NEWSLETTER nascent chain biology...nascent chain biology NEWSLETTER 2016年09月 発行...

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nascent chain biology NEWSLETTER #03 2016.09 新生鎖生物学 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究

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Page 1: NEWSLETTER nascent chain biology...nascent chain biology NEWSLETTER 2016年09月 発行 平成27年度 第2回班会議 平成˜˚年度第2回班会議を˛˛月˛˝日(金)から˜泊˝日で開催いたします。計画班と公募班が一同に会する最初の班会

nascent chain biologyNEWSLETTER

#03#032016.09

新生鎖の生物学

文部科学省科学研究費補助金

新学術領域研究

http://www.pharm.tohoku.ac.jp/nascentbiology/

新学術領域研究「新生鎖の生物学」 〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6番3号Tel. 022-795-6874E-mail:tinada@m.tohoku.ac.jp

新学術領域「新生鎖の生物学」領域事務局 (稲田 利文)

編集人 千葉 志信 発行人 田口 英樹

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

nascent chain biologyNEWSLETTER

2016年09月 発行

平成27年度 第2回班会議

平成27年度第2回班会議を11月13日(金)から2泊3日で開催いたします。計画班と公募班が一同に会する最初の班会議であり、研究の進捗状況を報告する場となります。新生鎖の新規活性とリボソームの新規制御機構は国際的にも拡大している分野です。遺伝子発現の実像に迫る日本発の優れた研究が数多く発表されるためには、班会議での活発討論が必須です。特に若手研究者の熱い発表を待っています。

今回から新たな企画が開始されました。遠藤先生と吉久先生に、2013年ノーベル賞受賞のSchekman博士にインタビューをしていただきました。偉大な先人の独創的な研究の過程歴史を知る事は、研究の本質を理解する最良の方法の1つだと思います。この企画は永田特定でのMorimotoへのインタビューから吉田特定、遠藤特定へと連綿と受け継がれてきているものです。また、海外ラボ紹介の初回として、田鋤さんにJudith Frydman研の紹介をしていただきました。海外の優れたラボで自由闊達に研究を満喫している様子が伝わってきました。これらの企画が、若手の背中を押す一助になることを切に願います。

(事務局 稲田利文)

2015年11月13日(金)~15(日)正午 会 場:天童温泉 ほほえみの宿 滝の湯

編集後記

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nascent chain biologyNEWSLETTER

#03

A n n o u n c e m e n t :「新しい」新生鎖田口 英樹 「新生鎖の生物学」領域代表

S c h e d u l e :関連ミーティング・シンポジウム情報 ………… 03

I n f o r m a t i o n : 活動報告 ………… 03

R e v i e w :X線結晶構造解析法、NMR法、低温電子顕微鏡による単粒子解析法 ………… 04

A c t i v i t i e s :第2回 班会議報告 ………… 08第2回 班会議ポスター賞 ………… 11第3回 若手ワークショップ ………… 15

M e e t i n g R e p o r t :Nascent-chain Biology Meeting 2015 in Tokyo ………… 18第53回 生物物理学会 ………… 19BMB2015 ………… 21第16回 日本蛋白質科学会年会シンポジウム ………… 24RNA2016 ………… 25EMBO2016 ………… 28

L a b o r a t o r y :“新世代生化学研究室” ヘグデラボ ………… 36

P r o t o c o l :比較的安価なGibson assemblyのレシピ ………… 38

班員一覧 ………… 40

研究業績 ………… 41

編集後記 ………… 42

C O N T E N T S

2016.09

新学術領域「新生鎖の生物学」文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

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A n n o u n c e m e n t :

1

nascent chain biologyNEWSLETTER

#03

A n n o u n c e m e n t :「新しい」新生鎖田口 英樹 「新生鎖の生物学」領域代表

S c h e d u l e :関連ミーティング・シンポジウム情報 ………… 03

I n f o r m a t i o n : 活動報告 ………… 03

R e v i e w :X線結晶構造解析法、NMR法、低温電子顕微鏡による単粒子解析法 ………… 04

A c t i v i t i e s :第2回 班会議報告 ………… 08第2回 班会議ポスター賞 ………… 11第3回 若手ワークショップ ………… 15

M e e t i n g R e p o r t :Nascent-chain Biology Meeting 2015 in Tokyo ………… 18第53回 生物物理学会 ………… 19BMB2015 ………… 21第16回 日本蛋白質科学会年会シンポジウム ………… 24RNA2016 ………… 25EMBO2016 ………… 28

L a b o r a t o r y :“新世代生化学研究室” ヘグデラボ ………… 36

P r o t o c o l :比較的安価なGibson assemblyのレシピ ………… 38

班員一覧 ………… 40

研究業績 ………… 41

編集後記 ………… 42

C O N T E N T S

2016.09

新学術領域「新生鎖の生物学」文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

 26年度から始まった本領域も今年度が3

年目であっと言う間に折り返しだ。

先日、中間評価の成果資料をとりまとめ

たところだが、個別研究が順調に進展し

ているだけでなく、領域内の連携が思っ

た以上に拡がっているのを実感した。実

際、既に論文発表という形で実を結んだ

ものがあるだけでなく、今まで私が把握

してなかった共同研究も数多く進んでい

る。本新学術領域の発足がきっかけでこ

のような研究進展や連携が進んでいるの

がわかったのは代表冥利に尽きる。これ

からがますます楽しみだ。

 これを読んでいる読者の中には、本領

域と直接関係のない方も多数おられよ

う。「新生鎖って何?」ということで首

をかしげる方もいるだろう。きちんと定

義しなければ生命現象において「新生

鎖」はいろいろありえる。DNA複製時に

鋳型を元に合成されるDNA鎖は教科書レ

ベルでも「新生鎖」と呼ばれるし、ある

方と話していて、新生鎖はてっきり糖鎖

関連かと思っていた・・・などなど。生

命はヒモ(鎖)からできているという名

言?もあるくらいで、「新生鎖」はあち

こちにあるだろう。この領域での新生鎖

の定義は、翻訳途上の新生ポリペプチド

鎖である。このように書くとタンパク質

中心であるが、化学的な実体としての新

生鎖はリボソーム内でまだtRNAが結合し

ているのでペプチジルtRNAと呼ぶことも

できる。

 まだまだ認知度は高くないかもしれ

ないが、本領域が扱う新生鎖研究は、

国外でも新しく大きな潮流になってき

ている。私自身が定期的に参加してい

るシャペロン関連のCold Spring Harbor

LaboratoryやEMBOミーティング1はいつ

の間にか「新生鎖の生物学」ど真ん中の

セッションが多数となっている。その点

で、本ニュースレターが出版される頃に

開催される「新生鎖の生物学」国際シン

ポジウム(2016.9.1-3、河口湖)は実りの

あるシンポジウムになるだろう。

 最後に、この1,2年で最も驚いた「新

生鎖」関連の研究を紹介したい。CAT

テイルの話しである。CATはC-terminal

Alanine and Threonineということでリボ

ソーム関連品質管理(RQC)2の際に新生鎖

のC末に余分に付加されるペプチドであ

「新しい」新生鎖

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A n n o u n c e m e n t :

2

る。このCATテイルでは、ノンストップmRNA

などで起こった翻訳停止に伴って解離したあと

の60Sリボソーム上で、Ala-tRNA、Thr-tRNAが

リボソームAサイトへ入り、ペプチジルtRNA

にランダムに結合していく3。びっくりするの

は、このCATテイルはmRNAの鋳型に依存しな

い新生鎖ということである。つまり、CATテイ

ルは従来の翻訳の仕組みとは異なる全く新しい

タイプの新生鎖である。AlaとThrだけのペプ

チド鎖ということで最近聞くようになったLow

complexity(LC: 低複雑性)ペプチドという位置

付けでもある4。さらには、このCATテイル自身

が凝集を形成して、細胞内タンパク質恒常性ス

トレスになりうる、という話しである5。

 「新生鎖の生物学」の世界はますます拡がり

を見せている。今後もびっくりするような研究

が続出すること必至である。

「新生鎖の生物学」領域代表田口 英樹東京工業大学

科学技術創成研究院 教授

1. これらのミーティングに限らず、海外のミーティングに参加した前後には各地でタンパク質にまつわるおもちゃやパズルを入手するのが楽しみとなっている。写真は、今年4月の CSHLのあとのニューヨークで入手したおもちゃ類。残念ながら「新生鎖」そのものを連想させるおもちゃやパズルは見つからなかった。

2. RQC研究の隆盛のきっかけを開拓したのは、本領域計画班員の稲田利文博士(東北大)である。3. Shen, P. S. et al. Science 20154. 天然変性タンパク質の次は LC配列が来る?5. Choe Y.-J. et al Nature 2016, Yonashiro, R. et al. eLIFE 2016

今年 4月の海外出張で仕入れたタンパク質を連想させるおもちゃ・小物の数々。右上の一つだけは DNAの 2重らせん。

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S c h e d u l e / I n f o r m a t i o n :

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「新生鎖の生物学」第3回若手ワークショップを開催しました。

平成27年度 第2回班会議

Protein Secretion in Bacteria Conference (Zinc Conferences)

RNA2016 satellite-symposium

2016年5月23日(月)~25日(水)

2015年11月13日(金)~15日(日)

2016年11月9日(水)~12日(土)

2016年6月27日(月)

演 者:Roland Beckmann (Univ. of Munich)

Toshifumi Inada (Tohoku Univ.)

Akio Yamashita (Yokohama City Univ.)

Osamu Takeuchi (Kyoto Univ.)

Makoto Kitabatake (Kyoto Univ.)

Rachel Green (Johns Hopkins Univ.)

Tsutomu Suzuki (The Univ. of Tokyo)

Shinobu Chiba (Kyoto Sangyo Univ.)

Hiroyuki Mori (Kyoto Univ.)

Hideki Taguchi (Tokyo Tech.)

Joseph Puglisi (Stanford Univ.)

Motomasa Tanaka (RIKEN BSI)

Hirohide Saito(Kyoto Univ.)

Sotaro Uemura(The Univ. of Tokyo)

会 場:京都大学芝蘭会館稲盛ホール世話人:田口英樹(東京工業大学)、稲田利文(東北大学)

S c h e d u l e :

I n f o r m a t i o n :

関連ミーティング・シンポジウム情報

活動報告

開催場所:淡路夢舞台国際会議場(兵庫・淡路市)参 加 者:45名(学生27名)

開催場所:天童温泉 ほほえみの湯 滝の湯

「新生鎖の生物学」国際シンポジウム :Nascent Chain Biology 2016

2016年9月1日(木)~3日(土)

開催場所:河口湖 富士レークホテル世話人:田口英樹(東京工業大学)、田中元雅 (理化学研究所)、稲葉謙次(東北大学)

開催場所:Florida, USA

第54回生物物理学会年会2016年11月25日(金)~27日(日)

開催場所: つくば国際会議場

第39回日本分子生物学会年会2016年11月30日(水)~12月2日(金)

開催場所: パシフィコ横浜

第89回日本生化学会大会2016年9月25日(日)~27日(火)

開催場所:仙台国際センター /東北大学川内北キャンパス

EMBO|EMBL Symposium : The Complex Life of mRNA

2016年10月5日(水)~8日(土)

開催場所: EMBL Heidelberg, Germany

EMBO Conference: Structure and function of the endoplasmic reticulum

2016年10月23日(日)~27日(木)

開催場所: Girona, Spain

CSHL meeting: Translational Control2016年9月6日(火)~10日(土)

開催場所: New York, USA

第4回リボソームミーティング2016年9月17日(土)~18日(日)

開催場所: 大阪医科大学

BMB2015シンポジウム「新生鎖が奏でる細胞機能制御」 (第38回日本分子生物学会年会、

第88回日本生化学会大会 合同大会)

2015年12月1日(火)~4日(金)

会 場:神戸ポートアイランド世話人:田口英樹(東京工業大学)、田中元雅(理化学研究所)、

稲葉謙次(東北大学)演 者:Judith Frydman (Stanford University)

Roland Beckmann (University of Munich)

田口英樹(東工大)

船津 高志(東大)森  博幸(京都大)稲田 利文(東北大)

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R e v i e w :

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X線結晶構造解析法、NMR法、低温電子顕微鏡による単粒子解析法

立体構造解析法レビュー

1.X線結晶構造解析法とNMR法

 X線結晶構造解析法の解析対象には基本的に分子量の制限はない。低分子から生体高分子まで、良質な結晶を得て回折強度データを取得し、逆フーリエ変換に必要な初期位相の問題を解決することができれば、電子密度という比較的解釈が容易な形で立体構造情報を得ることができる。また、解析対象に十分に似通った立体構造がすでに明らかにされている場合には、分子置換法により初期位相が求められるため、良質な結晶さえ得られればかなり迅速に立体構造を解析することができる。さらに、近年の解析プログラムの発達に伴い、以前のプログラムでは解析が難しかった分解能(3.5

-4.0Åくらい)のデータからも、かなり正確に立体構造を得ることが可能になってきた。しかしながら結晶構造解析なので、結晶が得られない限りは何もできない。こればかりは、なかなか論理的な方法がないのが現状である。対象のタ

ンパク質・核酸の精製条件や結晶化の条件など様々な条件を効率よく探索し、理想的な結晶化条件をなんとか探し当てるのみである。狙って生体高分子の結晶が得られるようになれば、ノーベル賞ものであろう。したがって、試料調製も含めて、立体構造解析に適した良質な結晶を得るところまでが研究を進める上でのボトルネックになる場合がほとんどである。通常、結晶化にはmgオーダーの量で均一な試料が必要になるため、結晶化条件の探索を行う以前の試料調製の段階が難しい場合が多いだろう。さらに、結合の弱い複合体のX線結晶構造解析は難しくなる場合が多い。複合体を再構成して結晶化を試み、結晶が出たので喜んで解析してみると、単体だったなんてことはよく聞く話である。と、いろいろと述べてはみたものの、近年のX線自由電子レーザーや放射光施設で得られるX線の質の向上は目覚ましく、検出器の高性能化も著しい。ハードとソフトの両輪の技術革新によって、解析可能な試料の範囲は今でも少しずつ拡大している

国立研究開発法人理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター構造・合成生物学部門

横山 武司 伊藤 拓宏

はじめに

 1950年台後半にKendrewらがX線結晶構造解析法により球状タンパク質の立体構造として初めてミオグロビンの3次元構造を決定し、その後1980年台前半になってから、WüthrichらがNMR法によりbasic pancreatic

trypsin inhibitor(BPTI)の立体構造を決定した。X線結晶構造解析法とNMR法はタンパク質や核酸などの生体高分子の立体構造を原子分解能で解析する上での2大手法として確立され、様々な研究が進められてきた。しかしながら、NMR法には分子量の壁があり、NMR法によってリボソームのような巨大分子の立体構造解析を行うことは事実上不可能である。分子量の大きい生体分子の立体構造を原子分解能で解析するためには、何とかして良質な結晶を作成し、X線結晶構造解析により構造を決定するしか手段がなかった。ところが、近年になって低温電子顕微鏡(cryo-EM)を用いた単粒子解析法におけるいくつかの技術革新により、巨大分子の立体構造解析法の世界がガラリと変わった。本レビューでは、X線結晶構造解析法とNMR法の特徴をおさらいしつつ、cryo-EMによる単粒子解析法の最前線を紹介したい。

「新生鎖の生物学」に関連した研究に大きな影響を与えている最新の技術革新をフィーチャーする。今回は、構造生物学の専門家である理化学研究所の伊藤拓宏先生、横山武司先生に、低温電子顕微鏡での技術的イノベーションを含む、構造生物学分野での近年の技術革新について、専門外の方々にも分かりやすく解説していただいた。

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といえよう。したがって、今後もしばらくはX線結晶構造解析が立体構造解析の王様的な存在であり続けるに違いない。  一方、NMR法は解析可能な分子量の範囲であれば、立体構造情報のみならず、相互作用解析や内部の運動性の解析などを行うことが出来る。NMR法では主にNOE効果から得られる水素原子同士の距離情報やJ-カップリングや化学シフトインデックスから得られる二面角情報などのローカルな情報の積み重ねとして立体構造を得るため、全体ではなく一部分の立体構造解析も場合によっては可能である。特に、「試料の対象領域は一定の立体構造をとらない」という結論を出すことが可能な特徴ある手法であることは強調しておきたい。したがって、核酸(特にRNA)や糖鎖、天然変性タンパク質など「やわらかい」試料の解析には、NMR法は強力な手法となる。また、試料の量と濃度が必要にはなるが、解離定数がmMオーダーの非常に弱い相互作用でも、スペクトルの変化という形で相互作用を追跡することができるのは特筆すべき点である。ただし、測定感度の問題から、立体構造解析には0.1 – 1.0 mM程度の濃い試料が必要になることは、NMR

法による解析を難しくする一因である。また、分子量が大きくなると(溶液NMR法では、頑張っても4万くらいか?)分子の運動性の低下を原因とする線幅のブロード化やシグナルの重なりなどの問題により、解析が極端に難しくなる。まず、分子量が1万を超えると、シグナルの分離および確実な帰属を目的として、炭素と窒素の安定同位体(C13とN15)を試料に導入することが必須となる。さらに分子量が大きくなると一部の軽水素(H1)の代わりに重水素(H2)を導入して、線幅のブロード化を抑えたりシグナルの重なりを抑えたりすることが必要となる。また、2000年ごろから双極子 -双極子相互作用と化学シフトの異方性という2つの緩和機構が緩衝することを利用して線幅の先鋭化を図る測定法(TROSY法など)が多く開発され、NMR法が適用可能な分子量は大きく広がった。ハード面では、検出器部分から増幅器部分を冷却することにより感度の向上が図られるようになり、磁石の高磁場化も少しずつ進み、最近になってついに1 GHzを突破した。以前は生体分子にはあまり用いられていなかった固体NMR

を適用することにより、膜タンパク質なども解析の対象となってきた。このような技術によって分子量の壁をある程度克服することが可能ではあるものの、分子量がある閾値を超えるとNMR法のみでは原子分解能の立体構造解析が著しく困難になることは変わらない。X線結晶構造解析法で立体構造を決定し、NMR法で相互作用や運動性を解析するといった論文が数多く見られるが、これは2つの手法の特徴を生かしたとても合理的なアプローチであると思う。

2.低温電子顕微鏡による単粒子解析

 電子顕微鏡による生体試料の観察は、酢酸ウランなどの重原子によって染色し、粒子の表面の形を観察する事で行われてきた。これは、生体試料に直接電子線を照射すると、電子

線照射によって試料が損傷してしまい観察が難しくなる為である。1980年代初頭に開発された、cryo-EMは、解析対象となる生体試料を非結晶の水の薄膜に包埋し、低温下で電子線照射による試料損傷を抑える事で、分子を直接観察する事を可能にした。この手法では、分子の内部構造情報が取得できる為、氷に様々な角度で包埋された生体分子の像を大量に取得し、画像処理によって像の平均化や方向決めを行う単粒子解析によって、対象となる生体分子の三次元構造を再構成する事が可能となった。低温電子顕微鏡による単粒子解析は、1990年代からリボソームなどの巨大分子をターゲットとして精力的に行われてきたが、X線結晶構造解析のようなレベルの高分解能での構造解析は難しかった。このような状況の中で、近年の2つの技術的革命によってcryo-EM単粒子解析による到達分解能の飛躍的な向上がもたらされた。この技術革新とは1)今までより高い像質で観察する事の出来る直接電子検出器(Direct Electron Detector)の開発と2)直接電子検出器から得られるデータを活用する為の、画像処理技術の進歩である。これまで透過型電子顕微鏡による像の検出は、写真フィルムや、CCDカメラが用いられて来た。直接電子検出器は、これら2種類の検出器に比べて、感度が向上している為、より高い像質でのデータ取得が可能になった。さらに、直接電子検出器は、画像の読み出し速度が速い為、電子顕微鏡での撮影の際、一回の露光で複数枚のフレームに分割して像を取り出す事が可能となった。以前より、クライオ電子顕微鏡では、電子線照射によって試料が動く事で、撮影された粒子像がぼやけている事が示唆されていた。電子線直接検出カメラによって、フレーム中に記録された粒子の位置を解析すると確かに電子線の照射により粒子の位置が変化している事がわかり、画像処理によって補正して像を重ね合せる事で、より高分解能の情報を取得できるようになった。これら検出器と画像処理技術の進歩によって、近年報告されている高分解能での構造解析が可能になった。画像処理技術においては、この他に、粒子を構造の似た者同士にふり分ける、画像振り分け処理(Classi�cation)技術の進展が見られる。単粒子解析で扱おうとする生体試料は、複合体の構成要素の組み合わせや、立体構造の多型などによって、不均一である事が多い。単粒子解析では、多くの粒子像を平均化する事でノイズを減衰させるので、構造的に不均一な試料を処理してしまうと、幾つかの構造が平均化された不正確な構造を得る事になる。画像処理によってこの問題点を解決しようとするのが、画像振り分け処理である。これまでに、リボソームの構造多型を解析する手法として、Supervised classi�cationと呼ばれる手法が開発され利用されてきた。しかしこの手法では、恣意的に複数のリファレンス構造を指定しなければならないので、試料中にどのような構造の粒子が含まれているか事前に知っている必要がある。近年さかんに利用されているプログラムRelionでは、Maximum likelihood classi�cation

と呼ばれる手法を採用している。この手法では、全粒子の中に存在する可能性のある構造多型の数を指定することで、構造の違いを推定して振り分けを行う。粒子をふり分ける際に

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R e v i e w :

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リファレンス構造を指定しないことで、バイアスなく構造多型を明らかにすることが可能になった。以上のように、電子直接検出器の開発と、画像処理技術の革新により、低温電子顕微鏡による単粒子解析は飛躍的に発展した。

3.低温電子顕微鏡による単粒子解析の実際

 続いて、実際に我々のグループでどのように測定と解析を行っているのか紹介したいと思う。リボソームの試料の場合、約30nM-100nM程度の濃度の試料をまずは負染色を用いて観察する。ここでは、試料に夾雑物等が含まれていないかと、グリッド上のカーボン膜にどの程度吸着するかを確認し、リボソームが均等にばらける条件を探す。負染色で検討した条件を基に、cryo-EM用のグリッドを作成する。作成にはFEI社製のグリッドを自動で急速凍結する装置Vitrobot

を用いて行う。Vitrobot内にセットされたグリッド上に、先ほどのリボソーム試料をのせ、ろ紙で余分な水分を吸い取り (Blotting)、すぐに液体エタン内へPlungingする事で、リボソームを非結晶の氷の膜に包埋する。この際の、ブロッティングの強さや、時間によって試料を包埋している氷の厚さが決まる。作成されたcryo-EMグリッドを、液体窒素温度に保ったまま、透過型子顕微鏡FEI Tecnai Arcticaへ挿入する。Tecnai Arcticaは、液体窒素温度で試料グリッドを同時

に12枚保持出来るAutoloaderを装備している為、複数の試料あるいは試料作製条件を検討することが可能である。実際には、グリッド上の氷の厚みや試料の密度が均一ではないために、同一条件のグリッドを複数用い、データ取得に適した場所を探すことが必要である。Tecnai Arcticaは液体窒素の自動補充機構が有り、電子顕微鏡内のグリッドを低温に維持し続けることが可能なため、自動画像取得ソフトを利用することによってデータ取得を終夜連続で行うことが可能になっている。十分な量のデータを取得した後、それぞれの動画データについて、フレーム間での粒子の動きの補正(Motion correction)を行い、重ね合わせたものを電子顕微鏡像(Micrograph)として得る。その後、電子顕微鏡像から粒子像を選別(Particle picking)し、2次元での画像振り分けを行い(2D classi�cation)、目的の複合体ではない粒子を取り除く。リボソームでは、多くの場合、構造が大きく異なる粒子は二次元の処理で判別が可能である。その一方で、三次元の立体構造としてある程度の分解能に収束した後でなければ、分類が難しいような細かな構造多型が一つの試料に存在することが多い。そこで、まず三次元再構成を行い、いろいろな構造が平均化されたConsensus mapを得る。この構造に対する細かな違いを3次元での画像振り分け (3D

classi�cation)を行うことで明らかにし、精密化を行う事で目的の構造が得られる。

低温電子顕微鏡を用いた単粒子解析の流れ

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終わりに

 以上、X線結晶構造解析法とNMR法、低温電子顕微鏡による単粒子解析法という3つの手法を大まかに紹介した。個々の手法の詳細は専門の文献に譲るが、これからの構造生物学(より広く生命科学と言っても良いかもしれない)においては、3つの手法のうちどれかを使うというよりは、これら3つに加えてX線小角散乱法や質量分析法、一分子観察、計算科学など、使える手法は総動員して、生体物質の機能発現のための動的な側面を考え入れて結論を導き出す、といった場面が増えていくであろう。世界的に見ても、それは必然の流れであると感じている。本レビューが、読者の研究の一助となれば幸いである。

伊藤 拓宏(いとう たくひろ)

E mail : [email protected]略歴: 2001年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 博士課程修了(横山茂之研究室)・博

士(理学)。ハーバード医学校 博士研究員(Gerhard Wagner研究室)、東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 助教(横山研究室)などを経て、2013年4月より理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター 構造・合成生物学部門 翻訳因子構造解析研究ユニット ユニットリーダー。

研究テーマ: 翻訳に関わる分子群の構造生物学抱負: 研究はうまくいかないのが基本。何をやってもどうせ難しいのだから、とびっきり面白

いことを目指そう!

横山 武司(よこやま たけし)

E mail : [email protected]略歴: 2008年東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 博士課程修了(鈴木勉研究室)・

博士(工学)。2008年から2012年まで、米国ニューヨーク州保健部門 Wadsworth センター

Translational Medicine グループ(Rajendra Agrawal、ペンシルベニア大学、梶昭教授共同プロジェクト)。2012年から2013年、産業技術総合研究所バイオメディシナル研究センター(光岡薫グループ )、2013年より、現職、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター 構造・合成生物学部門 タンパク質機能・構造研究チーム(白水美香子チームリーダー) 研究員。

研究テーマ: 低温電子顕微鏡を用いた単粒子解析による、リボソーム複合体の構造解析抱負: いつか細胞のなかに飛び込んで、動くリボソームを眺めてみたい!

■著者紹介

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A c t i v i t i e s : 0 1

第2回班会議報告Ⅰ

  2015年11月13日(金)12時東京発の山形新幹線つばさ137

号の車内で、東京駅で買ったサンドイッチハウス「メルヘン」の三元豚カツサンドを頬張りながら、研究室から唯一参加した学部生の濱野君と今後の実験の進め方や班会議で聞きたい情報について話し合いました。これまで私たちはタンパク質の進化工学の分野で、莫大なタンパク質・ペプチドとそのmRNAが連結した分子ライブラリーを作成する技術を開発し、標的分子に強固に結合する抗体やペプチドの創出や天然のタンパク質相互作用解析に応用してきましたが、本公募研究では、翻訳アレスト配列の試験管内選択への応用を目指しています。そこで今回の班会議では、(1)これまでに私たちがスクリーニングした新規の翻訳アレスト配列の候補を検証するための解析方法を学ぶこと、および、(2)今後、確立したスクリーニング系を用いてどのようなライブラリーからどのような翻訳アレスト配列を探索するのが面白いか、そのヒントを得ることを目的としました。

 新幹線は15時少し前に天童駅に到着し、今回の班会議の会場でもある旅館「滝の湯」に送迎バスで向かいました。将棋の駒の約9割はここ天童市で作られているということを今回初めて知りました。最初は材料となる良質の材木が多く採れるのかなと想像しましたが、そういうわけではなく江戸時代の藩を挙げての奨励策により駒を作る技術が発展し、日本各地の駒の生産地との競争に勝ち残った結果ということのようです。旅館に向かう道すがらにも、旅館のロビーにも、将棋の駒を模した看板や飾りがあちこちに見られ、今でも市を挙げての将棋振興が盛んであることの一端を窺い知ることができました。この日も班会議の講演会場の隣の部屋では、JR東日本の将棋大会が開催され、同時に何十組もの対局が静かに進行中でした。

 受付を済ませてすぐ、16時少し前に、田口先生の「計画班と公募班の全員が一同に会するのは初めて」という領域代表挨拶を皮切りに、最初のセッション1が始まりました。発表内容は非公開ということでしたので詳しく書くことはできませんが、北大・内藤先生のSAMをエフェクターとする翻訳アレスト配列 MTO1に関する研究や、東大・船津先生の光ピンセットを用いた翻訳アレスト機構の解析に関するエレガントな研究のお話は、初心者の私にとって翻訳アレストを証明する解析手法について大変勉強になりました。東大医科研・川口先生が最初のスライドで紹介された単純ヘルペスウイルス感染患者さんの症例写真はいつもながら強烈なインパクトがあります。富山大・伊野部先生のプロテアソームによる分解にunstructured領域が重要という発表も大変興味深かったです。一連の発表を通して聞いていて、私たちの

進化工学の技術を利用して、所望の分子がunstructured領域に結合し induced foldingするタンパク質をデザインし、翻訳アレスト配列の上流のリボソームトンネルの出口付近に配置することで、所望のエフェクター分子により翻訳アレストを解除し、下流のレポーター遺伝子を発現させるスイッチを試験管内選択できるのではないか、などと考えていました。

 コーヒーブレイクをはさんだセッション2は、特に、この新学術領域の分野の多様性を感じさせるセッションでした。ビブリオ菌タンパク質VemP(便秘?) の翻訳アレストモチーフ、16S rRNAの試験管内進化、葉緑体タンパク質の膜透過装置、および、ER膜タンパク質複合体によるロドプシンの合成・輸送など、多岐にわたる内容で、実験系も無細胞系から微生物、植物、ショウジョウバエと様々で、フォローするのが大変でした。それぞれ豊富なデータについて議論が白熱し、夕食が始まったのは予定時間を超えて19時半頃でした。いかにも温泉旅館という広いお座敷に人数分のお膳がずらっと並んだ様子は壮観でした。山形の海の幸・山の幸に舌鼓を打ち、その後、天童温泉の広い浴場でゆっくり手足を伸ばしました。

 21時からのポスターセッションでは、学生さんと若手研究者のポスター33件について熱心な討論が行われました。どの学生さんもしっかりとした受け答えでレベルが高い発表ばかりで、ポスター賞の投票先を決めるのに苦労しました。日頃の研鑽の賜物なのでしょう。個人的には、翻訳アレストの解析方法について、 実際に実験を行なっている学生さんから実験の細かい注意点を聞けたことが収穫でした。ポスターセッションは23時過ぎまで続き、その後、夕食と同じお座敷

に場所を移し、グループによっては27時頃まで総合討論が続きました。惜しむらくは、初日の総合討論ではまだ打ち解けなかったためか、学生さんだけのグループ、若手研究者のグループ、シニア研究者のグループに分かれてしまいがちだったことですが、2日目にはそれも解消されたようです。

 以上簡単ですが、第2回班会議第1日目のご報告とさせていただきます。最後に、今回の世話人をされた稲田先生、齋藤先生をはじめ稲田研究室の学生の皆様には大変おせわになりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

土居 信英 (慶應義塾大学)

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第2回班会議報告Ⅱ

土居 信英(どい のぶひで)

E mail : [email protected]略歴: 1997年北海道大学大学院地球環境科学研究科博士課程修了、博士(地球環境科学)。三菱

化学生命科学研究所(通称L研)特別研究員を経て、2000年4月より慶應義塾大学理工学部・助手。同専任講師を経て、2008年より同准教授。

研究テーマ: タンパク質の進化工学のための新しい技術の開発と医療分野・環境エネルギー分野への応用

抱負: 翻訳アレスト配列を大規模に探索できる試験管内選択技術を確立し、新生鎖の関わるさまざまな生命現象の解明に微力ながら貢献できるよう頑張ります。

 2015年第2回の班会議は稲田研のお世話により、山形県天童市で行われました。私は京都からの参加でしたが、大阪伊丹から直通便があり、空港からはバスで約15分と、思いのほかアクセスのよいところでした。自宅を8時前に出て正午過ぎには会場に着いていたと思います。ただし便数は少なく、関西圏のみなさん、宮崎の西頭先生などと乗り合わせでした。会場到着後、同じ便で来た何人かで外へ出て近くのそば屋で昼食をとりました。私は迷ったすえ、特に名物のようなものもたのまず(だいたいそうなります。臆病で保守的です)、ただの鳥なんばそばにしました。黒っぽい太いそばに、とりのあぶらでにごった熱い汁がかけてあって、いかにも田舎風(悪口ではありません)です。店のおばちゃんたちも明るい山形弁でわいわいはたらいていて、田舎へ来たなあ(悪口を言っているのではありません、念のため)と、旅情がかきたてられます。

 さて、田口先生から、2日目午前のセッションから午後のセッションの中ほどまでをレポートしてくださいと依頼を受けました。ただし未発表データの詳細にはあまり触れないようにと注文もあり、なかなか難しいのですが、やってみます。まず2日目午前は内藤先生の司会で田口先生から。グローバル解析の話とアレスト配列の話でした。2つは独立した話でしたが、タンパク質の諸性質(可溶性、長さ、局在、etc)と、翻訳過程の諸性質(シャペロン依存性、膜依存性、アレスト配列の有無、etc)との相関を探るという意味では共通する部分があり、翻訳過程と最終産物の(最適化された)関係について、グローバルマップを描こうとしているような方向性を感じました。いまはまだ2つの諸性質に相関があることが分かり始めた段階だと思いますが(すいません)、どんどん細密化されていくと思います。次は今高先生で、真核生物の翻訳再構成系の話です。未発表な部分が多いと思うので詳細には触れませんが、どこまでを以て翻訳再構成と言うのか、という哲学的問題をはらんでいます。翻訳開始、伸長、構造

形成など、どこまでも丁寧に再構成したいという意志を感じました。次が富田(竹内)先生。MSを使った仕事でした。非常に面白かったのですが、見つかった因子の具体名等については後日の報告としたいということだったのでここでも詳細には触れません。とにかく意外で面白いと思いました(レポートになっていませんね)。次が稲田先生で、これは話題が4つか5つくらいありましたよね。マシンガントークでした。NSD、NGD、RQCを構成する新因子の話、小胞体関連の話(これくらいはいいですか?)、非典型的な翻訳開始の話がありました。特に小胞体のところは現象自体が新しく、メカニズム、生物学的意義についてどんどん面白くなりそうです。次が翌手可さん(長尾先生です)。ペプチジル tRNA脱落(ドロップオフ)の話でした。ドロップオフがある程度の頻度で起こる、しかも翻訳初期にのみ起こるというのが不思議です。生理的意味は何でしょうか。真核生物でも起こる現象なのでしょうか。次は岩川先生。siRISCが標的mRNAを切った後の翻訳複合体の運命についての話でした。今回は切断によるリボソーム停止が主でしたが、RISCによる翻訳抑制でもリボソーム停止は引き起こされるということなので、その後の運命の違いがどのように生まれるのか知りたいと思いました。

 ここで小休憩になりました。あわせて改行することにします。休憩後はまず田中元雅先生から。tRNAの修飾に着目した新しいプロファイリングの話でした。系の立ち上げはすでに終わっており、この方法を使って特定の条件下での tRNA

プロファイルの違いを検出されていました。シャペロンによるフォールディングもそうですが、セントラルドグマの諸過程は単純ではなく、色々細工がありますね。この新しい技術で今まで見えなかったものが見えてくると思います。次が稲葉先生。私のメモには3つの話題が書きとめてありますが、どれも面白い話でした。特に2つ目の原子間力顕微鏡を使って酸化還元酵素の動きを見る仕事と、3つ目の金属イオンによる酸化還元酵素調節の仕事は大好きです(小胞体の話題は

森戸 大介 (京都産業大学)

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 第2回の領域班会議は山形の天童市で行われました。山形に行く機会はこれまでほとんどありませんでしたが、今年の9月に開催された若手ワークショップそしてこの班会議と2ヶ月で2度も訪れたことになります。会場は将棋の最高峰の

棋戦である「竜王戦」が行われる滝の湯ホテル。会議期間中にも隣の会場で王手鉄道企業の将棋大会が行われていました。そんな真剣勝負が行われる会場で開かれた班会議は未発表でエキサイティングなデータを基に活発な議論が展開さ

森戸 大介(もりと だいすけ)

E mail : [email protected] 略歴: 京都大学卒業、京都大学大学院修了、京都産業

大学主任研究員。研究テーマ:ミステリンの翻訳過程解析(と生理・病態機能

解析)一言: 一昨年、稲田先生のセミナーを聞いて、はじめ

てミステリンのポリK配列に着目しました。

すこしひいきしているかも知れません)。その次が門倉先生。翻訳中のSS結合形成を電気泳動でとらえるという離れ業を紹介されました。もはやSS結合の魔術師と呼んでも異論は出ないでしょう(小胞体はひいきします)。ここで午前の長いセッションがようやく終わり、昼食休憩となりました。

 さて、あと少しです。午後は阪口先生の司会でまず河野先生から。XBP1前駆体mRNAのターゲティングの話で、新たな因子の関与、アレスト検出系の開発について話されました。この因子については、由良先生(意外です)ほか、何人かの先生方が仕事を進めておられます。近々リバイバルブームが来る兆しかも知れません。その次は藤木先生。ペルオキシソーム膜へのテイルアンカータンパク質輸送の話で、PexとBag6の関係、膜型Pexの役割とドメイン解析などを紹介されました。ドライビングフォースの話はなかったと思うのですが、AAA型Pexがやっているのでしょうか。次がアレスト現象の保守本流、千葉先生。MifMの多段階アレストの話と、リボソーム―アレスト配列相互作用の構造解析の話でした。それにしても、リボソーム内部の新生鎖の構造まで分かってしまうとは、おそろしい時代になりましたね……。ここで小休憩が入って、私のレポート担当部分は終わりです。ラフなメモを元にした紹介なので、誤りが必ずあると思います。あらかじめお詫びします。

 2日目はこのあと夕食を挟んで夜までセッション、ポスター討論が続き、最終日午前にも2つのセッションがあってから解散となりました。質疑がフランクに飛び交った満足感のある会だったと思います。ホストの稲田研のみなさん、どうもありがとうございました。帰路について少しだけ触れたいのですが、山形―伊丹路線は日に2便しかないらしく、この日は午後6時の便しか選択肢がありませんでした。天童には山寺という名所があり、永田先生が昔入口まで行って雪で引き返してきた恨みがあるそうで、6時までの長い待ち時間にリベンジしようということになりました。会議の間に参加希望者が増え、伊藤先生、藤木先生、河野先生、千葉先生を加えて総勢6人で山上りしてきました。山上りの前にまず昼

食をとりましたが、これは初日と同じくそばでした。この日は、しょうゆだしに鳥や野菜を入れて熱々に煮込んだところへ、そばをつけて食べるというもので、会議に集中して忘れていた旅情がにわかによみがえります。山寺はただしくは立石寺といって、空海、最澄と同時期の慈覚大師円仁の開基によるそうです(Wikipedia参照中……)。ふもとに根本中堂、山頂に奥の院があり、山道を小一時間ほど上ります。この間、ところどころに古い石灯篭、石碑、石窟などがあり退屈しません(むしろこういうところでみなさん律儀にアレストして進まないので、途中からはアレスト禁止になりました)。芭蕉が「閑さや巌にしみ入る蝉の声」と詠んだのもこの場所だということです。京都にも東寺、醍醐寺など、平安時代開創の寺は多いですが、この山寺は特に素朴で枯れた味わいで、忘れられない思い出になりました。このほか、旅行中の中西重忠先生ご夫妻に行き遇ったり、空港で地ビールを楽しんだりなどしましたが、それは省きましょう。次は9月の国際会議ですね。

第2回班会議報告Ⅲ岩川 弘宙 

(東京大学分子細胞生物学研究所)

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A c t i v i t i e s : 0 2

れました。

 本会議では2日目に計画班、1日目、2日目の午後、3日目に公募班の発表がありました。計画班、公募班ともに前回の班会議から大きな進展があり、自分の研究にも良い刺激になりました。また、これまでRNAウイルスの複製・翻訳、RNAサイレンシングとRNA一筋で研究してきた私は、小胞ストレスや、タンパク質の膜組み込み、折りたたみなど、タンパク質の基本的な知識すら欠けていましたが、本領域の多くを占めるタンパク質専門家のお話を聞かせて頂き、タンパク質社会の面白さが徐々に分かってきたように思います。

 今回の会議の目玉の一つは1日目、2日目の夜に行われたポスター発表だったかもしれません。未発表データのためここで詳細を書けないことが残念ですが、新しい概念を生み出すかもしれないと思える発表や、重要な新規複合体を同定した発表などがありました。ビールを飲みながら、上質な未発表研究を議論できるというのは班会議ならではの幸せなひとときでした。

 新学術の面白さは様々なバックグラウンドを持った研究者が一同に会し、その中で新しい考え方や、共同研究が生まれることだと思います。数年前から熾烈な競争が始まった「新生鎖」研究では、新技術を取り入れ、未解決の難問をいち早く解くことが重要になってきます。今回の発表でも真核翻訳再構成系や、リボソーマルプロファイリング、クライオ電子顕微鏡、光ピンセット、翻訳伸長速度測定法、mRNAディスプレイなどの話を聞くことが出来ましたが、これらの技術を他の研究とどのようにうまく結びつけるかがこの領域を成功させる鍵となることは間違いありません。

岩川 弘宙(いわかわ ひろおき)

E mail : [email protected]  略歴: 2010年京都大学大学院農学研究科 応用生物科

学専攻博士課程修了・博士(農学), 同年日本学術振興会特別研究員 (東京大学分子細胞生物学研究所 )を経て , 2013年より東京大学分子細胞生物学研究所 助教。

研究テーマ:小さなRNAによる遺伝子発現制御機構を分子レベルで理解する

抱負: RNAを軸として面白いと思った現象やメカニズムを発見し解明したいです。

第2回班会議最優秀ポスター賞

 東京工業大学田口英樹研究室でポスドクをしております、茶谷悠平と申します。こうした文章を書く機会は人生初なので、正直何を書けばいいのかさっぱりお手上げです。私は他の寄稿者の方のように面白い逸話も誇れる趣味も持ってい

ないので、編集長からの1, 好きに書いて良い、2. 自己アピールのチャンス、という条件を曲解して、身勝手ながらこれまでの研究半生を振り返り、自身の今後を考える場とさせていただきたく思います。正直私以外が読む意味や価値はないで

 最終日ホテル前の蕎麦屋に立ち寄りました。そこで多くの人が食べていたのは蕎麦ではなく元祖鳥中華と呼ばれるラーメンでした。鶏肉の他に、海苔、揚げ玉、ネギがのっており、スープは蕎麦の汁。これだけだと暖かい鶏南蛮になってしまいますが、麺は中華麺、そしてコショウを加えることによってちゃんとラーメンになっていました。蕎麦屋の基礎の上にちょっとした変化をくわえることで新しいハイブリッドメニューを作りだしたアイデア、そして蕎麦屋なのにラーメンを前面に出す大胆さは研究にも必要な姿勢だな、としみじみ思いながら山形を後にしました。

茶谷 悠平 (東京工業大学)

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すが、暇で酔狂な方はお付き合いいただければと思います。

研究生活のスタート 私の研究生活は、岡山大学理学部の阿保達彦先生のラボでスタートしました。当時阿保研では、バクテリアのtrans-

translationと呼ばれる異常翻訳からのリボソーム解放とタンパク質品質管理を一手に担う機構について研究していて、「タンパク質がやりたい」という点で希望が何とかマッチしたので配属希望を出しました。ただ配属当初は目も当てられないほど愚鈍な学生であったことは今でも記憶に鮮明に残っていて、毎週のように培地をコンタミさせては「茶谷くん、もっと謙虚に実験しようよ」と言われたことは生涯忘れないでしょうし、今後もこの言葉は折に思い出して謙虚でありたいものです。当時お世話してくださった小野勝彦さん(現熊本大学助教 )もよく文句も言わずに付き合ってくれたものだと思います。いずれにせよそうした自身の出自から、周りがある程度生暖かい目で見てあげることは時に学生の自立性、成長に必要なのだろう、と考えており、田口研の学生さんともそのようにお付き合いできていればなによりです。

 研究の話に戻りますと、私はB4時代に見つけた遺伝子一つで大学院時代に非常に楽しく研究をすることができたのが、今こうしていることを決定づけました。当時trans-

translationにまつわる謎の一つが、生物種毎に生存への要求性が異なる、ということでした。例えば大腸菌はtrans-

translationのメインアクターであるSsrA RNA (tmRNA)がなくても生存できるのに対して、淋菌では必須、という具合です。そこで阿保先生はSsrAの機能を肩代わりするバックアップ機構の有無が、この差異を決定しているのではと考え、SsrAとの合成致死変異株を単離してやろうという試みている最中でした。そこで私が配属して見出した因子がArfA (Alternative ribosome rescue factor A)というタンパク質でした。ArfAはでは何をしていたかというと、終止因子がmRNA上の終止コドンを認識せずとも翻訳の終結を行えるようにして、終止コドンを持たない異常mRNAからリボソームを解放している、という予想通りの機能を持っていました。更に面白いのは、このArfA自身が終止コドンを持たないmRNAとして発現し、SsrAによる発現制御を受けることでSsrAの機能をモニターしていた、という遺伝子の定義からするとトンデモナイはみ出し者だったことでしょうか。私自身の研究は大腸菌で完結してしまいましたが、その後の海外の研究者の報告からすると、最初の阿保先生の仮説はズバリ大当たりだったようです。ただ今振り返ると、この頃は本当に自身の好奇心の命じるままに実験していたせいか、私自身は楽しかったのですが、一時期阿保先生とは折り合い悪くなったり周りにも心配をかけたようで、結構迷惑なやつだったんだなと認識させられます。そんな時期の中で最も印象に残っているのは、実験手法を教わりに愛媛大学の高井和幸先生のラボに武者修行しにいった時のことでしょうか。実験機器の都合上、自大学では困難な実験だったので、「これを

逃すと二度とチャンスは訪れないかも」とのプレッシャーから、何がなんでも活性のあるサンプルを調整する、との意気込みで訪問し、三日三晩大腸菌の培養と破砕をやり続けました。今振り返ってみると、遅くまで随伴してくださった高井研の学生の皆さんの労苦や如何に、と迷惑千万でした。しかし今思うのは、私個人はあの工程をやりきったことで何かよくわからない自信がつき、やりきった先の達成感の味を覚えたことで実験の馬力は格段に挙がる良い契機であったな、ということでしょうか。しかし結局その時調整したサンプルは全て活性なしでどうしよう、となったときに、学内のリサイクル品でサンプル調製に必要な実験機器が、関係なさそうなラボから出てきたのは笑ってしまいましたが。

ポスドク時代 -1 京都産業大学 伊藤維昭研究室 大学院時代に参加した2009年の日本分子生物学会年会では面白い試みがなされていて、ディスカッサーというシニアの先生がポスターを見て回って議論をふっかけて来る、というものが有りました。その時私のポスターに回ってきたのが伊藤維昭先生で、当時先生が行っておられた解析方法と私のテーマがマッチしそうだ、ということで共同研究が始まったのがポスドク先を決めるきっかけになりました。当時解析していたArfAはその新生鎖 -リボソーム複合体自体がSsrAの活性をモニターするよう機能していたことから、SecMのようなアレストペプチドに対して強い関心が生まれていて、ポスドクでやるならそうした新生鎖による細胞内機能制御がいいと考えていました。これは渡りに船だということで研究室に入れてくれと連絡して入れたところまでは良かったのですが、そこからかなり迷い多き道をたどって周りに大迷惑をかけることになりました。大学院時代はある意味ずっと地続きの研究をしていたので、前の結果から次の戦略を考える、ということに関してはある程度訓練を積むことができたのですが、いざ新たにラボを移って何しようか、となった時にゼロから考えるということに躓いてしまいました。あれやこれやと手は動かしても方向が定まらないので、まとまりのある話になりません。これではいかんということで、半年くらいたってから初心に帰るべしということで、大腸菌遺伝子の翻訳途上鎖網羅解析をやって、新規のアレストペプチドを探すことにしました。ところがやってみると意外と翻訳の停止を示すpeptidyl-tRNAが色々な遺伝子でポンポン検出されるものだから、ディスカッションの時も本当なの?という具合でした。取り合えず100遺伝子はやってみよう、と解析しても傾向が変わらないので、じゃあもっとやってみるかと勢いに任せて1000遺伝子程解析してみてもやはり傾向は変わらず、という具合でなんだこれはと頭を抱えました。そのまま全遺伝子やり切るまで突っ走ってみたいところでしたが、やっているとそれだけで伊藤研時代が終わってしまう、実験に使う試薬代も馬鹿にならない、傾向変わらないのならやる意味はあるの?となり、ではこのデータで言えることでも探そうか、ということで統計解析しよう、となって話を聞いたのが現在所属の研究室を主催しておられる田口先生と丹羽達也さんでした。

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茶谷 悠平(ちゃだに ゆうへい) 略歴: 2012年岡山大学大学院自然科学研究科博士後

期課程修了 博士 (理学 )。同年より京都産業大学伊藤維昭研究室でポスドクを経て、2014年より東京工業大学田口英樹研究室でポスドク。

研究テーマ:新生鎖依存的な翻訳動態制御の普遍性とその生理学定義の追求

 先日の「新生鎖の生物学」第二回班会議におきましては優秀ポスター賞を頂き、河野憲二先生をはじめ、ラボメンバー、そしてポスター発表の際にディスカッションをして下さったみなさまに深く感謝申し上げます。研究により一層熱意を持って取り組まなければならないと感じております。

 この度はポスター賞の特典としましてニュースレターへの寄稿依頼を京都産業大学の千葉志信先生から頂きましたので、拙い文章ではありますが自己紹介を含めて書かせて頂きたいと思います。

 さて、2015年も終わりに近づき、テレビ番組では今年を振り返る内容が多く放送されています。去る12月15日には「今年の漢字」が発表されました。今年は安保法案の審議が行われたり、戦後70年の節目であったり、テロ事件が相次いだり、

“安心して下さい” のフレーズが流行ったりと、国民の意識が安全や平安に向いた1年であることを象徴した「安」が選出されました。

週一回行われるグループミーティングの様子です。先輩も後輩も関係なく意見を言い合います。

ポスドク時代 -2 東京工業大学 田口英樹研究室 網羅解析についての相談のご縁もあって田口研究室に異動し、いよいよデータと向き合うことに相成りました。これまで実験一辺倒でやってきたために、PCで数字を眺めてそこから議論するというは全くの未知の領域でしたから正直何度か諦めかけましたが、餅は餅屋といったもので、そうした事に長けていた丹羽達也さんとの議論や手助けのおかげで解析を進められるようになりました。その後色々な方、特に伊藤先生に迷惑をかけつつも論文とする事ができたのは、本当にミラクルだったなあと痛感します。網羅解析自体も当初の目論見は外れましたが、やったかいはあったもので今回の原稿を書くきっかけになった新たな性質の新生鎖の発見に繋がることになりました。当該セクションに関しては現在進行形なので、また別の機会に振り返ろうかと思う次第です。

総括 こうして振り返ると行く先々で迷惑千万だなと呆れるばかりですが、三十年生きてきて一向に改善される見込みが無いので、私はそもそも何か欠けた人間なのでしょう。ただそうした人格破綻者であるおかげで、頭の回転が遅くとも実験で結果を出すことには一所懸命になれるのかなと勝手に納得しています。いずれにせよ私自身の生きがいのために、今後やることはこれまでとそう変わらないので、そこは見失うことなく自身のエゴを通していく覚悟を新たにし、この身勝手な文章を締めさせていただきたく思います。

第2回班会議最優秀ポスター賞

謝辞 私が今日こうして研究という贅沢に浸っていられるのは、大学生時代から今に至るまで非常に多くの方のご助力のおかげです、全員の名を上げるわけには行きませんがこの場を借りてお礼申し上げます。特に大学院時代に匙を投げずに付き合って下さった岡山大学阿保達彦先生、学位取得前から現在に至るまで多面に渡りご助力頂いている京都産業大学伊藤維昭先生、東京工業大学田口英樹先生には格別の謝意を申し上げさせていただきます。

大古殿 美加 (奈良先端科学技術大学院大学)

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私は , 毎年「今年の漢字」が発表されると「自分にとっての今年の漢字」を考えます。昨年と一昨年は特に一年を象徴するような出来事がなかったせいか、選出が難しく、結局うやむやになってしまったことを覚えています。

 しかし、今年は違いました。今年を振り返るとすぐに「考」という漢字が思い浮かびました。

 私は、高等専門学校 (以下、高専 ) 出身です。それも、高校1年生に当たる16歳から大学4年生に当たる22歳までの7年間 (本科5年間+専攻科2年間 )、高専に通い続けた筋金入りの高専生です。高専は技術者を育成するための教育機関ですので、どちらかというと未知のことを解明するというよりも、既知の現象や技術を活かして応用する、ということを重点的に学ぶことが多かったと思います。ですので、奈良先端大に入学し、河野研に配属されてから、基礎研究というものに深く触れ合うことは私にとって未知の経験でした。

 また、研究室の雰囲気も高専のものとは別物で、これが“研究”をする場所なのだ!と驚き、自分は上手くやっていけるのかと不安になったことを今でも鮮明に覚えています。特に自身の研究テーマである「XBP1u タンパク質の翻訳停止」の話を聞いた時には、これまで授業等で学んできた翻訳の概念を覆す現象に対し、驚きと得も言われぬ感動がありました。

 前期課程の2年間は、目の前の実験をこなすのに精一杯で、正直 , 自身の研究について自分なりに考えるということができておらず、ディスカッションもままならない状態でした。それを身を持って感じたのは、3月に行われた「新生鎖の生物学」第一回若手ワークショップの時です。若手の方々の発表や質疑応答を聞き、自分の研究への取り組み方の甘さを痛感しました。これをきっかけに、ラボメンバーや外部の方々とも堂々とディスカッションができるように、まず知識を身に付けることとその知識が自分の研究にどのように関与し

ているのかを意識して考えるようにしました。そのせいか、まだまだ未熟ではありますが、以前よりも自分の研究についてアウトプットすることやディスカッションすることができるようになったと感じています。

 また、最近、河野先生との週一回のグループミーティングが設けられたこともあり、自分以外の研究についても考える時間ができ、より一層研究生活が充実したものになっているのを感じています。

 私と一緒に高専の専攻科を卒業した友人は、今年社会人3年目となりました。先日、友人が「今、会社の悪い体制を同期や先輩達と協力

して正そうとしている」と言っていました。同じように高専で7年間を過ごしてきた友人が、自分で考え信念を持って働く姿は頼もしく格好良いと思いました。社会人と学生という差はありますが、自分は学生として又研究者として、自立しなければいけないと考えさせられました。

 2015年は、「新生鎖の生物学」の若手ワークショップや班会議等でたくさんの研究者の方々のお話を聞かせて頂いたり、技術者として働く友人の話を聞いたりして、自分の研究の意義や研究に取り組む姿勢について深く考えさせられました。

 2016年は考えるだけではなく、考えたことを活かして研究を進めていき、人として又研究者としてひと回りもふた回りも大きくなりたいと思います。

(2015年12月 執筆 )

大古殿 美加(おおふるどの みく) 

略歴: 2011年 都城工業高等専門学校物質工学科卒 .

2013年 都城工業高等専門学校専攻科物質工学専攻修了。2015年 奈良先端大バイオサイエンス研究科博士前期課程修了、奈良先端大バイオサイエンス研究科博士後期課程入学。

研究テーマ:哺乳動物細胞における XBP1u の機能性翻訳停止機構の解明

一言 : 精一杯研究に取り組みます!

高専専攻科卒業式における記念写真です。お世話になった先生や友人達とは現在でも交流があります。

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淡路ウエスティンホテル イングランド代表サイン入りユニホーム

2016年5月23-25日兵庫県淡路市淡路夢舞台 5月某日、京都産業大学の千葉さんから新学術領域「新生鎖の生物学」第3回 若手ワークショップの報告記を執筆してくれないかという旨のメールを突然頂いた。「学会レポートはこれまで書いた経験はありませんが、それでもよろしければお引き受けしたいと思います」という婉曲表現を駆使した返答を行うも、「ご快諾大変ありがとうございます。大変助かります。」という直裁なお返事。「考えておきます」と申すべきだったか。ここから形勢を転じることは難しく、これ以上ごねると私の師匠が京産大で多量の寒天プレートの処分を命ぜられる事態になりかねないと思い※、真に快諾することした。これが私、京都大学・秋山研究室所D4の宮﨑亮次が本報告記を書くに至った経緯である。尚、以下で、参加者の方々に対しての賞賛の言葉がいくらか並ぶが、「お宅のぼっちゃん、ピアノえらい上手ですなぁ」というような奥ゆかしい表現ではないことを注記させて頂く。

 3回目となる今回のワークショップは2016年5月23~25日の3日間、淡路島の淡路夢舞台にて開催された。会場は、三ノ宮からバスで数十分くらいの、明石海峡大橋を渡った先に位

置する。宿泊先でもある、淡路ウエスティンホテルは、日本を代表する建築家である安藤忠雄によって設計されたためか、不思議な外観を呈していた。館内に入ると、2002年の日韓WCでイングランド代表をもてなしたことも首肯できるくらい、豪華な内装で迎えられた。ホテルの謳い文句である「豊かな自然と共存する新しい形のリゾート」を楽しみたい気持ちが沸き上がってきたが、サイエンスをしに来たと思い直し、ホテル内のBarではなく、ホテル横に位置する国際会議場の会議室301に移動し、ワークショップに参加した。

 本ワークショップの参加者は助教・ポスドク・大学院生といった若手の総勢45名で、半数以上が学生という非常に若いメンバーで構成されていた。そのほとんど(約8割)が順に口頭発表を行う形でワークショップは進行した。後述する学生賞の審査のために , 学生の発表は2日目に集中して行われ、助教・ポスドクの発表は初日と最終日に行われた . 発表時間は、学生が発表11分・質疑4分で、ポスドク以上の人は発表15分・質疑5分と、特に質疑応答の時間が比較的長い配分であった。こういう場合、大抵の学会では質問があまり出ずに気まずい空気がしばらく流れ、座長が義務的にいくらか質問をして、時間が押していることを理由に次の発表に移る、という悲しい事態になりやすい。しかし、本会ではそんなことは起こらず、どの発表も時間が足りない程、活発な議論が行われていた。その際に、M1の学生でも沈黙することなく、自身の知識を動員して堂々と質問の受け答えをしていたことが印象的で、非常にレベルの高い会だと感じた。非公式のワークショップということなので、各発表の内容について紹介することはできないが、原核生物から高等真核生物に至るまでの様々な生物種での「新生鎖」に関する上質な研究が多くあり、心躍る会であった。また、第2回目から順調に進展している研究を聴くことで、「自分ももっと頑張ろう」と思う

集合写真

第3回 若手ワークショップ宮﨑 亮次 (京都大学)

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宮﨑 亮次(みやざき りょうじ)

E mail : [email protected]略歴: 京都大学理学研究科化学専攻生体分子動態化

学分科(ウイルス研究所がん遺伝子分野)秋山研究室、2016年6月現在博士後期課程4年。

研究テーマ:大腸菌熱ショック転写因子σ32の膜への輸送介した新奇制御機構・部位特異的 in vivo光架橋法の応用法の開発

抱負 : まずは学位を取る。

ようないい刺激を貰えた。

 今回のワークショップでは、残念ながらこれまでの会にあったような「新生鎖」研究のツールとなる実験手法の技術講習会はなかった。その代わりに学生を対象とした賞が新たに設立された。優秀な口頭発表者に与えられる「最優秀学生賞」(発表賞)、積極的に多くの質問を行った人に与えられる「優秀学生賞」(質問賞)の2つである。助教・ポスドクの方々が「各々の信念」に基づいて厳正な審査を行い、投票制によって受賞者を選出する形式だった。審査を行うためには、審査員が候補者の名前と顔を一致させる必要がある。そのため、学生が質問する際には「◯◯大学△△研究室の××です」を枕詞につけるという珍妙なルールが適用されたが、そのおかげで参加者の顔を覚えやすくなるという副次的な効果が生まれた。また、このワークショップは第1回目から、学生が積極的に多く質問することを課題としているが、今回は質問賞が設立されたおかげか少なくとも前回よりかは学生からの質問が増えており、その数は全体の半分近くに達していたように思われる。受賞者の発表は2日目の夕食の席で行われた。優秀学生賞は、ワークショップで終始多くの鋭い質問をしていた東北大学・稲田研究室M2の松木泰子さんが受賞した。そして、最優秀学生賞は、由良隆先生の最後の弟子(2016年6月現在)である京都大学・秋山研究室D4の宮﨑亮次、つまりは私、が受賞した。このような賞を頂いたことは非常に光栄であり、自身の生涯研究テーマである「大腸菌熱ショック転写因子σ32の制御機構の解明」を暖簾分けして下さった由良先生、並びに直接指導をして頂いた秋山さんをはじめとする秋山研の皆様には深く感謝している。また、私に投票してくださった方々のためにも今後とも精進したいと考えている。しかし、喜びの一方で、報告記を書くという立場としては中々やり難い。淡々と事実を並べたつもりだが、この文章が不遜あるいは嫌味な印象を与えていないことを切に願う。

 総合討論は、淡路島の海産物・陸産物をふんだんに使った夕食(何故の名物料理?サラダご飯等)に舌鼓を打った後、場所を変えて行われた。それぞれが適当にグループを作り、適当に団欒する。簡単に言うとただそれだけのことである。しかし、それが楽しい。ワークショップの口頭発表時には質問できなかったこと、研究の舞台裏の苦労話、所属する研究室での生活、各ラボのボスの意外な一面、研究と全く関わりのないプライベート、etc. そういう話を続けるうちに、時間

を忘れ、何を喋っていたかも忘れて、翌朝には酷い疲れと言い様のない充足感だけが残る。 総合討論の時間こそが、ワークショップの本番という意見もあるが、さもありなん。

 新学術領域「新生鎖の生物学」第3回若手ワークショップについての報告記は以上である。この拙文を読んで、少しでも楽しんでもらえたら幸いである。また、ワークショップに興味を持った方は、現場でしか感じられないこともあるので、是非参加することを勧めたい。最後に、本会は奈良先端大学院大学・河野研の小池さん、並びに河野研の皆様の尽力によって催され、充実した時間を送ることができた。彼らに感謝の意を表明して終わりにしたいと思う。本当にありがとうございました。

受賞写真

本文中で、「私の師匠が京産大で多量の寒天プレートの処分を命ぜられる事態に」とありましたが、実際に、学生さんと一緒に使用済み寒天プレートの後処理をされている宮崎さんのご師匠・由良先生の貴重なお写真がありましたので特別に掲載します(ちょっと古い写真ですが)。なお、私が命じたわけではなく、ご本人が「私がやります。」と強くおっしゃった上でのことであると念のためお断りしておきます(千葉志信)。

※編集人より追記

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 今回の若手ワークショップで新設された学生賞の中から、優秀学生賞を頂き、 大変身に余る思いです。思い返すと、第一回若手ワークショップでは、自分自身の発表は無く参加のみであったにもかかわらず、参加者の発表内容をフォローすることだけで精一杯で、全体の理解や質問にまでは気の回らないような状態でした。その後の第二回若手ワークショップや、第二回班会議における発表、ディスカッションの経験を通して、「新生鎖の生物学」の全体像の理解を深めることができたと感じています。今回の第三回ワークショップにおいても、大変斬新で興味深い研究ばかりで、mRNAの翻訳やフォールディング等、新生鎖を取り巻く環境が、細胞内応答や膜輸送、局所翻訳、品質管理等において、多様で厳密な制御を受けていることを改めて深く考えることができました。多くの面白い発表を聞く中で、質問や議論を積極的に行うことができたのは、本ワークショップの、学生に多く発言する機会を与えてくださる雰囲気があってこそだと感じています。更に、自由討論では、より深い議論が進み、参加者同士の交流も積極的に行われました。今回のみならず、これまでのワークショップで、同年代の学生と熱く討論を交わしたことは、日々の研究のモチベーションへと繋がっていると強く

感じています。今回は、淡路島の綺麗な環境と素晴らしい朝食も相俟って、今後の糧となる、忘れられない三日間となりました。

松木 泰子(まつき やすこ)

E mail : [email protected]略歴: 2016年6月現在、東北大学大学院・薬学研究科・

遺伝子制御薬学分野 (稲田利文研究室 ) 修士課程2年。

研究テーマ:小胞体ストレスにおけるリボソームユビキチン化の新規機能

抱負 : 次回の若手会までに論文を出す。

優秀学生賞

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Nascent-chain Biology Meeting 2015 in Tokyo

 2015年10月1日に領域発足後初めてとなる国際会議が東京で開かれ、計画班員5名の他に、海外から招待された5名の研究者が講演されました。小規模な会議ではあったものの、いずれも興味深く、質の高い研究発表を聴くことができました。簡素ではありますが、以下に演題内容を紹介させていただきます。

稲田利文 (東北大学)

 終止コドン以外で翻訳が停止すると、その合成途中の新生鎖はRibosome Quality Control (RQC)によってユビキチン化されて分解されることが知られているが、40Sサブユニットにあるリボソームタンパク質のユビキチン化がRQCの引き金になっていることを報告した。

Sichen Shao(MRC, UK)

 RQCが起きるとリボソームは40Sと60Sサブユニットに分離するが、Cryo電子顕微鏡により、機能不明なタンパク質、NEMFが60Sに結合し、60Sと40Sの再会合を阻害するとともに、E3 ligaseのListerinが60Sに安定的に結合できるために、NEMFが新生鎖のユビキチン化を促進していることを明らかにした (Shao et al Mol Cell 2015)。後半のテーマもCryo

電子顕微鏡を利用した研究で、終止コドンを認識するeRF1

と、ATPaseのABCE1、リボソームの構造について報告した

(Brown, Shao et al. Nature 2015)。

Thomas Becker (LMU, Germany)

 終止コドンがないmRNAは、Ski複合体を介してエキソソームによって分解されることが知られているが、リボソームに結合しているSki複合体の構造をCryo電子顕微鏡によって明らかにした。また、リボソームプロファイリングの解析から、Ski複合体と結合しているリボソームは、polyA部分に集積されていることを報告した。

岩崎信太郎(UC Berkeley, USA)

 翻訳開始因子の一つでヘリカーゼ活性を持つeIF4Aは配列非特異的にmRNAの5’UTRに結合するが、抗癌剤のRocaglamide AはeIF4Aを連続したプリン塩基に結合させ、eIF4Aを配列特異的な結合様式へ変えることを報告した。

田中元雅(理化学研究所)

 リボソームプロファイリングはmRNA上のリボソームの位置を調べるために開発されたものだが、この方法を改変することで、翻訳で使われている tRNAの種類を特定できるようにした。また、ストレス状態の酵母では tRNAの一部分がダメージを受けることを報告した。

Christian Kaiser (Johns Hopkins Univ., USA)

 翻訳途中のリボソームと新生ポリペプチド鎖を光ピンセットで引っ張る方法を開発した (Kaiser et al Science

2011)。この方法を応用して、SecMの翻訳アレスト解除には力学的な力が必要であることを報告した (Goldman, Kaiser

et al. Science 2015)。

稲葉謙次(東北大学)

 分泌タンパク質や膜タンパク質が、正しく立体構造を形成して機能するためには、ジスルフィド結合の形成が重要となるが、そのジスルフィド結合の形成や開裂を直接担うPDI

ファミリータンパク質のErp46やERdj5やPDI酸化酵素のEro1α、Prx4の結晶構造解析を報告した。また、ERdj5の機能にはC末端の可動性が重要であることをHigh-speed AFMにより明らかにした。

千葉志信(京都産業大学)

 枯草菌のMifMタンパク質は翻訳アレストによって、YidC2

の翻訳を制御しているが、その翻訳アレストをBS hybrid

PURE systemで再現できたことや、MifMの翻訳アレスト部位は1箇所ではなく複数箇所で起きることを報告した。また、Cryo電子顕微鏡によって、翻訳アレスト時のMifM-リボソームの構造を明らかにした (Sohmen Chiba et al. Nat.

Commun. 2015)。

Guenter Kramer (ZMBH, Germany)

 Trigger factorが結合しているリボソームのみを選択してmRNAを解析する selective リボソームプロファイリングを開発し、新生鎖が100以上翻訳されると、Trigger factorは結合し始めることを示した (Oh, Kramer et al. 2011 Cell))。他のシャペロン (DnaK)についてもリボソームと新生鎖の結合性について紹介した。その他に、タンパク質の相互作用は分

倉橋 洋史 (理化学研究所)

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子のランダムな衝突によるものと考えられていたが、大腸菌では相互作用する遺伝子が、同じオペロンに載っている方が複合体を形成しやすいことを報告した (Shieh Kramer et al.

Science 2015)。

田口英樹(東京工業大学)

 無細胞タンパク質合成系PUREシステムで合成した大腸菌タンパク質の網羅的解析で、可溶性と凝集性の2つのピークを持つことや、GroEシステムやDnaKシステムによって可溶性になる凝集性タンパク質群の存在を明らかにした (Niwa et

al., PNAS 2009, 2012)。さらにsplit GFPを利用したスクリーニングにより、アミノ酸配列のわずかな違いでも、フォールディングのGroE依存性が変化することを報告した。

 今回の会議では、3名の方がCryo電子顕微鏡解析を行っていました。X線結晶構造解析の解像度に迫るほど解像度が高くなり、巨大分子を原子レベルで考察できるようになったことで、これからも目が離せません。また、6年前に開発されたリボソームプロファイリング法や、その改変法が5演題に登場していることから、時代の流れの速さを感じましたし、新生鎖研究に対するリボソームプロファイリング法の重要性を改めて認識しました。

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 9月13日から金沢大学で開催された日本生物物理学会 第53回年会に参加した。理研のある和光市から金沢へは、大宮に出てから開通したばかりの北陸新幹線に乗って向かうことにした。東海道新幹線の「のぞみ」に相当する「かがやき」は、大宮以降は長野と富山にしか停車しないので、大宮から金沢まで2時間ほどで着く予定であった。しかし、当日に特急券を買おうとしたところ、直近の「かがやき」は全席指定席であって(自由席がない!)かつ全席が予約で埋まっていた。「こだま」タイプの「はくたか」も直近には走っておらず、

倉橋 洋史(くらはし ひろし) 

E mail : [email protected]略歴: 2002年東京大学大学院理学系研究科生物化学

専攻・博士課程修了・博士(理学)。東京大学医科学研究所・博士研究員、助教、東北大学大学院医学系研究科・助教を経て2015年より理化学研究所脳科学総合研究センター(田中元雅研究室)・研究員。

研究テーマ:酵母を用いたタンパク質凝集体生成と除去機構の解明

抱負: アミロイド病克服に少しでも役立つ研究成果を発表したいです。

結局2時間後の「かがやき」に乗ることになってしまった。もし予定が決まっているのであれば、金沢や富山行きの北陸新幹線は前もって予約しておくことを強くお勧めする。何となく豪華なゆるキャラ「ひゃくまんさん」が鎮座する金沢駅からは、学会に向かう人で寿司詰め状態の路線バスに揺られること約30分で、大自然の中にある非常に綺麗な金沢大学角間キャンパスに到着した。

 学会にはのべ1600人ほどが参加しており、外国人の参加者も確実に増えているように感じた(ちなみに私のグループ

鵜澤 尊規 (理化学研究所)

第53回生物物理学会

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からもイラン人学生が参加した)。生物物理学会は全ての講演とポスターを英語化している。調べてみると2005年の札幌年会で「ポスターの図の説明には出来る限り英語を使う」というところからスタートして、2009年徳島年会からは口頭発表も英語化している。2009年当時は口頭発表において質疑が噛み合わないことが多かったものの、今回は質疑応答まで全て英語で問題なく回っている会場が多かった。特に学生時代から学会は英語で参加するものだと刷り込まれたであろう30歳前後の若い研究者の英語は良く訓練されているように感じた。

 本年会では、本新学術領域が共催した「新生鎖の合成と構造形成過程に潜む生物物理学」というシンポジウムが催された。新学術領域の参加者以外では、東京大学の上村想太郎教授の講演が非常に興味深かった。Zero mode-waveguides技術を使ったPaci�c Bioscience社の次世代型一分子シーケンサーを応用し、翻訳過程でリボソームに取り込まれる tRNA

を一分子レベルで測定する手法の話から始まって、RNAサイレンシング、Cas9、ダイニンモーターの観察に応用されているという講演であった。FRETが使えるということであったので、新生鎖の観察に使えるのではないかと考えて質問したものの、基盤から10nm程度までの観察が可能ということであった。リボソームの大きさを考えると新生鎖の観察は難しいのかもしれない。富山県立大学の元島史尋博士はGroEL/

GroESの役割にはAn�nsen型、Con�nement型、Protrude

型の3つの型があるという講演をされた。Protrude型が起こるという話を初めて聞いたので非常に新鮮であった。

 タンパク質の短寿命の反応中間体を観察するための装置開発という点では、理化学研究所の城宜嗣主任研究員の研究室の木村哲就博士が発表された、NOをNO2に還元する膜タンパク質である一酸化窒素還元酵素の短寿命反応中間体を観察する手法が興味深かった。この系では、NOケージド化合物を分解してNOを発生させたうえで、マイクロ流路とフラッシュ赤外吸収分光法を組み合わせることで、数マイクロ秒程度の寿命しかない反応中間体が観察可能となっている。数マイクロ秒程度の寿命の中間体を観察できる手法は非常に素晴らしいと感じた。一方で、ケージド化合物から発生

ひゃくまんさん。百万石の豪華絢爛さをイメージした北陸新幹線PR用のキャラクター。ひげは輪島塗で全身に金沢箔といった石川の伝統工芸の技術が取り入れられているそうです。

シンポジウム後のオーガナイザーと参加者

したNOが数マイクロ秒の間に溶液中を十分拡散できているのかが気になったので質問したが、NOの拡散を実測することは難しいということであった。

 3日目の朝のシンポジウム「人工細胞を創る・動かす・活用する」は、懇親会の次の日の朝一番であったにもかかわらず、80人程度の参加者で小さめの講義室は満員となっていた。参加者は比較的学生が多く、発表者も大取の方以外は30

歳台前半ということであり、非常に元気な研究分野であると感じた。このシンポジウムでは、東京工業大学の瀧ノ上正浩准教授の研究室におられる森田雅宗博士がセルサイズのリポソームを誰でも簡単に作れるデバイスについて発表をされた。1マイクロリットル程度のサンプルをロードしたガラスキャピラリーを1.5mlのチューブにセットし遠心することで、キャピラリーから空気中にサンプルがドロップとして吐き出された後、先ずオイル層に入ってから次に液相に入るようになっている。発表された系では14マイクロメートル程度のリポソームができており、Pure systemとGFPの遺伝子をリポソームに入れてリポソームを作ると、1時間で85%のリポソームが光るようになっていた。ロードするサンプル量が少なくて良いという点は非常に魅力的に感じた。リポソームのサイズは移動速度の依存度で説明できるということであったが、どうしてもドロップ形成時に尾を引いてしまうために、より小さなサテライトドロップが出来るという話が質疑応答で出ていた。

 京都大学の市川正敏講師の研究室におられる伊藤弘明さんの発表では、モデルセルの内部に比較的高濃度のアクチンとミオチンを入れるとセルが生きているように変形するという発表をされた。最適な濃度にすると、モデルセルがまさに生きているように動き非常に面白かった。このような「生物のような動き」を見ると、改めて物質と生物の境目について考えさせられる。

 新生鎖に関係するポスターとしては、奈良先端科学技術大学の塚﨑智也准教授の研究室の菅野泰功さんが、高速AFM

を使ったトランスロコンに関する結晶構造と一分子観察に関する報告をされていた。先ずは結晶構造の分解能を4.5Åから2.7Åまで上げることに成功し、SecGのループ部分がSecY

のフタのように働いていることを初めて観測したということであった。そのうえで、SecAとSecYをナノディスクに入れ、GFPがSecYを通る過程を高速AFMで観察していた。結

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鵜澤 尊規(うざわ たかのり)E mail : [email protected]略歴: 2006年京都大学大学院工学研究科博士課程修了 博士(工学)。日本学術振興会

特別研究員 (PD,SPD)として、2006年から2009年までUC Santa BarbaraのKevin Plaxco研究室に所属。その後、理化学研究所 基礎科学特別研究員および定年制研究員を経て2014年より専任研究員。

研究テーマ:生体高分子の機能獲得過程の観察およびその応用 抱負: 分子レベルでの生体高分子に対する理解を世の中に役に立つ形で具現化したい。

 この原稿を書くことになったのは、京産大の千葉先生から頂いた一通のメールでした。メールには、BMB2015で開かれるシンポジウムの原稿依頼と共に、「これを書くことで名前を売り出してはどうでしょう。」といったような甘い言葉(?)

が書かれており、新参者の私にとってはいい機会だと甘いはちみつに誘われるプーさん1)のごとく快諾したのでした。しかし、どうでしょう。筆者は、このような報告記を書くのはほぼ初めてであり達者な文を書く文筆家 (どっちかっていうと分泌家?)でもなく、文学少年でもない私に果たして務まるのかと。更に、講演は私の苦手な英語で行われるという・・・まぁ、でも引き受けたからには精一杯やろうと、先ずは先人達に倣えということで過去の原稿を参考にして執筆するこ

とに。せっかくなので、ここは森さんの過去原稿2)を参考にしながら書こうとひたすら森さんの原稿を読み漁り、筆を取るのでした。

 2015年12月1から4日間の会期で行われた分子生物学会と生化学会の合同大会、BMB2015が神戸ポートアイランド3)で開かれた。今年は京産大の遠藤斗志也先生 (生化学会 )と京大ウイルス研の影山龍一郎先生が中心となって開催された。その3日目にあたる12月3日4)、田口代表と稲田先生のオーガナイズにより「Nascent chains: the ribosome as a hub for

protein quality control」というタイトルで国内から4名国外から2名の演者でなるシンポジウムが開催された。まず初めに、田口代表によるNascent chain biology(=新生鎖の生物

BMB2015

M e e t i n g R e p o r t : 0 3

果としては、SecYと思われる大きな塊の周りにGFPと思われる小さ目の塊がおそらく観測できているという状況であった。3つくらいGFPを数珠つなぎにして高速AFMで見ようと計画されているということであった。

 新生鎖のシンポジウムの私の講演の最初に少し述べたが、生物物理学会でタンパク質の折り畳みに関する研究は残念ながら先細っているように感じている。15年前くらいの生物物理学会の年会ではタンパク質の折り畳みに関するポスターがズラーっと連日並んでいたものだ。当時から主流派だった筋肉タンパク質関連の研究が今も残っている状況と比べると、なんだが少し寂しい気がする。タンパク質の折り畳み研究を進めていた研究者(私自身も!)がこの分野から距離を置いてしまった理由は色々とあると思うが、タンパク

石井 英治 (京都大学ウイルス研究所)

質の折り畳み過程を個々のタンパク質について詳細に調べても構造予測に寄与できず他の研究にも応用が利かなかった、純粋な折り畳み研究よりもフォールディング病に研究がシフトしたというところだろうか。私が折り畳み研究から一旦離れたものの再度この分野に帰ってきた理由は、無細胞翻訳系を色々と使えるようになったものの実際にタンパク質を翻訳すると沈殿してしまうという経験を通して、やはり折り畳み研究は実利も含んだ非常に重要な研究分野であると再認識したからである。本新学術領域を通した新生鎖という新しい切り口でタンパク質の折り畳み研究が再び「かがやき」を取り戻せるのではないかと期待している(ちなみに帰りの「かがやき」は、学会最終日の早朝に予約したので何の問題もなく大宮まで帰ってこれました)。

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かったのは、SRP認識サイトの下流で翻訳伸長が遅くなり、それによりSRPの結合をしやすくしているとのこと。これらの領域はnonoptimal codonが濃縮されており、戦略的に翻訳伸長効率の低下を引き起こしているようだ。リボソームは止まるだけでなく、伸長スピードを変化させることよってもまた、タンパク質の合成をコントロールしていることに感心した。

船津 高志先生 (東京大学 )

 SecMやVemPといった遺伝子発現制御に関わるアレストペプチドは、アレストした後にそのアレスト状態が解除されることもまた重要であり、止まることと翻訳の再開の切り替えにより遺伝子の発現を制御する。船津先生らのグループは、この翻訳再開に焦点を当て、光ピンセットを用いたin

vitroでの実験系の構築とアレスト解除にはどれくらいの力を要するかについて話されていた。個人的に興味深かったのは、本論とは少しずれるが、翻訳アレストの安定化にはリボソームトンネルの中の配列だけでなくN末端側も大きく関わっているという。アレストにおけるN末端 (リボソーム外領域 )の重要性とその役割について、VemPでも今後詳細な解析を進める必要があるなぁ、と感じた。

田口 英樹先生 (東京工業大学 )

 本シンポジウムのトリは、領域代表。タンパク質のフォールディングに関わる網羅的解析の話。田口先生のグループでは、以前PURE systemを使って大腸菌タンパク質のフォールディングについて網羅的解析を行っており、今回は同じ実験系で酵母のタンパク質578個についてPURE systemにおける凝集性を解析されていた。その結果は凝集するものと凝集しないものの二極にわかれたとのこと。凝集したものに大腸菌のシャペロンであるDnaKJをいれると大腸菌同様可溶性画分にいくものもあるが、GroEL/ESではあまり効果がなかったようである。ふと、PUREsystemの製品にもこれらが入っているものが有ることを思い出したが、真核のタンパク質を合成する際はGroEL/ES mixよりもDnaK mixを使った方が効果的なのであろう。

おわりに 本シンポジウムではリボソームプロファイリングなどの最新の解析方法や昔ながらの生化学的手法での研究など新生鎖に対して多用なアプローチで研究が行われておりどの研究も興味深く、改めて「新生鎖の生物学」という新領域について考えさせられるシンポジウムだったと思う。唯一悔やまれるのは筆者の英語力であり、もう少し耳の良い聞き手になれれば、この報告記も中身のある良いものになったであろうと思われる。次回、もしこのような執筆の機会が得られるのであればその時までに素晴らしい聞き手になっていることを未来の自分に期待する。

 また、BMB2015では、このシンポジウム以外にも多くの研究に触れることができた。その一因が、「新生鎖の生物学」への参加であることは言うまでもない。若手ワークショップや班会議を初めとした集まりで、多くの異分野の方の研究を拝

学)とはなにかという説明の後、稲田先生からトークが始まった。

稲田 利文先生 (東北大学 )

 稲田先生の発表はHel2 (E3 ubiquitin ligase)やUbc4がmRNA品質管理機構 (NGD: No-Go Decay)やRQC (Ribosome

Quality Control)に関わるという話。Hel2が翻訳の止まった新生鎖をどのように認識するのか、リボソームとどのようにして結合するか、Hel2がこれまでに知られているRQCの役者とどのように関わるかなど詳細なメカニズムを明らかにされていた。非常に丁寧で素晴らしい研究だと思った。これらの内容は未発表 (2015年12月現在 )ということで、Hel2の仕事を中心的になされてきた池内さんの論文を楽しみにしたいと思います。個人的にはこのような複雑な品質管理がどこまで保存されているのかといった進化的な変遷が気になるところではあったが、英語力の乏しい筆者がとっさに英語で聞けるわけもなく断念した。

Dr. Roland Beckmann (ミュンヘン大学 )

 長身の体躯にジャケット、マウンテンブーツ、びしっと決めた髪型で登壇したDr. Roland Beckmann。Introduction

では、これまでに知られている翻訳アレストを伴う因子について紹介され、その中には筆者らが今年9月に公表したVemPもSecMと一緒に並び、他の研究グループのスライドにVemPが載るのは初めてであったため、少し妙な気分になった。本題では、①Hela細胞由来の無細胞翻訳系を用いて、ヒトのeRF1(リリースファクター)とリボソームの翻訳終結複合体をCryo-EMにより解析した研究と②NSD (Non-

Stop mRNA Decay)におけるRibosomeとSki複合体の相互作用をin vitroおよびin vivoで明らかにした話であった。Beckmann研のCryo-EMでの解像度の高さにはいつも驚かされている。VemPもそのうちBeckmannラボで簡単に構造が解かれてしまうのではないかと内心ヒヤヒヤする次第ではある。5)

森 博幸先生 (京都大学 )

 普段となんら変わらない服装6)で登壇した森さん。海水域から淡水域まで塩濃度が多様な環境で生育できるビブリオ菌は、駆動力の異なるタンパク質分泌促進装置SecDF (Na+

駆動型とH+駆動型 )を切り替えることにより環境適応をしていること、その切り替えにはアレストペプチドVemPのSecM様の分泌能監視能が重要であることを話された。分子メカニズムだけでなくビブリオ菌の生活環における生理的意義についても迫っており面白い研究だと思っている。今後の研究にも大いに期待してもらいたい。(自分でプレッシャーをかけてみる )

Dr. Judith Frydman (スタンフォード大学 )

 SRP (signal recognition particle)に関わる話で、これまでSRPについてわかっている (提唱されている )モデルの詳細について説明を行いながら、SRPがどのようにしてシグナルシークエンスを認識しているのか、いつどこでリボソームと結合するかなどの疑問について明らかにされていた。興味深

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聴し反芻することで、これまで知らなかった研究にも興味が持つことができ、バクテリア研究の演題数が少なくなりつつある本大会をこれまで以上に楽しむことができた。(それだけ知り合いが増え、お酒を飲む機会が増えて楽しいという意味であるのですが・・・)最後にぺらっぺらの内容であるにもかかわらずここまで読んで頂いた方々に御礼を申し上げ、筆をおくこととします。

注釈

1)なぜここでプーさんなのかと思う人もいるかと思う。プーさんの話の1つに「プーさんとはちみつ」という話がある。話を要約するとはちみつ好きのプーさんは知り合いのウサギの家に行き大好きなはちみつをたらふく食べ帰ろうとする。しかし、ウサギは穴ぐらに住んでおり、はちみつを食べすぎたプーさんは入口の穴に詰まってしまうという話である。ここでふと筆者は思った。プーさんは小さな頭に大きなおしり・・・リボソームに似ているではないかと。穴に挟まったプーさんはアレストしたリボソームみたいだ。プーさんワールドの住人は詰まったプーさん (リボソーム )を引き抜こうとする。リボソームであれば引っ張ることでアレスト解除 (詳しくは船津先生の発表内容に )もできるが、小サブユニット (頭 )と大サブユニット (体 )を切り離すということも・・・リボソーム=プーさんと考えるのは少し残酷かもしれない。ちなみに詰まったプーさんはプーさんワールドの住人達が引っ張って引き抜くが、その引っ張り力が強すぎて遠くに飛ばされたプーさんはまた別の穴に詰まるという、開いた口がふさがらないオチが待っている。

2)森さんの寄稿は随所に注釈がつけられ、講演内容以外の事柄も (伊藤維昭先生とイカ・マグロ丼を食べただとか、京都国際会館といえばキングジョーだとかetc.・・・)多く書かれており、本稿を書くのが少しだけ気楽になりました。

3)年末のイベント (怒涛の飲み会 )に備え節約をしていた筆者だが、引越しをして三宮から京都への終電が0時頃と遅くなったのをいいことに毎日終電近くまで飲み歩き、会期が終わるころには12月頭にして自由に使えるお金が残っていないという状態だった。今の筆者 (執筆時は12月末 )が当時の筆者を恨むべきところである。

4)我々が、シンポジウムで熱い議論を交わしている裏 (実際に学会会場の裏手の体育館 )では、「IPTL」というテニスの国際大会が行われ、マリア・シャラポアや錦織圭選手が熱い戦いを繰り広げていたことを後になって知った。

5)実は既に構造が見えているという話も・・・

6)三年近く秋山研にいるが、秋山さん、森さん共にスーツ(秋山研では通称「綺麗なおべべ」)姿を見た記憶はほとんどない。唯一、筆者の結婚式に参列していただいた際に見たぐらいだろうか。その時は、いつもと違う雰囲気にかなり緊張したのを思い出す。

石井 英治 (いしい えいじ )

略歴 : 2013年近畿大学大学院農学研究科バイオサイエンス専攻博士後期課修了。同年より京都大学ウイルス研究所 (秋山芳展研 )特定研究員。

研究テーマ:タンパク質膜透過促進因子の新生鎖を介した発現制御機構と解明抱負・一言:芽の出る種をまく (たくさんの種を撒けばそのうち一つくらいは・・・)。

BMB2015 (Facebookより )

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 「おっしょい、おっしょい」と博多祇園山笠の祭囃子が聞こえてきそうな初夏、蛋白質科学会年会が福岡で開催されましたので、私が感じたままに、本領域の皆様をはじめ多くの方々に当日の内容や様子を少しでもお伝えできればと思います。

 本領域が主催したワークショップは会期の最終日にも関わらず、ワークショップ中はずっと立ち見が出るほど盛況で、新生鎖に関する関心の高さが伝わってきました。演者は、構造生物学、分子シミュレーション、細胞生物学、試験管内再構成と研究分野も多岐にわたっていましたが、討論は絶えることなく続き、単に異なる学問領域融合だけでなく、新生鎖という新たな学問を探求しようという演者や会場の参加者の熱気がヒシヒシと強く感じたのは私だけではなかったと思います。本ワークショップでは、「リボソームのクライオ電顕」「新生鎖上へのジスルフィド結合導入の仕組み」「新生鎖の結晶構造解析」「翻訳と共役したフォールディング速度の分子シミュレート」「新生鎖の膜透過装置」「分子シャペロン・プロテアソームによる新生鎖の運命決定」と新生鎖をとりまく最前線の話題が提供されました。

 横山先生のリボソームのクライオ電顕の内容に関しては、まず最近の目覚ましい技術革新、すなわち新しい検出器direct-electron detectionと二次元画像振り分け処理の向上によって高分解能データの取得が可能となった背景を説明されたのちに、抗生物質を利用し翻訳時のリボソームの回転を抑え固定化した状態の高解像度データ取得の工夫などを聴くことができました。次に、門倉先生は、まずLDLRという受容体膜タンパク質の翻訳と共役してジスルフィド結合がどのように導入されるのかを二種類の二次元電気泳動法によって検出され、ある程度翻訳が進まないとジスルフィド結合導入されないことを示されました。この手法では、どこまで伸長した新生鎖にどのタイミングでジスルフィド結合導入するのかがわかります。さらに、このLDLRという基質にジスルフィド結合を導入する酵素は複数存在すること、およびこれら酵素は新生鎖との相互作用という点から2つに分類されることが示されました。今後どのような作用機序のもとこれら酵素が役割分担を担っているか、その解明が待ち遠しいです。三木先生の新生鎖の結晶構造については、事前に内容をポスターで議論させていただき、フォールディング分野の研究者にとっても個人的にも関心の高いトピックスであったと思います。対象としていたタンパク質は2つのベータシートを形成し、最終構造の安定化に寄与していますが、C末端を欠損させた変異体ではベータシート領域がヘ

リックスを形成しており、これはフォールディングにおけるアルファ・ベータ構造転移を結晶構造で証明したことをも意味すると思います。また翻訳とカップルして二次構造の制御が起こり得ることは最近のホットトピックスとも言えます (例えば、Science vol 348, pp444-pp448, 2015)。では翻訳速度の緩急により、翻訳とカップルした立体構造形成はどのように影響を受けるのでしょうか。この疑問に答えるべく、高田先生が郷モデルを基にした分子シミュレーションを示されていました。400残基程度のSuf1のシミュレートはpost-translational foldingでは10%程度しか折りたたまれないのに対し、co-translational foldingでは35%と折りたたみの成功率が大きく上昇します。ここで2つ目のドメインの安定性が低く折りたたみのボトルネックとなっており、翻訳速度と共役して2つ目のドメインがゆっくりと折りたたまれることが全体のフォールディング成功率をあげるカギとなっており、理論解析アプローチからも翻訳速度の緩急がフォールディングに影響することを示されました。また新生鎖の膜透過システムに関して、塚崎先生が膜タンパク質SecYEGとSecDF構造から、SecGループが孔を塞ぐことでタンパク質の膜透過を制御していることや、SecDFがプロトン濃度勾配を利用してタンパク質の膜透過の引き抜き作業をしていることをお話しいただき、膜タンパク質のダイナミックな構造と機能の制御について巧妙な仕組みの一面が垣間見えました。「分子シャペロン・プロテアソームによる新生鎖の運命決定」に関しては、伊野部先生と当領域代表の田口先生の発表でした。伊野部先生は、プロテアソームがユビキチンを認識しているだけでなく、基質のunstructured

regionを認識しているという以前のコンセプトをさらに発展されていて、基質結合による induced �tや分子

タンパク質科学会 ワークショップ「蛋白質科学の視点から迫る新生鎖生物学」報告記

M e e t i n g R e p o r t : 0 4

右が塩田さん、右から2番目が筆者、中央に年会長の神田先生 (新学術領域、動的構造生命の代表 )と蛋白質科学会会長の後藤先生と。後藤先生とはポスター発表でも熱い議論をさせていただきました。

奥村 正樹 (東北大学多元物質科学研究所)

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M e e t i n g R e p o r t : 0 5

奥村 正樹(おくむら まさき)

E mail : [email protected]略歴 : 2011年関西学院大学大学院理工学研究科博士後期課程修了、博士 (理

学 )。2010年日本学術振興会特別研究員 (DC-2)、2011年日本学術振興会特別研究員 (PD)、2012年九州大学生体防御医学研究所博士研究員、2013年日本学術振興会特別研究員 (PD)を経て、2016年東北大学多元物質科学研究所助教 (稲葉謙次研究室 )。

研究テーマ:小胞体におけるタンパク質品質管理機構の解明抱負: 柔軟性と自分らしいこだわりとのバランスで、1つでも多くの現象を明

らかにできればとてもハッピーです!!

RNA2016 satellite-symposiumNascent biology and Ribosome functions

シャペロンとの共存により、プロテアソームによる分解が回避されることを示されました。基質の運命決定において、シャペロンかプロテアソームのどちらが、どのようなタイミングで基質に働きかけるのか今後も興味深い問題です。最後に、領域代表の田口先生が試験管内再構成技術を利用し、大腸菌が持つタンパク質の網羅的解析により、GroEL/ESがターゲットとする基質は特定のプロテアーゼ (Lonプロテアーゼ)とも共通している一方で、この特定のプロテアーゼはリボソームと結合した新生鎖を切断しないが、リボソームからリ

 2016年6月27日。蒸し暑いがせっかくの梅雨の晴れ間なので、自転車で京産大から京大の稲森ホールへと向かいました。RNA2016の前日であり、そのサテライトシンポジウムとして開催された「Nascent biology and Ribosome functions」に参加するため。そのタイトルにあるのはNascent chain

biologyではなくNascent biology、新生鎖の研究だけに収まらない、これから大きく発展するであろう新たな生物学的研究の発表が繰り広げられるのだろうか。会場で汗を拭きながらそんなことを考えていました。このシンポジウムのレポー

リースされると切断されることを示しておられ、今後シャペロンとプロテアーゼによる基質認識、選択性など、ますます発展したお話を聴くことを楽しみしております。

 おわりに、蛋白質科学会の若手奨励賞において、本領域から昨年度田口研の茶谷さんにつづき、今年度は遠藤研の塩田さん (最優秀賞です!おめでとうございます )と稲葉研の私が受賞しました。今後の本領域のますます活性化に、私も微力ながら貢献したいと思います。

藤原 圭吾 (京都産業大学)

トを、京産大千葉研の藤原が書かせていただきます。

 第一部、カーディガンを肩にかけたプロデューサー巻きスタイルのRoland Beckmann (Univ. of Munich)。様々なリボソームの構造を、cryo-EMを使ってたくさん決定しておられます。今回はリボソームを停止(ストール)させる新生鎖との複合体構造を、2つご紹介されていました。 サイトメガロウイルスのUL4 uORF2でストールしたヒトリボソームの構造、そしてビブリオ菌のVemPでストールした大腸菌リボソームの構造です。共通点として、どちらもリボソームトンネル内

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のPTC付近において新生鎖がαヘリックスを形成していました。VemPの構造がもう出るとは、仕事の速さに驚きました。惜しむらくはそのファッション。せっかくなら中尾彬スタイルでしょう、ストールをネジネジと首に巻いておいて欲しかったです。

 続いて稲田利文先生(東北大学)。poly-lysineなどでストールした真核生物のリボソームが品質管理機構(RQC)によって分解される過程において、どのようにしてストールしたリボソームが認識され大小サブユニットに解離するのかについてお話しされました。ストールしたリボソームの構造が決定され、その解離に関わる因子(RQT factors)の同定が進んでおり、詳細なメカニズムがこれから続々とわかってきそうです。今後の発見も楽しみになる内容でした。

 山下暁朗先生 (横浜市立大学 )。ナンセンス変異が引き起こすmRNA分解(NMD)の抑制が、癌治療においては一つのターゲットになっているそうですね。癌細胞ではナンセンス変異が多いそうで、癌細胞でNMDを阻害するとおかしなmRNAが蓄積して破綻するということでしょう。NMDを構成する要素の一つであるSMG-1の阻害剤をスクリーニングされており、候補薬剤を用いてNMDを阻害できることを確認し、癌細胞の増殖や転移も抑えることができる可能性を示しておられました。つまりSMG-1は癌治療のための新しい薬剤ターゲットとして有効だろうとのことでした。

 竹内理先生(京都大学)。サイトカインのmRNA分解制御機構についてのお話でした。Regnase-1やRoquinというタンパク質は、サイトカインのmRNAの3’側にある同じステムループを認識して分解するということでした。ターゲットは被るものの、それぞれの局在や発現のタイミングが異なり、またそれぞれが起こす分解の機構も異なる可能性があるらしいです。同じターゲットmRNAの同じ場所を認識してどちらも分解に持っていくのに、2種類の分解機構があって時間空間的に使い分けている。どういった理由なのでしょうか、面白く感じました。

 そして北畠真先生(京都大学)。機能不全となった ribo-

somal RNAの分解機構 (NRD, non-functional rRNA decay)の解明に挑んでおられます。どのような rRNA変異がNRDを引き起こすのか、また分解経路に関わるMms1といった因子について紹介されました。リボソームの機能はコドン解読やペプチド転移をはじめいろいろあると思いますが、それぞれの

機能不全を見分けて分解に持っていくのでしょうか。

 このように第一部はリボソームや翻訳における品質管理の研究が多く、それらの細胞における重要性を改めて認識しました。これからもホットな分野として続くのでしょう。またこのセッションでは、アレストタンパク質のトークをしたBeckmannの内容が他と若干異なっていましたが、リボソームの構造生物学的な研究は様々な分野で重要性を増しています。新生鎖によるアレストの機構や品質管理の機構の解明においてもご多分に漏れず。これからもしばらくはBeckmannらが大活躍するのでしょう。

 第二部はRachel Green (Johns Hopkins Univ.)から始まりました。異常mRNAの品質管理機構(NMD, NGD, NSD)ではなく、ノーマルなmRNAのdecayに着目した研究を真核生物でなされていました。mRNAの半減期はコドンの構成と相関があるようで、使用頻度の低いコドンで構成されたmRNA

は翻訳速度がゆっくりであり分解されやすく、そのようなmRNAを分解に導く因子がDhh1pであるとのことでした。バクテリアではどのような機構になっているのでしょうか、気になります。ところで翻訳スピードを感知するうえで、リボソームには良いサイトがあるようですね。E-siteは翻訳スピードで空き具合が変わるということで。

 鈴木勉先生(東京大学)は、ヒトのミトコンドリアの tRNA

修飾の話をされました。ミトコンドリアの tRNAを精製しその修飾を分析する独自の技術があり、ミトコンドリア独自のコドン解読に欠くことのできない修飾に関わる酵素としてNSUN3を見出したお話をされていました。ミトコンドリアのtRNA修飾における変異は病気になる可能性があるらしく、この分野の研究の進展は医学的にも重要だろうと感じました。

 続いて千葉志信先生(京都産業大学)。我がラボのリーダーは、枯草菌が持つアレストタンパク質MifMの話で、翻訳アレストのメカニズムについて紹介しました。リボソームのトンネル内での相互作用に加えて、トンネル外のMifM配列についてもデータが出始めています。しかしわからないことはまだ多く、MifM研究はまだトンネルの中といった感じでしょうか。

 森博幸先生(京都大学)は、海洋性ビブリオ菌がもつアレストタンパク質、VemPの話をされました。翻訳アレストを

Rachel Green

Roland Beckmann

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介してVemPはSecトランスロコンの活性をモニターし、環境に応じてタイプの異なるSecDFの翻訳を誘導します。大腸菌SecM、枯草菌MifM、ビブリオ菌VemPと、配列が異なればリボソームトンネル内での構造も全く異なることがわかってきました。これらとはさらに事なるアレストタンパク質を持つバクテリアもいるのでしょう。アレスト現象の奥深さを思い知らされました。

 田口英樹先生(東京工業大学)は、1000以上の大腸菌遺伝子の翻訳途上産物を in vitroと in vivoの両方でpeptidyl-

tRNAの状態で地道に捉え解析した茶谷さんのお仕事をご紹介されました。改めて本当にすごい実験量ですね、私も見習わなければ。

 第二部では、品質管理の話からアレストタンパク質の話へと移ってきました。アレストタンパク質の話も、枯草菌やビブリオ菌のもつ個々のアレストタンパク質の例から、多数の遺伝子における翻訳アレスト現象という一般性の研究にまで広がってきました。今後のアレストタンパク質の研究もさらなる発展を遂げていくでしょう、その一端を私も担っていきたいものです。

 第三部、Joseph Puglisi (Stanford Univ.)。最初のトピックは、後述の上村先生とともに「Zero-mode waveguides 法(ZMW法)」という一分子蛍光イメージング法を用いて、翻訳のステップをリアルタイムで可視化した研究でした。2つめのトピックでは、翻訳中のリボソームがコード領域でいくつかのコドンを読み飛ばす現象をZMW法で観察しておられました。色々なmRNA配列上でリボソームが見せる様々な動きが、蛍光イメージング法によってこれからたくさん捉えられてくるのでしょう。

 田中元雅先生(理化学研究所)は、翻訳途上のリボソームに使用されている tRNAのプロファイリングのお話をされていました。また、ストレス下では一部の tRNAの末端が切られているらしく、制御されたものでは無いかもと仰っていたかと思いますが、生理学的な意味合いを想像せずにはいられない面白さがありました。切られた tRNAの品質管理も気になるところです。

 齊藤博英先生(京都大学)は、miRNAの発現をモニターできるよう設計したレポーター遺伝子をご紹介されました。miRNAは組織や分化状況によって発現パターンが異なるらしく、それらに対するレポーターを上手く使うことで細胞

の選別が可能になったそうです。また、現代の仙厓和尚になり、RNAとタンパク質の複合体で○△□図を描いておられました。仙厓和尚とは江戸時代のゆるキャラ絵師さんのようですが、RNAとタンパク質で作った三角の派生型は細胞に振りかけると細胞死がおきるらしく、こちらはそんなにゆるくなかったようです。

 そして最後の上村想太郎先生(東京大学)はPuglisi研時代に、ZMW法を用いて一分子レベルで翻訳のステップを可視化されました。この技術なら、蛍光分子が高濃度状態でも一分子蛍光イメージングが行えるそうです。今回は、RNAiやCRISPR/Cas9におけるRNAやタンパク質の複合体形成過程をモニタリングしたという内容をご紹介されました。今後は巨大な複合体の組み立てられ方などもZMW法でわかってくるのでしょうか。

 この第三部では、近年発達してきた新技術による翻訳の解析がなされていました。次世代シーケンサーによるRNA

のディープシーケンスやZMW法などを巧みに用いて、翻訳の今まで見えてこなかった部分が見えてきているようです。RNAにタンパク質を結合させて、簡単ながらも意図した形を造る技術まででてきました。生命現象を追いかける好奇心とアイデアに、とても感銘を受けました。

 RNA2016のサテライトシンポジウムということでRNA関連の研究が多かったですが、内容が多岐にわたっており初めてお聞きした研究が多く、とても刺激的でした。RNA2016は翌日からだというのに、充実感いっぱいのシンポジウムだったと思います。

 しかし、当日の朝に急遽依頼されたレポートを書かないといけない現実が。上手くかけるだろうかとの不安が募りつつ、降り出した雨の中、自転車で帰路についたのでした。「第三回若手ワークショップをドタキャンした罰だ」、京大秋山研の森さんに言われた言葉に、なら仕方ないと納得しつつ書いてみたレポート。これにて終了させていただきます。

藤原 圭吾(ふじわら けいご)

略歴: 2014年京都大学農学研究科農学専攻博士課程修了・博士(農学)。同年より京都産業大学総合生命科学部の千葉志信研究室で博士研究員として勤務後、2016年より研究助教。

研究テーマ:MifMによる翻訳アレスト機構について抱負 : ハッとさせられる何かに出会いたい。

Joseph Puglisi

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 2016年7月6日から10日まで、5日間にわたり、EMBO

Ribosome structure and function 2016が、フランス・ストラスブールで開催された。今回はEMBO conferenceのひとつとして開催されたが、前回は、Zinc conferenceのひとつとして、単にRibosomes conference と銘打って、カリフォルニアのNapaで行われた。3年に一度、アメリカとヨーロッパで交互に開催される。参加者の口からはRibosome meeting

という呼称が多く聞かれたので、以後、Ribosome meeting

と呼ぶことにする。今回、うちのラボからは、私と助教の藤原圭吾氏の二人が参加した。領域関係者では、東北大の稲田さん、東工大・田口研の茶谷さんが参加した。およそ70演題の口頭発表と200演題を超えるポスター発表が5日間に渡って発表された。その熱気ある会場の様子とストラスブールでの日々をレポートしたい。

 ストラスブールはパリ・シャルルドゴール空港から高速鉄道(TGV)で東へまっすぐ2時間ちょっと行った所にあり、ドイツとの国境付近に位置する。過去にはドイツ領だった時期もあり、食文化などにはドイツの影響を色濃く受けている。フランスとドイツが領有権を争った地であり、過去にはその過酷な歴史に翻弄されたストラスブールであるが、今ではEU統合を象徴する街のひとつとして重要な政治的役割を担っているとのこと。アルザス地方の伝統を受け継いだ、白い土壁と焦げ茶色の木枠の素朴な家並みや、数ある教会や聖堂など、歴史的な建物が数多く見られる一方、EUの欧州議会

や欧州人権裁判所など、モダンな建物もあり、あたかも街自体が、ひとつのヨーロッパの歴史博物館のような、そんな大変興味深い街であった。モダンなデザインのトラム(路面電車)は街の人々の足を支える重要な公共交通網である。改札もなく、また、ホームと道路の高低差もあまりないため、極端な言い方をすれば、動く歩道に乗るくらいの手軽さで快適に乗り降りすることが出来る。また、本数も多く、車両数も多い(4-5両編成くらいであろうか)ので、実に便利である。Ribosome meetingの主催者からは、開催期間中有効なトラムのチケットが配られ、我々も、毎朝、ホテルからトラムに乗って学会会場であるPMC (Palais de la Musique et des

Congrès) に通った。

 5日間のうち、2日目と4日目は、朝9時から夜10時までの長丁場。3日目は、午後5時前にプログラムが終了し、6時過ぎから、3本のボートツアーが企画されている。タイトなスケジュールだが、実は、緯度の関係で夜9時を過ぎても外はまだ明るい。長い一日のおかげで、このようなスケジュールが

EMBO Ribosome Structure and Function 2016

M e e t i n g R e p o r t : 0 6

千葉 志信 (京都産業大学)

同行の藤原圭吾氏。パリ東駅でTGVに乗る。 アルザス地方伝統の家並み。

ストラスブールのトラムは近代的なデザインで走行音も静かである。

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可能なのだろう。ちなみに、この季節は、午後5時頃が、1日のうちで最も気温が高いのだという。ちょっと不思議な感じがする。

Day 1 演題数が多いため、かいつまんで紹介する。まず、初日は午後5時スタートで、トピックは「Ribosome biogenesis」。トップバッターは Jamie Williamson。大腸菌L17タンパク質の limitationにより、リボソームの大サブユニットのアセンブリ中間体(40S)が蓄積する。それらをcryo-EMで単粒子解析し、構造の違いでソーティングすると、様々なアセンブリ中間体が見られた。それらを解析することで、rRNAのfoldingには複数の独立した経路があるらしいことや、exit

tunnelの foldingが先に起こること、PTCの foldingは最後に起こるらしいこと等を提唱。混ざり物の構造解析ができるcryo-EMの優位さが際立つ発表であった。

 Roland Beckmannは、真核生物のリボソーム生合成中間体である、90S pre-ribosomeの cryo-EMを用いた構造解析を紹介した。平均7.3 Åと、やや低めの解像度であったが、その原因の1つは、完成体のリボソームと異なり、90S

pre-ribosomeは、全体として“スポンジのよう”にスカスカな構造をしているためらしい。これまで誰も見たことのない、backpackを背負ったような奇妙な構造をしており、構造生物学の醍醐味を味わえる驚きに満ちた talkであった。rRNAは、先に転写される5’側が既に foldingしているのに対し、3’側が immatureな状態にあった。co-transcriptionalなrRNAの foldingを反映しているように思われた。Ribosome

biogenesis分野でも、cryo-EMが新しい世界を切り開いているようだ。なお、この仕事は、Ribosome meetingの1週間後にpublishされた (Kornprobst et al., 2016 Cell)。

Day 2

 さて、2日目である。実は、この日は、フランスで開催中のEURO2016(サッカーの欧州選手権)の準決勝、地元フランス対ドイツという屈指の好カード。Roland Beckmannは、会場にドイツ代表のユニフォームを着て登場。背にはチームの要、ボアテングの名が刻まれていた。しかも、アウェイ用のユニフォーム。芸が細かい。キックオフは午後9時であるが、

ポスターセッションが夜10時まである。TV

観戦は断念するしかなさそうだ。

 2日目のセッションは、「Initiation」から始ま っ た。Ruben L. Gonzalez Jrは、FRETを用いて initiation complexの動的挙動を調べていた。また、Joachim Frankとの共同研究で、time-resolved cryo-EMという手法を用いて initiation complexの解析を行っていた。この time-resolved cryo-EMは、私が感銘を受けた新手法の1つであり、Joachim Frank

の項で詳しく述べる。なお、この仕事は、既にpublishされているようだ (Chen, B. et al.,

2015 Structure)。Initiationについては、個人的にはあまり関心が持てなかったので、紹介はこの程度にとどめる。

 Lunchのあとは、「Eukaryotic Ribosomes」のセッション。Nenad Banは、ミトコンドリアのリボソームの解析を行い、ヒトとYeastのミトコンドリアリボソームを比べると、exit

tunnelの位置が大きく異なることを示した。真核生物60S

のバイオジェネシス因子Rei1が、 60Sの生合成の最終段階で、リボソームのexit tunnelに手を突っ込んでリボソームのチェックをしているという話 (Greber et al., 2016 Cell) にも触れた。

 Joachim Frankは、cryo-EMを使い、Trypanosoma cruzi

のリボソームを2.5Åの解像度で解いた。水分子の電子密度さえも見えたことに大変ご満悦で、そのことを祝福するスライドまで作成して見せていた。だが、それ以上に衝撃的だったのが、前述した time-resolved cryo-EM。Stopped �owのように、2種類の液体を混合し、流路中で反応させた後、cryo-

EM観察用の基盤にスプレーし、瞬時に凍らせる。流路の長さが長ければ、反応時間も長くなる。流路の長さを段階的に変えることで、擬似的に反応時間のタイムコース(数十ミリ秒のオーダー)をとることができる。cryo-EMで異なる構造ごとにソーティングすると、translocationなどのダイナミックな過程で生じる半減期の短い反応中間体をも捉えること

欧州議会の建物。

街には教会がたくさんある。教会内にはステンドグラス越しの柔らかな光が差し込む。

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ができるし、それぞれのpopulationの量的変化のタイムコースを追うこともできる。薬剤などで不安定な中間体をフリーズさせることなく、「生きた」リボソームの動きを追うことができるのが魅力であるように思えた。この手法を用い、200

ミリ秒で消失する不安定な中間状態である、ribosome-RRF-

EF-Gの複合体を初めて捉えることに成功したとのこと。

 前回、Napaで行われたRibosome meetingには、リボソームの構造解析でノーベル賞を獲ったAda Yonath、Tom

Steitz、Venki Ramakrishnanの3名が出そろったが、今回は、うち、Venki Ramakrishnanのみ不在であった。代わりに、Ramakrishnan研のAlan Brownが、今回参加できないことを残念がるVenkiのコメントとともに、真核生物のStop

codonがリボソームのA-siteで独特のコンパクトな構造をとるということを発表した。

 Thomas Deverは、AZIN1 (antizyme inhibitor) のuORFの3’側で、ポリアミン依存的な翻訳のpausingが起こること、そのpausingが、そのuORFの翻訳開始を促進すること、uORF

の翻訳量と下流のAZIN1の翻訳量は反相関していることなどを紹介した。

 この日の全ての talkが終わり、ディナーを済ませた後は、午後8時からポスターセッションである。この日は奇数番号のポスター発表者が自らのポスターを説明する日であり、4

日目の同時刻には、偶数番号のポスター発表という流れであった。奇数偶数関係なく、興味深いと感じたものをここで幾つかピックアップする。

 Roland Beckmannグループは、VemP-ribosome complex

の構造解析を発表。京大・秋山研の森博幸らによって発見された海洋性ビブリオ菌由来の新規アレスト因子VemPの構造が早くも解かれた。VemPは、exit tunnelの狭窄部位を挟むかたちでふたつのα -ヘリックスを形成するという、これまでにないユニークな形を見せていた。そのうちのPTCに近い方のα -ヘリックスがA-siteの rRNA残基の動きを制限し、induced conformationをとることを邪魔すると、A-site

にアミノアシル tRNAが正しく入ることができず、翻訳伸長がアレストすると説明されていた。枯草菌MifMが tunnel内

で伸びた構造をしているのとは対照的であったが、A-site付近の重要な残基に新生鎖が干渉し、A-site

の働きをblockするという基本的な流れは両者で概念的に類似しているようにも思える。これらは、P-siteの tRNAの配置が異常になるSecMの場合とは異なる。

 Rachel Green研のシニア研究員、Allen Buskirk

は、バクテリア用に最適化したRibosome pro�ling

を確立し、以前 Jonathan Weissmanらの提唱した、「internal SD-like sequenceがバクテリアの翻訳伸長pauseの主要なファクターである(Li et al.,

2012 Nature)」という考えを否定する結果を得ていた (Mohammad et al., 2016 Cell Rep)。なお、彼は以前、モルモン教の宣教師として日本に住んで

いたことがあり、日本語もなかなかのものである。現在彼は、日本人のポスドクと一緒に仕事をしているらしいが、彼が日本人ポスドクに日本語で話しかけても決して日本語で答えてくれないのだそうだ。そりゃ、せっかくアメリカに留学して英語力を鍛えようというのにアメリカ人に流ちょうな日本語で話しかけられたら興ざめだろう。むしろ、彼が日本に来て、「Why Japanese people, Why !?」とやったら一儲けできるかも知れないことを教えてやるべきだったかも知れない。

 Daniel Wilsonのグループは、大腸菌のEF-Pとリボソーム、さらにはポリプロリンのストレッチを持つ新生鎖との複合体の構造を発表していた。EF-Pがないと、ポリプロリンストレッチの電子密度が明確に現れないという興味深い結果を発表していた。その意味合いについては今後煮詰めていくのだろう。

 Axel Innisのグループは、新規stalling sequenceを同定する新たな方法として、inverse toeprintingという方法を開発し、それを利用し、マクロライド依存的なアレストペプチドのシステマティックなスクリーニングを行っていた。まだ克服すべき問題が幾つかあるとのことであったが、今後の動向に注目である。

 ポスターセッションは午後10時に終了。ホテルへ戻るその道すがら、カフェやパブを覗くと、どこでもEUROのドイツ戦を観戦するフランス人サポーター達で溢れかえっている。どうやら、フランスがドイツをリードしている。フランスのGKがファインセーブをするたびに拳を突き上げるフランス人。そんな様子を見ながらホテル前に着くと、路地裏辺りから大歓声が聞こえてきた。見ると、路地裏のオープンカフェには数十名のサッカーファンが集まっていた。スコアはいつの間にか1-0から2-0になっていた。そして程なく試合終了。フランスの決勝進出が決まった。その瞬間、勝利に酔いしれるフランス人サポーター達が、“Seven Nation Army”を大合唱。ヨーロッパのサッカー界ではお馴染みのチャントであるが、生で聞くと、独特の悪魔的旋律と凄みのある声に気圧された。決勝戦はRibosome meetingの最終日。プログラムが

ポスター発表の様子(藤原氏)。

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全て終わった数時間後のキックオフである。地元フランスが勝ち残ったことで決勝戦は最高の盛り上がりを見せるだろう。ドイツ代表のユニフォームまで着てきたRolandには心苦しくもあるが、フランス最後の夜に地元のサッカーファンとともにEURO2016の決勝をTV観戦出来ると思うと大変楽しみである。なお、決勝の相手はポルトガルである。

Day 3 3日目は、「Elongation」のセッション。Karissa Sanbon-

matsuは、リボソーム小サブユニットのheadの部分が、translocationの際に回転(swivel)する現象について発表。リボソームがmRNA上を translocationする際、30Sサブユニットのheadの部分が「head swivel」と呼ばれる構造変化を引き起こすのだが、それに加え、どうやら、「super swivel」とも言うべき別の構造変化が存在するらしい。彼女は、その動きを、MDシミュレーションで再現していた。talkの最中に、彼女自身の首を動かしながらその動きを説明していたのが印象的だったが、圧巻だったのは、talkの終わりに、その2種類の頭の動きを使って、サッカーボールをヘディングして見せたパフォーマンスだ。「最後にshowをお見せします。」との彼女の声に、二人の男性が舞台に現れた。一人がサッカーボールを彼女にパスすると、まずは「head swivel」の動きでボールをヘディングし、横に立つもう一人の男性にパスした。今度は、手前からパスされたボールを、背後に立つもう一人の男性に、「super swivel」の動きでヘディングし、パスした。ここで読者にわかりやすく説明するならば、「head

swivel」は、例えば、サイドからのセンタリングをゴールに突き刺すときの、首を横に振るあの動きだ。それに対して、「super swivel」は、コーナーキックの時に飛んできたボールをニアで後ろにそらすときの、あごを上げ気味にする、あの動きだ。サッカーファン以外の読者には、「あの動きだ」などと言われてもピンとこないかも知れないが、サッカーEURO2016開催中という特殊事情に免じて許して欲しい。なお、あごを上げる動きは、tRNAとの衝突を避けるのに必要とのこと。

 このほか、「Elongation」のセッションでは、FRETを使っ

た一分子観察でリボソームの動的挙動を観察する研究が多く、興味深かったが、省略する。

  ラ ン チ の 後 は、「Co-translation, Protein folding & Tar-

geting」のセッションである。トップバッターはWolfgang

Wintermeyer。大腸菌のSRP受容体であるFtsYと膜透過装置SecYEGとの相互作用の話。始めから終わりまで、リボソームの話が一切出て来なかったことに衝撃を受けた。オーディエンスも、戸惑い気味であるように見受けられた。

 Bernd Bukauは、selective ribosome pro�lingを用いて、翻訳途上の新生鎖とトリガーファクター、SRP、DnaKとの相互作用のタイミングや基質特異性などの網羅的な解析を進めていた。

 Patricia Clarkは、2種類の蛍光蛋白質を巧妙に使ったエレガントな実験系で、cotranslationalな foldingに与える翻訳伸長速度の影響を調べていた。また、cotranslationalな分解についても新たな解析を試みていた。このセッションでは、他にも、cotranslationalな foldingについての発表などもあり、興味深かったが割愛する。

 午後4時半に全てのセッションが終了し、その後、フリータイムが与えられた。その時間を利用してストラスブールの街を巡る。ストラスブールは水路の街である。観光用のボートツアーに乗れば、ストラスブールの街の見所を短時間で概観できる。この日はRibosome meetingの主催者が用意したボートツアーに参加した。ボートは歴史的な街並みを縫うように進む。高低差のある水路を行き交うために、水面の高さが上下するボート用のエレベーターもある。街ゆく人々がボートに手を振る。川縁に座ってリラックスする人々。ギターを弾く女性。シャツを脱ぎ捨てた少年達が、橋の欄干によじ登るその下を、ボートが滑らかに通過する。見上げると、彼らもまた我々に向かって手を振っている。噴水が夏の太陽を反射してきらきら光る。午後6時過ぎだというのに、昼下がりのような風情である。実に気持ちの良い街だ。例えば、このような街に3年ほど住んでサイエンスに没頭することができれば、さぞかし素晴らしいことだろう。この季節のストラスブールはからっとした陽気な日が続き、札幌の夏のような過ごしやすさだ。ボートツアーのあと、大聖堂から徒歩3

分ほどの、路地裏のレストランで夕食をとる。どこからどう見てもドイツ料理である。この地域は、フランスと言うより、ドイツとスイスを足して割ったような、純朴で気取らない雰囲気に満ちている。一方で、街ゆく人々を見ると、移民の国フランスを実感する。特に、トルコ系移民であろうか、エキゾチックな雰囲気を身にまとった人々を多く見かける。アメリカとはまた風情が異なり、興味深い。

Day 4

 4日目の午前中は、「Decoding & Recoding」のセッション。3番手の Jonathan Dinmanが寝坊で遅刻するというハプニング。順番が一部変更となった。このセッションでは、programmed frameshiftの話が数題登場した。Marina

アルザス地方の代表的な料理・シュークルート(choucroute)。ドイツのザワークラウトとどう違うのか分からないが、酸味のきいたキャベツがウインナーと最高にマッチして、とても美味。

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Rodninaは、フレームシフトが translocationの late stage

で起こるという話をした。Andrew Firthは、programmed

frameshiftに必要なmRNAのpseudoknotを除去して、代わりに同じ場所にRNA結合タンパク質を結合させることでリボソームのmRNA上での移動をblockしても、フレームシフトが起こることを示した。

 セッションの最後に、遅刻した Jonathan Dinmanが登場した。座長に「演題は、『時差ぼけのもたらす効果について』です。」と紹介されていた。期待通り、冒頭では遅刻の言い訳(時計を合わせ忘れただの、午前と午後を見間違えただの)を面白おかしくまくし立て、会場を沸かせていた。その後、真核生物のゲノムの10%に、programmed frameshiftを起こす可能性のある配列が存在する、というにわかには信じがたい話をしていた。さらに、programmed frameshiftがサイトカインやmiRNAによって制御を受けているという話もしていた。mRNAの量とフレームシフトの効率が反相関しており、おそらくフレームシフトシグナルはNMD経路でmRNA

を分解に導くのだろうと話していた。細胞応答のための遺伝子発現調節にprogrammed frameshiftが普遍的に関与している可能性を示唆しているように思われ、興味深かった。

 午後は「Inhibition」のセッション。まずはDaniel Wilson

が、ErmBLや、ポスターセッションの項で前述したプロリンストレッチを持つ新生鎖が引き起こす翻訳アレストを、構造生物学的に解析するという話をした。Axel Innisは、これも前述した inverse toeprintingの話。Ada Yonathは、リボソームの種間での構造の違いに着目し、病原性細菌特異的に作用するリボソーム阻害剤の探索という可能性を指摘した。

 この日最後の演者はAlexander Mankin。クロラムフェニコールによる翻訳阻害の効果がアミノ酸配列に依存することを示した。ribosome pro�lingを用いた網羅的な解析から、クロラムフェニコールが阻害しやすいアミノ酸配列、阻害しづらいアミノ酸配列をそれぞれ同定していた。クロラムフェニコールは、アミノ酸とは無関係に翻訳を阻害するものと思われていたが、エリスロマイシンのようにアミノ酸配列依存的な翻訳阻害剤であるらしい。数年前、彼が来日した際に、クロラムフェニコールがアミノ酸配列依存的に翻訳を阻害するらしいという toeprintingの結果を見せてくれていた。我々も toeprinting

で同様の結果を得ており、互いの情報を交換し議論もしたのだが、当時はその法則性を見出すまでには至らなかった。今回彼らは、ribosome pro�lingで網羅的に解析をしたおかげで、その法則性を浮かび上がらせることに成功した。法則性を抽出するのにtoeprintingではスループットが低すぎることが、今なら実感できる。正しい手法を選択する重要性を再認識させられた。

Day 5 5日目。長かったRibosome meetingもついに最終日を迎える。この日のテーマは「Regulation of Translation & Quali-

ty Control」。トップバッターは Jonathan Weissman。Ribo-

some Quality Control (RQC) 経路におけるCAT (C-terminal

alanine/threonine) tailの 話 (Shen et al., 2015 Science) 。Nicholas Ingoliaは、赤血球の分化の過程で、mRNAの3’UTR

に ribosome densityが現れることを、ribosome pro�lingで観察していた。

 東大の藤原徹先生は、シロイヌナズナのホウ酸のトランスポーターの、ホウ素(Boron)依存的な発現制御の話。ホウ素のレベルが上昇するとホウ酸トランスポーターのmRNA

が分解される。このmRNAには、開始コドンと終止コドン(AUGUAA)のみからなるuORFが存在し、そのuORF上でリボソームが stallし易いこと、その stallingがホウ素存在下で強調されることなどを紹介。北大の内藤哲先生との共同研究らしい。メカニズムなどは全く不明とのこと。

 東北大の稲田利文先生は、RQCに関与する重要な因子を次々と同定し、mRNA上でstallしたリボソームや新生鎖がどのように処理されるのかを具体的に明らかにしてきた一連の仕事を紹介。3年前のRibosome meetingの時もそうであったが、他の発表者の talkでもたびたび「Toshi Inada」の名前が挙がるのを目の当たりにすると、稲田さんがこの分野をリードし続けていることを実感する。

 Rachel Greenは、eIF5Aが、ポリプロリンストレッチの翻訳伸長を促進する以外にも、幅広く働いている可能性を指摘。バクテリアのホモログであるEF-Pよりも幅広く、様々なポリペプチド鎖の伸長を促進しているらしいことを話した。Hartl研のYoung-Jun Choeは、RQCの時に新生鎖のC末端に付加されるCAT tailが細胞毒性を発揮するという話 (Choe

et al., 2016 Nature) 。最後の演者、Shu-Bing Qianは、rRNA-

mRNA相互作用が翻訳のフレームの維持に貢献しているという話をした。

ストラスブール大学。この日は日曜日で学生の姿はあまり見かけず。

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EURO決勝戦直前。闊歩するポルトガルサポーターとフランスサポーター。緊張高まるストラスブール大聖堂前にて。

 全てのセッションが終了し、Harry Nollerが closing re-

mark。1968年にオーストリアのKitzbühelで始まったRibo-

some meetingの歴史を振り返った。リボソームタンパク質を競い合って同定していた時代や、昔は rRNAが何者かさっぱり分からなかったこと、RNA virus modelという仮説があったこと、当時ポスドクだったFrancis Crickが参加していたこと、初めてのリボソームの電顕像が1974年の ribosome

meetingでお目見えしたとき、リボソームは対称な形をしていると解釈されたことなど、興味深いエピソードを、ユーモ

アを交えて披露してくれた。2000年にはリボソームの結晶構造が登場したこと、最近の ribosome pro�lingやcryo-EM

のイノベーションがリボソームの新たな姿を明らかにしてきていることなどに触れ、リボソーム研究は常に技術革新とともに歩んできたことを指摘した。同時に、リボソームの起源や進化の研究がまだ欠けていることも指摘。示唆に富んだClosing remarkであった。

 密度の濃い5日間を終え、会場の外に出る。夕刻であるというのに、昼間の太陽が照りつける。少し足を伸ばして、幾つかの寺院やストラスブール大学を探索した。そして、今日はもう一つ重要なイベントがある。そう、EURO2016決勝戦、フランス対ポルトガルである。勘の良い読者はそろそろ気づいたかも知れないので白状するが、実は私はサッカーが好きだ。Ribosome meetingが終わり、研究者としての仮面を脱ぎ捨てるこの時を、もう一人の自分がじっと待っていたのだ。いったんホテルに荷物を置き、再び街に出る。TV観戦が出来そうなオープンカフェを探すのだ。おそらく立ち見になるだろう。かまうものか。ストラスブール最後の夜を、この特別な夜を、体力が続く限り味わうのだ。

 キックオフまで1時間以上もあるというのに、レ・ブルーのユニフォームにトリコロールの国旗を背に翻し、フランスを応援する老若男女のサッカーファンが至る所から現れ、街の中心地へと向かって歩いている。大聖堂周辺のオープンカフェに、空席はほとんどない。お土産屋のおばちゃんも、今日の決勝はフランスが勝つと、無関係の我々に宣言する。街の広場に面した道路脇にはパトカーが列をなして待機。今日ポルトガルの国旗を掲げる売り子。

オープンカフェでEURO決勝戦をTV観戦する人々。カフェの周りはどこも人だかりである。

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フランス敗戦の翌日の新聞。 ストラスブール最後の朝。すっかりお馴染みになったカフェでいつものエスプレッソ。

は警官の数が明らかに多い。ひたひたと潮が満ちるように、素朴で平和な街ストラスブールに緊張感が押し寄せる。その中を、稀にポルトガルの旗を背に翻す勇気あるポルトガルサポーターもいる。フランス人サポーターに、あえて、「ポルトガルの国旗いりませんか-!」と冗談交じりに挑発する旗売りの黒人男性。笑いとブーイング。時々起こるチャントや合唱、鳴り物の音。顔にはトリコロールカラーのペインティング。みんなどこか浮かれている。こんな特別なストラスブールに居合わせることができるのは幸運である。我々も飲み物を買い、キックオフの時を待つ。今日はおそらくフランスの日になる。

 ところが、私のこの予感は外れることになる。ポルトガルのFWエデルの延長後半のゴールによって、この日、ポルトガルがEUROで初のタイトルを手にしたのだ。チャントや合唱で盛り上がっていたストラスブールの人々も、エデルのゴールの瞬間に静まりかえり、その後、二度と盛り上がることはなかった。ポルトガルは、前半の早い段階で、エース、クリスチアーノ・ロナウドが負傷退場するというハプニングに見舞われた。この試合で怪我をしてピッチを去るとき、また、過去の大会で敗退するたび、ロナウドの悔し泣きは何度も見てきた気がする。すがすがしいほどのナルシストだが、人目もはばからず悔し泣きするこの男が私は嫌いになれない。この日は、そんなロナウドが今回ばかりは歓喜の涙を流し、ポルトガルが新たな歴史を刻んだ。

 翌日のレキップ誌の一面には、ユニフォームで顔を隠し、おそらく泣いているのであろうフランスの若き才能、ポグバの写真が、”ACCABLÉS”という見出しとともに掲載された。”ACCABLÉS”は、絶望に心がうちひしがれた時に使うフランス語らしい。12年前、ポルトガルは、地元開催でありながら決勝でギリシャに敗れた。当時、まだ若かったロナウドも涙に暮れたが、その歴史が今回はフランスで繰り返されたようだ。現実はときに残酷だ。だが、今回のポルトガルのように、敗北を味わった人々がいつか勝者になることもあるだろう。

 熱狂の日から一夜明け、いつもの朝が戻った月曜日、我々も、またいつものカフェで、フランスパンのサンドイッチとエスプレッソの朝食をとり、ストラスブールを後にした。

追記:我々がフランスを発ってから3日後に、フランス南部の街ニースで、人混みのトラックが突っ込み、現在までに84

名が亡くなるというテロが発生した。・・・と思えば、今度は、トルコの軍事クーデターの影響で、ヨーロッパでの学会帰りの日本人が空港に足止めを喰らったというニュースも耳にした。2015年11月13日に起きたパリ同時多発テロの余波であろうと思われるが、我々も、パリの空港では、大きな機関銃を肩から掛けて歩き回る迷彩服姿の兵士を多く見かけた。あのような大きな銃器を間近で見るのは初めてだったが、とても落ち着かない気持ちにさせられた。

 国際会議への参加は刺激に満ちたものであり、特に学生やポスドクなどの若手研究者にとってはまたとない貴重な経験となるだろう。私のような駆け出しのPIにとっては、海外の同業者と知り合い、ネットワークを強め、また、共同研究中のプロジェクトについて直接会って情報交換し、さらには、新たな共同研究の可能性を模索する重要な機会でもある。一方で、昨今の国際情勢の不安定化は、特に若い人たちの国際会議への参加をためらわせる十分な理由になり得る。ストラスブールで会ったイスラエルの研究者は、イスラエルへの海外からの留学生が激減している現状を嘆いていた。その原因は自明である。人種も文化的背景も違う人間同士が同じゴールに向かって協力し合う国際共同研究はとても素晴らしいサイエンス体験である。それだけに、サイエンスの醍醐味を味わう機会を損ないかねない昨今の状況は残念でならない。

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千葉 志信(ちば しのぶ)

略歴 : 2002年京都大学大学院理学研究科化学専攻博士過程修了、その後、京大ウイルス研伊藤維昭研究室、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校 Kit Pogliano研究室、京大ウイルス研秋山芳展研究室にてそれぞれ博士研究員として勤務した後、2009年から2010年まで京大ウイルス研・助教、2010年から2014年まで京都産業大学総合生命科学部・助教、2014年から同学部准教授となり、現在に至る。

研究テーマ:新生鎖の生理機能と分子機構の解明・蛋白質局在化機構の解明など。

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L a b o r a t o r y

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 皆さん、こんにちは。以前に奈良先端科学技術大学院大学の河野憲二教授のもとで特任助教をしていました、柳谷耕太と言います。現在はイギリス、ケンブリッジに拠点を置くMRC Laboratory of Molecular Biology (MRC-LMB)の Ra-

manujan Hegde研究室で Investigator Scientist(要はポスドク)として日々研究に勤しんでいます。ケンブリッジは首都ロンドンから特急電車で1時間ほど北に位置していて、静かで人々が親切な非常に住みやすい街です。治安も大変によく、凶悪犯罪は滅多に起こりませんが、ただ、どういったわけかは、自転車の窃盗は頻発しており、被害にあった人の話をあちこちで耳にします。

 これは、ケンブリッジでの交通手段として自転車が好まれていて、自転車の台数自体が多い事とも関係しているかもしれません。この自転車が愛される傾向は著名な研究者でも例外ではなく、リボソームの構造決定でノーベル賞を獲ったVenki Ramakrishnanも毎日必死な顔をして自転車で上り坂を登っています。私は、社会的に高い評価を受けている人が見るからにリッチな生活をしているのを見るのが好きではないので、ケンブリッジで生活する研究者の質素なところはとても気に入っているところです。

 ケンブリッジの街を歩くと、目ざとい人はきっと興味深い点に気付くと思います。それは、双子を連れている家族連れがやたらに多いのです。初めて私がこの事に気付いた時には、何か環境的、もしくは遺伝的原因で、双子の発生率が上がっているに違いないと思い、その具体的な要因をあれやこれやと考えましたが、その答えは意外なところにありました。それは、ケンブリッジがヨーロッパでも最高峰の試験管内受精を行うクリニックが集まる場所で、ヨーロッパ中から

不妊に悩む夫婦が訪れて双子を生んでいくのが理由のようです(イギリスでは2個までの受精胚を子宮に戻すことが法律上許されているようです:日本では1個)。話は随分脇にずれましたが、ケンブリッジは非常に魅力的であるということが私の言いたかったことです。

 研究に話を移します。私はRamanujan Hegde博士(Manu

と呼ばれています)が主宰する研究室に所属しています。彼はGunter Blobelの孫弟子にあたる存在で、元々は新規合成タンパク質が小胞体に組み込まれる過程を主要な研究テーマにしていましたが、現在ではタンパク質の品質管理にも興味を持つようになり、この二つが2大テーマとなっています。このラボの強みは何と言ってもウサギ網状赤血球抽出液からなる in vitro翻訳系を用いた生化学的解析で、新規合成タンパク質であれば、オルガネラへの標的化から構造異常タンパク質の分解過程まで、幅広く研究を行っています。さらに最近では、LMBで急速に発展しているCryo-EMによるタンパク質の構造解析技術を取り入れ、研究のレベルが一段階上がったように感じます。ラボの同僚たちは、生化学実験で得られた何らかの分子機構の仮説をCryo-EMによる構造決定でダメ押しするというスキームで良い論文を連発していました。自分の持てる技術や知識を最大限に生かせる場所に自分の身を置くことの重要性を認識させられました。

 LMBでは、グループリーダにMRCから研究費が支給されるので、余程のことがない限り、外部から資金調達をする必要がありません。それなので、グループリーダーは比較的時間に余裕があり、グラントに縛られず自由に選んだ研究テーマを展開しています。そのため、Manuも大半の時間はラボにいるので、ラボメンバーは自由にManuとディスカッショ

右端がボスのManu Hegde博士、左から3番目が筆者。St. John’s collegeのバーにて。

“新世代生化学研究室” ヘグデラボ柳谷 耕太 

(MRC Scienti�c Investigator)

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ンすることが出来ます。実際、人によっては毎日Manuとのディスカッションをして、研究を深めていました。それなので、Manuはラボメンバーの研究がどのような状態にあるのかをかなり深く把握しており、それが理由で、ラボミーティングは、私の所属していた大半の期間でありませんでした。時に論文が発表されてから、ラボメンバーが具体的にどのような研究をしていたのか知ることもありました。

 私が、このラボで研究を始めてから驚いた点があります。それは、実験のサイクルが恐ろしく早い事なのです。これはin vitro翻訳系を中心に研究を組み立てているからなのですが、ある日の朝にたてた実験計画の結果が次の日の朝には分かることが良くあります。そして、その結果を元に実験計画を立てて、次の日にはまた新たな結果が得られるといった具合です。これまでの自分の感覚だと、1サイクルの実験が3日から4日かかっていたので、単純に計算すると、3~4倍のスピードで研究が進みます。私が研究をManu labで始めたころは、このスピードに気を良くして、研究の過程で出てきた、研究の本筋とは関係ないが面白い現象にも、しばしば突っ込んでいましたが、実験結果をManuとディスカッションすると、「君は時間が無限にあると思っているようだよ。やるべき実験をしっかり精査して、研究を深めていくべきだ。」といった趣旨のアドバイスを受けたことが何度かあります。もともと、私は自分の学位を取得した研究テーマを裏プロジェクトから見つけてきた成功体験があったので、このアドバイ

スには不満でしたが、確かにManuのラボの生産性はこのような姿勢から生まれているのかもしれないと考え直すようになりました。この考え方はManuが研究プロジェクトを発案するときにも通じているようです。まず、クエスチョンを考えて、次にそれを実証できる実験を考えます。その実験が上手くいったと仮定した場合に次の実験を考えて、といった具合でその最後にクエスチョンに対する満足できる答えが得られるかどうかで、そのプロジェクトを始めるかどうかを決めるんだと言っていました(10個のクエスチョンのうち、実際に始動するのは1個ぐらいのようです)。面白そうなクエスチョンが浮かんだら、取りあえず、何かやってみようというのが、これまでの私の考え方だったので、これもまた、自分の研究スタイルを見つめ直す良い機会になりました。

 私はケンブリッジに来てから3年が経とうとしているところですが、渡英前に言われていたほど雨は多くなく、夏は涼しく(蚊がいません)、過ごしやすい場所でした。食べ物も評判ほどは悪くありませんでした。ケンブリッジは研究環境としては抜群だったので、もし、ケンブリッジへ留学を考えている方がおられたら是非お勧めしたいと思います(現在は円-ポンド交換比率が悪いので、日本からの奨学金ではなくイギリスで給料を貰えるようにすることもお勧めします)。この原稿がニュースレターに掲載されるころには日本に帰国しているはずですので、学会などでご一緒させて頂いた折には、お声をかけて頂けると幸いです。

柳谷 耕太(やなぎたに こうた)

E mail : yanagi.pausing(a)gmail.com略歴 : 2009年奈良先端科学技術大学院大学バイオサイ

エンス研究科動物細胞工学研究室(河野 憲二教授)博士課程を修了。2013年より現所属(学術振興会海外特別研究員)として参加。2015年より現所属(MRC Scienti�c Investigator / 上原記念生命科学財団リサーチフェロー)。

研究テーマ:サイトゾルにおけるタンパク質品質管理機構解明

二重らせん刈りの木。ケンブリッジは二重らせんで一杯。Clare collegeの庭にて。

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はじめに 今回は、遺伝子クローニングに大変便利なGibson assem-

blyを紹介しようと思う。既にGibson assemblyを導入し、快適なクローニングライフを送っている研究室も多いと思われるが、もしかしたら、制限酵素とリガーゼで昭和を満喫しているレトロな人々もいるかも知れない。だが、どうやら世間では、平成生まれの博士が誕生しているらしい。そんなHey!

Say! JUMPな現代社会のDNAワークには、Gibson assembly

こそふさわしい。Gibson assemblyは高価だという理由から導入に対して二の足を踏んでいるのであれば、今回紹介する、「Gibson assemblyを比較的安価で行うレシピ」が役に立つかも知れない。逆に、「うちは金があるのでプラスミドを自分で作らずに人工遺伝子合成を委託してますけど?」、というスーパー・セレブなラボの人たちは、ぜひこの記事を読み飛ばしていただくか、何ならページごと切り取って捨てていただいてかまわない。

Gibson assemblyとは Gibson assemblyは、複数のDNA断片を in vitro homol-

ogous recombinationを利用してつなぎ合わせる方法の一つであり、J Craig Venter InstituteのDaniel G. Gibson

博士らにより開発された1)。3つの酵素による反応を1本のチューブ内で同時に行い、およそ20塩基対の末端相同配列を持つDNA鎖同士を連結する。

 原理は次ページの図に示した通りである。T5 exonuclease

の5’->3’ exonuclease活性により、DNA断片の末端領域を一本化する(Chew-back)。次いで、その末端領域同士がアニーリングすると、Phusion DNA polymerase (Taq DNA

polymeraseなどでも可)とTaq DNA ligaseがそれぞれギャップを埋め、ニックを繋げる。反応は全て1本のチューブで行い、50°C で15-60分間 incubationすることで全行程が完結する。T5 exonucleaseは線状のDNA二本鎖を完全に分解する事が出来るが、少量用いることで、DNA断片の完全分解が起こらないようにしている。また、50°Cでインキュベーションすると、やがてT5 exonucleaseが失活し、必要以上にDNAの分解が進行しないようにデザインされているようだ。実に巧妙である。

 Gibson assemblyと類似の(相同組換えを利用した)方法としては、In-Fusion (Takara)、GeneArt (Life Technologies)、SLiCE 2)などがあるようだが、私がGibson assemblyを気に入っている点は、使用する酵素類を個別に入手し、それらを適度に薄めながら自分で反応液を調製することで、楽にコス

ト削減をすることが出来る点である。なお、製品版のGibson

assemblyは高価であるが、「うちは金持ちなので製品版買えますけど?」というセレブなラボの人たちは、この先を読み飛ばしていただくか、何なら黒く塗りつぶしていただいてかまわない。

比較的安価なGibson assembly premixの作り方 さて、実際のレシピである。まずは5xISO bu�erというものを作っておき、そこに酵素などを加え、2xGibson assem-

bly premixを作製する。Gibsonらのオリジナル論文から、些細な理由で一部改変しているが、問題は起こっていない。

5xISO bu�er

1M Tris-HCl (pH7.5) 1 ml

1 M MgCl2 100 µl

2.5 mM each dNTP 80 µl

1 M DTT 100 µl

PEG-8000 0.5 g

NAD+ (100 mM) 100 µl                         H2O up to 2 ml

320 µlずつ分注しておくと便利である。

2xGibson assembly premix (quarter mix)

5xISO bu�er 320 µl

10 U/µl T5 exonuclease 0.64 µl

2U/µl Phusion polymerase 5 µl

40 U/µl Taq DNA ligase 40 µl

H2O 435 µl ̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ total 800 µl

適当に分注し、-20°Cか -80°Cで保存すればよい。

  上 記 の 組 成 は、Phusion DNA polymeraseと Taq DNA

ligaseをそれぞれオリジナルの1/4量に減らしてある。なお、原理を考えると、T5 exonucleaseは希釈しない方が良いであろう。予備実験では、Phusion DNA polymeraseとTaq DNA

ligaseをさらに薄めても(それぞれオリジナルの1/9量にした)オリジナルの濃度で行ったものと、形質転換効率に差は見られなかったため、これ以上薄めても問題なく使用できるものと思われる。長期保存による失活の可能性を考慮に入

P r o t o c o l

比較的安価なGibson assemblyのレシピ千葉 志信 (京都産業大学)

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Gibson assembly 原理図

れ、うちのラボでは現在、1/4濃度にしている。「安価な」の前に「比較的」と一言付けているのはそのためである。

 実際の反応は、10 µlの系でも十分であるが、さらにスケールダウンしているという話もよく聞く。コストダウンを追求すれば、1 reactionあたり100円以下も十分実現可能なはずである。

反応条件 反応は、DNA断片と2x Gibson assembly premixを氷上で1:1の比で混ぜ、50°Cで10分間反応させれば完了である。一般的には反応時間は15~60分間と言われているらしいが、10分の反応時間でもそれらと遜色ない結果が得られている。後は、大腸菌にこのまま導入すればよい。効率も良いので、複数の断片を同時にベクターに挿入することも可能である。

おわりに Taq DNA ligaseは、ニックを埋めるために必要であるが、大腸菌に導入する場合は、ニックを埋めなくても良いかも知れない。そうであれば、Taq DNA ligaseと、NAD+も加える必要は無く、さらなるコストダウンが可能であると思われる。大腸菌以外にも枯草菌をホストとして使う我々は、この可能性をきちんとしたかたちでは検証していないが、興味のある方はお試しあれ。

 Gibson assemblyを製品化したものはNEBから販売されているが、これが流行れば流行るほど、NEBの制限酵素が売れなくなって会社の経営が傾くのではないかと、他人事ながら心配になる。

1) Gibson et al., (2009) Nat Methods, 6, 343-345.

2) Zhang et al., (2012) Nucleic Acid Res, 40, e55.

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班員一覧■ 総括班

田口 英樹 東京工業大学 科学技術創成研究院 教授

稲田 利文 東北大学 大学院薬学研究科 教授 河野 憲二 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 教授

田中 元雅 理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー 藤木 幸夫 九州大学 大学院理学研究院 特任教授

稲葉 謙次 東北大学多元物質科学研究所 教授 千葉 志信 京都産業大学 総合生命科学部 准教授

田中 啓二 東京都医学総合研究所 所長 貫名 信行 順天堂大学医学部 教授

山本 正幸 基礎生物学研究所 所長 Bernd Bukau Heidelberg大学 教授

吉田 賢右 東京工業大学 名誉教授 Judith Frydman Stanford大学 教授

渡辺 公綱 東京大学 名誉教授

永田 和宏 京都産業大学 教授 遠藤 斗志也 京都産業大学 教授領域アドバイザー

評 価 者

分 担 者

研 究 代 表 者

■ 計画研究

新生鎖フォールディングとシャペロン効果の網羅解析 (代表)田口 英樹 東京工業大学 科学技術創成研究院 教授

ヒト因子由来再構成型翻訳システムの構築とその応用 (分担) 今高 寛晃 兵庫県立大学 大学院工学研究科 教授

酵母由来再構成型翻訳システムの開発:翻訳伸長制御のメカニズムとその意義 (分担)富田(竹内)野乃 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授

mRNAとタンパク質の品質管理機構における新生鎖の新規機能の解明 (代表)稲田 利文 東北大学 大学院薬学研究科 教授

タンパク質の品質管理の基質となる新生鎖の解明 (分担)長尾 翌手可 東京大学 工学系研究科 助教

RISCによる遺伝子発現制御とRNAとタンパク質の品質管理機構 (分担)岩川 弘宙 東京大学分子細胞生物学研究所 助教

新生鎖研究のための新規な翻訳解析技術の開発とその応用 (代表)田中 元雅 理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー

新生鎖の立体構造形成を支えるジスルフィド結合形成システムの解明 (代表)稲葉 謙次 東北大学多元物質科学研究所 教授

新生鎖の立体構造形成を支えるジスルフィド結合形成システムの細胞生物学的研究 (分担)門倉 広 東北大学多元物質科学研究所 准教授

mRNAの局在化に働く新生鎖の機能解析 (代表)河野 憲二 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科   教授

新生鎖テイルアンカー型タンパク質(TA)の輸送・膜挿入と品質管理 (代表)藤木 幸夫 九州大学 大学院理学研究院 特任教授 (分担)田村 茂彦 九州大学 大学院理学研究院

新生鎖の生理機能と分子機構 (代表)千葉 志信 京都産業大学 総合生命科学部 准教授

新生鎖の直接観察による翻訳過程の追跡 (分担)伊藤 維昭 京都産業大学 シニアリサーチフェロー

■ 公募研究

シロイヌナズナCGS1遺伝子における翻訳停止とmRNA分解機構の研究 (代表)内藤 哲 北海道大学 大学院農学研究院 教授

1分子計測によるSecMの翻訳アレスト機構の解明 (代表)船津 高志 東京大学 大学院薬学系研究科 教授

ウイルス感染における蛋白質の品質管理制御とそれに基づく広域阻害剤の薬効評価 (代表)川口 寧 東京大学医科学研究所 ウイルス病態制御分野 教授

プロテアソームによる新生鎖分解の分子シャペロンによる制御 (代表)伊野部 智由 富山大学 先端ライフサイエンス拠点 特命助教 (連携)森 博幸 京都大学ウイルス研究所 准教授

ビブリオ菌における新生鎖機能を介したタンパク質膜透過の制御 (代表)秋山 芳展 京都大学ウイルス研究所 教授

新生鎖研究のためのリボソームin vitro人為選択技術の開発 (代表)市橋 伯一 大阪大学 大学院情報科学研究科 准教授

新生鎖合成と連動する葉緑体蛋白質包膜透過の分子メカニズムの解明 (代表)中井 正人 大阪大学蛋白質研究所 准教授

新生鎖のN末端アセチル化を介したミトコンドリアの恒常性制御 (代表)岡本 浩二 大阪大学 大学院生命機能研究科 准教授

新生膜タンパク質の膜組込み過程の構造生物科学 (代表)田中 良樹 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 助教

新生膜貫通タンパク質のER膜挿入・フォールディングに関わる変異体の解析 (代表)佐藤 明子 広島大学 大学院総合科学研究科 准教授

ストレス依存的な小胞体膜上での新生鎖品質管理機構の解明 (代表)西頭 英起 宮崎大学 医学部機能生化学 教授

リボソームとトランスロコンの協調による新生鎖の膜組み込み機構の解明 (代表)阪口 雅郎 兵庫県立大学 大学院生命理学研究科 教授

一時停止状態にある翻訳の再開を保証する機構の解明 (代表)吉久 徹 兵庫県立大学 大学院生命理学研究科 教授

mRNAディスプレイ法による翻訳アレスト配列探索技術の開発 (代表)土居 信英 慶應義塾大学 大学院理工学研究科 准教授

新生鎖による小胞体レドックス制御-新生鎖による還元力の獲得 (代表)潮田 亮 京都産業大学 総合生命科学部 助教

N末アレスト配列による巨大新生鎖の翻訳速度調節 (代表)森戸 大介 京都産業大学 総合生命科学部 主任研究員

新生鎖の翻訳およびフォールディングの実時間測定系の開発 (代表)渡辺 洋平 甲南大学 理工学部 准教授

ピコルナウイルスの2Aペプチドの終止コドン非依存的翻訳終結の構造基盤 (代表)伊藤 拓宏 理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究 センター ユニットリーダー

ポリペプチド鎖合成におけるレアコドンによる正の折り畳み制御機構の検討 (代表)鵜澤 尊規 理化学研究所 伊藤ナノ医工学研究室 専任研究員

神経発生を司るmTORシグナル伝達経路依存的新生鎖合成制御機構の解析 (代表)池内 与志穂 東京大学生産技術研究所 講師

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班員一覧■ 総括班

田口 英樹 東京工業大学 科学技術創成研究院 教授

稲田 利文 東北大学 大学院薬学研究科 教授 河野 憲二 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 教授

田中 元雅 理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー 藤木 幸夫 九州大学 大学院理学研究院 特任教授

稲葉 謙次 東北大学多元物質科学研究所 教授 千葉 志信 京都産業大学 総合生命科学部 准教授

田中 啓二 東京都医学総合研究所 所長 貫名 信行 順天堂大学医学部 教授

山本 正幸 基礎生物学研究所 所長 Bernd Bukau Heidelberg大学 教授

吉田 賢右 東京工業大学 名誉教授 Judith Frydman Stanford大学 教授

渡辺 公綱 東京大学 名誉教授

永田 和宏 京都産業大学 教授 遠藤 斗志也 京都産業大学 教授領域アドバイザー

評 価 者

分 担 者

研 究 代 表 者

■ 計画研究

新生鎖フォールディングとシャペロン効果の網羅解析 (代表)田口 英樹 東京工業大学 科学技術創成研究院 教授

ヒト因子由来再構成型翻訳システムの構築とその応用 (分担) 今高 寛晃 兵庫県立大学 大学院工学研究科 教授

酵母由来再構成型翻訳システムの開発:翻訳伸長制御のメカニズムとその意義 (分担)富田(竹内)野乃 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授

mRNAとタンパク質の品質管理機構における新生鎖の新規機能の解明 (代表)稲田 利文 東北大学 大学院薬学研究科 教授

タンパク質の品質管理の基質となる新生鎖の解明 (分担)長尾 翌手可 東京大学 工学系研究科 助教

RISCによる遺伝子発現制御とRNAとタンパク質の品質管理機構 (分担)岩川 弘宙 東京大学分子細胞生物学研究所 助教

新生鎖研究のための新規な翻訳解析技術の開発とその応用 (代表)田中 元雅 理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー

新生鎖の立体構造形成を支えるジスルフィド結合形成システムの解明 (代表)稲葉 謙次 東北大学多元物質科学研究所 教授

新生鎖の立体構造形成を支えるジスルフィド結合形成システムの細胞生物学的研究 (分担)門倉 広 東北大学多元物質科学研究所 准教授

mRNAの局在化に働く新生鎖の機能解析 (代表)河野 憲二 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科   教授

新生鎖テイルアンカー型タンパク質(TA)の輸送・膜挿入と品質管理 (代表)藤木 幸夫 九州大学 大学院理学研究院 特任教授 (分担)田村 茂彦 九州大学 大学院理学研究院

新生鎖の生理機能と分子機構 (代表)千葉 志信 京都産業大学 総合生命科学部 准教授

新生鎖の直接観察による翻訳過程の追跡 (分担)伊藤 維昭 京都産業大学 シニアリサーチフェロー

■ 公募研究

シロイヌナズナCGS1遺伝子における翻訳停止とmRNA分解機構の研究 (代表)内藤 哲 北海道大学 大学院農学研究院 教授

1分子計測によるSecMの翻訳アレスト機構の解明 (代表)船津 高志 東京大学 大学院薬学系研究科 教授

ウイルス感染における蛋白質の品質管理制御とそれに基づく広域阻害剤の薬効評価 (代表)川口 寧 東京大学医科学研究所 ウイルス病態制御分野 教授

プロテアソームによる新生鎖分解の分子シャペロンによる制御 (代表)伊野部 智由 富山大学 先端ライフサイエンス拠点 特命助教 (連携)森 博幸 京都大学ウイルス研究所 准教授

ビブリオ菌における新生鎖機能を介したタンパク質膜透過の制御 (代表)秋山 芳展 京都大学ウイルス研究所 教授

新生鎖研究のためのリボソームin vitro人為選択技術の開発 (代表)市橋 伯一 大阪大学 大学院情報科学研究科 准教授

新生鎖合成と連動する葉緑体蛋白質包膜透過の分子メカニズムの解明 (代表)中井 正人 大阪大学蛋白質研究所 准教授

新生鎖のN末端アセチル化を介したミトコンドリアの恒常性制御 (代表)岡本 浩二 大阪大学 大学院生命機能研究科 准教授

新生膜タンパク質の膜組込み過程の構造生物科学 (代表)田中 良樹 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 助教

新生膜貫通タンパク質のER膜挿入・フォールディングに関わる変異体の解析 (代表)佐藤 明子 広島大学 大学院総合科学研究科 准教授

ストレス依存的な小胞体膜上での新生鎖品質管理機構の解明 (代表)西頭 英起 宮崎大学 医学部機能生化学 教授

リボソームとトランスロコンの協調による新生鎖の膜組み込み機構の解明 (代表)阪口 雅郎 兵庫県立大学 大学院生命理学研究科 教授

一時停止状態にある翻訳の再開を保証する機構の解明 (代表)吉久 徹 兵庫県立大学 大学院生命理学研究科 教授

mRNAディスプレイ法による翻訳アレスト配列探索技術の開発 (代表)土居 信英 慶應義塾大学 大学院理工学研究科 准教授

新生鎖による小胞体レドックス制御-新生鎖による還元力の獲得 (代表)潮田 亮 京都産業大学 総合生命科学部 助教

N末アレスト配列による巨大新生鎖の翻訳速度調節 (代表)森戸 大介 京都産業大学 総合生命科学部 主任研究員

新生鎖の翻訳およびフォールディングの実時間測定系の開発 (代表)渡辺 洋平 甲南大学 理工学部 准教授

ピコルナウイルスの2Aペプチドの終止コドン非依存的翻訳終結の構造基盤 (代表)伊藤 拓宏 理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究 センター ユニットリーダー

ポリペプチド鎖合成におけるレアコドンによる正の折り畳み制御機構の検討 (代表)鵜澤 尊規 理化学研究所 伊藤ナノ医工学研究室 専任研究員

神経発生を司るmTORシグナル伝達経路依存的新生鎖合成制御機構の解析 (代表)池内 与志穂 東京大学生産技術研究所 講師

川口 寧(東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス病態制御分野 教授) Y. Sato, A. Kato, Y. Maruzuru, M. Oyama, H. Kozuka-Hata, J. Arii and Y. Kawaguchi Cellular Transcriptional Coactivator RanBP10 and Herpes Simplex Virus 1 ICP0 Interact and Synergistically Promote Viral Gene Expression and Replication. J. Virol. 90, 3173-3186 (2016)

A. Kato, T. Ando, S. Oda, M. Watanabe, N. Koyanagi, J. Arii and Y. Kawaguchi Roles of Us8A and its phosphorylation mediated by Us3 in herpes simplex virus 1 pathogenesis. J. Virol. 90(12), 5622-35 (2016)

秋山 芳展(京都大学・ウイルス研究所 教授) Miyazaki, R., Yura, T., Suzuki, T., Dohmae, N., Mori, M., and Akiyama, Y. A Novel SRP Recognition Sequence in the Homeostatic Control Region of Heat Shock Transcription Factor σ32. Sci. Rep. 6, 24147 (2016)

佐藤 明子(広島大学・大学院総合科学研究科 准教授) Satoh, T., Nakamura, Y and Satoh, A. K. Rab6 functions in polarized transport in Drosophila photo-receptors. Fly . 10(3),123-7 (2016) [Epub ahead of print]

佐藤卓至・中村祐里・佐藤明子 ショウジョウバエ視細胞の膜タンパク質選別輸送における低分子量Gタンパク質Rab6の役割.  顕微鏡 51. (2016)

Iwanami, N., Nakamura, Y., Satoh, T. and Satoh, A. K.  Rab6 is required for multiple apical transport pathways but not for basolateral transport pathway in Drosophilaphoto-receptors. PLOS Genetics. e1005828 (2016)

伊藤 拓宏(理化学研究所・ライフサイエンス技術基盤研究センター ユニットリーダー) Kashiwagi, K., Shigeta, T., Imataka, H., Ito, T.* and Yo-koyama, S.* (* co-corresponding authors) Expression, purification, and crystallization of Schizosac-charomyces pombe eIF2B. J Struct Funct Genomics, 17, 33-8.(2016)

Kashiwagi, K., Takahashi, M., Nishimoto, M., Hiyama, T.B., Higo, T., Umehara, T., Sakamoto, K., Ito, T.* and Yokoyama, S.* (* co-corresponding authors) Crystal structure of eukaryotic translation initiation factor 2B. Nature, 531, 122-5.(2016)

田口 英樹(東京工業大学・科学技術創成研究院 教授) 千葉 志信(京都産業大学・総合生命科学部 准教授) 伊藤 維昭(京都産業大学・シニアリサーチフェロー) Yuhei Chadani, Tatsuya Niwa, Shinobu Chiba, Hideki Taguchi, Koreaki Ito Integrated in vivo and in vitro nascent chain profiling reveals widespread translational pausing Proc. Natl. Acad. Sci. USA 113(7), E829-38 (2016)

田口 英樹(東京工業大学・科学技術創成研究院 教授) T, Niwa., K, Fujiwara., Taguchi, H. Identification of novel in vivo obligate GroEL/ES sub-strates based on data from a cell-free proteomics ap-proach. FEBS Lett. 590(2), 251-7 (2016)

稲田 利文(東北大学・大学院薬学研究科 教授) Ikeuchi, K. and Inada, T. Ribosome-associated Asc1/RACK1 is required for endo-nucleolytic cleavage induced by stalled ribosome at the 3’ end of nonstop mRNA. Sci. Rep. 17(6), 28234 (2016)

河野 憲二(奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科 教授) Tsuru, A., Imai, Y., Saito, M., and Kohno, K. Novel mechanism of enhancing IRE1α-XBP1 signalling via the PERK-ATF4 pathway. Sci. Rep. 6, 24217 (2016)

藤木 幸夫(九州大学大学院理学研究院 特任教授) Liu Y., Yagita Y., and Fujiki Y. Assembly of peroxisomal membrane proteins via the direct Pex19p-Pex3p pathway. Traffic 17, 433-55 (2016)

船津 高志(東京大学・大学院薬学系研究科 教授) Kazuki Nakamura, Ryo Iizuka, Shinro Nishi, Takao Yoshi-da, Yuji Hatada, Yoshihiro Takaki, Ayaka Iguchi, Dong Hyun Yoon, Tetsushi Sekiguchi, Shuichi Shoji, Takashi Funatsu. Culture-independent method for identification of micro-bial enzyme-encoding genes by activity-based single-cell sequencing using a water-in-oil microdroplet platform. Sci. Rep. 6, 22259 (2016)

Ryo Iizuka, Takashi Funatsu 【Review】Chaperonin GroEL uses asymmetric and sym-metric reaction cycles in response to the concentration of non-native substrate proteins Biophys. Physicobiol. 13, 63-9 (2016)

Recent Publications

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 新生鎖の生物学のニュースレター第1号に寄稿された伊藤維昭先生によるレビューの中で、新生鎖の研究は、“完成品”の研究ではなく「どのようにできてくるのかという“出来る過程”の研究」に属するとの指摘がある。どのような過程を経てこのような状態に至ったかを知らずには物事の本質が理解出来ないとの指摘に目が覚める思いがしたのだが、最近、あることがきっかけとなり、伊藤先生のこの言葉を再び思い出した。

 ゴールデンウイークが明けて1週間ほど経った5月半ばのある日、京都産業大学の遠藤斗志也研究室の学生が、研究室の床をメスのカブトムシが歩いているのを見つけた。さらに、それから1時間もしないうちに、今度はオスのカブトムシが、やはり同じ部屋で発見された。1日に2匹のカブトムシが紛れ込むくらいだから、よっぽど京産大はカブトムシだらけの大学なのだろうと思われるかも知れないが、実際にはそんなことはない。しかも、時は5月半ばである。であれば、一体どうやって、遠藤研に季節外れのカブトムシが2匹も紛れ込んだのだろうか。この謎は、その鍵を握る一人の人物の出現なしには、解かれることがなかったかも知れない。その人物とは、そう、私である。

 ここで、読者の皆さんには、ひとつの鍵となる事実を伝えたい。カブトムシが2匹発見されたこの実験室は、実は、遠藤研と我々千葉研で半分ずつシェアして使用している。ここでカンの鋭い読者はこう指摘するかも知れない。「つまり、おまえが犯人か?」と。だが、この謎は、単に犯人を指摘しただけでは、その本質を理解したことにはならない。この謎の最

編集後記

大の疑問は、「どのような過程を経て、カブトムシが2匹、ゴールデンウイーク明けの遠藤研に出現したのか?」である。これこそ、冒頭で紹介した伊藤先生のことばにあるような、「過程」を理解せずには物事の本質が理解出来ない事象の好例であろう。そして、事の顛末は、話せば意外と長くなるのである。

 2016 年5月に起こった「遠藤研カブトムシ徘徊事件」の謎を紐解くためには、2015年の夏にまで時を戻す必要がある。当時、千葉研では、京産大の自然探索が流行っていた。京産大は山に囲まれ自然に恵まれた立地にあり、ひとたびその自然に目を向けると、多種多様な植物、キノコ類、昆虫類、両生類、は虫類、野生動物などなど、実に様々な生き物と出会うことが出来る。中でも最も印象に残っているのは、殻から放射状に毛の生えた不思議なカタツムリ(オオケマイマイ)である。もともと生物系のラボには、「生き物好き」が集う傾向があるため、ラボ内に非公式団体・探検部が半ば自然発生的に結成されたのは避けられない流れであったかと思う。これは、必ずしも我々の研究室に限ったことではない。京産大の複数の研究室でキノコ狩りが同時に流行り、結果的に、京産大内のあるキノコ地帯から一時的にムラサキシメジが根こそぎなくなるという“事件”も過去に起こったことがある。身近な自然と触れ合うことを好む生物系研究者は多いのだ。なお、私もその時期にキノコ狩りに参戦し、収穫したキノコ類を嬉々として食したこともあるが、一度痛い目にあってからは、食用のキノコは必ずスーパーか八百屋で買うようにしている。研究者にとって好奇心や探求心は「命綱」であるが、

キノコに関してはそれらが「命取り」になると気づいたからだ。

 さて、2015年の夏のである。そのときまでの探検部による地道な“調査”の結果、我々は、京産大の裏山に、昆虫類が集中的に集う一本の不思議な木があることを発見していた。ある夏の夜、いつもは見られないほどたくさんのカブトムシがその木に集まっているのを見つけた我々は、懐中電灯を手に、木に集うカブトムシを見上げていた。カブトムシはかなり高い場所にいたため、捕まえるのは難しいだろうと話していたのだが、やがて、我々の懐中電灯の光に引き寄せられ、カブトムシが1匹、また1匹と降下してきた。期せずしてカブトムシ3匹(オス2匹・メス1匹)を手に入れた我々は、彼らをそのままラボに持ち帰り、プラスチックケージでしばらく飼育することにした。

 カブトムシの成虫は冬を越さない。ラボに連れ帰ってきた彼らもやがてその命を全うし、それとともに2015年の夏が過ぎ去って

京産大で見つけたキノコ。これでもまだ、ごく一部である。

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いった。かくして、我々とカブトムシとの物語は、2015年の夏が終わるとともに、いったん幕を閉じたのである。

 さて、ここで読者は戸惑うかも知れない。カブトムシがいつ脱走するのかとわくわくしながら読んでいたら、最後まで脱走することなくその寿命を全うしてしまったではないか、と。だが、話にはまだ続きがある。居住者のいなくなったケージを片付けていた研究員F氏が、敷かれていたおがくずの中に、この世を去っていったカブトムシたちが残した新たな命を発見したのである。我々は、その新たな命であるカブトムシの幼虫たちを、おがくずをつめた発泡スチロールに移し、実験台の下に静置した。カブトムシの幼虫を発泡スチロールで飼ってはいけないという飼育の「いろは」を、このときの我々はまだ知らずにいた。

 やがて秋が去り、冬が来て、春が訪れた。我々は、時々思い出したようにおがくずを交換する以外は、幼虫の存在をほとんど忘れていた。一方、幼虫たちは、この間も確実に、発泡スチロールの壁を掘り進めていたのである。まさに、『ショーシャンクの空に』の主人公アンディ・デュフレーンである。彼らは決して自由を諦めることはなかったのである。加えて、おそらく研究室の温暖な室温環境のためと思われるが、彼らは予想よりも早くサナギになり成虫になった。そして、ゴールデンウイークが開けた頃、我々が予想もしなかったタ

イミングで大人になった彼らは、幼虫時代に地道に掘り進めていた発泡スチロールのトンネルを通って、見事、脱走を果たしたのだ。これが、カブトムシ徘徊事件の顛末である。いくつもの要因が複合的に重なった結果引き起こされた珍事である。それにしても、トンネルを通って外に出てくるなんて、まるで新生鎖のようではないか!そう思った私は、この一言を言いたいがために、この事件の顛末をここに記すことにしたのである。なお、このカブトムシ徘徊事件のことは、遠藤先生には内緒にしている。怒られるのは嫌なので。

オオケマイマイという毛の生えたカタツムリ。山中伸弥先生にご報告申し上げたいほどにフサフサである。

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nascent chain biologyNEWSLETTER

#03#032016.09

新生鎖の生物学

文部科学省科学研究費補助金

新学術領域研究

http://www.pharm.tohoku.ac.jp/nascentbiology/

新学術領域研究「新生鎖の生物学」 〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6番3号Tel. 022-795-6874E-mail:tinada@m.tohoku.ac.jp

新学術領域「新生鎖の生物学」領域事務局 (稲田 利文)

編集人 千葉 志信 発行人 田口 英樹

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

nascent chain biologyNEWSLETTER

2016年09月 発行

平成27年度 第2回班会議

平成27年度第2回班会議を11月13日(金)から2泊3日で開催いたします。計画班と公募班が一同に会する最初の班会議であり、研究の進捗状況を報告する場となります。新生鎖の新規活性とリボソームの新規制御機構は国際的にも拡大している分野です。遺伝子発現の実像に迫る日本発の優れた研究が数多く発表されるためには、班会議での活発討論が必須です。特に若手研究者の熱い発表を待っています。

今回から新たな企画が開始されました。遠藤先生と吉久先生に、2013年ノーベル賞受賞のSchekman博士にインタビューをしていただきました。偉大な先人の独創的な研究の過程歴史を知る事は、研究の本質を理解する最良の方法の1つだと思います。この企画は永田特定でのMorimotoへのインタビューから吉田特定、遠藤特定へと連綿と受け継がれてきているものです。また、海外ラボ紹介の初回として、田鋤さんにJudith Frydman研の紹介をしていただきました。海外の優れたラボで自由闊達に研究を満喫している様子が伝わってきました。これらの企画が、若手の背中を押す一助になることを切に願います。

(事務局 稲田利文)

2015年11月13日(金)~15(日)正午 会 場:天童温泉 ほほえみの宿 滝の湯

編集後記

 東北大・稲田利文さんからニュースレター編集人を引き継ついだ京都産業大学の千葉志信です。「新生鎖の生物学」の班員間の情報交換を促し、その活動を広報するとともに、班員の研究室に所属する学生や若い研究員への教育効果もあるようなニュースレターになればと思い、今回、理研の伊藤拓宏先生、横山武司先生には、立体構造解析法のレビューの執筆をお願いしました。専門外の人や学生さんにも分かりやすいレビューを、と難しい注文をしたのですが、大変素晴らしいレビューを寄稿してくださり、おかげさまで、このニューレターが多くの方々にとって価値ある一冊になったのではないかと思っております。また、とても多くの方に学会レポートをご執筆いただき、おかげさまでとても充実した内容になりました。多忙の日々を過ごす皆様が貴重なお時間を割いてご協力くださいましたこと、心より感謝いたします。執筆者の個性が全面に押し出たニュースレターならではの記事を読者の皆様に楽しんでいただけたら、これ以上の喜びはありません。また、今後とも班員の皆様には原稿の執筆依頼をお願いすることもあろうかと思います。ご理解・ご協力よろしくお願いいたします。

京都産業大学・総合生命科学部 千葉志信

謝辞