KIDS と新版 SM 社会生活能力検査の結果の解釈と...
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KIDSと新版SM社会生活能力検査の結果の解釈とそこから考察できること KIDSと新版SM社会生活能力検査の関連すると考えられる領域を対照させて、結果をグラフとして表示
することで両検査法の結果の解釈に役立てていくことを提案します。検査は解釈し、対象の子どもの実態を
その検査法の視点から知り、今後の指導に役立てていくことが目的であると言えます。その意味では、今回
提案する結果記述の方法は、解釈を助けることで検査を検査で終わらせないために役立つと思われます。本
校では、KIDSと新版SM社会生活能力検査の実施は何年間か続けてきています。でも、その結果の利用に
ついては、結果をどう解釈するかも含めてまだ充分でなかったように思います。「検査をつける」ことは、事
務的な仕事のひとつで終わっていたと言える部分が多かったのではないでしょうか。時間をかけて「つける
(チェックする)」検査です。それ相応に役立てていきたいと思います。今年度から、上の波線部分のように、
検査を有効に実施(つまり、解釈と実践へいかしていくことを含みます)していくために、まず解釈をやり
やすくするための記録の新しい記述の仕方とそれを見ながらの「解釈のコツ」を提案したいと思います。も
ちろん、あくまで実施する検査の「外的基準」と「内的基準」を守ることが大前提であることは言うまでも
ありませんが。なお、あくまで提案ですので、今回の内容について、改良できる点は取り入れていければと
思います。 1.結果記述の仕方と考え方 ①KIDSの結果は「赤色」線、新版SM社会生活能力検査の結果は「青色」線で結んでください。要は、両
検査法の結果が見分けられることが大切なのです。検査法の結果パターンが色で見分けられるので、検査
領域ごとのマーカー( △ と ● )はつけても、つけなくてもよいです。 ②両検査法は日常生活場面での「観察法」です。そのために各領域の検査結果はその領域での機能に限られ
たものではないことも考えられます。実際、同じひとりの子どもに実施したKIDSの「理解言語」の結果
は、個別検査であるPEP-3の「理解言語」よりも高い発達年齢で評定されてしまう傾向が見られます。そ
の原因として、KIDS の場合には、言語の理解機能以外にも視覚情報からの入力が関わってしまっている
場合が少なくないこと、一部の言語刺激を手がかりとして日常生活の中でのパターンとしての行動をして
しまうことがあり得ることが考えられます。このようなKIDSと新版SM社会生活能力検査の両検査法の
性格も考慮に入れるなら、この 2つの検査法は対象の子どもの大まかな発達像を把握しようとするものと
言えるでしょう。その場合、両検査法の実施にあたって、判定困難な項目については思い切って「できな
い」と判定することや、領域については判定すること自体を実施者が避けることも選択肢のひとつとして
もよいでしょう。いずれかの領域の評定を避けた場合、KIDSの「総合発達年齢」や新版SM社会生活能
力検査の「社会生活年齢」の算出はされませんが、評定した両検査法の領域間の結果の差異を利用しての
分析は可能です。「総合発達年齢」や「社会生活年齢」はそれぞれの検査法の結果を代表するものです。
その意味では、それぞれの検査内での領域間での差異が大きい場合には、その解釈は慎重でないといけな
いとも言えます。つまり、領域間での差異が大きい場合には、「総合発達年齢」と「社会生活年齢」は意
味を持たないとも言えるのです。むしろ、関連すると思われる領域間での比較が重要となります。両検査
法については、評定困難という理由によって実施者は評定しない領域があってもよいのです。もっとも、
これはここでの両検査法について言えることであって、WISC-3などの他の検査法には当てはまりません。 ③6 歳までの年齢でのグラフ、9 歳までの年齢でのグラフの 2 種類の用紙を「共用フォルダー」にアップし
てあります。担任の先生は必要な方を取り込んでプリントアウトして利用してください。
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2.結果解釈の方法の提案 ①先日配布した「KIDS と新版 SM 社会生活能力検査の結果の解釈の仕方についての提案」(ホッチキス留
め 20ページのもの)を参照して解釈を試みましょう。 ②両検査法の対照すると考えられる領域間のひとつにでも差異が見られ、それがどのような意味を持つかを
考察できれば、解釈は成功したと言えるでしょう。そして、解釈したことを実践で生かしていくことが大
切です。そうすることで、「検査をする」ことははじめて意味を持ちます。とにかくやってみましょう。 3.結果解釈からのひとつの提案 両検査法の結果解釈に当たって、認知発達(LDT-Rで評定される言語解読能力=Stage評価)の段階によ
って特徴が見られることにも留意する必要があるようです。これに関しては、次のような点を提案すること
ができるでしょう。いずれも、実線がKIDS、波線が新版SM社会生活能力検査の結果を示します。
StageⅡと StageⅢ-1 では、KIDS と新版 SM 社会生活能力検査の結果の差があまりありません。一方、
StageⅢ-2 と StageⅣでは、両検査法の結果の差が開いています(より大きい)。事例件数が少ないので一
般的なことは言えませんが、これらの検査結果にはこのような傾向があると考えられます。これはどのよう
な意味があるのでしょうか。StageⅡとStageⅢ-1ではグラフに見る両検査法の結果の差異は大きくありま
せん。つまり、言語解読能力の発達年齢が 2歳 6ヵ月ころまでは、情報処理の能力(認知機能の能力)をは
StageⅡ(1歳 6ヵ月~2歳ころ) StageⅢ-1(2歳~2歳 6ヵ月ころ)
StageⅢ-2(2歳 6ヵ月~4歳ころ) StageⅣ(4歳~5歳 6ヵ月ころ)
※点線以下の斜線部分がKIDSで評定される発達年齢部分(StageⅢ-2とStageⅣ)
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じめ全般的に発達が未熟なために両検査法の性格にも関わらず、差が出にくいと言えるでしょう。実際、2歳 6ヵ月頃までの両検査法の検査項目も似ていたり、同じものがあったりすることに気づきます。社会適応
度の評定とも言える新版 SM 社会生活能力検査も、言語解読能力が StageⅢ-1 までの段階では多くの領域
で社会適応度ではなく、通常の発達の過程を測定する必要があるからでしょう。社会的な適応行動よりも、
発達に伴う行動の質と量での獲得が展開されることが期待されると言えるでしょう。この段階までは、状況
理解や行動や情緒のコントロールが充分にできるまでほどには言語能力はまだ発達していないと言ってもよ
いでしょう。 それに対して、言語解読能力が 2歳 6ヵ月をこえると、言語能力については 3語文も可能となりかけてい
て、ことばでのやり取りが増えてきている段階と言えます。「大小」をはじめとした対の世界の理解や「これ
ぼくの、これ〇〇の」といったような自他の分化もできてきます。自分をとりまく状況の理解が進んでくる
と言えます。そのような認知機能の発達的な基盤に基づいて、相手との関係において、そして集団の中にお
いて、社会的行動をどんどん獲得していくと言えるでしょう。そして、獲得してきている社会的行動の中に
は、まわりをまねて、あるいはパターンとして身につけているものも少なくありません。社会的なしつけが
行なわれてくるからです。新版SM社会生活能力検査の検査項目にも「電話での簡単な応答」、「ひとりで顔
が洗える」、「大便の後にふける」など練習することや行動のかたちを覚えることで身に付けることのできる
ものがいくつも含まれています。「できる行動」としての適応度の評価と実際の諸機能の発達の基盤としての
力には開きが見られてくることがあると考えられます。「子どもなのに大人顔負け」とかいわゆる「ませた子
ども」はこのころからみられてくるようです。このような状況が、図のように本校の児童生徒の例でみる言
語解読能力がStageⅢ-2以上での両検査法の結果の開きのようすに見られていると言えるでしょう。 教師の仕事は「子どものよいところを見つけること」とよく言われます。本校でももちろんそれはあては
まります。でも、ここで気をつけないといけないことがあります。LDT-R での評価がStageⅢ-2以上であ
る場合、図で見たようにKIDSと新版SM社会生活能力検査の結果には大きな開きが見られる傾向があるよ
うです。つまり、実際に見られる子どもの社会的な行動(つまり、学校での行動や振る舞いのようす)は新
版SM社会生活能力検査の結果に反映されることが少なくなく、大人はついそれで子どもの実態把握をして
しまいがちになります。でも、実際の発達的な基盤はKIDS検査で示されるレベルであるでしょう。実際に
見られる行動面での実態把握によって目標設定や課題の設定、指導や支援の方法を考え、実施すると、その
場面や決められた関係性の中では適切な行動や振る舞い方ができたとしても、新しい場面や状況が変われば、
子どもは柔軟な対応はできないことが生じえます。場合によっては、ストレスや不安感情を生じさせ、高め
ていってしまうこともあり得るでしょう。ここからは本当の意味でのソーシャルスキルやライフスキルを育
てることはむずかしくなります。生きていく力にはなりにくいと言えるでしょう。もっとも、今できている
行動や振る舞いが適切であったり、がんばっている場合は、しっかりとほめてあげることは大切です。また、
生活年齢が高くなるにつれて、社会的な習慣などからの要請(トップダウンで要求されるスキルや行動の仕
方)は増えてきます。その意味では、パターンとして練習することで身に付けていくことが求められるもの
は少なくないことも確かです。 このような考察から、LDT-R での評価がStageⅢ-2以上の子どもたち、つまりことばでのやり取りが生
活の中で多く見られる子どもたち(本校では中学部の生徒に多くこのような子どもたちは含まれます)につ
いて、日常生活での行動面に実態把握の多くを求めることからは、知らずのうちに子どもたちにストレスを
生じさせている状況がある可能性も否定できないと言えます。ことばでのやり取りがある程度できる子ども
たちのアセスメントはいっそう慎重であるべきでしょうね。 なお、KIDS の評定する発達年齢部分はほぼ 7 歳までとなっています(運動:6 歳 5 ヵ月まで、操作:6
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歳 10ヵ月まで、理解言語:6歳 10ヵ月まで、表出言語:6歳 10ヵ月まで、概念:6歳 8ヵ月まで、対子ど
も社会性:6歳 1ヵ月まで、対成人社会性:6歳 11ヵ月まで、しつけ:6歳 5ヵ月、食事 3歳 0ヵ月まで)。
つまり、それぞれの領域ですべての項目に合格していた場合でも、発達年齢の評定年齢は 7歳を超えること
はありません。上で示した図と関連して、おもに言語解読能力がStageⅢ-2とStageⅣのケースについて、
KIDS の結果がもっとも高い発達年齢の評価であったり、その近くにあるなら、KIDS と新版 SM 社会生活
能力検査の差から「KIDS と新版 SM 社会生活能力検査の結果の解釈の仕方についての提案」で示したよう
なやり方が当てはまらない場合があります。KIDS 検査のすべての領域の結果が最高の発達年齢の評価であ
る場合がそれです。一方の新版 SM 社会生活能力検査は、それぞれの領域と社会生活年齢が 12 歳 6 ヵ月あ
るいは 13 歳以上の評定で可能であり、KIDS との評定の差が大きくならざるを得ないからです。そのよう
な場合には、他の発達検査ないし認知発達検査(WISC-3など)を実施する、あるいは新版SM社会生活能
力検査のプロフィールのみから解釈を試みることになります。一方、KIDS の領域の中にもっとも高い発達
年齢の評定に至らないものがある場合は、両検査法の結果の対照からの解釈が可能となります。この場合、
両検査法の対照領域の差から、すでに提案したような解釈が可能でしょう。K IDSの複数の領域での発達年
齢評定が最高に達していない場合には、解釈はより容易になるでしょう(上の図の例)。このようなケースの
場合、KIDS<新版 SM 社会生活能力検査の場合の解釈を行なうこと、そして上で示したように、新版 SM社会生活能力検査の結果で示される状態像だけで判断をしないことが大切です。
(文責)金井孝明 2011年 2月 23日
運動 操作 理解言語 表出言語 概念 対子ども 社 会 性 しつけ 食事 総合発達年年齢
作業 移動 意志交換 集団参加 身辺自立 自己統制 社会生活年齢
3 歳
4 歳
5 歳
6 歳
7 歳
8 歳
3歳6ヵ月
4歳6ヵ月
5歳6ヵ月
6歳6ヵ月
8歳6ヵ月
対 成 人 社 会 性 KIDS
新版SM社会生活能力検
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KIDS 評定年齢範囲