The DESY Accelerators DESYの加速器 INFORMATIONppyamazaki/DESY_1031.pdfDESYの加速器 Deutsches...

4
HERA HERA-Hall West DESY III PETRA DESY II DORIS HASYLAB PIA LINAC III LINAC II 西実験ホール Synchrotron Radiation 放射光 Protons 陽子 Electrons / Positrons 電子 / 陽電子 (放射光) VUV-FEL (X 線レーザー) DESY PETRA DORIS HASYLAB Hall West (HERA-B) 西実験ホール Hall SOUTH (ZEUS) 南実験ホール Hall NORTH (H1) 北実験ホール Hall EAST (HERMES) 東実験ホール INFORMATION Who We Are and What We Do DESYの概要 The DESY Accelerators DESYの加速器 Deutsches Elektronen-Synchrotron Member of the Helmholtz Association Notkestraße 85, D - 22607 Hamburg Tel.: 040/8998-0, Fax: 040/8998-3282 [email protected] www.desy.de DESY Zeuthen Platanenallee 6 D - 15738 Zeuthen Tel.: 033762/77-0, Fax: 033762/77-282 [email protected] Editorial and production: DESY-PR- Design and graphics: DESY-PR- Photographs: DESY Peter Ginter, Lohmar David Parker, Science Photo Library, London Manfred Schulze-Alex, Hamburg Heike Thum-Schmielau, Hamburg これまでの歩み 1959年 12 月 18 日、国がドイツ電子シンクロトロン(DESY)研究所をハン ブルク州に創設する協定に合意。 1960-64年 研究所の名前となった電子シンクロトロン加速器(DESY)が建設さ れる。同種の加速器としては当時世界最大であった。 1965-1976年 DESY 加速器で素粒子物理の研究が行われる。 1966年 DESY加速器を用いた精密測定により、量子電磁力学の正しさに関す る最大の論争の一つに終止符が打たれ、理論の正しさが証明される。 1967年 シンクロトロン放射光を用いた測定を開始。これまで線源のなかった 波長域での X 線吸収測定が、放射光により可能に。 1969-1974年 第2の加速器、電子・陽電子2重リング衝突装置DORIS(DOble RIng Store)が建設される。 1972年 ヨーロッパ分子生物学研究所(EMBL)が放射光を利用した生物の分 子構造研究のため DESY に支所を設置。 1974年 DORIS、素粒子実験開始。DESY研究所における初の高エネルギービー ム衝突による加速器実験となる。 1975年 チャームクォーク対から構成された中間子の励起状態をDORISで観 測。重いクォークの研究のさきがけとなる。 1975-1978年 PETRA (Positron-Electron Tandem Ring Accelerator, 電子陽電 子二重リング加速器)が建設される。周長 2.3km はこの種のものとし て当時世界最大。 1978年 4 つの大型実験装置が PETRA を用いて素粒子実験を開始。 1979年 この年、グルーオン(糊粒子)と呼ばれる粒子が直接観測されるとい う画期的な発見。この粒子はすべての物質の構成要素クォークを結び つける強い力(自然界の4つの基本的な力の一つ)の媒介粒子である。 1980年 ハンブルク放射光研究所 HASYLAB が創設される。15 の実験施設。 1984年 HASYLAB、放射光では初のメスバウアー効果の観測に成功。 1984-1990年 周 長 6.3km の HERA(Hadron-Electron Ring Accelerator、 ハ ド ロン・電子リング加速器)が建設される。世界初、かつ現在まで唯一 の電子と陽子とを衝突させる加速器である。ドイツ共和国に加え11 の国が HERA の建設に協力した。 1987年 マックス・プランク研究機構が HASYLAB に 3 つの研究グループから なる常設の支所を設置。生物の分子構造を研究。 1990年 地下に建設された電子・陽子貯蔵型加速器HERAの試運転開始。 1992 年には 2 つの実験グループが世界最高エネルギーの「超大型電 子顕微鏡」で陽子の観測を始める。陽子の構造を解明する研究が新世 代に。

Transcript of The DESY Accelerators DESYの加速器 INFORMATIONppyamazaki/DESY_1031.pdfDESYの加速器 Deutsches...

  • HERA

    HERA-Hall West

    DESY III

    PETRA

    DESY II

    DORIS

    HASYLAB

    PIA

    LINAC III

    LIN

    AC

    II西実験ホール

    Synchrotron Radiation放射光

    Protons陽子

    Electrons / Positrons電子 / 陽電子

    (放射光)

    VU

    V-FE

    L(X線レーザー)

    DESY

    PETRA

    DORIS

    HASYLAB

    Hall West (HERA-B)西実験ホール

    Hall SOUTH (ZEUS)南実験ホール

    Hall NORTH (H1)北実験ホール

    Hall EAST (HERMES)東実験ホール

    INFORMATION

    Who We Are and What We Do

    DESYの概要

    The DESY AcceleratorsDESYの加速器

    Deutsches Elektronen-SynchrotronMember of the Helmholtz AssociationNotkestraße 85, D - 22607 HamburgTel.: 040/8998-0, Fax: 040/[email protected]

    DESY ZeuthenPlatanenallee 6D - 15738 ZeuthenTel.: 033762/77-0, Fax: 033762/[email protected]

    Editorial and production: DESY-PR-Design and graphics: DESY-PR-Photographs: DESY Peter Ginter, Lohmar David Parker, Science Photo Library, London Manfred Schulze-Alex, Hamburg Heike Thum-Schmielau, Hamburg

    これまでの歩み

    1959年12月18日、国がドイツ電子シンクロトロン(DESY)研究所をハンブルク州に創設する協定に合意。

    1960-64年研究所の名前となった電子シンクロトロン加速器(DESY)が建設される。同種の加速器としては当時世界最大であった。

    1965-1976年DESY加速器で素粒子物理の研究が行われる。

    1966年DESY加速器を用いた精密測定により、量子電磁力学の正しさに関する最大の論争の一つに終止符が打たれ、理論の正しさが証明される。

    1967年シンクロトロン放射光を用いた測定を開始。これまで線源のなかった波長域でのX線吸収測定が、放射光により可能に。

    1969-1974年第2の加速器、電子・陽電子2重リング衝突装置DORIS(DOble RIng Store)が建設される。

    1972年ヨーロッパ分子生物学研究所(EMBL)が放射光を利用した生物の分子構造研究のためDESYに支所を設置。

    1974年DORIS、素粒子実験開始。DESY研究所における初の高エネルギービーム衝突による加速器実験となる。

    1975年チャームクォーク対から構成された中間子の励起状態をDORISで観測。重いクォークの研究のさきがけとなる。

    1975-1978年PETRA (Positron-Electron Tandem Ring Accelerator, 電子陽電子二重リング加速器)が建設される。周長2.3kmはこの種のものとして当時世界最大。

    1978年4つの大型実験装置がPETRAを用いて素粒子実験を開始。

    1979年この年、グルーオン(糊粒子)と呼ばれる粒子が直接観測されるという画期的な発見。この粒子はすべての物質の構成要素クォークを結びつける強い力(自然界の4つの基本的な力の一つ)の媒介粒子である。

    1980年ハンブルク放射光研究所HASYLABが創設される。15の実験施設。

    1984年HASYLAB、放射光では初のメスバウアー効果の観測に成功。

    1984-1990年周長6.3kmのHERA(Hadron-Electron Ring Accelerator、ハドロン・電子リング加速器)が建設される。世界初、かつ現在まで唯一の電子と陽子とを衝突させる加速器である。ドイツ共和国に加え11の国がHERAの建設に協力した。

    1987年マックス・プランク研究機構がHASYLABに3つの研究グループからなる常設の支所を設置。生物の分子構造を研究。

    1990年地下に建設された電子・陽子貯蔵型加速器HERAの試運転開始。1992年には2つの実験グループが世界最高エネルギーの「超大型電子顕微鏡」で陽子の観測を始める。陽子の構造を解明する研究が新世代に。

  • 短波長のレーザー光(X線)がたくさんの磁石をならべたアンジュレータと呼ばれる装置から生成される様子。

    手前の大きな建物が遠紫外線や軟X線の自由電子レーザーのための実験ホールです。後方にはDESY研究所のほぼ全体が見えます。

    DESY研究所の概要

    ドイツ電子シンクロトロンDESYは加速器を用いた研究施設のうち、世

    界で最も主要なものの一つです。ドイツの研究機関連合であるヘルムホル

    ツ協会の一員の公共研究機関で、ハンブルクとブランデンブルク州のツォ

    イテン(Zeuthen)に研究所があります。

    研究内容次のような基礎科学の研究を中心に行っています。

     ●粒子加速器の開発、建設および運転

     ●素粒子物理学(物質やその間に働く力の根本的な理解)

     ● 放射光を用いた研究(粒子加速器からのシンクロトロン放射光を用い

    た自然科学全般にわたる研究)

    DESYの研究は分野にまたがった広範囲にわたるのが特徴です。

    創設1959年12月18日

    研究所の法的基盤/所属独立研究法人/国立へルマン・フォン・ヘルムホルツ協会研究センター

    年間予算ハンブルク:1億4500万ユーロ(2005年7月現在約190億円)

    ツォイテン:1500万ユーロ(同約20億円)

    財源ドイツ教育科学省:90%

    研究所の所在する地方公共団体(ハンブルク市、ブランデンブルク州):10%

    常勤の従業員 ●ハンブルク:1400人、うち研究者340人

     ●ツォイテン:200人、うち研究者80人

    研修次のような職種の研修・教育をハンブルク、ツォイテンあわせて以下の人

    数に対して行っています。

     事務・技術職:100人以上

     学部学生(日本では修士課程に相当):100人以上

     博士課程学生:350人以上

     若手非常勤研究員:300人

    国際協力研究

    DESY での研究には所外からも33カ国2750人が参加しています。

    研究所内に設置された他機関の常設研究所 ●ハンブルク大学実験物理学科

     ●ハンブルク大学レーザー物理学科

     ●ハンブルク大学理論物理第2学科

     ●ヨーロッパ分子生物学研究所(EMBL)ハンブルク支部

     ●マックス・プランク研究協会分子構造生物学グループ

     ●GKSS 物性研究センター

    DESY 研究所施設の利用者 ●素粒子物理学:950人

     ●放射光:1800人

    ヨーロッパX線レーザー計画XFEL

    X線自由電子レーザーは、大強度のX線がフラッシュのように非常に短い

    時間発光し、それがレーザーの性質をあわせ持つものです。現在ヨーロッ

    パの国々との協力によりDESYにこの装置を建設する計画が進行してい

    ます。

     ● この新しい「光源」は、あらゆる面でこれまでとは桁違いの性能を持

    ち、広く自然科学全般に全く新しい知識をもたらします。また産業の

    分野でも、製品開発の際の研究装置としてさまざまな応用が考えられ

    ています。

     ● このプロジェクトは2003年2月にドイツ教育科学省(BMBF)に

    より正式にヨーロッパ各国の共同事業としてDESYへの建設するこ

    とが認可されました。ハンブルク市から隣接するシュレースヴィッヒ・

    ホルスタイン州のシェーネフェルト市まで伸びる3.4km の装置が、

    2012年より運転を開始する予定です。

    HERAでの素粒子物理研究

    DESYで現在行っている素粒子物理の研究は、周長6.3kmのHERA加

    速器(Hadron-Electron Ring Accelerator、『ハドロン・電子リング

    加速器』の略)を中心に行っています。HERAは陽子を観察する「超電

    子顕微鏡」です。電子と陽子との散乱の様子を見ることにより、物質の

    基礎である陽子の構造やそこに働く基本的な力の研究を行っています。

    3つの実験ホールでは縦方向に偏極させた電子ビームを使用できます。

    次のような実験がHERAで行われています。

    電子・陽子衝突実験 H1, ZEUS ●陽子の構造を解明する

     ●基礎的な物質間の力の性質の理解を深める

     ●新しい素粒子を探索する

     ●これまでに知られていなかった素粒子の現象を探索する

    H1: HERA北実験ホールで1992年実験開始。12×10×15m,

    2800トンの汎用検出器。

    ZEUS: HERA南実験ホールで1992年実験開始。

    12×11×20m,3600トンの汎用検出器。

    ビームを固定標的に照射する実験 HERMES ●核子のスピンの源を調べる

    HERMES:1995年HERA東ホールで実験開始、縦偏極電子ビームを利

    用。3.5×8×5m,400トンの検出器。

    国際リニアコライダー ILC

    将来の素粒子研究を担う次世代加速器の主要な計画に、国際リニアコラ

    イダー ILC (International Linear Collider:国際線形衝突型加速器の

    略)があります。電子とその反粒子である陽電子とを線形加速器で500

    -1000ギガ電子ボルト(5000億-1兆電子ボルト)まで加速して正

    面衝突させます。

    現在のところこの装置をどのような具体的設計でどこに建設するか、まだ

    決定されていません。現在北米、アジア、ヨーロッパの素粒子物理研究者

    たちが共同してその設計に当たっています。DESYはその主導的な役割

    を担っています。そこで用いる基礎技術は超伝導加速空洞を用いたものと

    決定されていますが,この技術はDESYが主となり各国との研究協力チー

    ム(TESLA共同研究)により開発され、ハンブルクの試験装置で実証さ

    れました。

    これは260m長の自由電子レーザー装置(VUV-FEL)でもあり、ヨーロッ

    パX線レーザープロジェクトXFELとTESLA加速器技術の両方の試験開

    発装置の役割を担っています。

    放射光施設 HASYLAB での研究

    HASYLAB(HAmburg SYnchrotron LABoratory: ハンブルク放射光

    研究所の略)は加速器から放射光を発生させ、それを用いた実験を支援す

    る施設です。DORIS、PETRA加速器および遠紫外自由電子レーザー装

    置(VUV-FEL)が現在稼働しています。

    放射光は大強度のX線で、次のような特徴があります。

     ●非常に明るく大強度

     ●フラッシュのような短時間発光が可能

     ●レーザー光と同様細いビームを作れる

     ●さまざまな波長の光を作れる

     ●自由電子レーザーの光はコヒーレント

    放射光は、電子ビームが磁石によって作られた磁場の中を曲げられるとき

    に進行方向に発生します。自由電子レーザーではアンジュレータとよばれ

    る磁石により電子が左右に繰り返し曲げられ、そこからさらに大強度の光

    が発生します。

    HASYLABでの実験HASYLABで行われる実験は、基礎科学の分野から産業への応用研究(た

    とえば、コンピュータ用半導体中のごくわずかな不純物の研究)まで、広

    範囲にわたります。原子レベルで物質の構造を調べることができ、それは

    物理、化学、地学、生物、医学の分野で役立っています。産業への応用に

    際しては実験の支援を行うサービスがあります。たとえば、触媒、物質の

    微細構造などの研究が行われています。

    DORIS加速器:放射光専用の加速リングで、36の実験ブースで80の

    装置が測定を行っています。

    PETRA加速器:HERAへの入射用加速リング、兼高エネルギーの放射

    光装置。現在2つの実験ステーションがあります。2007年から改造が

    予定されており、PETRAはアンジュレータを備えて15の実験ステーショ

    ンを持つ放射光施設として2009年に運転を開始します。

    遠紫外自由電子レーザー: 6ナノメートル(1ナノメートルは1000万

    分の1センチメートル)以下の短波長の光を発生できる自由電子レーザー

    装置。TESLAの超伝導加速空洞技術を利用しています。5つの実験ステー

    ションを備え、2005年より一般利用が始まっています。

    1992年旧東ドイツ科学アカデミー所属、ブランデンブルク州のZeuthen(ツォイテン)高エネルギー物理学研究所がDESYの一部となる。

    1992年超伝導加速空洞技術を用いたTESLA(電子・陽電子衝突型線形加速器)の開発研究が国際共同で始まる。

    1993年HERAの2実験、最初の結果を発表。陽子の内部の微細構造を見たところ、従来の予想よりもずっと複雑であることが判明。

    1993年DORIS加速器が2度目の改修、HASYLABの放射光専用施設として生まれ変わる。

    1994年南極の氷の深くに検出器を埋め込んだニュートリノ望遠鏡AMANDAが建設開始。ツォイテン研究所がプロジェクトの主要な役割を果たす。

    1995年HASYLAB、原子レベルの構造を映し出すホログラム(干渉模様)を作り出すことに成功。固体中で原子の置かれる周辺の様子の研究に応用。

    1998年TESLAプロジェクトで、超伝導ニオブを用いた加速空洞が1メートル当たり3060万電子ボルトの加速性能を達成。当時の記録の5倍以上。

    2000年2月22日TESLA試験装置の自由電子レーザーが初のビームを発生。短波長X線を発生できる新しいレーザー装置のしくみを検証。

    2001年3月23日TESLA計画の詳細な研究結果と線形加速器の設計概要を発表。5巻の報告書は36カ国304研究機関の1134人によって書かれた。

    2002年10月上の報告書に追加する形で「X線自由電子レーザー(XFEL)研究所の第一段階案」を発表。

    2002年12月自由電子レーザーによる初の国際共同実験グループの一つが科学雑誌「Nature」に論文を発表。希ガスの原子の凝集状態に大強度のX線を照射し、超短時間での物質と放射光との相互作用の様子を世界で初めて観測。

    2003年2月ドイツ教育科学省が次のような重要な決定を行う。自由電子レーザー計画はDESYにヨーロッパ全体の計画として建設する。国際線形加速器は国際協力に基づいて建設されるべきであり、現在のところドイツに誘致する具体的な提案は出さない。

    2003-2004年100m長のTESLA試験装置が260mに延長され,遠紫外線自由電子レーザー装置と共用となる。

    2004年8月超伝導加速空洞技術が国際リニアコライダー(線形加速器)ILCの基幹技術として選ばれる。この技術はDESYが国際共同研究TESLAに参加した研究機関とともに開発。

    2005年1月自由電子レーザーとして世界でもっとも波長の短い波長(32ナノメートル,1ナノメートルは1000万分の1センチメートル)の大強度,超短時間のパルスの発光に成功。

    2005年遠紫外自由電子レーザー装置の利用が始まる。

  • 超伝導加速空洞に作られた電磁波で電子ビームを加速する様子。

    Deutsches Elektronen-SynchrotronMember of the Helmholtz AssociationNotkestraße 85, D - 22607 HamburgTel.: +49(0)40/8998-0, Fax: +49(0)40/[email protected]

    DESY ZeuthenPlatanenallee 6D - 15738 ZeuthenTel.: +49(0)33762/77-0, Fax: +49(0)33762/[email protected]

    Editorial and production: DESY-PR-Design and graphics: DESY-PR-Photographs:DESY;Max-Planck-Arbeitsgruppen für strukturelleMolekularbiologie, Hamburg;Option Z, Thomas Plettau, Frankfurt;Manfred Schulze-Alex, Hamburg

    The DESY Research CenterDESYの概要

    XFEL計画の歩み

    1992-2003年DESYハンブルク研究所において、「超伝導加速空洞技術TESLA」の技術開発が国際協力のもとで行われる。この技術はX線自由電子レーザー(XFEL)と国際リニアコライダー(ILC)の両方の計画の基礎をなすものである。この共同研究によりより以下のような重要な技術的目標が達成された。

    ●超伝導技術を用いた加速空洞がILCの技術的要求水準、すなわち加速性能等を満たした。同時に製造単価を現時点の目標まで下げることができた。X線レーザー装置ではこの加速空洞を用いて電子ビームを100-200億電子ボルトまで加速する。

    ●X線レーザー発振技術の基礎であるSASE原理に基づいて2000年2月に世界初の短波長レーザー発振に成功(遠紫外線領域、波長80-180ナノメートル、1ナノメートルは1千万分の1cm)。同時に増幅度がこの波長域での理論的な限界まで達した。

    ●この技術を用いた加速器により作られた電子ビームからのレーザー光、すなわち自由電子レーザーを用いて、物質間の相互作用の一つである希ガスの凝集現象の超短時間での振る舞いを、2002年12月に国際共同の実験チームが初めてとらえた。

    2003年2月5日ドイツ教育科学省が以下のような重要な決定を下す。X線レーザー研究所をヨーロッパ全体の共同研究所としてDESYに建設する。ドイツに建設する見返りに約6割の建設・運営費を負担。

    2003年約100mであったTESLA試験装置が260mに延長され、X線レーザーの本格的な試験装置に改造される。この遠紫外自由電子レーザー(VUV-FEL)は最短6ナノメートルの波長の遠紫外線を発生し、5つの測定施設が2005年に運用を開始。

    2004-2005年ヨーロッパX線レーザー研究所の建設、運用を行う研究機構の創設について、ドイツの他11カ国が参加して委員会を設置し協議を行う。

    2006年建設開始予定

    2012年末施設の運転開始

    未来の光~ヨーロッパX線レーザー計画~

    ドイツ電子シンクロトロン (Deutsches Elektronen- Synchrotron,

    DESY) は1959年に設立された公共の研究機関で、ハンブルク市とブ

    ランデンブルク州ツォイテンとの2ヶ所に位置します。国立研究機関の連

    合であるヘルムホルツ協会に属しています。

    DESYの研究の内容は一般には基礎的な自然科学の探求ですが、特に以

    下のようなものに重点を置いています。

     ●粒子加速器の開発、建設、運用

     ● 物質とその間に働く相互作用の理解(現在、HERA加速器での素粒

    子物理)

     ● 放射光を用いた表面物理、物性物理、化学、分子生物学、地学、医学

    などの研究(現在、HASYLAB放射光施設)

    DESYの研究はこのように分野をまたがった広範囲にわたるのが特徴です。

    ハンブルクのサイトは市の西部に位置し、敷地の外周にPETRA加速器が

    設置されています。もう一つの周長6.3kmの加速器HERAは大部分が公

    園や商業地域を通る地下トンネルに設置されています。

    財源と予算DESYハンブルクは1億4500万ユーロ(2005年7月現在約190億円)、

    DESYツォイテンは1500万ユーロ。負担はドイツ政府が9割、所属の

    地方自治体が1割。

    職員数博士課程の学生、研修生、若手研究者を含めた総数はハンブルクで

    1400人(うち研究者340人)、ツォイテンで200人(うち研究者80人)。

    国際協力DESY研究所の加速器は研究目的で33カ国2750人の研究者に利用さ

    れています。そのうち素粒子物理(HERA加速器)の利用者は約950人、

    HASYLAB放射光施設利用は約1800人です。

  • X線レーザー装置の平面および側面図(縦横比はわかりやすいように変えてあります)。赤線は電子、黄線はレーザービーム(光子)をあらわす。

    短波長のレーザー光(X線)がたくさんの磁石をならべたアンジュレータと呼ばれる装置から生成される様子。

    手前の大きな建物が遠紫外線や軟X線の自由電子レーザーのための実験ホールです。後方にはDESY研究所のほぼ全体が見えます。

    X線放射光の発展の歴史

    未来のX線装置への道

    自由電子レーザー

    明るさ

    X線放射装置に用いられる粒子加速器

    たんぱく質工場、リボゾームの構造

    ヨーロッパX線レーザー計画XFEL

    科学者がミクロの世界をビデオに収め、物質やウィルスが原子のレベル

    でどう運動しているかをとらえられるようになるのも遠い未来のことでは

    ありません。こんな研究者の夢をかなえるのは、新しい「光」です。現在

    DESY研究所がヨーロッパ各国と協力して進めているX線自由電子レー

    ザー(X-ray Free-Electron Laser XFEL)計画では、大強度の非常に

    短い光、つまりX線のフラッシュがこのような原子の動く瞬間をとらえま

    す。この新しい光はあらゆる面でこれまでとは桁違いの性能を持ち、自然

    科学のさまざまな分野でまったく新しい研究を可能にします。また産業へ

    の応用にも大きく期待が持たれています。

    ヨーロッパ発、最先端の研究

    この計画に対してドイツ教育科学省から2003年2月にゴーサインが出

    ました。現在ヨーロッパ各国の参加を募り、2006年の着工を目指して

    います。建設期間は6年で、2012年に運用開始します。

    XFELはDESY研究所のTESLA共同研究により開発された技術を基にし

    ています。すでにこの技術を用いて、XFELの前駆的計画である遠紫外線

    の自由レーザー装置(VUV-FEL)が運用を開始しています。XFELによ

    り最先端の研究がヨーロッパ内で可能になり、研究、産業の舞台としてド

    イツが重要な役割を果たします。

    最強の光源

    新しいX線レーザー光はこれまで見ることができなかった極限状態をさぐ

    る可能性を切り開きます。

     ● このレーザー光はピーク時でこれまでの最新のX線発生装置(放射光

    施設)の10億倍の強度を持ち、また平均でも1万倍を上回ります。

     ● この光を用いた測定の時間分解能が1万倍以上よくなります。1回の

    X線レーザーフラッシュの発光時間は100フェムト秒(10兆分の1

    秒)以下です。これはちょうど化学反応で分子が形成されたり、分子

    同士が相対的な位置を変化させたりするのに必要な時間に相当します。

     ● このレーザーの波長は原子の詳細を識別するのに十分な短かさです。

    波長を6~0.1ナノメートル(1千万分の1cm)の間で変えること

    ができます。

     ● 発生したX線はレーザーとしての性質(すなわちコヒーレンス:波の

    位相がそろっている状態)を持っています。これにより、物質の3次

    元的構造をホログラフィー技術でとらえることができます。

    幅広い応用

    この非常に強力で発光時間の短い光によって、原子レベルでの動く映像、

    すなわち高速度写真を撮ることが可能になります。たとえば、化学反応、

    生物を形成する分子の運動、気体が液体、固体へと変化する様子などをと

    らえることができます。これらによって物理、化学、物質科学、地理、生

    物、医学など、自然科学のさまざまな分野の研究が大きく発展します。以

    下にその例を挙げます。

    フェムト科学

    「フェムト」という言葉は10のマイナス15乗(1000兆分の1)の単

    位をあらわします。フェムト科学の分野では、化学反応を追うためにこの

    ような短い時間で分子の動きを捕らえます。フェムト秒は、ちょうど2つ

    の分子が反応するときに原子レベルの変化が起こる時間にあたります。超

    短時間だけ発光するレーザーを用いると、化学反応の最中に分子が組み合

    わさる瞬間を見ることができます。それを何回も繰り返すことにより,化

    学反応の様子を動画で撮影できるのです。こうして、X線レーザーはこれ

    までよりはるかに高い原子レベルの解像度、高時間分解能で分子反応を鮮

    明にとらえます。

    構造分子生物学

    X線レーザーを用いると、生物分子の構造を原子のレベルで解読すること

    ができます。X線のフラッシュが非常に強いため、分子一つ一つの細かな

    構造を撮影することができるようになります。また露光時間が短いため、

    これらの分子の動きをとらえることもできるようになります。こうしてた

    とえば生物が病気に感染するしくみなどを分子レベルで理解することがで

    き、新薬の開発などに有用なデータが得られます。

    物質科学

    物性研究の分野でもX線レーザーは次のような基本的な疑問に答える手が

    かりを与えます。たとえば、固体が形成される瞬間の様子、急激な物質の

    状態の変化(いわゆる相転移)が起こる経過などです。こうした疑問への

    答えは、実用上さまざまな意味を持っています。たとえば、動いている物

    質の摩擦や摩滅を原子レベルで理解することにより、これまでの物質の性

    質を理解するだけでなく、新素材の開発に役立てることができます。他分

    野と同様、X線レーザーが短い時間で大強度の光を発生できることを用い、

    これらの現象をできる限り高解像度で高速度にとらえることができます。

    また、これらの知識をいわゆるナノテクノロジーでのテーラーメイド新素

    材の開発に役立てることができます。

    最先端の技術をもとに

    このX線レーザー計画では光の発生のために,超伝導加速空洞を用いた電

    子線形加速器を用いて電子を小さな空間に閉じこめたもの(バンチと呼ば

    れます)を100-200億電子ボルトまで加速します。加速された電子は

    ほぼ光と同じ早さで「アンジュレータ」と呼ばれる特別な配列の磁石によ

    り進路を左右に繰り返し曲げられて走り抜けます。この際発生した放射光

    がお互いに重なり合うと、光が増幅します。その結果、レーザーの性質を

    持つ非常に強くかつ短い時間幅の光パルスが発生します。これがX線レー

    ザーと呼ばれるもので、この発生のためには電子ビームのバンチの大きさ

    など、ビームの性質がよく保たれる必要があります。DESY で国際協力

    の下に開発されたTESLA超伝導加速空洞技術は現在すでにこれらの条件

    を満たしています。

    技術目標を達成

    X線自由電子レーザーという独創的な技術が実現可能なことをみごとに実

    証したのは,DESYのTESLA試験装置です。1992年から2003年に

    かけて、研究者の国際共同チームがここでXFELに必要な装置の開発と試

    験を行い、その成果、特に超伝導加速空洞を用いた加速器技術をもとに、

    XFEL、素粒子物理のプロジェクトである国際リニアコライダー(ILC)

    の両者の技術的な基礎を確立しました。

    2002年に行われた自由電子レーザー試験装置を用いた最初の実験の一

    つでは、次のような実験が行われました。国際共同のチームが物質の相互

    作用の様子(ここでは、希ガスの凝集状態同士の相互作用)を非常に大強

    度で短いパルスのレーザー光でとらえることに初めて成功したのです。こ

    の実験では凝集状態をモデル物質として、レーザーパルスを用いた将来の

    実験で実際に何が起きるか基礎過程を理解できました。このような実験を

    発展させることにより,前述のように様々な物質の振る舞い、たとえば超

    高温下、新素材の物性の測定、医学的に重要な生体中の分子などを調べる

    ことができます。

    すでに走り始めた遠紫外自由電子レーザー

    新しい自由電子レーザー装置はすでに2004年から遠紫外のレーザー光

    を発生しており、それを用いた全く新しい実験が始まっています。これは

    将来の自由電子レーザー計画の実証実験の役割を持っており、波長6ナ

    ノメートルの軟X線(波長の長いX線)まで発生させることができます。

    このレーザー発光装置を設置するため、TESLA試験装置が100mから

    260mに延長されました。遠紫外自由電子レーザー装置は世界で初めて

    の位相のそろった、短波長、大強度でかつ短時間発光のレーザー装置とな

    ります。この装置の運転を通じて、将来の、より短波長のX線レーザー装

    置に対するさらなる洞察の向上を目指しています。同時に、素粒子物理の

    将来計画である国際リニアコライダー ILCのテクノロジー試験としての役

    割も担っています。

    絵と数字で見るXFEL計画

    自由電子X線レーザー装置XFELは自己増幅即時放射(Self-amplified spontaneous emission, SASE)原理に基づき、電子線形加速器からのビームを用いてレーザー発振します。

    ・装置の全長 約 3.3 km・加速器トンネルの全長 約 2 km・トンネルの深さ 地下6‐15m・実験ホール(地下) 5本のレーザービーム、10カ所の測定ステー

    ション、4500m2

    ・第2期計画 10の測定ステーションをもつ実験ホールの増設

    ・X線の波長 6‐0.085ナノメートル(1ナノメートル:1千万分の1cm)

    ・電子ビームエネルギー 100‐200億電子ボルト

    ・レーザーパルスの最短放射時間 100フェムト秒(10兆分の1秒)以下

    建設・運営費9億800万ユーロ(2005年現在約1200億円)。これには建設費、人件費および物価上昇分を含む。研究所のおかれるドイツの負担は約6割、残りはヨーロッパ参加各国の負担。

    建設予定地ドイツのハンブルク市および隣接したシュレースヴィッヒ・ホルシュタイン州にまたがる場所でドイツとヨーロッパ参加各国が合意。電力、水道などの供給は既存のDESY研究所を用い、またここを加速器の始点とする。実験ホールなどのXFEL研究所はほぼ全域がハンブルク市に隣接するシェーネフェルト市におかれる。