャニングタイ

プで高感度な検出器を備えた分光器と比較してもはるかにSN比の高い信号

36

を取り出せることができる従って現在ではこのイメージセンサーを検出器に

したものが主流となっている

分光器から得られたスペクトルのプロファイルは膜厚に応じて山と谷を

形成するためその膜の屈折率が分かればスペクトル波形の周期を求め容易

に膜厚を算出することができるまた数〝m以下の薄い膜は測定精度の高

いカーブフィット法を用いているこの方法は予め分かっている材質の膜で

想定される範囲内の各膜厚に対応した分光反射プロファイルをコンピュータで

計算しておき実際の測定で得られた波形と順次比較して最も類似した計算

プロファイルをもたらす膜厚を測定値とするこの方法はプロファイルの計算

パラメータに測定サンプルの屈折率や吸収係数の波長分散そして対物レンズ

のNA値などの装置関数を盛り込むことにより非常に精度の高い測定を可能

にする

図34 装置構成図

37

光干渉式膜厚計の測定原理をさらに詳しく解説する薄膜による光の干渉

は古くから良く知られている現象で水面上の油膜やシャボン玉の呈する美

しい色等はこの薄膜の上面及び下面からの反射光が互いに干渉する結果生じ

るものであるこの干渉色は膜の屈折率や厚さにより変化するのでこの干

渉色を分光してそのスペクトルを解析すれば薄膜の厚さを測定できるo

空気(屈折率n2-10)

2入射角

1屈折角

〟境界面1の反射率の振幅r 境界面0の反射率の振幅

図35 単層膜-の入射光反射光

図3-5は単層膜に光が入射し反射する場合を示す一般に膜厚dl屈折率

nlの薄膜が屈折率他の基板上にあるとき薄膜の上面に接する媒質の屈折率

をn2とすれば反射率Rlは次の式で表される

IRll2-1-

6l=

24nonl n2

n12(nnl)2 -(n2 -n22)(n2 -n12)sin2旦2

4 7mldl

A

(31)

(32)

これは膜の吸収係数が0でありかつ入射光が薄膜面に垂直に入射している

と仮定した式である垂直でない場合は次式で表される

38

JR[2r12 +ro2 +2rorl COS6l

1 +ro2r12 +2rorI COS6l

さらに膜に吸収係数が存在するときは次式となる

Rlei^ =

4l = tan-1

-

r(1-r12)sinュ

rl(1+r2) +(1+12)cos61

(33)

(3-4)

(35)

式(3-3)(34)(3-5)におけるzbnは偏光の概念を導入しておりさらに式(3

4)(3-5)では zt)A 61が複素数となり求める膜の反射率Rlは極めて複雑にな

るprime吸収係数がoであり垂直入射であることを前提とすると式(3-1)から反

射率Rlは波長1膜厚dl特定波長における基板膜の屈折率[a)(1)nl(1)]

の関数であるから波長を定めれば膜厚dlの試料の反射率Rlは容易に計算で

きる従って特定波長における反射率より膜厚dlを求めることは可能である

式(31)をdlについて解くと次式となる

dlニスcos-1ユニ互坐47Zn1 2nl

X=2nl(n2 +no)-8nonln2

1-Rl 1-〝)(〝-1)

L- (0 1 2)

(3-6)

(3-7)

上記の膜厚dlの値は Lの値に依存するため膜厚を決定するには少なく

とも異なる2波長で反射率を計測することでLを見積もる必要があるさらに

測定値の信頼性や精度を高めるためには多くの波長域の反射率データを正確

に求めることが必要である

この装置では直線上に結像するグレーティングが採用されておりその直

線上にCCDがあり常にCCDの1素子(1画素)には特定の波長しか入射

しない機構となっているそして400-800nmの波長域に対して1600個余り

の素子があり高分解能の機構を有している

39

(鶴)

100

80

60

40

20

0

400 知0 餌0 700 800 (nm)

図3-6

実際の測定プロファイルを得るために以下に述べるソフト的な手法を用い

ているこの測定器の光源には-ロゲンランプが用いられている例えばシリ

コンウエハーでキャリブレーション即ち膜のない基板だけの状態で反射光を

分光したときの各波長に於ける強度をとったプロファイルを図36に示す

400 500 600 700 800 (nm)

図37

このシリコンウエハにシリコン酸化膜(SiO2)を作製したサンプルを測定した反

射光のプロファイルは図3-7である

ここで図3-6と図3-7を重ねてみる-と図3-8になる

40

()100

80

60

40

20

0

400 500 600 700 800

図3-8

この波形はある意味で絶対強度の分布を示しているが経時的な変化例え

ば光源の光量変化等によってプロファイルが変わる膜のプロファイル図3-7

をキャリブレーションのプロファイルで割る即ち各波長における比率を求め

ると図39の様に干渉による情報のみとなる

400 500 6W 700 800(nm)

図3-9

41

図310は以上で述べたソフト上の処理をしたシリコンウエハに5897Åの

As2Se3薄膜を作製したサンプルのプロファイルである

400^s 500 600J 700 ^L800(nm)

図310

このプロファイルを相対分光反射比率といい次の計算式で膜厚値を求めるこ

とが出来る

dI r-14 ns nL

Is A]

a-膜厚 (3-8)

ここでんは最も短波長側の山又は谷の位置の波長 nsはその波長での屈折率

ALは最も長波長側の山又は谷の位置の波長 nLはその波長での屈折率 Ⅹはそ

の両者の間の山と谷の数で図3-10ではⅩ-8である

膜厚測定における光学定数を決定するフローチャートは図3-11に示す 2

この測定理論は波長を一定波長ごとに分割し(部分波長領域)その波長領域

ごとに実測反射比率と理論反射比率とが一致するように光学定数を増減しこ

れに基づいて波長と共に連続的に変化する補正光学定数を定めこの補正光学

定数に基づいて透過膜の理論反射比率が実測反射比率に一致するように透過膜

の膜厚を再度決定する方法であるこの方法は被測定試料に形成された薄膜の

光学定数が変化した場合でも変化に対応させた補正光学定数に基づいて膜厚

を測定する方法であるので正確な膜厚の測定ができる 2

42

図311膜厚測定における光学定数の算出プロセスフロー

光学定数の算出プロセスフロー()にあるCaucbyの多項式を以下に示す

n =

An+BnA2 +cn14+DnA6

k - Ak+Bk12+ck14+Dk16

(39)

(310)

膜厚(d)と屈折率(n)の関係について考察すると式(3-8)よりnはdのパラメータ

である dを求めるときnsとnLのみの2値で算出すれば dとnは明らかに関

係はあるしかし屈折率n及び波長九は連続に変化する関数であるので各々

独立した値となり従って膜厚(d)と屈折率(A)はほぼ独立に算出できるのが特徴

である

43

この測定器の基本仕様は表314に示す測定領域は今回の測定ではめ 5 IL mを

使用した

測定範囲 100Å-200000Å

_

i-II-- equiv妻_equivequivequiv__Lequiv三-_-___i_-f享享_equiv

cent1FLm cent2FLm cent5FLm cent10FLm cent20FLm

表3-4 光干渉式膜厚計の諸元

342 光干渉式膜厚計の信頼性補完

非接触式光干渉式膜厚計の信頼性を確認するために採用した膜厚測定器は

日本真空技術株式会社(ULVAC)製の触針式膜厚測定器である

装置の型番はDEKTAK II Aを採用したこの測定器の基本仕様は表3-5に

示す双方で測定の結果光干渉式膜厚計と触針式膜厚計の測定データの差異

はplusmn1以下であった従って光干渉式膜厚計の信頼性を確認した

水平解像度 500Å

垂直方向分解能 5Å

膜厚表示範囲(フルスケール) 50Å-655000Å

走査距離 50〝m-30mm

触針圧 10-50mg(今回は10mgを使用)

触針半径 255012525OFLm(今回は25FLmを使用)

表35 触針式膜厚測定器の諸元

44

$35 バンドギャップ測定方法

試料のバンドギャップは UVVISINIR分光分析装置(自記分光光度計)

にて測定した透過率より算出したこの節では分光分析装置で測定した透過

率CI1bs)から吸収係数を求め光学バンドギャップを算出する方法について

説明する

この測定器の基本仕様は表3-6に示す

測定波長範囲 190prime-3200nm

分解能 01nm

サンプリング間隔 05nm

波長正確さ紫外可視域 plusmn03nm(スリット幅表示値02nmにて)

近赤外域 plusmn16nm(スリット幅表示値1nmにて)

測光正確さ plusmn03T(0-loopermil)

表3-6 UV-VIS-NIR分光分析装置の諸元

アモルファス半導体は原子配列に長距離秩序がなくまた短距離化学

結合構造の乱れが存在するためバンド裾状態やギャップ中の構造欠陥準位

などアモルファス半導体特有の電子状態を持っている従って結晶のよう

な鋭い吸収端は存在せず禁制帯幅としてエネルギーギャップを定義するこ

とはできないしかしアモルファス物質であるガラスが可視光を通すこと

からわかるようにギャップは存在する通常アモルファス半導体のエネルギ

ーギャップは次に述べる光学バンドギャップEgと呼ぶ特性エネルギーで定

義している 3

45

E v

g(E )

図312 アモルファス半導体の光学遷移過程

図3-12にアモルファス半導体のバンド図及び図3-13に基礎吸収端付

近での吸収スペクトルの概形を示す図中で Aの領域は一般にTauc領

域と呼ばれており価電子帯と伝導帯間の光学的電子遷移にもとずくものと

されておりそのスペクトルは次式で近似できる

a(hu)hu= (hu-Eg)2 (311)

ここでαは吸収係数 huは光子エネルギーそしてEgは光学バンドギャッ

プである Bの領域はUrbacb領域と呼ばれ次式の指数関数で近似できる

α(hu)prop

exp(huEu)(3112)

ここでEutまUrbach裾エネルギーと呼ばれているこの領域は図3112で示

すようにバンド裾状態とバンド間の遷移にもとづくものと考えられてい

る Cの領域は構造欠陥の関与した光学的電子遷移によるものと解釈され

ている

46

L尊昏SEB

光子エネルギー

図3-13 アモルファス半導体における光吸収係数スペクトルの概形

本研究では作製した試料の透過率を自記分光光度計にて測定しそこ

から吸収係数を求め式(311)を用いて光学バンドギャップを決定した以

下に透過率の測定から吸収係数および光学バンドギャップを求める方法に

ついて説明する4

ガラス基板と試料との境界面の反射率をR2とするとガラス基板を透過

してきた光に対し(1-R2)の光が試料の中に侵入するここで試料の膜厚を

dl吸収係数をalとすると試料内で生じる光の吸収は1-exp(-aldl)と表さ

れる試料と空気との境界面での反射率をRlとすると

(1-Rl)(1-R2)eXP(-α1dl)の光がこの境界面を透過し Rl(1-R2)eXP(-α1d)

の光が反射することになるここでの反射光は再び試料とガラス基板の境

界面で反射され試料内で多重反射が生じるこの試料内での多重反射を考

慮すると試料の透過率Tは次式となる

T- (1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

(1-Rl)(1-R2)RlR2eXP(-aldl)eXP(-aldl)

+-

これは

初項 (1-R)(1-R2)eXP(-α1dl)

47

(3-13)

(314)

項比 RlR2 eXP(-2aldl)

の等比級数であるので次式となる

r=(1-Rl)(1-R2)eXP(-aldl)

1-RlR2 eXP(-2aldl)

図314光の透過の様子

(315)

(316)

次にガラス基板の厚さをd2吸収係数をα2ガラス基板表面での反

射率をRとすると試料とガラス基板を合わせた透過率Tlは式3-16を用い

て次となる

Tl = T(1-R)exp(-a2d)

またガラス基板のみの透過率T2は次式となる

T2-(1-R3)(1-R)exp(-a2d2)

(317)

(318)

分光計の出力する値は試料側の透過率Tlを参照項側の透過率T2で割った比

でありこの値をTobsとすると

robs - TiT2= T(1-R)

48

(3-19)

となるo よって試料の透過率Tは分光光度計の測定結果Toぬより次のよ

うに求められる

T= Tobq(1-R)

ここで上式をα1について解くと

1

-ま1n[妄((1-Rl)(1-R2)+4TRl R2 +(1-Rl)(1-R2)

(3-20)

(321)

となり分光光度計の測定値Toぬから式(3-20)と式(3121)を用いて試料の級

数係数α1が求められるまた 2つの物質A Bの屈折率をそれぞれ 〝2

とするとこの境界面での反射率Rtま屈折率を用いて次のように表されるo

R - (H)2 (322

従って試料の屈折率をnlガラス基板の屈折率をn2空気の屈折率nを1

とすると上式のRl R2 Rは次式で求められる

Rl-(H)2ち-(H)2R3-(H)2 (323

図315にバンドギャップ測定の概要を示すなお図315でバンドギャ

ップの算出を行うとき膜厚値が必要であるが本研究では光干渉式膜厚計で

測定した正確な膜厚値を使用した光学バンドギャップの算出は求めた吸

収係数αを用いてEgを求めるo Tauc領域において吸収スペクトルは式(3-

11)の様に近似されるすなわち横軸に光子エネルギーhvを縦軸にJampをプロットすると図3-16のように直線領域が現れるこれをTaucプロットと

よびこの直線と横軸との交点が光学バンドギャップEgの値となる表37

には本研究で採用した各サンプルの熱処理後のバンドギャップを示す0

49

図 3-15 バンドギャップの測定概要

図3-16 Taucプロット

50

As2Se3 約18eV

As2S3 約25eV

GeSe2 約2OeV

GeS2 約28eV

表37 サンプルのバンドギャップ

51

1大日本スクリーン製造株式会社膜厚計講習資料(1989)

2膜厚測定方法公開特許公報特開平10-122824(1998515)

8疋田雄一郎岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1997)

4加藤丈晴岐阜大学工学部工学研究科 修士学位論文(1994)

52

第4章 実験結果(膜厚とバンドギャ

ップの変化)

sect41 A8試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

この章では第2章のsect23で述べた方法により作製及び光照射した試料の

膜厚及びバンドギャップの変化を測定した結果について述べる

図41から図44まではそれぞれAs2Se3 As2S3のカルコゲナイド薄膜に

光照射及び熱処理を行った後の膜厚(dd)及び光バンドギャップの(EgrEg)棉

対的変化を示しているここでd Egは光照射及び熱処理を行う前の試料作製

時の値である図45から図4-8まではそれぞれGeSe2 GeS2のカルコゲナ

イド薄膜に光照射及び熱処理を行った後の膜厚(Add)及び光バンドギャップ

(Eg侶g)の相対的変化を示している12

光照射前と後に熱処理を行うことによる測定結果の差の確認のため次の

二通りのタイプの処理を行って各々について膜厚バンドギャップの測定を

行った

タイプ1

タイプ2

蒸着後

[互]

照射前の熱処理後

[司

53

[亘]

光照射後の熱処理後

光照射後の熱処理後

なお英文字( A-D )は図4-1-図44及び図45-図48において横

軸に記されている文字と対応している図4-1-図44及び図4-5-図4-8にお

いて実線は膜厚の変化を示すまた破線はバンドギャップの変化を示すいず

れの場合も相対変化率(百分率)である 0より上はプラスを示し膜厚

及びバンドギャップの増加を意味する 0より下はマイナスを示し膜厚

及びバンドギャップの減少を意味する重なっているところはグラフ上では

実線で示されている膜厚は05 〟 mを中心に作製した試料を用いた

54

As Se12 3

2

i亡 dagger

一っ)

sub》

u」

lt]

てsupiZ

てsup

A

1

0

-1

l l- lll l lll

図41 As2Se3における処理タイプ1の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2Se3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは12増加した

2光照射を行うと膜厚は26増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては45増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し17減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して29

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し06減少し光照

射後に測定した膜厚に対して32減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して03増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して20増加した

55

BRlー

sub》

山i=ヨ

sub》

u」

lt】there4=

lUiヨ

て】

lt】

4

3

2

1

0

1

2

図4-2 As2Se3における処理タイプ2の(Add) (AEgrEg)の変化図

As2Se3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2Se3において光照射を行うと膜厚は55増加する一方バンドギャ

ップは12減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して04減少し光照射後に測

定した膜厚に対して59減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して21増加した

56

∵ 1

St

sub乃

山Iiコ

sub乃

lt】

て】

A

-1

0

2

4

6

8

0

C D

図413 As2S3における処理タイプ1の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S8における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 As2S3において熱処理を行うと膜厚は19減少する一方バンドギャ

ップは05増加する

2光照射を行うと膜厚は37増加するそして熱処理後に測定した膜厚に

対して56増加した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャップ

に対し80減少し熱処理後に測定したバンドギャップに対して85

減少した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し08減少し光照

射後に測定した膜厚に対して45減少した一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して12増加し光照射後に測定したバンド

ギャップに対して92増加した

57

5

ぎ 4

山O3iZ

tsup)

uJlt 2

卓1て】

lt o

-1

図44 As2S3における処理タイプ2の(dd) (Eg侶g)の変化図

As2S3における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 As2S3において光照射を行うと膜厚は45増加する一方バンドギャ

ップは17減少した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して10減少し光照射後に測

定した膜厚に対して55減少する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して05増加し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して22増加した

58

sect42 Ge系試料の光照射及び熱処理

(アニーリング処理)による膜厚と

バンドギャップの変化

前節ではAs2Se(S)3について光照射及び熱処理による膜厚と光学バンド

ギャップの変化について述べたこの節では膜厚が05 1Lm程度のGeSe2と

GeS2について光照射と熱処理の効果を述べる以下に述べるように sect41

のAs系試料に比べ光照射及び熱処理の効果について興味深い結果が得られた

59

$lー

一っ)

lJJiZ

sub》

lJ」

lt]ヽ

て】iZ

て】

A

6

4

2

0

2

4

図45 GeSe2における処理タイプ1の(Add) (Eg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeSe2において熱処理を行うと膜厚は05増加するo一方バンドギャ

ップは10減少する

2光照射を行うと膜厚は50減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては55減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャッ

プに対し58増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して68

増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し03増加し光照

射後に測定した膜厚に対して53増加したo一方バンドギャップは蒸

着後のバンドギャップに対して10虜勿(注)し光照射後に測定したバ

ンドギャップに対して48減少した

(注) 最後の熱処理P)が不十分或いは測定に何らかの原因があった

のかも知れない

60

I )

iplusmn

切O

L山iZ

山O) -2lt】

ゴ ー4iココ

て】

lt

_6

図4-6 GeSe2における処理タイプ2の(dd) (AEg侶g)の変化図

GeSe2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeSe2において光照射を行うと膜厚は72減少する一方バンドギャ

ップは25増加した

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して08増加し光照射後に測

定した膜厚に対して80増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して09減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して34減少した

61

2Ljiiiiiil

Be丁

____I

tコ)

山isubeequivヨ

sub乃

lt]

iZiiて】

く]

0

2

4

6

図47 GeS2における処理タイプ1の(dd) (EgEg)の変化図

GeS2における処理タイプ1に対する結果を要約する

1 GeS2において熱処理を行うと膜厚は18増加するo一方バンドギャッ

プは09減少する

2光照射を行うと膜厚は92減少するoそして熱処理後に測定した膜厚に

対しては110減少した一方バンドギャップは蒸着後のバンドギャ

ップに対し35増加し熱処理後に測定したバンドギャップに対して

44増加した

3光照射後熱処理を行うと膜厚は蒸着後の膜厚に対し11増加し光照

射後に測定した膜厚に対して103増加したo一方バンドギャップは

蒸着後のバンドギャップに対して05減少し光照射後に測定したバン

ドギャップに対して40減少した

62

iplusmn

sub刀

山iZ

tコ)

LU

く]=~iコ

てsupiZ

て】

lt]

2

0

2

4

6

図48 GeS2における処理タイプ2の(dd) (EgrEg)の変化図

GeS2における処理タイプ2に対する結果を要約する

1 GeS2において光照射を行うと膜厚は67減少する一方バンドギャッ

プは55増加する

2その後熱処理で膜厚は蒸着後の膜厚に対して12増加し光照射後に測

定した膜厚に対して79増加する一方バンドギャップは蒸着後のバ

ンドギャップに対して08減少し光照射後に測定したバンドギャップ

に対して63減少した

63

sect43 まとめ

本章では枇素系(As2Se3As2S3)ゲルマニュウム系(GeSe2

GeS2)アモル

ファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップの光照射前後及び熱処

理後の測定を行った以下に実験結果を整理する

1膜厚とバンドギャップの間には強い相関関係がある

2斜方蒸着された枇素系ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイ

ド半導体においては膜厚バンドギャップとも大きな変化を示し膜厚

の最大変化量は110バンドギャップの最大変化量は92に達した

3枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において熱処理すると膜

厚は減少しバンドギャップは増大した

4枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体において光照射を行うと

膜厚は増大しバンドギャップは減少した

5ゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド半導体においては熱処

理光照射による変化は枇素系とは全く逆であった即ち熱処理をする

と膜厚は増大しバンドギャップは減少光照射すると膜厚は減少し

バンドギャップは増大した

6光照射と熱処理による変化は全く逆の挙動を示す

7熱処理を光照射の前あるいは後に行っても増減の変化は同じであった

8処理タイプ1及び2について処理工程Dの熱処理を行った後の膜厚

及びバンドギャップの値は蒸着後の測定値とほぼ同じであり可逆性

を有することを示す

9膜厚測定装置は光干渉式膜厚測定装置及び触針式膜厚測定装置を使用

した両者の測定値に有意な差異は認められなかった光干渉式膜厚測

定は間接測定方法であるがかなり精度が高いことがわかった

64

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cryst Solids 227(1998) 715

2 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimaknwa andY Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

65

第5章 カルコゲナイド半導体における

光及び熱による誘起変化機構の

考察

第2章のsect21において光誘起現象とこれまで提唱されている構造変化モ

デルについて概略を説明したこの章では第4章sect41 sect42で述べた本研

究の実験結果に基づいて sect51で斜方蒸着した枇素系及びゲルマニュウム系ア

モルファスカルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明確にする1 sect52ではクーロン反発による

膨張とスリップモデルと言う新しい構造変化モデルを提案する2 sect53で

はsect52で提案した新しい構造変化モデルを拡大適用して斜方蒸着したAs系

のアモルファスカルコゲナイド半導体における光誘起の構造変化モデルを提

案する3

66

sect51斜方蒸着したAs系及びGe系アモルファス

カルコゲナイド半導体において光照射によって生じる膜厚とバンドギャップの変

化の相関関係

光照射によって発生するアモルファス半導体の可逆的変化及び不可逆的変

化の機構についてはさまざまな説明が行われている 4~10これらの研究は主に

フラット蒸着にて作製された薄膜或いは溶融一急冷されたガラスに対して行わ

れたものである光照射による変化は蒸着条件を変えることにより変化する

特に斜方蒸着で作製された薄膜においては変化が顕著になるこれは第2章

でも説明したように作製された膜がコラム形状となるため薄膜の原子密度

がより低くなるためである 11そのため光の照射によってより大きな変化が

発生することが予想され実際の実験においても大きな変化が発生することが

確認されている 1卜13基板と蒸発源との間に角度をつけることにより蒸着さ

れた原子はポイドをその周辺に形成するため原子密度は減少し原子はコラ

ム状に蒸着される原子がポイドによって囲まれると原子の周辺にはより多

くの自由空間が生まれるため光子の照射によって原子の動ける自由度が大き

くなる斜方に蒸着した試料においては大きな変化が発生すると予想されたに

も関わらずその構造が柔軟かつコラム状であるという理由により光の照射

によるさまざまな物性-の影響についてとりわけAs系カルコゲナイド半導体

については今日まで殆ど研究がなされていない

starbvaら14によりAs2S3を斜方蒸着させると同様にコラム構造を形成

することが実証されているしかし斜方蒸着したAs系カルコゲナイド半導体-

の光照射による変化については今日までほとんど研究されていない枇素(As)

及びゲルマニュウム(Ge)は周期律表では異なるグループに属していて Beや

s原子とその隣接格子との組織の配位数は異なるそのため光照射による反応

も異なると予測されるさらに光によって体積の変化が生じるかどうかま

たその場合の光学バンドギャップ等との相関関係についても詳細な研究が行わ

れていないまたさまざまな物性に対する熱処理の役割と光照射による結果

についても系統的な研究がなされていない

67

本研究の第1番目の考察は第4章で行った実験結果より 斜方蒸着し

たAs系及びGe系アモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚と

バンドギャップの変化の相関関係明らかにすることであるつまり斜方蒸着

したAs系(As2Se3As2S3)及びGe系(GeSe2GeS2)カルコゲナイドの薄膜におけ

る光照射による膜厚及び光学バンドギャップ-の影響について考察するもの

であるまた光照射及び熱処理によってこれらの変化にどのような影響が

あるかについても観察した本研究では光照射及び熱処理によって発生する

これらの材料の膜厚と光学バンドギャップの変化について明らかな相関関係

があることを実証したこのような系統的研究が行われたのは初めてのことで

あると理解している

さて第4章の実験結果より導き出される考察は次の通りである As系及

びGe系の膜ともに光照射と熱処理について膜厚の増大とバンドギャップの

減少また膜厚の減少とバンドギャップの増大は同時に起こり得ることであ

るこれまでの研究結果によれば Ge系カルコゲナイドの収縮centontraction)と

白化(bleaching)は他の研究者の結果と関連があるようであるo 11113斜方蒸

着したGe系カルコゲナイド-の光照射の影響における SpenceとElliott1 2の

研究によれば酸素結合によって生じる構造の再編成及び光による表面酸化

はバンドギャップの増加につながると主張しているo しかし彼らがこの結論

に達したのは空気中で照射した試料を使ってのことである Singhら13は

斜方蒸着したGe系カルコゲナイド薄膜の膜厚の変化の研究の中で膜厚の縮小

の原因は光に照射されることにより原子間結合が変化し膜のコラム状構造が

破壊されることにあると主張しているまたRajgopalanら11はバンドギャッ

プの変化は光による体積変化の結果であると主張しているo しかしながら膜

厚とバンドギャップの変化の関係については今日まで明らかにされていないo

既に述べたように As系及びGe系の試料の両方において膜厚の増大とバン

ドギャップの減少は同時に発生する一方膜厚の減少とバンドギャップの増

大も同時に発生するこの現象は光照射だけでなく熱処理についても観察でき

るこのことによって膜厚とバンドギャップの変化について強い相関関係

があることが判明した本研究においてアモルファスカルコゲナイド半導

体における光照射及び熱処理による膜厚とバンドギャップの変化には強い相関

関係が存在すると強く主張するものである

68

第4章の実験結果から明らかになったことは光照射による膜厚及び光学

バンドギャップの変化は斜方蒸着された試料についてそれぞれ最大で11帆

と92という顕著な結果が得られたこのような変化はフラット蒸着試

料と比較して非常に大きなものであるフラット蒸着された試料の場合膜厚

と光学バンドギャップの変化はより少ないまた斜方蒸着したAs系及びGe系

の試料は光照射によるバンドギャップの変化がフラット蒸着された試料と同

じ挙動を示しているつまりAs系薄膜では光黒化現象 Ge系薄膜では光自化

現象であるまた光照射前の熱処理では結果は異なりフラット蒸着された試

料とは逆になっているまたGe系薄膜で観察された光照射と熱処理の影響は

As系薄膜のものとはまったく逆になっている

この節の結論としては斜方蒸着(蒸着角度80度)したAs系(As2Se3As2S3)

及びGe系(GeSe2GeS2)薄膜において光照射と熱処理による膜厚とバンドギャ

ップの影響について研究してきた結果熱処理によってAs系薄膜では膜厚は縮

小しバンドギャップは増大するまた光照射によって膜厚は増大しバンド

ギャップは減少する一方 Ge系薄膜では熱処理と光照射した後の膜厚とバン

ドギャップの変化は As系薄膜とまったく逆であるさらに光照射前後に熱

処理すると As系及びGe系ともに必ず光照射とは逆の影響が認められた

斜方蒸着したカルコゲナイド半導体では膜厚とバンドギャップの変化は著

しいものである膜厚と光学バンドギャップの間には強い相関関係が存在す

ることを改めて強調するまたこの相関関係は熱処理及び光照射に依存せ

ず同時に材料系つまりAs系 Ge系に関係なく相関関係が認められるこれ

は普遍的性質が存在することを表しているこのような相関関係が立証された

のは初めてである以上の様子を図5-1及び図5-2で図示する

試料

熱処理後 光照射後熱処理後

(光照身寸前) (光照射後)

〟d Eg侶g 〟d EgA=g 〟d E押g

As系 I I I I I I

Ge系I I I I I I

図5-1膜厚とバンドギャップの変化一覧

69

バンドギャップ変化

強い相関関係

増加

図52膜厚変化とバンドギャップ変化の相関関係

70

sect52 アモルファスカルコゲナイドガラスに

おける光照射による構造変化モデル(クー

ロン反発による膨張とスリップモデル)

アモルファスカルコゲナイド半導体にバンドギャップ光を長時間照射す

ると可逆光構造変化が生じるこの研究は20余年にわたり行われているがこ

の変化の理解は未だに不充分である4615

アモルファスカルコゲナイド

におけるこのような可逆変化はギャップ下照射16や紫外線照射17 によって

も観察されているこれらの光により誘発される可逆変化の主要な結果は次

のように要約される

1 )一般に光黒化(PD Photodarkening)として知られるa-As2S3における光

学バンドギャップの減少その値はバンドギャップ値の減少として2程度

が報告されている

2)体積膨張(VE Volume-expansion) その値はa-As2S3の場合体積増加

として05程度が報告されている

3) Ⅹ線測定における第一回折ピーク(FSDP First Sharp Di飽actionPeak)

の変化

これらの変化はすべてガラス転移温度近くで熱処理をすることにより元に戻

すことができる PDとVEの関係については文献15において不確かさが残

っているとされている

pDおよびVEの機構を考察する前にこの問題に関して現在までに得られ

ている認識を要約する PDの発生についてはカルコゲン原子の孤立電子対

(LP)電子間の相互作用の変化が原因であると考えられている LPとLPの間

の相互作用の増加は価電子帯(VB)を広げバンドギャップを減少させる(PD) 0

上記の機構を説明するために提案された幾つかのモデルは以下の2種類に分

類することができるすなわち光の照射により

1)原子(カルコゲン)の位置が変化する56

2)カルコゲナイド間の結合の切断およびまたは切り替えが生じる718

71

しかしこの両者の基本モデルにおいては光の照射により励起される特

定の原子のみを考慮しており PDあるいはVEを誘発する原子緩和が特定の

カルコゲン原子の周囲で発生することになっている例えば分類1)に属す

る結合ねじれモデル6では 1つの光子がカルコゲン原子上の特定のLPに吸収

されそれによりその原子は正の電荷を帯びるこの特定の正電荷の原子は

別の一番近いカルコゲン原子にこの2つの原子間に働くクーロン相互作用(引

力)により発生する結合ねじれにより近づく電子空孔対の再結合の後準安

定の原子の位置はLPとLP間の相互作用をより強くし VBを広げその結果

pDがおきるしかしこのモデルでは VEの発生を説明できないさらに

上記のモデルの基本的な問題は何故固体の中で特定の原子だけが励起される

のかが分からないことである VBの上端部はLP帯により形成されるから

特定の原子だけが励起される理由は見当たらないすべてのLP電子は同等の確

率で励起されるから PDとVEの両方の発生にはマクロスコピックまたは

メソスコピック相互作用が影響していると考えられるしたがってバンド

テイルの電子または空孔がPDまたはVEの原因になっていることが予測され

個々の原子が原因ではないと考えられる

ここでは典型的なアモルファスカルコゲナイドであるアモルファス

As2Se(S)3におけるPDとVEの両方を説明する新しいモデルを提案するo

As2Se(S)3は図5-3に示すように基本的には層状構造を持つことが知られて

いる電子の移動度は空孔のそれよりもずっと低いので光発生の電子の多く

は伝導帯のテイルに局在し光照射時の空孔はデンバー光起電力の起源と考

えられるVBおよびVBテイル状態を通じて光が照射されていない部分に拡散

する本研究で提案するVEとPDメカニズムのモデルは以下のようなもので

ある

1)光照射中光子を吸収する層は負の電荷を帯び層間にク~一口ン反発相互作

用を発生させそれによりフアンデルワ-ルスカが弱まり層間距離が増加す

る(VE)この作用は図5-3において矢印E

(作用E)により示される実

験で観測された1つの層内の硫黄原子が下方に延びる原子価角(結合角)の拡

大と光照射によりカルコゲン原子が橋状結合した2つの枇素原子間の距離の

増加19は作用Eに関係する反発力により説明できる層間の反発力の反応は

各層の圧縮力として作用するただし第三配位領域(AsSAsS)は変化せず

このことは 2つの隣接するAsS3のピラミッド間の二面角は橋状結合している

カルコゲン原子における原子価角の増加と同時に変化することを示唆するし

かしこの作用でLPとLP間の相互作用の変化はそれほど大きくなくよって

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

72

この段階でPDは誘発されないと考えるその理由を以下に記述する02

_Ft___

TEEクーロン反発

sスリップ

e~e-e~e~ e~

~

e~ e~ e~ e~

e~ e~ e~ e~ ======コisin責

]l J1l1 ll Jl

図5-3 薄膜層の図形的イラスト

矢印のE Sは各々膨張とスリップを表す

特にSは各層間の相対的な動きを示す

2)実際のアモルファスAs2S(Se)3は図5-4に示すようなクラスター状の層を形

成すると考えられるので隣接クラスター間のE作用の発生と共に層に沿った

滑り運動も発生するこの滑り運動(スリップ)は矢印S (作用S)で示され

る層に沿った滑り運動に必要なエネルギーは層に垂直な膨張運動のエネルギ

ーよりも大きいと考えられるので Sの変化率は作用Eよりも低いと推測され

図5-4 アモルファスAs2S(Se)3における層の形成予想図

膨張及びスリップはE及びSで表す

73

以上より明白であるように作用EおよびSは両方とも層間の同じ反発力

により発生するが作用SのみがPDに直接関係すると考えられる理由は以

下に述べる

watanabeら20は層間LPLP相互作用を考慮に入れ結晶状のAs2S3

の状態密度(DOS Densityofstates)を計算している図5-5は結晶状のAs2S3

の平衡位置を示す図5-5より硫黄原子Aの局所環境は硫黄原子Bの局所環

境と異なっていることが分かる硫黄原子Bは隣接層からの硫黄原子により密

接に囲まれており硫黄Aと異なる形態を示している隣接層が平衡位置より

滑って分離した場合価電子帯(VB)上端のエネルギーの増加で全LP- LP

間相互作用の増加がおきこれにより VBは広がるが CBはほとんど変化しな

い 20前述のc-As2Sについて記述した機構と同様に価電子帯(VB)上端のエ

ネルギーの増加は aAs2S(Se)3においても発生し結果としてPDが発生する

と考えられる

a-As2S3は熱平衡状態ではないが充分熱処理した試料の組織の全自由エネ

ルギーを最小にし原子あるいは分子の空間配列が最小LPLP間相互作用とな

る状態にする EとSの両作用により光照射をすると準安定状態(より高

いエネルギー状態)を作ることができる

図515 a-b面における結晶As2S3の単位セル構造図

破線はカルコゲン原子間の局部環境(LP相互作用による)

の違いを示している C軸はa-b面に対して垂直である

74

アモルファスカルコゲナイド半導体のバンドギャップはLP-LP間の相互

作用で決められる図5-5で示すように層間のスリップ作用によりLP同士が近

づくとLPLP間の相互作用が大きくなり LPのエネルギー位置が図5-6にお

いて高くなりその結果バンドギャップ(Eg)が小さくなり従ってPDが生

じる

Ⅵ族(カルコゲナイド系)

反持合状態

孤立電子対(LP)

np3j-I」ト結合状態

十十

nsB廿十十

モLT~

価t子帯

Eg(くンドギャップ)

図5-6 LPとEgの関係

次に通常の照射状態で導入される層間反発エネルギーの強度を考察する

例えば約100mWcm2のバンドギャップ光を照射するとする薄膜全体にほ

ぼ均一な光が照射されるとして定常状態Gての自由電子の数は10181019cm3

となり低温てでの放射性再結合時間は数ミリ秒であるここでこのように

励起された電子は光の照射中はバンドテイルに留まると単純に推定すれば照

射範囲のすべての層は負の電荷を帯びることになる層間の反発エネルギーの

推定を目的として簡単のために半径a=1nmの円板状の層(絶縁体)を05nm

の間隔で位置させる電子はバンドテイルに弱く局在しているので電子波動

関数はこの部分に分布しているものと推定される 1つの層に含まれるポテン

シャルエネルギーUは U-2Q237TSa (Q 1つの層に含まれる平均電荷)

21を用いて 6-60meVであると推定される反発エネルギーとしてのこのエネ

ルギーは各層について-750meVと推定されるフアンデルワ-ルス吸引エネ

ルギー6を減少させることにより VEを誘発するものと考えるしたがって

各層に導入されたエネルギーはフアンデルワ-ルスエネルギ-の-1-10であ

り当然-o5の体積変化を引き起こすものと考えられる

a_As2Se3にある一定量の第Ⅰ族の金属を導入するとPD作用が無くなることが

知られている 22これは次のように説明することが可能であるたとえば

cuのような第Ⅰ族の金属の原子は層間の橋状結合原子として作用しそれに

ょり層のネットワークの柔軟性を低下させるこのような橋状結合は VEの可

75

能性およびPDにつながる滑り運動の可能性を減少させるさらにこのよう

な強い拘束を導入することにより中性ダンプリング結合を増しこれが非放

射中心として作用し 23光発生の自由キャリアの数をかなり減少させるこの

ようなシステムにおいては VEおよび(または) PDの発生は観測されない

本モデルによると照射表面に正のバイアスが存在する場合 VEとPDは

両方とも電場を印加することにより増長されるこれはより多くの電子が

蓄積されより多くの空孔が照射部分から放散するからであるこのモデルは

さらに非常に薄い膜のすべての表面が照射された場合 VEもPDも発生しな

いことを推定するその理由はこのような場合光照射時の空孔は照射部分

から放散することができずしたがって層表面は電気的に中性のままであるか

らである実際このことは薄い膜を使用した場合 PD(Eg侶g )が非常に

僅かであるとする実験結果24と良く一致する

このモデルは拡大解釈することにより今のところⅤVの値は不明であ

るものの25

水素添加非晶質シリコン(aSiH)において高感度の光曲げ

方式で観測されたVEを説明することも可能であるカルコゲナイドとは異な

り aSiHにおいては電子は空孔よりも移動度が大きくそのために光の照

射中ネットワーク(照射部分)は正の電荷を帯びるしたがって VBテイル

の空孔間の反発力がVEを発生させるしかしネットワークが三次元構造の

ゆえにより拘束され VEは極めて小さいと考えられる

これまでにアモルファスカルコゲナイド(例えばアモルファスAs2S3)

におけるVEとPDのモデルを説明したバンドテイルを占有している電子の電

子間のクーロン反発力がVEとPDの発生に主要な役割を果たす VEの原因で

ある層間の反発力は PDの原因でもあるこの意味で VEとPDは関連して

いる

新しく提案したモデルではVEが先に生じ次にPDが生じるとしているが

KeTanaka26 も図57に示すようにVEが先に生じ次にPDが生じる新しい

実験結果を報告している

76

prime一ヽ

equivコ

ニ1A

101 102 103 -

exposure time (s)

104

図5-7 Time dependence ofL amp E26

いま膜厚ⅣE)の変化量を示し Eはバンドギャップ四g)の変化量を示すo

77

sect53 斜方蒸着におけるA8系カルコゲナイド

ガラスの光照射による構造変化モデル

sect51ではアモルファスカルコゲナイドにおける光照射による膜厚とバン

ドギャップの変化の相関関係を明らかにしたまたsect52ではアモルファスカ

ルコゲナイドにおける光照射による新しい構造変化モデルを提案したこの節

では斜方蒸着における枇素系カルコゲナイドガラスの光照射効果をsect52の新

しい構造変化モデルを拡大適用することで説明する

アモルファスカルコゲナイドガラスにおける光照射による種々の構造

変化はこれまでの章でも詳しく説明してきたまず光照射によって原千(カル

コゲン)の位置が変わる構造変化モデル1次に光照射によって原子間の結合

が壊れたり変わったりする構造変化モデル2いずれのモデルも根本的な問

題点は固体中で特定の原子が励起される理由を説明しがたいことであるこの

間題点を解決するため光黒化及び体膨張の発生モデルについて新しいモデル

の提案をした 2このモデルでも孤立電子対の役割を重視しているこのモデル

では光照射によって層が陰電荷を帯びそれが層間にクーロン反発を引き起

こすと想定しているこのクーロン反発が膨張とすべりの動きをもたらしそ

れによって光黒化と体膨張が生じるこのモデルは光黒化と体膨張を十分に説

明することができる

光によって誘起される変化は斜方蒸着する事で大幅に増大させることが

可能である斜方蒸着された膜はコラム構造を有しフラット蒸着に比べ約

半分の原子密度になることが報告されており 11光を照射すると大きな変化が

生じる可能性がある事実実際に大きな変化が観察されている 11卜13基板を

蒸着ボートに対しある角度で置くと堆積した原子によってその近辺には影

っまりポイドが生じそのために原子密度が低下し原子はコラム状に堆積す

る原子がポイドに囲まれているために周囲に多くの自由空間があり光に

照射されると自由に変化することができる斜方蒸着の試料ではその自由空間

のために大きな変化が予想されるにもかかわらず現在までのところ光照

射がさまざまな特性に与える影響を調べる研究はほとんど行われていない膜

を斜方蒸着すると光によって誘起される全ての影響が大幅に増大することは

78

多くの著者によって明らかにされている蒸着角度が80度で成膜された

Seo75Geo25のアモルファスカルコゲナイド膜では 12もの光収縮が観察され

ている13

筆者は GeおよびAs系ガラスに光照射および熱処理を行うとバンドギ

ャップと膜厚に「大規模な」変化が生じるという詳細な実験結果を最近発表し

た 1その変位規模は体積で最大110バンドギャップで最大92の「大規

模な」変化を観察することができた斜方蒸着したカルコゲナイド膜に光を照

射すると Ge系カルコゲナイドで「大規模な」変化が見られるのみならず As

系カルコゲナイド膜でも体積とバンドギャップに「大規模な」変化が見られる

ことがわかったまたこれらの膜厚とバンドギャップの変化に対して強い相

関関係が存在することを見いだした1

本節では斜方蒸着したAs系の(As2Se3As2S3)カルコゲナイド薄膜の膜

厚および光バンドギャップについて光によって誘起された影響を述べるま

た光照射の前および後の熱処理がこれらの変化に与える影響を観察した結果

を述べる光照射と熱処理についてこれらの膜厚および光バンドギャップの

変化の相関関係を明らかにする最近筆者らが提案したクーロン反発による

膨張とスリップモデル 2を拡大適用して斜方蒸着膜の光黒化と体積膨張の大

規模な変化を説明する

すでに述べたように他の研究者も斜方蒸着膜での「大規模な」変化を観察

しておりその変化をさまざまに説明している斜方蒸着膜には多くのポイド

があり多孔性の層構造をしているために 1113一般には光照射によるポイ

ドの崩壊が大規模な変化をもたらすと考えられている光を照射した場合に小

角Ⅹ線散乱(SAXS Small angle Xray scattered)密度で見られる著しい変化に

ついても多くの研究者は斜方蒸着した薄膜での大規模な光収縮は光照射

によって生じた大きな構造変化が直接原因して生じたものであると提案してお

り 1227これは光に誘起されたポイド崩壊が光収縮をもたらす現象に基づ

いて解釈されている 27しかしながら SpenceおよびElliottは12広域Ⅹ線

吸収微細構造(EXAFS Extended X-ray absorption丘ne structure)測定から

光を照射しても最も近い結合の長さが変化しないことを明らかにしているこ

れは光を照射しても最近接結合間の距離や結合種が変化しないことを意味す

る斜方蒸着膜での光に誘起された大規模な変化は光照射によるポイド崩

壊が原因であるとする想定も本研究1で観察したほぼ可逆的な変化を説明する

ことはできないつまり誘起された変化が熱処理によってほぼ元の状態に戻る

ことが観測されておりポイド崩壊を可逆過程とみなすことはできないからで

あるまたすでに述べたように結合のねじれと破壊の機構を考慮した多種

79

多様なモデルが多くの研究者によって提案されているが 5~719これらは体積

の変化を説明することができないこれらのモデルは斜方蒸着膜で見られた

体積の大規模な変化を十分に説明することはできないと思われる

筆者らが最近提案したクーロン反発による膨張とスリップモデル 2なら

体積の変化を十分に説明することが可能であるしたがってこのモデルを一

部変更したうえで次に斜方蒸着膜で見られた大規模な変化を説明する

周知のとおり斜方蒸着したカルコゲナイド膜は多くのポイドを持つ構造

であり 28原子密度はフラット蒸着膜の原子のほぼ半分である 11また原子の

周りには多くの自由空間が存在することが考えられる従って層は動きやすく

従って反発動作も容易となるこのことは VEⅣolumeexpansion)となるつ

まり膜厚が厚くなる自由空間が多いと言うことは層間のすべりも大きくな

り従ってバンドギャップの変化量も大きくなる

第4章の実験において斜方蒸着膜に大規模な体積変化が生じる現象

が観測されたこの原因は斜方蒸着膜ではポイドが多いため光照射時に光

に晒されるカルコゲン原子が多くなり生じた電子の多くは伝導体(CB)チ

イルに局在することになるその結果クーロン反発力が大きくなりカルコゲ

ン層がその平衡位置から離れることから LP-LPの相互作用全体が増加する

ために価電子帯(VB)が広がりそれが光黒化伊D)をもたらす LP-LPの相

互作用で価電子帯(VB)上端のエネルギーは増加すると考えられるこれに

よって価電子帯は広がるが伝導帯はほとんど変わらない 20斜方蒸着膜で

は周囲にポイドがあるためにカルコゲン層の方向に沿ったすべりもフラット

蒸着膜の場合より大きくなりその結果 LP-LPの相互作用の増加がより大

きくなってバンドギャップにより大きな変化が生じるようになる励起され

た電子は光の照射中はバンドテイルに留まるとすれば照射範囲のすべての層

は負の電荷を帯びることになり反発力を生じさせるこの反発エネルギーは

フアンデルワ-ルスカ(フラット蒸着膜の場合一層につき約750meVと推

定される) 6を減少させることによって体積膨張を誘起することがある 80度

の入射角で蒸着した膜における原子密度はフラット蒸着膜のほぼ半分であり

11また膜にポイドが存在することから多くのフリースペースが存在しそ

の結果として大きな体積膨張を引き起こすものと思われる

80

この節の目的は斜方蒸着での大規模変化についての説明であるまと

めを行うと図5-8のようになる

匝亘垂】

大きなフリースペース

反発動作が容易

vE(体膨張)の大きな変化

層のスリップ動作が大きくなる

pD(光黒化)の大きな変化

図5-8 斜方蒸着によるVEとPDの大規模変化

81

S54 まとめ

1膜厚とバンドギャップを独立で測定し小さな膜厚変化とバンドギャップ

変化を正確に測定することに成功した

2アモルファスカルコゲナイド半導体において膜厚変化とバンドギャップ

変化の間には強い相関関係があることを見いだした

3光膨張現象と光異化現象を説明する新しい構造変化モデルを提案した0

82

1 Y Kuzukawa A Ganjoo and K Shimakawa J Non-Cry告t Solids 227(1998) 715

2 K Shimakawa N Yoshida A Ganjoo Y Kuzukawa and a Singh Phil Mag Lett

77 (1998) 153

3 Y Kuzukawa A Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda Phil Mag (1998)(In Press)

4 K Shimakawa AV Kolobov and S氏 Elliott Adv Phys 44 (1995) 475

5 K Tanaka J Non-Cry告t Solids 35-36 (1980) 1023

6 Ke Tanaka Solids State Commun 54 (1985) 867 Rev Sol St Sci 4 (1990) 641

7 SR Elliott J Non-Cry告t Solids 81 (1986) 71

8 RA Street Solid State Commun 24 (1977) 363

9 AV Kolobov and GJ Adriaenssens Philos Mag B 69 (1994) 21

1 0 H Fritzsche Philo臥Mag B 68 (1993) 561

1 1 S Rajagopalan KS Harshvardhan LK Malhotra and KL Chopra J Non-Cry告t

Solids 50 (1982) 29

1 2 CA Spence and SR Elliott J Non-Cry告t Solids 97-98 (1987) 1215 Diffusion

Defect Data 53-54 (1987) 227 Phys Rev B 39 (1989) 5452

1 3 B Singh S Rajagopalan PK Bhat DK Pandaya and KL Chopra Solid State

Commun 29 (1979) 167

1 4 K Starbova J Dikova and N Starbov J Non-Cryst Solids 210 (1997) 261

1 5 G Pfeiffer MA Paesler and SC Agarwal J Non-Cryst Solids 130 (1991) 1111

1 6 Ke Tanaka and H Hisakuni J Non-Cryst Solids 198-200 (1996) 714

1 7K Hayashi D Kato and K Shimakawa I Non-Cryst Solids 1981200(1996) 696

1 8 AV Kolobov H Oyanagi K Tanaka and Ke Tanaka Phys Rev B 65 (1997) 726

1 9 CY Yang MA Paesler and DE Sayers Phys Rev B 36 (1987) 9160

20 T Watanabe H Kawazoe and M Yamane Phys Rev B 38 (1988) 5677

2 1 EM Purcell Electricity and Magnetism Berkeley Physics Course Vol 2 (1985)

second edition(NewYork McGraw-Hill)

2 2 intZLiu and PC Taylor Phys Rev Lett 59 (1987) 1938

2 3 intHautala S Yamasaki and PC Taylor J Non-Cryst Solid臥114 (1989) 85

24 Ke Tanaka S Kyoya and A Odajima Thin Solids Films 111 (1984) 195

2 5 T Gotoh S Nonomura M Nishio N Masui and S Nitta J Non-Cryst Solids(to

bepublished) (1997)

26 I(e Tanaka Solid State Commun 54 (1985) 867 Rev Solid St Sci 4 (1990) 641

Phys Rev B (tobe published) (1997)

2 7 T Rayment and SR Elliott Phys Rev B 28 (1983) 1174

2 8 DK Pandaya AC Rastogi and KL Chopra J Appl Phys 46 (1975) 2966

83

第6章 総括

アモルファスカルコゲナイド半導体の研究は盛んに行われておりそれ

らについての研究発表も数多く発表されているその中でアモルファスカル

コゲナイド半導体にバンドギャップ光を照射すると物理的化学的機械的

性質が変化する現象(光誘起現象)に対する報告も多いこれはカルコゲナイ

ド薄膜に光を照射すると光黒化現象及び光自化現象を生じカルコゲナイド薄

膜の膜厚変化及びバンドギャップ値の変化を誘起するしかし今までの研究に

ついては光黒化現象或いは光白化現象また膜厚変化或いはバンドギャップ変

化個々についての研究報告はあるが上記現象の系統だった研究報告はなされ

ていない

本論文はそのような環境下でアモルファスカルコゲナイド半導体の光

誘起現象を系統立てて研究した報告書であるまず第3章では膜厚変化の測

定に欠かせない光干渉式膜厚測定装置の選定及びそれに係る信頼性の確保のた

めの考察を行った膜厚とバンドギャップを独立で測定できるようになった事

により正確な膜厚とバンドギャップの測定が可能となり本研究の基礎を構築

した第4章では膜厚とバンドギャップ測定結果を報告した第5章では第4

章の測定結果を踏まえてまずアモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚

とバンドギャップの変化挙動には強い相関関係があることを初めて明らかにし

た特に斜方蒸着された薄膜についてはその変化量も大きく最大で膜厚110

バンドギャップ92の変化を確認したこのことは膜厚及びバンドギャップの

測定を容易にして膜厚とバンドギャップの間の相関関係を明らかにする上で

大きな武器となった

次に膜厚とバンドギャップの変化挙動に強い相関関係を認めたことから

アモルファスカルコゲナイド半導体における光照射による膜厚とバンドギ

ャップの変化がほぼ同時に起こる構造変化モデルを導き出した今まで多くの

研究者より多くの構造変化モデルが提唱されているが膜厚の変化とバンドギ

ャップの変化を同時に説明できるモデルは存在せず本研究で提案した構造変化モデルは未解決のこの分野に新しい光を当てるものと確信する

84

次にこのモデルを拡張して枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体

における大規模変化に対する新しい構造変化モデルも提案したこの再

現性のあるまた規則的な大規模変化はこの新しい構造変化モデルをベー

スとしてアモルファスカルコゲナイド半導体の応用面に多くの示唆を与え

るものと確信する

今後の研究課題としては本研究の一環としてゲルマニュウム系アモル

ファスカルコゲナイド半導体における光誘起現象の構造変化モデルを新たに

導き出すことであるつまりゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体と枇素系アモルファスカルコゲナイド半導体の膜厚とバンドギャップ

の変化挙動は全く逆の測定結果を示しているため第5章で提唱した構造変化

モデルでは説明が出来ないゲルマニュウム系アモルファスカルコゲナイド

半導体に関してはおそらくクーロン反発による膨張とスリップモデルは適

用できないと思われるゲルマニュウム系は基本的には層構造をとってい

ない可能性もありマクロな構造も含めて検討する必要があろうこれについ

ては将来の課題として残された引き続き本研究室で継続研究される事を強

く望むものである

85

本研究に関する発表論文

Ⅰ原著論文

1 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited As- and

Ge- based amorphous chalcogenides correlation between changes

))

in thickness andband gap

Journal of Non-Crystalline Solids 227230 (1998) 715-718

2 K Shimakawa N Yoshida Ashtosh GanJOO and Y Kuzukawa

〟A model for the photostructural changes in amorphous

chalcogenidesn

Philosophical Magazine Letters 77 (1998) 153-158

3 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo K Shimakawa and Y Ikeda

〟photoinduced structural changes in obliquely deposited arsenic-

based amorphous chalcogenides A model for photostructural

))

changes

Philosophical Magazine B (印刷中)

Ⅱ国際(国内)会議などの発表

1葛川幸隆AshtoshGanjoo嶋川晃一

斜方蒸着As及びGe系カルコゲナイドの光及び熱に誘起される変化

第5 6回応用物理学会学術講演会千葉(1997年春季)

86

2 Y Kuzukawa Ashtosh Ganjoo and K Shimakawa

Photoinduced structural changes in obliquely deposited As and

Ge based amorphous chalcogenides correlation between)int

changes in thickness and band gap

International Conference of Amorphous and Microcrystalline

SemiconductorsScience and Technology Hungary (August 1997)

3葛川幸隆 AshtoshGanjoo鴨川晃一池田 豊

斜方蒸着されたAs系カルコゲナイドガラスにおける光照射による

構造変化モデル

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

4池田 豊 AshtoshGanjoo鴨川晃一葛川幸隆

斜方蒸着aAs2S3薄膜の光照射中の膜厚変化光生成キャリアの役割

第5 9回応用物理学会学術講演会広島(1998年秋季)

87

謝辞

本研究を遂行するにあたり嶋川晃一 岐阜大学工学部電気電子工学科教

授には絶大なる御指導を賜りました社会人学生ということで時間的場所

的能力的なハンデキャップがあった中で本当に親身にお教えいただきまし

てこの論文を纏めることが出来ました衷心より厚く御礼を申し上げます

近藤明弘 岐阜大学工学部電気電子工学科助教授には研究過程において

多大なる御助言を頂きましたまた本論文まとめの御指導を頂きましたまた

この論文の副査として御指導いただきました有り難く厚く御礼申し上げます

吉田憲充 岐阜大学工学部電気電子工学科助手にも年長の学生という状

況の中でいろいろ励ましを頂きました深く感謝致します

Ashtosh Ganjoo博士には最初の一年間は岐阜大学の助手として後の二

年間はワイエムシステムズ株式会社の在籍の身分で本当に多大の御指導御

協力を頂きました社会人学生のハンデキャップを完全にカバーしていただき

ました AGanjoo博士の御指導御協力が無ければ本研究の遂行は不可能であ

ったと思われますこの場を借り深く御礼申し上げます

岡崎靖雄 岐阜大学工学部電気電子工学科教授と山家光男 岐阜大学工学

部電気電子工学科教授にはこの論文の副査として御指導いただきました厚

く御礼申し上げます

長谷川泰道 岐旦大学工学部電気電子工学科助教授には筆者が岐阜大学

工学部大学院博士課程に入学する窓口を開いていただきましたおかげでこの

論文を纏めることが出来ました厚く御礼申し上げます

田中啓司 北海道大学工学部応用物理学科教授には学会発表論文など

を通し多大なる御指導を頂きましたここに厚く御礼申し上げます

池田豊氏(ワイエムシステムズ株式会社社長)には友人としてまた同

じ社会人として陰に日向に御指導頂きました心から感謝敦します

筆者在籍の大日本スクリーン製造株式会社常務取締役大神信敏氏には

社会人学生の申請に関して御理解を頂き入学推薦書を頂戴いたしましたそ

の後の研究の遂行過程におきましても親身になって御心配頂きました氏の

存在が精神的な支えになりました誠に有り難くここに謹んで厚く御礼を申

し上げます

88

最後に 51歳の中年になりながらまた社会人であり一家を支えなければ

ならない身で大学院博士課程の入学希望に対して何の文句も言わず快く

許してくれた妻の雅代に対しどう感謝をすればいいかわからない心境です

54歳の今日まで3年間にわたり君の後ろ支えが無ければこの論文の完成は無

かったと思います本当に有り難う伴侶として心から感謝いたします

また 3人の息子たち父親の我が健に何の疑問も挟まず協力してくれたこと

本当に有り難う父の生き方が君たちの人生に何らかの糧となることを希望し

ます皆さん本当に有り難う御座いました

89

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