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特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 57

特集 3

5G量子覇権―米中冷戦のゆくえ―

矢吹 晋(21世紀中国総研ディレクター)

(1)トランプ対中制裁と習近平「新世代の人工知能発展規画」

2017年 7月 21日トランプ大統領は「大統領命令 13806号」に署名し、この命令に基づいて「製造業と防衛産業の基盤強化と供給連鎖復元力(supply chain resiliency)の強化について」と題する報告書が作成された注 1。

3節からなる命令の第 1節「政策」では、2000年以来 6万工場と 500万雇用が喪失したことによって、製造業と防衛産業の基盤と供給連鎖は弱まっていてその対策は急務だ、と警告している。第 2節では、製造業と防衛産業の基盤と供給連鎖復元力の評価、命令から 9カ月以内に、機密扱いではない、公開文書で報告せよ、と以下の政府責任者たちに命じた。すなわち国防長官、国務長官、商務長官、労働長官、エネルギー長官、国土安全保障長官、内務長官、保険福祉長官、行政管理予算局長官、国家情報長官、安全保障担当補佐官、経済政策担当補佐官、貿易・製造政策長官が命令を受けた。そして国防長官が指定した担当官たちは、以下の各項について報告せよ、として特に軍需物資、原材料その他物資を挙げている。このトランプ命令の直接的契機となったのは、中国の習近平政権が 2017年 6月 27日に公表した国家情報法と見られる。この法律は、中国の情報活動に関する基本方針とその実施態勢、情報機関とその要員の職権等について定めたものであり、中国が情報活動に関して独立した法律を制定したのは、これが初めてである。この国家情報法と前後して中国では「新世代の人工知能発展規画」注 2を策定しており、そこには表 1のような「人工知能発展の3段階計画」が示されていた。中国はすでに第一歩として「世界に追いつく」段階に到達しており、2025年

には第二段階を迎え、2030年には「世界をリードする」と第三段階の目標を提示した。「世界をリードする」とは、トランプ側から見ると、米国を追い抜くことだ。現代の科学技術の象徴としての人工知能発展において米国を追い抜くという中国の挑戦状に接して、トランプ政権がどのような衝撃を受けたか。それを証

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明するものこそ、大統領命令なのであろう。

米国の IBMが量子コンピュータのプラットフォーム IBM-Qを一般の利用に公開したのは 2017年 3月のことだが、これに対抗するかのように中国科技大学の潘建偉教授が 5月 3日に、上海市で中国の科学研究チームが光量子コンピュータの開発に成功したと発表し、この試作機のサンプル計算速度は、世界の同業者による実験の 2.4万倍以上に達した、と新華社が報じた。さらに 2016年 6月 22日、酒泉衛星打上げセンターで墨子衛星を打ち上げた後、

解放軍政治部は世界初の「宇宙科学パイオニア(空間科学先導)」プロジェクトの宣伝戦略分析を行っていると報じられた。中国が「世界初の量子科学実験衛星・墨子号の打ち上げ成功注 3」と公表したのは 2016年 8月 16日である。これが発表された当時は、その成功を疑問視する向きもないではなかった。しかしながら、その 1年後の 7月 12日に中国科学院の「量子創新研究院」(信息与量子科技創新研究院)の除幕式が安徽省合肥で行われ、同じ頃に中国軍事科学院も「国防科技創新研究院」を設立し、世界級研究院を建設するために世界一流の人材をリクルートする、と報じられ、中国の量子科技研究が世界の最前列に立つことは、広く世界に認められるようになってきた。

9月 13日にはミシガン大学教授施堯耘(Shi Yaoyun)注 4が、ネット通販の大手アリババの付属研究所に移籍して、その人工知能研究を指揮すると発表された。9月 29日には北京・上海間 2000㎞の「京滬幹線」が衛星墨子号を経由して途中32駅を含みつつ結ばれたと発表された。注 510月 12日には中国科学院量子創新研究院がアリババクラウド(阿里雲)と共同して「量子コンピュータ・プラットフォーム」を設けたと新華社が報じた。そしてこれらの報道を確認するかのように、2017年 10月 27日、習近平は中国共産党第 19回大会報告で「人工知能と量子技術」の突破を含む「新技術革命の戦略的意義」を強調した。

表 1 人工知能戦略目標(2017年 7月)

(資料)新一代人工智能発展規劃

時期・目標 人工知能の産業規模 関連産業の規模

第一步2020年

1500億元= 2.5兆円以上 1兆元= 16.5兆円以上世界に追いつく第二步 2025年 4000億元以上 5兆元以上

第三步2030年

1兆元 10兆元世界をリードする

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(2)ZTEの通信技術をめぐる米中の確執

トランプの大統領命令に先立ち、実は民主党オバマ政権下の 2011年から潜航捜査が行われていた。当時の疑惑は華為技術が対イラン制裁に違反している、というものであった。例えば、米国が密かに得た 2011年 8月 25日付の華為技術機密文書は孟晩舟(父親の任正非が設立した華為技術の副会長で最高財務責任者)の助手が運んでいたレノボのノートパソコンから押収したものといわれる。華為技術 4人の経営陣がサインした文書であり、「制裁対象国(イラン)でプロジェクトを行うのに必要な製品を、米国で調達するフロント企業(スカイコム社)設立の必要性を確認する内容」であった。この取調べが ZTE(中興通訊)を追及する重要な証拠になった注 6。2012年、ロイターのスクープ記事が、ZTEと華為技術によるイラン制裁違反疑惑の詳細や、イランとの取引でフロント企業の役割を果たした疑いのあるスカイコム社と華為技術の緊密な関係について報じた注 7。2014年、孟晩舟がニューヨークのケネディ国際空港から米国に入国しようとした際に取り調べて、米当局は孟晩舟が所有していた端末の1つに、華為技術と香港スカイコム社の関係について、「通常のビジネス協力である」などとする応答要領が残されているのを発見。この時、孟晩舟は別室で追加検査を受け、電子機器を提出させられたが、端末は数時間後に返却され、孟晩舟は解放された。

2014年 9月 12日、米当局は入国しようとした ZTEの当時の CFOを検査。米国が長年疑念を抱いてきた「制裁対象の国々と華為技術の取引を裏付ける情報」なるものが発見された。この CFOは、アシスタントとともにロンドンからボストンのローガン空港に到着した際に足止めされた。

2017年 3月、中興通訊は、イラン・北朝鮮へ米製品・技術を輸出したことを認め、米当局に総額 8億 9200万ドル(約 972億 2800万円)を支払うこと、さらに違反があった場合、同社は 3億米ドル(約 327億円)の追徴金を支払う合意ができた、とロス商務長官が声明。2017年 2月 14日、米財務省や商務省、国土安全保障省や司法省から十数人が参加し、ワシントンで華為技術を追及する方策を話し合った。この時、連邦検察 FBIが、華為技術と香港上海銀行(HSBC)との関係を議論した。2017年 4月、華為技術の米国法人に対して大陪審の召喚状が出され、この問題が刑事事件として訴追されることが初めて明確に示された。これを察知した華為技術は、イランとの取引を知る中国人従業員を米国から出国させ、証拠を隠滅したと、検察側は指摘。孟晩舟など華為技術の幹部は、米国渡航を見合わせるようになった。

2017年 8月、ローゼンスタイン司法副長官が、華為技術の銀行詐欺疑惑に対する捜査の指揮を、ブルックリン連邦検察 FBIの手にゆだねた。連邦検察 FBIは、すでに司法省の資金洗浄対応部署と連携しており、他の省庁の担当者も、FBIのチームに合流した。イランへ違法に輸出された米製品の多くは米当局の捜査権限

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孟晩舟(1972年生まれ。父親の任正非が設立した華為技術有限公司の副会長、最高財務責任者)

が及ばないため、銀行詐欺のルートの方が、訴追に早くたどり着ける可能性があった由。また、制裁違反や輸出違反よりも銀行詐欺の方が、他国政府に容疑者の逮捕と身柄の引き渡しを要請できる可能性が高く、時効も長かった。

2018年 4月 16日、中興通訊は、幹部社員 4人を解雇したものの、米商務省と約束していた他の 35人の懲戒処分を行わなかった。そこで米商務省は、国有企業・中興通訊が約束を履行しなかったとして、追加罰金 6.6億ドルとともに、今後 7年間(2025年 3月 13日まで)、同社に対し、チップ等の部品調達を禁止すると発表。中興通訊への罰金は都合 22.9億ドルに増えた。同時に、華為技術に対しても中興と同じように違法行為が認められるとして、中興通訊と同様の措置を取ると公言した。

2018年 4月 19日米議会米中経済・安全審査委員会(USCC)は『米情報通信技術(ICT)サプライ・チェーン・リスク・レポート』注 8を発表した。その中には、中興通訊・華為技術をはじめ、北京華勝天成(Beijing Teamsun Technology)、京東方科技集団(BOE Global)、中国電子科技集団公司(China Electronics Technology Group Corporation,CETC)、浪潮集団(Inspur)、聯想集団(Lenovo Corporation)等の問題視されている会社の名が挙げられている注 9。

2018年 4月 21日、米国の措置に対し、北京政府は早速、トランプ政権に対し「極めて不公正で受け入れられない」と声明を発表し、米中貿易戦争は新たな局面を迎えて「新冷戦」に転化した。2018年 6月 7日、ロス商務長官が中興通訊問題で、2017年 3月和解協議を中国が遵守しなかったことで追加制裁を声明。2018年夏、事件の指揮を執るようになってから1年後、FBIは秘密裡に孟晩舟の逮捕状を取得した。2018年 12月1日、カナダ当局が孟晩舟の身柄を拘束。「メキシコに向かう途中でバンクーバーに立ち寄る」との情報が FBIに入り、FBIはカナダ当局に空港で拘束するよう要請した注 10。

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2019年 2月 28日、華為技術子会社 2社は、米シアトルの裁判所で罪状認否を行う。米司法省は、「華為技術 USA」と香港の通信機器販売会社「スカイコム・テク」が「Tモバイル US」によるスマホの品質試験で使っていたロボット「タッピー」に関連する技術を盗み司法妨害を行ったと主張した注 11。2019年 3月1日、逮捕前に取り調べを受けたのは権利の侵害に当たるとしてカナダ政府などを提訴した注 12。

2019年 3月 7日〔華為が米国政府を提訴〕、華為技術は米政府機関が自社製品の使用を禁止しているのは不当だとして、米政府を提訴した。同社の郭平・輪番会長は声明で、「米連邦議会は一貫して、華為製品の使用規制の裏づけとなる証拠を一切提示していない。そのため我々は、適切かつ最後の手段としてこの法的措置をとらざるを得ない」「この使用禁止決定は違法なだけでなく、このために華為は公正な競争に参加できず、究極的にはアメリカの消費者に不利益を与えている」とコメントした。

2019年 3月 21日、マイク・ロジャース元下院議員は米ヘリテージ財団で「華為問題の核心は米国民のデータが中国政府に渡るのを容認できるか否か」だと強調した。同議員は 2012年 10月、米下院情報特別委員会の委員長として、華為締め出しの議会報告書作成を主導した。華為問題についてアメリカン・エンタプライズのクロード・バーフィールドは「華為がここまで強くなると、時すでに遅しかもしれない」とコメントした。

2019年 3月 29日、華為が 2018年 12月期決算を発表した。売上高は前年比19.5%増の 7212億元(約 11.9兆元)、純利益は同 25.1%増の 593億元(約 9800億円)で、ともに過去最高。売上高に貢献したのは出荷台数で世界 2位(1位はアップル)のスマホであり、独ライカと共同開発したカメラ機能を搭載する P20プロが好評。郭平・輪番会長は「華為と協業する企業は 5G時代に最も高い競争力を発揮できよう」とコメントした。

2019年 5月 1日ロイター電によると、英国のメイ首相は、中国通信機器大手、華為技術に関する国家安全保障会議の討議内容を漏らしたとして、ウィリアムソン国防相を解任した。これは 4月 23日付の英『デーリー・テレグラフ』紙が、英国は華為に対し次世代通信規格「5G」ネットワーク構築への参入を制限付きで認める方針と、情報源を明かさず報道した。メイ首相はウィリアムソン国防相への書簡で、漏洩について調べたところ、「承認を得ずに公表した責任の所在を示す説得力のある証拠」が見つかったと指摘し、国防相を解任し、ウィリアムソンの後任にモーダント国際開発相、モーダントの後任にスチュワート刑務所担当閣外相を指名した。

(3)米中貿易戦争からハイテク覇権争奪へ

トランプ政権下における米中貿易戦争は 2018年春、鉄鋼とアルミニウムの追

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加関税発動から始まった。ここでは知的財産権の侵害などを理由に、多くの輸入品にも追加関税を課す方針が提起された。米国の保護主義を回顧すると、大恐慌後の 1930年、フーバー大統領時代には「スムート・ホーリー法」が作られ、輸入農産物の関税を引き上げた。その後、対象を幅広い輸入品に広げた。レーガン大統領の 80年代には「通商法スーパー 301条」を発動し、日本やインドからの輸入品関税を引き上げ、輸入を制限した。このスーパー 301条はクリントン大統領の 90年代にも 2度発動された。1995年に GATTがWTOに改組されると、スーパー 301条は協定違反とみなされる恐れが生じて、米国はその発動を控えたが、トランプ政権は「アメリカ・ファースト」のスローガンを掲げて、再度発動した。中国のWTO加盟は 2001年である。中国は労働集約型産業に依拠して輸出指向型経済大国になり、外貨準備高を 4兆ドル近くまで積み上げた。うち約 1兆ドルは米国債の購入に当てられた。これがチャイメリカ体制の成立である。その後、中国は資本集約型産業への転換を進め、中間財や資本財を輸出する大国になり、米中間の貿易構造は垂直貿易から水平貿易に大きく転換した。表 2から分かるように、中国の対米輸出品の 52%、米国の対中輸出品の 49%は、同じ「中分類」に属する。中国は高度な部品を米国から輸入し、米国は低位部品の生産を中国に委ねている。米中貿易がかつての垂直構造から水平構造へ転換したことは何を意味するか?米国の赤字を黒字の中国が埋める補完構造、依存構造には変化はないが、主従の力関係が変わりつつあることを示唆する。すなわち、かつての米国主導のチャイメリカから中国主導のチャイメリカへの変化に他ならない。

表 2 中国の対米輸出入の商品構成(2017年)

(資料)World Trade Atlas に基づいて、注1の報告書が作成したもの。

中国の輸出 % % 中国の輸入85電気機械設備 26.3 25.5 85電気機械設備84石油類 16.8 9.5 84石油類39プラスチック 3.1 3.9 39プラスチック90光学機械 3.1 5.5 90光学機械87乗り物 3.0 4.4 87乗り物(小計) 52.3 48.8 (小計)94家具 4.0 11.5 27鉱物等62アパレル織物 3.2 7.0 26銑鉄スラグ61アパレルニット 3.2 3.1 29有機化学品73鉄鋼製品 2.5 2.5 12製油種子95玩具等 2.4 2.3 74銅その他 32.4 24.8 その他合計 100.0 100.0 合計

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この変化と微妙にずれながら重なるのが第 4世代通信から第 5世代通信への移行である。21世紀 10年代までは米国を盟主とする 4世代通信によってグローバル経済は結ばれていた。しかしながら 5世代通信は事実上、中国がその主たる基地局や人工衛星、人工知能、モバイル機器の供給チェーンの主なサプライヤーにならざるをえない。現在の米中関係を一言で表現すれば、米国の IT製品や国防兵器を作るに際して、中国製の部品がなければ完成しないというサプライ・チェーンの脆弱性の問題である。これは別の用語でいえばレジリエンシー、すなわち経済循環回復力の問題だ。最先端の技術、カギになる部品さえ自国で生産すれば、他は部品供給国にまかせればよい。これが伝統的米国の考え方であった。ところが最近になって気がついてみると、最先端の量子通信技術やスマホの量産体制においても、米国のサプライ・チェーンがきわめて脆弱な姿が露呈された。それが中興通訊・華為技術騒動の核心なのだ。米国は知財の窃盗とか、米国市民や国防の情報窃取とか、中国を非難し続けているが、何一つ具体的な証拠を挙げられず、米国の右派・鷹派をますますいらだたせている。時すでに遅し。中国経済を封鎖して打撃を与え、米国の主導権を回復させようとする白日夢はすでに消えた。これからは中国主導体制のもとで新たな平和共存の枠組みを再構築するしか道は残されていない。しかしながら、これまで米国独り勝ちの覇権を享受してきた米国の右派・鷹派にとって、これは容認しがたい事態と映る。ここから右往左往が始まる。米ソ冷戦体制はソ連の解体によって終焉した。米国の右派鷹派は中国の現実にソ連の二の舞を妄想し、共産党中国の解体、民主化中国を望む。しかしながら、中国の指導者たちは、ソ連解体を身近に観察し、衰えた大国の悲惨さを研究しつつ自らの再興、経済発展への努力を続けてきたのであり、二の舞を踏むことは、ほとんどありえないと見るのがいまや常識だ。リーマン大恐慌後、いよいよ拡大する貧富の所得格差を見て、「資本主義中国」という夢を放棄した。このように見る筆者にとって、トランプ政権の一挙手一投足は風車に挑むドン・キホーテそのものだが、そのような人物が大統領に選ばれたことの意味するものは何か? これを米国経済の「衰退の象徴」と読むのが本稿の基本的な立場である。これは米国の強さを意味するものではなく、長い衰退過程の一里塚と見るべきである。最初の兆候は、1971年、ニクソンによる米ドル兌換停止措置であり、第二の兆候は 2008年のリーマン危機である。現在の米中関係を考える一つのモデルは、冷戦期の 1957年にソ連がスプート

ニク打ち上げに成功した時期であろう。あの時点でソ連の科学技術は米国を上回り、米国に先立って人工衛星の打ち上げに成功した。米国はこれに対抗すべくアポロ計画を策定し、1969年に実現した。米ソの軍事力、経済力競争は、1991年末、ソ連解体という形で終わった。現在の米中科技競争は、2016年に中国が量子衛星打ち上げに成功したのに対して米国はまだそれに成功していない。この文脈では、かつてのソ連と類似して、

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2019年は、次世代モバイル通信 5Gの商業実験のスタート年として記録されることになろう。筆者(矢吹)は習近平自身の肝入りで開かれたド派手イベント(2019年 5月 14~ 21日)に招かれて、その威力の一端を痛感させられた。このイベントは米中「新冷戦」と呼ばれるような米中対立に際して、中国が「世界運命共同体」の大義名分を掲げて、米国に対抗する意図が随所に現れたイベントであったが、なによりも「5G技術の実験」として行われた点で注目された。既存の 4Gでは通信容量の制約からして、これだけの観衆がスマホで動画を撮影し、それを仲間に送る事態を想定した場合に対応できない。5G技術だからこそ可能なきめ細かな LED照明や瞬時の場面転換を目の当たりにして大いに驚かされた。EV車の自動運転や心臓手術の遠隔指導などには、大量のきめ細かな情報を瞬時に送る必要があり、これは既存の 4Gでは不可能なのだ。

5G通信の初期段階は旧 4G技術の改良にとどまるが、2020年から 10年計

墨子号による量子通信のイメージ(中西貴之「中国、絶対に解読不可能な通信技術を開発…世界に衝撃」より。原載 AMERICAN ASSOCIATION FOR THE ADVANCEMENT OF SCIENCE)

矢吹コラム 1

「アジア文明カーニバル」と量子覇権の追求

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画で進展する 5G通信の後半は現行コンピュータではなく、量子コンピュータに依拠することが想定されている。その量子コンピュータの開発競争をめぐって米中両国間で密かに進められている「開発競争」の前哨戦こそが現在の米中対立の核心にほかならない。2014年以来、中国は量子コンピュータの分野での特許・応用件数で米国を上回っている。2017年時点で、中国の関連特許はすでに 553件に達し、米国は 307件に過ぎない。これらの事実から「5G通信における覇者」(通信規画等)は 4G時代の米国から中国に移ることは、識者が前から指摘してきたことだが、通信技術の支配は直ちに国防システムに影響することから、米国の対中警戒心を刺激している。そこで焦点は、未来の量子計算・量子コンピュータであろう。従来型コンピュータは 2進法を採用して計算するシステムで、それぞれ 1あるいは 0が1ビットと呼ばれ、データ貯蔵の最小単位である。これに対して「量子コンピュータ」は「量子ビット」を単位とする。従来型と比較すると、少ないエネルギーで、より多くの情報を内蔵できる。新華社通信の解説によると、「量子コンピュータが 50量子ビットを有効に操作できれば、その能力は従来型コンピュータを上回り、従来型の挑戦を許さない「優位性、すなわち覇権」を実現できる。この『量子覇権 Quantum Hegemony』追求が各国科学研究機関の競争目標となっており、中国が最前列にいると見られている。世界初の量子衛星・墨子号を打ち上げが公表された 2016年 8月 16日、潘建偉は記者の問いにこう答えている。「理論的には量子暗号は解読不能である」とその軍事的意味を強調しつつ、量子通信暗号は「敵が解読できない」ばかりでなく、敵の伝統的暗号は量子通信によって容易に解読でき、ステルス戦闘機は丸裸にされる。これが「無敵の量子通信」と呼ばれる所以だ、と解説した (「我国将力争在 2030年前后建成全球量子通信網̶̶訪我国量子科学実験衛星首席科学家潘建偉」趙金竜、王暁亮、本報記者鄒維栄『解放軍報』)。量子通信が真に解読不能か否か、論争は続いているが、中国の人々から見ると、この世界最先端の技術を外国から導入するのではなく、中国の科学者たちが自力で世界に先駆けて実現したことで、墨子衛星は「誇りの核心」と化している。これが誰の模倣でもなく、「メイドインチャイナ」であることは、誇り高いアメリカ人も認めざるをえない。量子計算・量子コンピュータによって既存のステルス戦闘機は丸裸にされて

「ステルス性」を失う。他方、これを解読中の中国側の暗号システムを米国は解読できない――これが量子コンピュータを軍事技術に用いた場合の効用であり、米国の軍事的優位性喪失は明らかだ。トランプが中国の科技に脅威を感じて、なりふりかまわずこれを阻止しようとするのはこのためではないか。

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中国が一歩先行している。これが類似点だ。だが大きな違いがある。ソ連はスプートニクから 38年後に解体した。しかしながら、ソ連解体の教訓を深く学んだ中国の経済力はいよいよ全面開花しつつあり、かつての米ソ関係とは、決定的に異なる。米国はこれまで中国の経済発展のあとに「政治的民主化」の幻影を期待してきたが、いまやその幻影が消えつつあることを感知して、対中強硬政策に転換した。しかしながら、時すでに遅し。中国へのさまざまな圧力は、中国の意欲を削ぐどころか、かえって中国人を団結させ、米国を追い抜く決意を強める結果を招くと予想される。

(4)量子衛星の打上げと「第 2次量子革命」

ニールス・ボーアは 1957年に「初めて量子理論に遭遇してショックを受けなかった者は、たぶんそれを理解することができない」と書いた注 13。それから 59年後、2016年 8月に中国初の量子衛星・墨子号が打ち上げられ、いま「第 2次量子革命(The Second Quantum Revolution)」を迎えている。墨子号が米国ではなく、中国によって打ち上げられたことも象徴的な事態である。21世紀初頭の今日、米国のリーダーシップは中国の挑戦をますます受けるようになっており、その現実を端的に証明するものこそ、墨子号にほかならない。初めに、量子技術革新を概観しておきたい。①量子暗号(Quantum Cryptgraphy)はハッキング不可能量子情報は理論上、コピー不可能といわれる。それゆえこれも理論上の話だが、ハッキング不可能な形で送受信できる。すなわち量子暗号はハッキング不可能、究極の暗号通信が可能となる注 14。これまでは日光が障害を与えるので、夜間にしか利用できないとされてきたが、この「夜間利用問題」は中国の科学者によって解決されたといわれる注 15。それだけではない。限られた範囲内のことだが、量子通信は海水のなかでも行える注 16。②量子コンピュータはキュービットを使う従来のピュータは計算基準として、0か 1か、というビットを使うが、量子コ

ンピュータが用いるのはキュービット qubits単位であり、指数関数的に能力が高

図 1 施堯耘らの量子回路論文表紙

(資料)arXiv:1805.01450v2 [quant-ph] 7 May 2018.

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まる注 17。現在のところフルスケールの量子コンピュータはまだ作られていない。カナダの会社が発表した D-Waveは、量子コンピュータと時に呼ばれているが、これは「量子アニーリング」(quantum annealing)を用いたもので、真の量子コンピュータが発揮できる計算速度を示しているとはいえない注 18。近年は、トポロジカル量子コンピューティング(topological quantum

computing)の話題が多い。これは量子ビットを網目状に配置して適切な境界条件を設定することにより、量子誤りを自動的に検知し、補正を可能にする方式の測定誘起型量子計算(measurement-induced quantum computing)方式による。ここで網目とは主に 2次元の規則的な格子状である。適切な境界条件とは、右辺と左辺を同じ状態とし、上辺と下辺を同じ周期的境界条件とすることなどを意味する。例えば、左右を貫く経路や上下を貫く経路がそれぞれ 1量子ビット、計 2量子ビットを表現でき、エラーが入っても経路がずれるだけで 2量子ビットの表現は変わらないなど、エラー耐性に強い。測定誘起型量子計算としては、最初にクラスター状態を形成するクラスターステート量子計算(cluster-state quantum computing)が知られているが、トポロジカル量子計算はエラー耐性と大規模化適性(scalability)を飛躍的に高めたものである。量子情報の誤りを直すしくみは、次の方法による。情報の「本文」と別に追加の量子ビットを用意する。本文と追加個所をもつれさせ、本文の誤りを追加個所に反映させて誤りの存在をつきとめる。量子ビットは粒子状態の重ね合わせを使うので、デコヒーレンスによる誤りが起こりやすい。このため、量子コンピュータでは修復が欠かせない。

2018年 3月 5日、グーグルは 72量子ビット(キュビット)のブリストルコーン(Bristlecone)という量子チップを導入し、量子超越性(quantum supremacy)を目指すと発表した。しかしながらアリババの研究者施堯耘は、エラー率が 0.5%以下になっていない、と「超越性」を批判した注 19。量子超越性とは、従来型コンピュータの限界を超える計算量の処理が量子コンピュータで可能になることを意味する。Googleは、量子ビットが 49個以上になれば量子超越性が可能になるとしている。その条件は、49量子ビットで量子回路の深さが 40以上、2つの量子ビットの量子ゲートのエラー率が 0.5%以下という。Googleは、72量子ビットというサイズを選んだ理由を、量子超越性を実証し、実際のハードウェア上での量子アルゴリズム開発を容易にするのに適しているためと説明する。ブリストルコーンの 2つの量子ビットによる量子ゲートのエラー率は 0.6%で、量子超越性にはまだ届かないが、グーグルは「慎重かつ楽観的にブリストルコーンで量子超越性を達成できるとみている」という。中国の研究者たちは 2019 年には米国に対して「量子覇権」(quantum

supremacy)を達成できると見ている注 20。例えば中国の科技大ホームページ注 21

を見ると、中国の研究者たちは世界初の量子コンピュータを開発したと潘建偉や陸朝陽注 22(いずれも中国科学技術大教授)が述べている(図1)。

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③量子レーダー(Quantum Radar)―そのタイミング、イメージング、センサー、方法論量子センサーはステルス戦闘機など、これまでのレーダーでは発見不可能であった航空機や地下に隠された武器や施設なども発見できる注 23ことから、注目を集めている。量子の材料については張首晟(スタンフォード大教授)の論文が有名だ注 24。張首晟教授は量子スピンホール(quantum spin hall, QSH)の研究者としてノーベル賞に最も近い研究者と評価されてきたが、2018年 12月 1日に死去した注 25。

(5)量子覇権のグローバル争奪戦

2018年 2月 14日、新華社は「量子覇権のグローバル争奪戦を観察する(全球“量子霸権”争奪戦観察)と題する評論を発表した注 26。その骨子は、次のリード文に示されている。◆“量子霸権”を奪う者が技術の「制高点」を握り、技術の標準化決定権と主導権を握り、産業競争において有利な地位を獲得できる。◆量子コンピュータを先に開発した国こそが立ち遅れた国に対して国家安全を夢見ることができる。企業と科学研究を導きとして世界の主要国は競争に「参戦」している。◆中国は「量子通信では先導している」が、量子コンピュータは全体としては「第一陣営」に属しているとはいえ、多くの分野で先導(領跑)ではなく、「追いかけて走る」(跟跑)立場にある。2017年末に IBMは、「50ビット量子コンピュータ」を発表し、インテルは

2018年初めに「49ビット量子チップ」を発表し、グーグルとマイクロソフトも「新量子兵器」を近く発表する意向だ。ITの巨頭たちは量子霸権を狙っている。量子理論が 1900年に誕生して 118年目の今日、「第 2次量子革命」の段階に突入した。20世紀 80年代にノーベル賞を得たリチャード・フォイマンは、量子の不思議な特性に基づいて量子コンピュータができることを提案した。従来のコンピュータはトランジスタにより、「1か 0か」の組み合わせを 1ビットと名付けた。これに対して量子ビットは、「1かつ 0」という 2種の状態を量子ビットとするので、並行計算が可能であり、計算能力は指数関数的に能力が高まる。理論上でいえば、従来のコンピュータならば数万年かかる複雑な計算を数秒間で解決できる。

2011年にアメリカの物理学者が量子コンピュータ優位性の target(靶点)を提起した。「量子コンピュータが 50ビットに発展するならば、その計算能力は地球最大のコンピュータの能力を上回り、量子覇権を実現できる」と指摘した。以来、誰がこのターゲットに到達できるかという競争が始まった。さて、新華社の評論は、この解説に続けてこう指摘して注目された。「もし中国が量子の優位性(quantum supremacy)」を追求するならば、ゲリラ戦ではなく、「集団軍戦」を組織しなければならない」と注 27。そもそも「ゲリラ

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 69

作風」は中国共産党のお家芸だが、その種のやり方では現代戦は到底戦えない。このような思想はかねて解放軍のなかにも浸透して、これまでも解放軍は正規軍化、集団軍化への再編成を進めてきたが、この組織再編にならって、科学研究の分野においても「集団軍化」が必要だと力説してきたのは、郭光灿(科技大教授)や、潘建偉(同科技大教授、科学院院士)等であった。習近平はこれら第一線の研究者を招いて中共中央政治局で「量子霸権」の学習会注 28を重ねてきた。例えば『経済参考報』(2017年 10月 23日)は、潘建偉をインタビューして「量子革命」を次のように語らせている注 29。「中国で発せられた挨拶が量子秘密通信で上海から北京に届き(上海北京量子幹線)、そこから宇宙衛星墨子号に載せ、その声が地球を半周してオーストリアに届いた。これは人類史上初の大陸間量子秘密通信である。通話内容は量子暗号化されているので、理論上は解読不能だ。量子衛星が宇宙にあり、量子コンピュータクラウドが機能し、北京上海量子幹線が機能して、第 2次量子革命がここに始まった」。表 3は量子衛星打ち上げまでの歩みを示す。

2008年 10月、安徽省の省都合肥にある 3地点、すなわち中国科学技術大学、杏林苑、濱湖新区で量子通信の初めての実験が行われた。それから 5地点、46地点と合肥市、山東省済南地域で実験網が拡大された。これが後に「京沪幹線」としてつながる原型である。その後、量子衛星墨子号の発射が成功するや、量子通信ネットワークは「広域」へ「大陸間」へ、と拡大して、「天地一体」の秘密保持通信網が形を整えた。2017年 9月 29日午後、中国科学院院長白春礼はオーストリア科学院院長アントン ·セリングと量子秘密通信ネットワークで、テレビ通話を行った。まず“京沪幹線”の北京コントロール・センターで「墨子号」の地上センターと繋ぐ。それから墨子号を通じて、オーストリア地上ステーションへ衛星量子通信を送り、これが 7000キロ離れた欧州に届く。「京沪幹線」プロジェ

表 3 量子衛星墨子号打ち上げ成功までの経緯(2009年 9月~ 2016年 4月)

(資料)『中国科学報』2016年 8月 16日、第 1版要聞

2009年 12月 宙科学先導プロジェクトに参加する戦略的先導科技プロジェクト実施方案評議会が 16プロジェクト中の一つとして選定。

2010年 3月 31日 国務院第 105次常務会議が科学院「創新 2020」規劃を採択。2011年 12月 23日 墨子衛星プロジェクト動員会が北京で開かれ、量子衛星が正

式に研究製作段階に入る。2014年 12月 30日 墨子衛星が初期モデルから正式モデルに移行する審査が通過

して、正式モデルの研究製作段階に移行。2015年 12月 6日 墨子衛星システムと科学応用システムの「星地光学対接試験」

が完成し、天地一体化実験システムが科学目標的指標を満たすことを確認。

2016年 2月 25日 墨子衛星プロジェクトの「大システム連結テスト」が完成。2016年 4月 11日 墨子衛星打ち上げロケットが完成し、審査を通る。

70  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

潘建偉をリーダーとする中国科学技術大学のチームは 2019年1月 31日、米国科学振興協会(AAAS)から 2018年の「ニューカム・クリーブランド賞=Newcomb Cleveland Prize」を授与された。同賞の 90年以上の歴史の中で、中国人科学者が受賞したのは初めてである。受賞したのは、科技大の潘建偉教授が率いる「量子科学実験衛星・墨子号」の建設に参加した研究チームである。中国古代の科学者墨子は「兼愛論」などの哲学思想で有名だが、科学思想家としても知られている。そこで潘建偉のチームは「量子通信」の実験のために 2016年 8月 16日に打ち上げた人工衛星に「墨子号」と名付けた。この衛星打ち上げは、世界の量子通信ネットワークに技術面の保証を与える重要な衛星と紹介されてきたが、世界初の実験衛星なので、その評価は分かれていた。つまり、潘建偉らの発表をそのまま受け取る見方と、その内容に懐疑的な見方との対立である。このような状況でAAASは権威のある「ニューカム・クリーブランド賞」を授与することによって、研究内容の確かさを保証したことになる。同賞は AAAS が 1923年に設立した、米国で最も歴史ある賞だ。その前年 6月から翌年 5月までに米科学専門誌『サイエンス』に発表された研究論文の中から、「学術価値と影響力」の両面で審査して「最も優れた論文」を選ぶ。潘建偉らの研究はこの審査に堪えたのであり、その正しさが確認されたものと見てよい。潘建偉はこの授賞式に出席するため渡米の準備を進めていたが、米国務省はトランプの反中政策にしたがい、潘建偉への米入国ビザの発行を拒否した。これは米中量子覇権闘争のヒトコマとして科学史に残るであろう。世界初の光量子コンピュータは 2017年 5月 3日、中国で誕生した。量子

衛星を成功させた潘建偉チームにとって、第 2の成功だ。「光量子コンピュータの試作機のサンプル計算速度は、世界の同業者による実験の 2.4万倍以上に達した」と報じられた(同日付新華社電)。この光量子コンピュータは、中国科学技術大学・中国科学院・アリババ(阿里巴巴)量子実験室・浙江大学・中国科学院物理研究所が協同して研究開発に参加した。民間企業では、アリババのほかに、テンセント(騰訊控股)、バイドゥ(百度)の 2大 IT大手も先を争って前進しようとしている。2017

矢吹コラム 2

潘建偉とアリババ、テンセント、百度、華為技術

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 71

年 9月 29日、中国科学院院長白春礼がオーストリア科学院院長アントン·セリングと量子秘密通信ネットワークで、テレビ通話を行うことに成功した。まず京滬幹線の北京コントロールセンターで「墨子号」の地上センターと繋ぐ。それから墨子号を通じて、オーストリア地上ステーションへ衛星量子通信を送り、これが 7000キロ離れた欧洲に届く。「京滬幹線」プロジェクトの責任者・潘建偉によれば、北京・上海・済南・合肥が量子通信の骨格であり、全長 2000余キロに達する。1万名を超えるユーザーが同時に暗号通信を送れる能力をもつ。量子通信には「分割できない」、「正しく測定できない」、「コピーできない」等の特性があり、原理上絶対安全で、敵側による解読は不可能だと解説されている。中国側の躍進に抗するように、2018年 3月、グーグルと米航空宇宙局

(NASA)などが連携して設立した米国量子人工知能実験室は、ロサンゼルスで開かれた米国物理学会年次総会で 72量子ビットの量子 CPU(芯片)を発表し、ブリストルコーンと命名した。このブリストルコーンに対して、中国アリババの研究者施堯耘(前ミシガン大学教授から転身)は、エラー率が0.5%以下になっていないと、その量子超越性を批判している(2018年 5月3日コーネル大学ホームページおよび 5月 19日WIRED参照)。他方、華為技術は 2019年 1月 24日、第 5世代移動体通信(5G)基地局向けに設計された世界初のコアチップ「Huawei TIANGANG=華為天罡(北斗七星の意)」を発表した。曰く、ファーウェイは現在までに、グローバルで 30の 5Gネットワーク構築に向けた商用契約を締結し、2.5万局の 5G基地局を出荷している。このエンドツーエンドの 5Gチップセットはすべての標準規格ならびに周波数(Cバンド、3.5GHz、2.6GHz)に対応する。弊社は、エンドツーエンドで5Gネットワークを支える能力において、世界の5G展開をリードし、産業エコシステムの構築を進めている。最新のアルゴリズムとビームフォーミング技術を活かすことで、1つのコアチップで業界で最も多い 64チャネルの周波数帯域に対応する。5G基地局の小型化(従来品に比べて 50%)、軽量化(同 23%)、低消費電力化(同 21%)に貢献する」。筆者には遺憾ながらグーグルの「ブリストルコーン」と「華為天罡」の性能比

べを評価する能力はない。その評価はいずれ世界の市場が下すことになろう。

潘建偉(新華社 2017-10-30より)

72  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

クトの首席科学者・潘建偉(科学院院士)によれば、北京、上海、済南、合肥が量子通信の骨格であり、全長 2000余キロに達する。1万名を超えるユーザーがカギを付した通信を送れる。量子には「分割できない」、「正しく測定できない」、「コピーできない」等の特性があるので、量子通信は原理上、絶対安全であり、敵は解読できない。2017年 10月 11日、量子計算クラウドの中国版が正式にスタートして、量子計算の商業化が始まった。このクラウドプラットフォームは、中国科学院とアリババ・クラウド(阿里雲)の合作でスタートした。2016年、IBMはクラウドコンピューティングのプラットフォーム「Quantum Experience」を発表した。ユーザーは、登録後に 5量子ビットの量子コンピュータで計算やシミュレーションを行える。2017年 3月には業界初の商業用量子コンピュータ・プラットフォーム IBM-Qを発表した。これらのプラットフォームは 25量子ビットで、伝統的計算のシミュレーションを行う程度だ。2017年末に、IBMは 10個の超伝導量子コンピュータを発表。中国科技大教授朱曉波は、10個の超伝導量子コンピュータもつれの主な開発者の一人である。量子革命によって、中国はどのようにアインシュタインの“百年の謎”に答えるのか? 量子革命は第 3次産業革命をもたらすが、ここには二つの問題がある。一つは安全性の問題である。情報伝達過程において、計算能力の向上に伴い、既成の暗号はすべて破られる。情報安全のボトルネックはますます際立つ。二つはビッグデータのもたらす計算能力のボトルネックである。2016年 3月,

EU委員会は『量子宣言(草案)』を発表し、2018年から予算 10億ユーロの量子技術プロジェクトをスタートさせる。アメリカは「量子躍遷」を「科研フロンティア 6大分野」の一つとして、量子力学を発展させるために、「学際的基礎研究」を行うとしている。中国の「量子人」チームは量子コンピュータの研究を深め、ビッグデータ時代の情報を発掘して、量子精密測量の研究を通じて、新世代の導きとなるべきだ。注 30「量子人」チームとは、言い得て妙だが、集団軍作戦のチームにほかならない。

2013年 9月 30日、習近平らは政治局学習会議で、潘建偉から量子通信の講義を聞いて、そのデモンストレーションを見学した注 31。2016年 10月 9日、習近平はネットワーク通信技術の自主創新を加速せよと指示した注 32。2017年 10月27日、習近平は中国共産党第 19回全国代表大会報告で人工知能と量子技術の突破を含む新技術革命の戦略的意義を強調した注 33。曰く「米中はいま平等な足どりで競争している。中国の量子科学が成功するならば、先行者利益(first-mover advantage)を得て未来の市場と軍事的優勢を獲得できる」。2018年 1月の新年賀詞で、習近平は量子コンピュータの開発を主な成果に挙げた注 34。

(6)「量子科学の優位性」を目指して

1999年に郭光灿は中国科学院に量子信息重点実験室を設けた。彼は 1983年に量子光学の研究を開始した注 35。2001年、31歳の潘建偉がウィーン大学で博士号

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 73

を得て帰国し(指導教授は量子物理学者 Anton Zeilinger)、中国科技大学に「量子物理与量子信息実験室」を設けた注 36。2016年 5月 19日、中共中央国務院は『国家創新駆動発展戦略綱要』を全国に発出した注 37。2016年 8月 8日、国務院は第 13次 5カ年計画期の「国家科技創新規劃」を全国に通知した注 38。この通知は 2030年までに、主要都市間で量子通信を発展させるよう指示している注 39。では「量子人」チームを支える措置はどうなっているのか?中国は 2013年から 2015年にかけて、19億元(約 3億ドル)を第 4次産業革

命のために投資した。2016~ 2017年の 2年間は、国家の重点プロジェクトだけで、各年 10億元(約 1.6億ドル)が 18部門、36プロジェクトのために投資された注 40。これに加えて 2017~ 2020年には量子衛星のための予算が 1.6億元(250万ドル)追加される注 41。アリババは 150億ドルを新設のアリババ傘下「DAMOアカデミー」(Discovery, Adventure, Momentum, and Outlook)に投資すると発表しているが、これはむろん民間企業独自の計画であり、国家プロジェクトには含まれない注 42。国家レベルの計画のほかに、省レベルの計画も先進地域では目立つ。例えば、安徽省には「安徽省量子科学産業発展基金」がある。これは 2017年 12月に設けられたもので、予算 100億元(約 16億ドル)である注 43。2018年 3月、山東省では「山東省量子技術創新発展規劃(2018-2025年」を発表した注 44。この済南ハイテクゾーンは、「量子バレー」の建設を目指しており、予算は 1000億元、その 7割以上は国防産業市場向けである注 45。2017年 7月 12日、科学院は「量子信息与量子科技創新研究院」を新設し、合肥でその除幕式が行われた注 46。①量子研究は「軍民融合」(Military-Civil Fusion)で進む量子研究の際立った特徴の一つは、「軍民融合」システムでこれが行われている点である。中国において軍の地位の特異性はしばしば語られるが、量子研究においてはとりわけ「軍民融合」が語られ、実践されているのは、この技術革新がただちに国家の安全保障に直結するからに他ならない。2017年 9月 26日、「“十三五”科技軍民融合発展専項規劃」が発表されたが、「軍民融合発展」はここに書かれている注 47。山東省では、その省レベル版も発表している注 48。2017年11月末に、科技大学は中国船舶重工と共同して「量子聯合実験室」を設立した注

49。その 1カ月後、「北京量子信息科学研究院」が発足したが、量子情報に関わるこの研究院は軍事科学院内に設けられた事実に注目したい。この研究院は、2017年 12月 25日、北京市政府・中国科学院・北京大学・清華大学・北京航天大学が共同して設立したものだが、その事務局が軍事科学院内に設けられたのは、軍民融合を象徴していよう。ちなみに、この研究院の院長は、科学院院士・薛其坤注

50である。科学院院士・清華大学副学長をトップに据えて、北京大学・清華大学・北京航天大学等の責任者が集うこの研究院は、たぶん世界の量子研究情報を集めて分析する情報連絡・分析会議であり、司令塔の役割を果たすのではないか注 51。なお、2017年 7月、軍事科学院は「国防科技創新研究院」を設立し、「世界級研究院を建設するために世界一流の人材をリクルートする」ことを決めている。こ

74  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

れは軍事科学院独自の技術革新研究プロジェクトである注 52。2018年 2月 4日、『解放軍報』は「前沿交叉技術研究中心」(Front-line Cross-Disciplinary Technologies Research Center)の設立を報じた注 53。なお 2018年 1月 26日、軍事科学院は 120名からなる研究者を擁して、彼らはロボット兵器と量子技術の軍事的応用を研究する博士号取得者だと香港 SCMP紙が報じている注 54。酒泉衛星打ち上げセンターで墨子衛星を打ち上げた後、解放軍政治部は世界初の「空間科学先導」プロジェクトの宣伝戦略分析を行っていると報じられた注 55。②量子研究の標準化

2017年 6月、中国通信標準化協会は量子通信與信息技術特設任務組を立ち上げた。これは略称 ST7で知られるが、量子通信と量子情報処理を担当するワーキンググループである。これが注目されるのは、この分野の国際標準作りにおいて、中国が主導的役割を果たす可能性が強まっているからであろう注 56。③量子研究の人材養成資金の手当てと並ぶもう一つの重要な資源は人材養成である。中国政府は

2008年以来、5~ 10年で海外からハイレベルの人材を招く「千人計画」を実行してきた。これは建国初期に銭学森、李四光、鄧稼先、呉文俊のような優れた科学者が海外から帰国して新中国の工業・科研・教育・国防建設に貢献した往時の経験に学ぶ試みである。2018年 1月現在 7000名以上の科学者が帰国した注

57。中国の量子物理学研究を牽引している科学者の多くは、米国の一流大学や国際機関で研究を続けてきた人々である注 58。その代表が潘建偉であり、いまや彼の指導のもとで若手が育ち始めた。一例は、陳宇翱である。彼は 1981年 4月江蘇省生まれ、合肥の「微尺度物質科学国家実験室」「量子物理与量子信息研究部」を経て現在は中国科学技術大学近代物理系教授である。欧洲物理学会は 2013年度 Fresnel Prize(菲涅尓奨)を彼に与え、その光子、冷原子量子の捜査と量子信息、量子シミュレーション研究を評価した注 59。若手世代には、ケンブリッジ大学で博士号を得た陸朝陽(科技大教授)もいる注 60。張強はスタンフォード大学で single-photon detection technologyを研究した注 61。徐飛虎はMITで、photon-efficient communication and single-photon imagingを研究した注 62。王浩華は、ペンシルバニア州立大学で博士号をとり、カリフォルニア大学(サンタバーバラ校)でポストドクターの研究を続けた注 63。アリババの DAMOアカデミーは、ハンガリー系米国人科学者Mario Szegedy(前ルートガー大学教授)を招聘して、量子アルゴリズム、特に機械学習に対する応用を研究させている注 64。潘建偉は中国国内での研究とともに外国との共同研究にも力を入れている注 65。海亀の帰国もしばしば話題になる。1970年代末に改革開放が始まって以後、合わせて 109万人が海外に留学して帰国した。『中国組織人事報』(2013年 1月 1日)によれば、うち 80万人は過去 5年間に帰国した。2008~ 2012年の帰国者数は、表 4の通りである。2011年から 2012年にかけて 47%と著しい伸びを示している。科技研究者の帰国ブームはここから本格化した注 66。千人計画注 67の後、2012年 9月

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 75

から「万人計画」がスタートした。➊ 100名の傑出したノーベル賞級研究者の招聘、➋ 8000名の科技創新の「指導的人材」➌ 2000名の 35歳未満の「青年人材」を養成する計画である。2013年 10月 30日に第 1陣が発表されたが、それはノーベル賞級研究者 6名、指導的人材 72名、青年人材 199名であった。特許権については英『エコノミスト』(2017.3.9)が次のように分析している注

68。量子暗号の研究がいま中国では世界に先駆けて行われているが、それを端的に示すものは、パテント数と論文の発表数だ注 69。解放軍報は 2016年 8月 16日に「わが国は 2030年前後にグローバルな量子通信ネットワークを打ち立てる」と題した潘建偉インタビューを掲載した注 70。これは理論的には解読不能な量子暗号のもつ軍事的意味が強く意識されている。量子通信による暗号は敵から解読されない点で無敵であるばかりでなく、伝統的暗号は容易に解読され、しかもステルス戦闘機もそのステルス性を剥がされて捕捉される。これが無敵の量子通信の実力と見られている。現時点における専門家の理解では、量子通信が真に解読不能か否か、論争は続いているが、中国の人々は、そのような世界最先端の技術を外国から導入するのではなく、中国の科学者たちが自力で世界に先駆けて実現するという意味で、誇りの核心と化している。これが誰の模倣でもなく、「メイドインチャイナ」であることは、誇り高いアメリカンも認めざるを得まい。それが中国人の誇りをくすぐる。③全国量子ネットワーク

2017年 9月 29日、新華社は 2000㎞の量子通信幹線が北京―上海間で開通したと速報した。北京―上海間には、済南と合肥と結ぶ幹線もあり、これら 4都市は全国量子ネットワークのモデルになる。科学院の白春里院長は北京で、合肥、済南、上海、それにウルムチの地上局と会話した。院長はまたオーストリア国立ウィーン大学の物理学者Anton Zeilingerとも墨子号を通して会話した。交通銀行、工商銀行、アリババもこのネットワークを使用した注 71。宇宙における量子実験(Quantum Experiments at Space Scale,QUESS)も活発だ。潘建偉の指導する墨子号のプロジェクトは 2011年に科学院とオーストリアアカデミーの共同プロジェクトとしてスタートした。墨子号の最初の課題はテストと実験である注 72。墨子

表 4 「海亀」帰国者数

(資料)中国組織人事報 2013年 1月 1日

年 留学後帰国者2008年 69,300人2009年 108,300人2010年 134,800人2011年 186,200人2012年 272,900人

76  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

号を通じて中国の科学者たちは、地上基地局から 1400㎞離れた墨子号と通信実験を繰り返した注 73。2017年 9月に、墨子号を通じてオーストリアと中国、それぞれの科学院院長が 7600㎞離れた地上基地局同士で画像を送信しながら対話した注 74。2018年現在、科学院量子創新研究院は、今後 5年以内にマイクロおよびナノ量子衛星を打ち上げる予定である注 75。

(7)量子コンピュータの優位性を求めて

郭光灿、周正威、郭国平、涂涛(科技大・科学院量子信息重点実験室、合肥)の連名論文「量子コンピュータ発展の現状と趨勢」は、今世紀以降の世界の量子コンピュータ発展の現況を次のように認識している注 76。ブッシュ前大統領は 2009年米国の大統領科技顧問の率いる科技委員会の発表した「量子情報科学に関する報告」で、国家安全局、DARPA, NSF, NIST, Los Alamos, Sandia国家実験室等多くの軍事機構が協調して量子コンピュータ研究を展開するよう呼びかけた。量子チップ(量子芯片)のもつ、次世代産業や国家安全の重要性に鑑み、DARPA責任者の Tether博士は、米下院軍事委員会で報告した際に、半導体チップを 9つの戦略研究の 2番目に挙げ、往年の原爆製造の成功例マンハッタン計画に倣って「ミニ・マンハッタン計画」と名付け、インテル、IBM等半導体界の巨大企業がハーバード大学、プリンストン大学、Sandia国家実験室等と学際的な科技研究を進めて量子コンピュータの戦略的制高点を攻略するよう提唱した。インターネット、GPS、ステルス戦闘機で成功したように、量子コンピュータでも成功する目標を掲げたのであった。日本と EUでも、ミニ・マンハッタン計画に刺激を受けて類似の計画を作成した。中国はコンピュータ製造の大国であり、神威・銀河・曙光のようなスパコンを製造したが、国産半導体チップは性能も数量も需要を満たすに足りず、輸入に依存していた。中国の集積回路の輸入額は原油や農産物の輸入をはるかに超えて輸入品のトップであった。量子チップを自前で生産しなければならない必要性は明らかであり(表 5参照)、「中長期科技発展綱要」では、重点項目に指定した。その後、中国の量子暗号技術や光子もつれ等の面で重要な発展があり、科技大と科学院の量子情報実験室は新型材料 GeSi注 77とグラフェン(Graphene石墨烯注 78)を量子チップの素材とする技術を開発した。中国でも進展はみられたとはいえ、全体の水準は明らかに西側よりも遅れており、量子コンピュータの主流においてはギャップ

表 5 2008年中国の集積回路と一部産品の輸出額の比較(2008年の集積回路の輸入額は 1194億ドルであり、原油の 1.7倍、農産物の 2.9倍)

(資料)量子計算機的発展現状與趨勢 2010年 10月中科院量子実験室

集積回路 鉄鋼砂 石油(原油、成品油を含む)農産品輸入額(億米㌦」) 1,194 258 706 413集積回路 =100とする比重 - 4.6 1.7 2.9

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 77

が拡大している……。これが 2010年に郭光灿らが研究状況をサーベイした当時の結論である。なお、当時のスパコン 10傑は表 6の通りである。しかしながら、これ以後、中国の量子研究開発は急ピッチで進展した。2016年 8月 12日、USTCの科学者たちは、量子コンピュータに用いる新しい量子チップを開発した。注 79

これまでの世界記録は10量子ビットだが、中国の科学者は18量子ビットのチップを用いて、計算速度の世界記録を更新したと報じられている注 80。2016年 10月、陸朝陽(科技大教授)が世界最速の量子コンピュータの量子論理ゲートを開発した注 81。2017年 3月、科技大 +科学院アリババ共同実験室+浙江大学との共同チームが 10量子ビットの量子コンピュータを開発し、既存のグーグル世界記録 9量

表 6 中国のスーパーコンピュータTOP 10(2009年)

注:(1)コア・チップの処理能力、単位はギガバイト。(2)CPUの処理能力、毎秒当たりの計算回数、単位はギガバイト。(3)CPUの処理能力の上限、毎秒当たりの計算回数、単位はギガバイト。

順位 納入者 設置場所 応用領域 型番・演算コアコア・プロセッサー(1)

フロウト・ポイント(2)

フロウト・ピーク(3)

効率

1国防科大 国家超算 科学計算・

工業天河 /Intel Xeon E5540 2.53GHz

25,576 563,100 1,206,210 0.467

2曙光 天津中心 科学計算・

工業曙光 5000A/AMD Barcelona 1.9GHz

30,720 180,600 233,472 0.774

3聯想 上海超級

計算中心科学計算 深騰 7000/Intel Xeon

E5450 3.0GHz12,160 106,500 145,293 0.733

4

IBM 中科院超級計算中心

工業・ゲーム Blade Center HS21 Cluser/Intel Xeon E5540 2.53GHz

7,168 38,790 72,540 0.535

5

IBM ネットワーク公司

工業・ゲーム Blade Center HS21 Cluser/Intel Xeon E5540 2.53GHz

7,168 38,790 72,540 0.535

6

IBM ネットワーク公司

工業・ゲーム Blade Center HS21 Cluser/Intel Xeon E5540 2.53GHz

7,168 38,790 72,540 0.535

7

IBM 南京大学 科学計算・工業教育

Blade Center HS21 Cluser/Intel Xeon E5550 2.66GHz

3,200 31,310 34,048 0.920

8

曙光 計算物理国家重点実験室

工業・ゲーム 曙光 5000A/Intel Xeon E5450 3.0GHz

3,360 31,048 40,320 0.770

9

IBM ネットワーク公司

工業・ゲーム Blade Center HS21 Cluser/Intel Xeon E5540 2.53GHz

5,376 31,030 54,410 0.570

10

IBM ネットワーク公司

工業・ゲーム Blade Center HS21 Cluser/Intel Xeon E5540 2.53GHz

5,376 31,030 54,410 0.570

78  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

子ビットを超えた注 82。2018年 7月現在、いま紹介した中国の科学者たちは、自らの世界記録を更新して 18量子ビットに到達している。18量子ビットで量子もつれを解決したことによって、中国の量子コンピュータ技術は世界記録を更新し続けている注 83。このほかに、別の中国科学者は 2017年 6月、Bosonの名で知られる量子コン

ピュータで複雑な計算に成功している注 84。2018年 1月、科技大チームは、世界初の量子チップを基礎としたクラウドプラットフォームを立ち上げ、32ビットの量子仮想マシーンを提供した。2018年 2月現在、中国のチームは、量子コンピュータ計算と量子シミュレーションを、量子クラウドプラットフォームと 32ビット仮想マシーンで提供している注 85。2018年 4月、陸朝陽(中国科技大)は25台の量子コンピュータをリンクして安定的にもつれを解決する実験に成功している注 86。2018年 5月、上海交通大学と科技大チームは、単一の光子を宇宙空間で、2次元の「量子ウォーク」として機能する光子チップを開発した注 87。中国で最も有名なのは、2015年に科学院とアリババが共同して設けた中国科学院―アリババ量子計算実験室である注 88。2018年 3月現在、百度もシドニー技術大学の段潤堯(Duan Runyao)教授を招聘して、量子コンピュータ研究所を設けた注 89。2017年 11月、科学院とアリババとの共同研究所は、量子コンピュータのクラウドプラットフォームを立ち上げた注 90。この研究所は世界でトップクラスの研究者をスカウトしたが、その一人は施堯耘である注 91。施堯耘はミシガン大学物理学教授としてテニュアをもつ量子科学の研究者であったが、その地位を捨ててアリババの研究チームに加わった注 92。施教授は台湾出身のコンピュータ科学者アンドリュー・ヤオ注 93の弟子として頭角を表していた。量子コンピュータの研究においては、米国の科学界が世界をリードしてきたが、いずれ中国チームが米国を追い抜くと見る予想が行われていた。施堯耘の転身は量子覇権が米国から中国に移る兆候の一つとみられている。潘建偉は 50量子ビットを開発できれば、従来型コンピュータの計算速度を超える、それは 2018~ 2020年頃かと予想しつつ、「真にプログラム可能な、普遍的な量子コンピュータ」の開発には 30~ 50年を要すると指摘していた注 94。そして 10~ 20年以内に中国が「量子コンピュータの研究において米国に代わってリーダーシップをとる」と予測していた注 95。科学院量子創新研究院は、2017年 12月に「トポロジカル量子コンピュータ・イノベーションセンター」(拓撲量子計算卓越創新中心)を創設するに際して、多くのマイクロ・ナノ量子衛星打ち上げの 5カ年計画を発表した注 96。以上のように、中国における量子コンピュータの研究開発状況をフォローしつつ、米国の専門家エルサ・カニアは、「米中の量子コンピュータ開発マラソンにおいて、中国がいずれリードする」(Chinese scientists could take the lead in this marathon.)と予測した注 97。①量子人工知能について

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 79

2013年 2月、清華大学とシドニー科技大学が共同して「量子コンピュータ・人工知能連合研究センター」を設立し、量子コンピュータ・人工知能のソフトウェアとアプリを開発する体制を整えた注 98。2015年に潘建偉は量子コンピュータの機械学習アルゴリズムを開発したと報じられている注 99。2018年 1月、潘建偉と陸朝陽のチームは、6光子量子コンピュータを利用して効率的な量子アルゴリズムを完成させ、原理検証実験を行った注 100。この実験に先立ち、国務院は 2017年 7月「新世代人工知能発展規画」を発表

したが、ここでも量子コンピュータ開発のための理論研究を呼びかけていた注 101。人工知能と量子コンピュータの融合によって、機械学習を加速し、計算効率のよい量子コンピュータによって、自律的な人工知能システム(autonomous quantum AI system setups)の構築を目指した。量子コンピュータが発展し、機械学習を利用できれば、未来の量子コンピュータにとって有望なデザインと道筋を発見できる。量子コンピュータによる計算が量子マシーンのアルゴリズムから離れて操作できるようになるならば(Once quantum computing starts to reach a point at which it is possible to operate algorithms off of quantum machines)、計算能力の隘路を乗り越えて、機械学習の速度を加速できる。これによって GPSや北斗(Beidou)のような、宇宙に基礎をおくシステムから自由になり、量子ナビゲーションは大いに発展する。いまや中国は「量子人工知能革命」(quantum AI revolution)の最前線に立つ注 102。②量子レーダー、センサー、描像、度量衡学、ナビゲーションにおける中国の発展中国の科学者や防衛産業研究者たちが精密測量(precision measurement)、例え

ば量子レーダー、センサー、画像化、ナビゲーションの分野で研究を進めていると伝えられるが、これは強い軍事的含意をもつ。この分野に興味を抱いているのは、むろん中国だけではない。例えば米空軍科学顧問委員会は量子時計、量子センサー、量子磁気センサーによって量子ナビゲーションが可能になる注 103。ステルス戦闘機を見破る能力をもつ量子レーダーに対して、世界規模で開発投資が増えている注 104。量子ナビゲーションが発展すれば、GPSや北斗のような宇宙に基盤をおくシステムから自由になるであろう。その開発によって中国は、「諜報、監視、偵察」(この 3者をまとめて ISR= intelligence, surveillance, and reconnaissance)の能力を格段に増強できる。米軍のステルス優位性、ステルスに対する依存度は大いに減殺されよう。これらの研究開発活動の完成度に対する精密な評価は難しい。半公的メディアの紹介する発展報道はミスリーディングなものあり、誇張あり、とみてよい注 105。にもかかわらず、一定の分野における中国の発展は、公開された部分あるいは期待したものと比べてさらに進んでいる可能性もあり、過小評価すべきではない。

2016年 9月、中国電気技術集団(CETC)傘下の「14所量子雷達団隊智能感知技術重点実験室」では、100㎞離れた標的を 1光子量子レーダーで正確に発見できたと報じられている注 106。この開発は潘建偉の率いる科技大と南京大学との共同研究として行われた注 107。この量子レーダーは 2015年に国際チームによっ

80  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

て製作された原型と比べて 5倍精密なレーダーと報じられている注 108。2018年 6月現在、CETCの研究者は次世代の量子レーダーはステルス爆撃機を発見し、高速で飛行する物体を効果的にモニターし、弾道ミサイルの追跡を支援できるという注 109。「この研究所とその関係者の記録がきわめて限られているのはなぜか。これらの努力が誇張されているのか、それともこれらの研究の秘密性が反映されているのか、いずれかであろう」とエルサ・カニアは推測している注 110。2017年 5月現在、科学院電子学研究所は、中国初の「微波光子雷達様機」(prototype micro-wave photon radar)を開発し、“field non-cooperative imaging test,”を成功裏に行い、空中の標的を快速撮影(rapid imaging)したといわれる注 111。この研究の責任者の李王哲によれば、量子センサーと量子による撮影は、宇宙ベースの遠隔探知と監視の能力を強化する技術に成功した。実験的にプラットフォームを実証し、システムの統合と無差別標的の快速撮影の屋外試験を結びつけて、航空機の捉えがたい細部を撮影した注 112。量子センサーと量子撮影の進歩により中国の宇宙ベースの監視能力はより強化されるであろう。科学院量子光学重点研究所(CAS Key Laboratory for Quantum Optics)は量子光学の物理学者韓申生(科学院上海量子光学精密測定重点研究所)のもとで研究が進められている注 113。この分野の紹介は以下の文献にも詳しい注 114。

2011年に実験が成功した後、彼らの目標は 2020年までに原型を完成させ、2025年までに宇宙空間でシステムを実験し、2030年までに大規模なアプリを製作する目標である注 115。この研究チームの責任者の龔文林は、この技術によって、米軍の B-2ステルス爆撃機のような「目に見えない」標的を捕捉できると強調した注 116。すでに地上ベース型レーダー基地、航空機、飛行船のような新しいデバイスは、開発され、野外テストが行われ、実戦配備もかなり進んでいる注 117。科学院量子遥感研究所の畢思文は、その原型製作に成功したといわれる注 118。同時に、中国航天科技集団有限公司第 9研究院第 13量子描像研究所も「量子描像」(quantum imaging)の研究を行っている注 119。第 5研究院第 508研究所に量子遥感実験室が設けられたのは 2012年であり、以来積極的に量子光学リモートセンシングの研究を進めてきた注 120。中船重工(CSIC)のいくつかの研究所も、724研究所の「量子探測」や 717研究所の「量子ナビゲーション」のように、量子技術の産業化に務めてきた注

121。2017年 11月に中船重工(CSIC)と科技大(USTC)は、量子ナビ、量子通信、量子探測の 3研究所設立を予算 1億元(約 1500万ドル)で行う協定を結んだ注 122。中船重工党組書記胡問鳴は 2018年 8月 23日第 717研究所、第 722研究所を訪ね、量子ナビ(量子導航)と量子通信の研究状況を視察した注 123。このようなシステムは、米国の潜水艦探測に役立ち、磁気ノイズ問題を解決して、解放軍の対潜水艦戦争能力を強化する注 124。CSIC717研究所の量子慣性ナビ(quantum inertial navigation)は、将来精密打撃能力を改善する上で大きな意義をもつ。3~ 5年内に中船重工は核磁気共鳴ジャイロスコープ(interferometric

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 81

atomic gyroscopes)、核加速度センサー(atomic accelerometers)、量子重力傾斜計(quantum gravity gradiometers)、量子時間基準(quantum time references)、核スピン・ジャイロスコープ(atomic spin gyroscope)において長足の進歩を遂げよう注 125。加えて China Aerospace Science and Industry Corporation,第 3研究院第 33研究所は、量子技術に基づいた核磁気共鳴ジャイロスコープ(nuclear magnetic resonance gyroscope)を開発中であり、これも「慣性ナビ」(inertial navigation)に利用される注 126。同様に北京自動化控制設備研究所は、2016年に核磁気共鳴ジャイロスコープを開発したと報じられている注 127。北京航空大学も量子慣性ナビと精密測定研究の指導者として認められている。彼らは国防大学「慣性技術”国防重点実験室」と共同して“新型慣性儀表与導航系統技術”国防重点学科実験室を蘇州高新区に設けている注 128。張首晟が副主任を務めていた清華大学量子科学与技術研究中心は、中国最大の民間エネルギー会社たる ENN Group(新奥集団)との間で、トポロジカル絶縁体熱電変換システムのアプリ研究に着手した注 129。張首晟は新奥集団の首席研究員を務めながら、スタンフォード大学新世代トポロジカル絶縁体の研究を続けたが注 130、2018年 12月急死した注 131。③中国の量子研究躍進の戦略的意味かつて戦略家クラウゼビッツは、サプライズの核心は「スピードと秘密性」の融合だと喝破した。中国はますます「技術革新駆動型」戦略(innovation-driven strategy)を追求している。近い将来、これらの技術の商業的可能性が中国の経済的ダイナミズムを強化し、新産業の市場的リーダーシップをとることは疑いない。この量子技術の軍事的可能性を解放軍の戦略家たちが注視していることは、例えば安衛平の「量子通信が軍事領域を変革し、戦争システムを作り変える」という評論からも伺われる注 132。米国は近年特に、中国は「技術を開発できないから、盗み、コピーする」といった非難を繰り返しているが、それはもはや過去のものになりつつある。中国の IT能力は投資規模からしても、「計画好きの国情」からしても、過去の中国イメージとは様変わりしている。解放軍は現在の米中軍事バランスを変えるほどの新興技術を開発している。米中軍事バランスについては、『中国の産業スパイ、技術獲得と軍事の近代化』注 133があるが、この記述はいささかミスリーディングだと見られている。量子技術の研究開発における中国の成功は、中国の今後の技術革新を予知する重要な先導者であるからだ。中国と米国の技術格差がますます縮小するにつれて、事態は急速に変わりつつある。米国はいまや名実共に指導国なのではない。米国は中国の開発した技術を利用できるし、また中国の量子研究に対する野心もいずれしぼむ。解放軍は、先行する米国を「コーナーで追い抜く」(弯道超車)ために、努力している事実はさまざまな報道等から知られる。中国はアジアで優勢を獲得し、世界級とはいわないまでも海外の中国の権益を守る体制を 21世紀半ばまでに作ろうとしている注 134。一部の解放軍戦略家は、量子科技が未来の戦争を「核戦争並みに」急激に変える、と予想していることが特に注目される注 135。一見非現実的な解釈に見えるが、こ

82  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

の予想は解放軍戦略家たちが量子科技の軍事的可能性を十分に研究したことを反映した見方である点に筆者は注目している。

(8)新しいパラダイム

中国の量子暗号開発は国家の「サイバー情報安全強化」の文脈で行われている。この計画を加速したのは、米国のサイバー諜報と信号諜報を暴露した 2013年のスノーデンによるリーク事件である。これによって中国は相対的な対米弱点を知らされたようだ。以来中国サイバー管理局が設けられ、国内サーバーと情報安全の主な機関となった。これを裏付けるのが新サイバー安全法の制定である注 136。中国の指導者たちは、量子ネットワークにより、重要な通信網の「絶対的安全」の盾にできることを期待しているように見える注 137。中国の量子通信ネットワークは、米国の諜報能力を無力化するのか。一概には答えられない難問だが、米国の諜報活動によりコストがかかるようになることは確かであろう。軍事と政府の通信に対して、盾(防御)をより強化すれば、中国の計画と意図について不確実性がより強まり、中国の姿はますます見えにくくなる。例えば、ある量子科学者は、数年のうちに解放軍は「軍民融合の量子通信暗号網を構築する」ものと予想している注 138。2015年当時、潘建偉はインタビューにこう答えている。「中国は地域戦において量子通信を十分に利用できる。将来は衛星リレーで全軍を量子通信で結びコントロールできよう」と注 139。例えば、中国軍は QNET BOXを用いて量子モバイルネットワークの実験をスタートさせた。これは小型モバイル基地局と量子モバイルフォン(aquantum cellphone)によるネットワーク QKDである注 140。さらに中船重工は、墨子衛星と海上の異なる船舶間で QKD通信の実験を進めている注 141。中国は量子衛星の配列を建設し、地上のファイバーネットワークと宇宙間の通信を行うことができるので、これを全国・全世界に繋ぐことが可能になる。現在のところ、実現可能性の評価は不利な条件下における実験を欠いており、その耐久性や永続性は不明だ、このシステムはかなり壊れやすい、脆弱なものだと見られている。もし「水面下での戦争」に利用可能となれば、革命的な変化をもたらす可能性があるようだ。戦時という環境のもとで量子通信と量子暗号が実際に使えるかどうかの評価は時期尚早であろうが、平和時にのみ実用可能だとしても、少なくとも情報・諜報の通路妨害として役立つことは明らかだ。量子通信は水面下においてより直接的なインパクトをもつといわれ、解放軍は「次世代潜水艦」への使用を実験しているといわれる注 142。中船重工の首席潜水艦設計者呉崇建によれば、量子通信は既存の潜水艦技術を破壊するほどに革命的であり、中国は世界の先頭に立つ。現在のところ、潜水艦は水面下のみでの通信に限られている。その意味で協調なき、「孤独な狼作戦」とも呼ばれているが、量子通信の採用によって水面下の戦争には革命的な変化が生まれる可能性があることは十分に注目に値するであろう注 143。量子コンピュータは暗号解読のような攻撃的目的にも用いられる注 144。伝

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 83

統的衛星ではどのような型の暗号が主流であったのか、ポスト量子暗号にアップディトすることは何を意味するのか。中国のような米国にとっての「戦略的競争者」が予想よりも早く量子コンピュータを秘密裏に開発することは、QKDから格子暗号に至る米国の暗号を出し抜くことを意味する、として米国の科技ウォッチャーたちは特にこのトピックに釘付けになっている注 145。量子レーダー、量子センサー、描像、気象学、ナビゲーションにおける明確かつ相互連関する諸原則は、戦争のあらゆる分野における状況認識を強化する直接的で意味のある軍事的適用である注 146。量子物理学の「常識ではとらえがたい、幽霊のような性質」は、実は古典的技術の能力を超える精密度をもっている最新の現代科学である。未来の運用環境が混乱し複雑なので、これらの新手段は、中国が近海や遠洋でセンサーを使い、監視をする上で先端部分を提供することになる。とりわけ、電磁気スペクトラムは、平和時には混雑し、戦時には争うので、スペクトラムを独自に運用するうえで、タイミング・センシング・ナビゲーションの組み合わせにとって重大な限界を呈することになり、信頼度は劣化する。これに対して量子時計は、最大の精密度を実現できることで現代戦にふさわしく、量子描像とセンシングは、未来のセンサーに相応しいと見られている。量子レーダーが本格的に運用されるならば、優越性をもつ米国のステルス能力を上回ることになり、解放軍は米国軍事力の土台を掘り崩す、と見られている。解放軍のメディアは、量子レーダーを未来の戦場において「驚くべき能力を発揮するネメシス注 147」とさえ呼ぶ注 148。加えて量子レーダーは、航空機の真の位置を隠すために流す、デジタル無線周波数メモリによる妨害を機能できなくさせるという分析も行われている注 149。現在のところ、量子センサーと描像が実験室を出て軍事的文脈で応用することに対する評価は難しいといわれる。さらに、どのように小型化できるかの問題も残る注 150。量子レーダーと量子リモートセンサーの性能についても疑問が残る、とする指摘もあるが、これらの技術が「結局は実現できる」と見る点では専門家の間で共通の理解がある、といわれる注 151。加えて米国のステルス技術や無人システムあるいは自動化システムに対して、中国は別のやり方で対抗する可能性、すなわち GPSではなく新世代の慣性ナビを用いて、武器の精密誘導を含めて高性能ナビを実現する可能性があるともいわれる注 152。いわゆる量子コンパスは、潜水艦や他の海上プラットフォームにとって、衛星に依存せずに、高い性能で位置を測定できることでとりわけ役に立つようだ注 153。中船重工の範国平によれば、ミサイルは衛星ナビの助けを借りて位置を定めるので、核潜水艦は水中に隠されているものの、一定期間後に位置を調べるために浮上する必要がある。その際に敵に発見されたらどうするのか、という課題があるが、「量子ナビ技術」はこの問題に応える能力をもつ。衛星ナビの代わりに「慣性ナビ」に依拠するので、高精度の十分に自動的な長期的ナビを行うことが可能であり、戦略的核潜水艦の使命を継続的に遂行できるからだ注 154。量子技術は国防のほかに、ビジネスへの応用も可能であり、市場を創造し変革

84  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

矢吹コラム 3

キャッシュレス経済の効用

2019年 5月北京 8日間の旅でさまざまの人々は会ったが、私を最も驚かせたのは、アリババのジャック・マー会長も「矢吹教授と同じような話をしていたね」と聞かされたことであった。名だたるマー会長と私の持論が似ているとは痛快だ。日本の高度成長期にトヨタの看板方式が大活躍したことは広く知られている。それは各車間の部品在庫を必要かつ十分なものに限り、「余分の原材料在庫を一切置かない」という徹底した「在庫管理」の合理化策であった。トヨタ自動車の看板方式は、その後、子会社のデンソー技術者の説明した「QRコード」に変身した。自動車は 200種以上の部品組立から成る組立産業だ。その部品を世界各地から調達するために、QRコードとそれぞれの部品のスペックは公開された。これによってトヨタは世界中から安価でスペックに合格した部品を調達し世界企業に成長した。この姿に触発され、QRコードの活用に着目したのが中国人の智慧であった。スマホの写真機能を活用しつつキャッシュレス決済に用いた。QRコードは中国で「二維碼」と呼ばれ、あまりにも普及した結果、その原型が QRコードと知らされて驚く中国人が多い。キャッシュレス経済の効用はいくつも数えられる。支払いや割り勘計算が便利なことはいうまでもないが、隠れた効用も大きい。たとえば財布を持ち歩かないのでコソ泥(小偸)がいなくなった。盗もうにも盗めないからだ。そもそも現金を持たないので偽札も激減した。コソ泥が消え、偽札が消えたのは中国社会にとって歴史的な快挙であろう。それだけではない。中国経済全体がデジタル化、合理化の道を歩んでおり、その一端はマネーサプライの動向に顕著に現れている。市場経済体制のもとでは、経済成長率の伸びとマネーサプライの伸びは深く連動しており、経済成長のもとでマネーサプライが減少した例は皆無だ。しかしながら、2010~ 2018年は、2桁成長の段階は過ぎたとはいえ、依然 6~ 8%の成長は維持してきた。その成長過程でマネーサプライは減少し、現金通貨の広義の通貨に占める比率 (M0/M2)は、減少している(p .●参照)。「マネーサプライの減少」「現金通貨率の低下」という事実は、中国経済全体におけるキャシュレス化の進展を端的に物語るものであり、既存の金融論では説明のつかない新事態だ。さて中国経済のデジタル化がこのように急展開するなかで、一帯一路もまたその影響を受けないわけにはいかない。ここで一つ紹介したいのは、アリババのアリペイ香港が開発した送金システムだ。フィリピンはインド、中国に次い

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 85

で世界第 3の出稼ぎ大国であり、フィリピンが受け取った送金額は 2017年、300億ドルを超える (世界銀行、IMF)。その一端を知るには、香港セントラル広場に日曜日たむろするフィリピン人メイドたちを観察するのがよい。中国で改革開放が始まると、中国大陸に雇用が生まれ、香港にメイド (アマ )としてやってくる若い女性たちは激減し、それをカバーしたのが件のフィリピン人メイドたちだ。住み込みで働く彼女たちにとって日曜だけが労働から解放された日であり、広場にあつまりおしゃべりしながら、雇用情報の交換やらその他、「労働解放の 1日」を楽しむ。かつて香港で暮らした当時、私もしばしばこの風景を観察し、時にはヒアリングも試みた。このメイドたちの家族送金にとって銀行の手数料は 10%程度であり、かなりの負担であった。そこへ近年割り込んだのがアリペイ香港の割安・快速の送金システムである。

2018年 6月下旬、アリババのジャック・マー会長がある新サービスの発表会に顔を出した。それは、香港―フィリピン間の国際送金を、スマホからスマホにわずか 3秒で行うというもので、「最も安いコスト、最も速いスピード、最も便利なやり方」がキャッチフレーズであった。アリババの在香港支社「アリペイHK」がブロックチェーン技術を駆使した新しいアプリを開発した。このアプリをスマホにインストールして、宛て先と金額を書き込み、コンビニで現金を渡せばおしまい。銀行窓口での長蛇の行列から解放される。他方、フィリピンの家族は、アリババグループと提携する両替所でフィリピン・ペソを受けとる。家族がガラケイ携帯しかなければ、「送金番号」で受取人を確認するし、もしスマホをもっていれば、もっと簡単に送金を受け取れる。ブロックチェーンといえば、日本ではビットコインのブームがあり、そこで数百億円がだまし取られる事件が起こり、ビットコイン熱は醒めた印象が強い。しかしながら、香港や中国では、ブロックチェーン技術を「仮想通貨」ではなく、確実・快速・安価な送金システムに活用して、人気を博している。生活者のための小口送金はいずれ銀行に依頼する者は消えて、ブロックチェーン企業にすべて移るであろう。手数料が安く、速く、しかも確実な方法を選ばない者はいない。も一つ。大陸から東南アジア諸国に観光旅行にでかけた中国人たちは、いまでは日本でも有名になった「銀聯カード」を用いる。国内で財布を持たない者が外国でのみ財布を携帯することはない。旅行者の銀行口座は大陸にあり、それは多くの場合「元建て」だ。こうして人民元は、売買の基準として (価値尺度として )も、交換手段としても、一帯一路で結ばれた経済圏でじわりじわりと広がる。人民元はこうした形で国際化しつつある。IMFレベルでの「資本取引の自由化」を含めた元の自由化の展望は、無期延期されている。しかしながら、人民元の事実上の国際化は深く静かに末端から浸透し、広がりつつある。

86  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

する可能性をもつ。百度やアリババは成長しつつある産業の第一線に立ち、「科大国盾量子(CTek)」のような企業を生み出している。その名が示すように、この企業は科技大の量子技術から生まれたものだ注 155。2016年 10月、初めての中国量子情報技術産業発展フォーラムが北京で開催され、中国信息協会量子信息分会が発足した注 156。済南で育ちつつある、いわゆる「済南量子バレー」には量子産業クラスターセンターも含まれる注 157。例えば「量子 CTek社」は、モバイルアプリと新型量子モバイルを製造するための公開プラットフォーム QSS-MEをもうけているが、これには中興通訊も参加している注 158。アリババのクラウドチームは、クラウドに基盤をおく量子暗号を企業のために提供するプラットフォームを計画中だ注 159。量子コンピュータの商業的応用には機械学習とともに生物学や化学への応用も想定されている点にも注目すべきであろう注 160。

(9)中国の量子研究を総括すると

米国有数の中国量子科学研究者で、『量子覇権』と題した報告書をまとめたカニア女史は、その結論で次のように中国の量子研究を総括している。曰く、中国が量子研究に高い優先順位を置いているのは、この技術が軍事と経済の対外競争力を強化できるからにほかならない。米国と並ぶ超科学大国の地位を求めて、中国は量子科技のイノベーションに全力をあげている。戦略的競争が深まるにつれて、中国は蛙飛びのごとく、米国を追い越して新興分野の「制高点」、すなわちバイオ技術、人工知能、量子技術を把握しようとしている。これらのメガプロジェクトは、中国の技術愛国主義に支えられ、「両弾一星」の経験が教訓となっている注 161。米国はこれまでは技術的優位性を誇ってきたが、新領域においては追随を許さない立場にあるのではない。もし中国が成功すれば、米国の優位性を覆し、経済と軍事の競争力を転換できよう。中国は人的資源と製造基盤を活用して、次の産業革命を担う量子技術においてグローバルなリーダーシップを維持できるであろう。現代史において米国は初めて真の技術的危機に直面している。それは量子技術だけではない。人工知能やバイオ技術においても同じだ。むろん米国の量子科技は公開されているものがすべてではない。にもかかわらず、中国が基礎研究への投資を倍増させているときに、米国では投資が減少しつつある事実は憂慮に堪えない。いくつかの米国の報告は、米国の量子科技研究開発の弱点を指摘している。それは長期的な研究開発を支える煙突がつまり、学際的研究開発が妨げられていることだ注 162。米国チームや企業が量子コンピュータを追求しているのは事実だが、その優先順位、インセンティブ、時間射程は政府や軍と歩調があっていない。ワシントンとシリコンバレーは協力し合う方法で争っている注 163。このように分析したうえで、エルサ・カニアの結論はこう指摘する。米国が採るべき対策は、➊米国としての競争力を強めること。➋重要なインフラにとっての量子コンピュータのリスクを評価して、そのコストを計算すること。➌量子サプライズのインパクトを評価し、その先導者となること。➍量子科技の軍事的適

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 87

用を完全に研究し評価すること。➎国の量子研究計画の、反諜報リスクをレビューし、the National Counterintelligence Executiveの任務とすること。➏米国議会に科技能力と専門見識を回復すること、である。さらにこう付加した。「第 2次量子革命の到来は、新しい不確実性を導く。米国は伝統的科技が先例のない挑戦を受けることに備えるべきである。前進するためには、中国との技術戦略的競争に挑戦しなければならない。未来の国家的競争力を統合することによって技術革新のダイナミズムを強化しなければならない。量子科技の衝撃は、幽霊のように、そして魔法のように見えるが、これは真実なのだ」注 164。 筆者は文系であり、理系、とりわけ量子科技のような最先端の分野は不案内だが、

このコメントには深く共感できる。量子科技自体がこれまでしばしば解説されてきたように、常識的な物理学の知識では理解しにくい構造を解明する科学である。加えて中国における量子科技の研究状況は半分は軍事機密として扱われている。そのため、中国の量子科技研究は二重の意味で「幽霊のように、魔法のように」見える。幽霊は非現実だが、中国の量子研究は現実であることを忘れてはなるまい。

(10)トランプの強硬策が習近平体制を強化した ――2018 ~ 19年、二つの会議の印象

米中がそれぞれの国内事情を抱えながら対外戦略を展開しつつあることはいうまでもない。ここで私自身の小さな体験を記して結びとしたい。昨年 7月末、私は中国人民大学に招かれて「改革開放 40周年」(1978~ 2018年)を記念するシンポジウムに出席した。外国人で招かれたのは日本人の私と米国人 3名であった。私は鄧小平時代=ネップ論を講演した。つまり、ロシア革命の「戦時共産主義」に相当するのが中国では毛沢東時代である。ロシアでは革命後の疲弊した経済を再生させるためにレーニンが「新経済政策」という名の資本主義システムを一時的に導入した。鄧小平が改革開放という看板を掲げて「市場経済」を導入したのは、レーニンのネップ政策に比定することができよう。ロシアでは、ネップ期のあとにスターリンの社会主義建設が始まった。スターリン体制のもとでロシアは、ナチスの攻撃をもちこたえ、独ソ戦争における勝利を獲得した。それは戦争という犠牲に加えて国内的には大粛清を伴った。

このようなロシア革命史と対比すると、習近平時代は「スターリン体制の再来か」と、批判的な声が届く。なるほど市場経済の導入の行き過ぎた部分に対する修正という文脈では、その通りである。しかしながら、スターリン時代の「一国社会主義」と違って、中国経済はグローバル世界経済のなかで、「世界の工場」として発展しつつあり、この点で鎖国体制のもとにおかれたロシア経済とは対外環境が大きく異なる。スターリン時代のロシアとは異なり、習近平時代の中国はグローバル経済下の一員として開放経済を指向することになる。さて、昨年の人民大学シンポジウムだが、中国の参加者たちが一人として習近

88  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

平の名に言及しなかった事実に、われわれ外国からの参加者は大いに驚かされた。どういうことか? 改革開放 40年の成果はあくまでも「鄧小平の功績」であり、これを讃え、その成果を活用して今後の中国経済の導きとすべきである。鄧小平の提起した対外路線、特に「韜光養晦(とうこうようかい)」(対米低姿勢外交)を放棄するのは間違いだ。中国の党中枢に近い研究者たちは 2018年夏にこのようなスタンスを明瞭に提起して、習近平の指導方針を暗に批判していた。

2019年 5月にはこのムードが様変わりしていた。「アジア文明カーニバル」に招かれた私は、このイベントが習近平の強いイニシャチブで推進されている姿を目の当たりにして、1年前の研究者たちの不満や批判が一掃されたような印象を抱いた。前者は一つの大学における研究者たちの会議で鄧小平の改革開放政策の意義を論じたもの、後者は世界 50カ国から首脳や経済人、友好活動家たちを招いたもので、イベントの形も内容もまるで異なる。異なるものをあえて比較するのは、この 1年間における中国内外の状況の変化の兆候をそこに見出すことができると感じたからだ。端的に結論を書くと、2018年夏の時点では、習近平の対米政策を批判する見解、すなわち韜光養晦の精神を軽々しく放棄するのは間違いだという意見を少なからず耳にしたが、2019年 5月には、「習近平のもとで団結する」という風潮がとりわけ強く感じられた。なぜこのような様変わりが生じたのか?明らかにトランプが中国に対して貿易戦争をしかけて、輸入関税上乗せを続けてきただけでなく、昨今はいいがかりに基づく「華為いじめ」とも受け取れるような、排除方針を提起して、世界経済を大混乱に陥れていることが背景にあろう(たとえば華為排除に真っ先に反応したのは、華為に半導体を売却している米国企業クアルコムやブロードコム社の株価下落であった)。当初は、習近平の強権政治に対して違和感を表明していた中国国内の習近平批判派も、トランプの身勝手な対中制裁に接するや、トランプ圧力に対抗するには、中国は固い団結で応えよう、という判断に傾いたようだ。トランプの対中ゆさぶりは、中国ナショナリズムの強化に役立ち、リベラル派を孤立させる結果をもたらしつつある。現在の中国と世界の経済関係の諸側面から観察して、トランプの関税引上げにより、当面は中国側がより多くの経済的損失をこうむる――これが大方の見方であろう。しかしながら、中国側は朝鮮戦争以来長期にわたって、ダレス流の「和平演変」という名の封じ込め戦略を堪えた経験があり、「打たれ強い」体質をもつことは証明済みだ。犠牲は大きくとも堪える点では現行の共産党独裁的国家体制は、ことのほか有効だ。これが中国の国情・体質である。むろん、このような「我慢比べ」が双方に大きな痛みをもたらすことはいうまでもない。両国のすみやかな和解を期待しつつも、「衰える米国 vs勃興する中国」という対立の構図に決着がつくには数年単位の時間を要することも覚悟しておく必要があると思われる。日本は両大国の狭間でどのように生き延びるか、日々選択を迫られている。

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 89

矢吹コラム 4

「打たれ強い」共産党独裁の国家体制

新華社が「対米投降派」を批判し、「ドブ鼠をたたけ」(打過街老鼠)と論じた(2019年6月 9日。「ドブ鼠をたたけ」とは、「寄ってたかって悪人をこらしめる」という決まり文句だが、このレッテルを対米妥協派に投げつけたわけだ。『光明日報』は「米国崇拝・米国に媚を売る・米国を恐れる奇談怪論」とこきおろし(2019年 6月 6日)、『環球時報』編集長胡錫進は「各種の投降論が猖獗をきわめる」と書いた(5月 24日ブログ)。『人民日報』は 5月 23日から 31日にかけて連続評論「九論」で米国は「言論に信なし」「一意孤行」(独断専行 )だと批判し続けた。新華社や『光明日報』から「投降派」と批判されているのは、清華大学教授「孫立平」のブログ「春秋筆」などだ。「中米関係が今日のような不幸を迎えたのは、トランブだけの責任であろうか。中国に責任はないのか」「WTO加盟以後、中国が知財保護に努力しなかったために貿易戦争が起こったのではないか」等々の言論が「投降派」の見解として批判されている。安信証券の首席エコノミスト高善文が「中国の対外開放とは対米開放のこと、中米関係を維持してこそ、その他の諸国との往来も可能になる」と論じたことも投降派の見解とされる。香港の『サウスチャイナ・モーニングポスト』(5月 12日)は、これらの言行の背後には「紅二代、退休高官」がいるという。その代表的言論こそ呉敬璉が中興通訊事件に触れて清華大学で行った講演「一切の犠牲を惜しまず半導体チップ(芯片)を発展させよ」という見解に対する全面的批判であった。呉敬璉はこの見解について「危険極まる対米強硬派」と酷評した。呉敬璉教授はいうまでもなく、改革開放期の 40年を通じて一貫して市場経済の効用を論じて「呉市場」のあだ名をもつほどの改革派エコノミストだ。その呉敬璉が批判の矢面にさらされている事実に、40年間における米中関係激変を痛感する。筆者(矢吹)の見解によれば、貿易戦争が新冷戦に転化したのは、一つは中国が日米半導体協定により壊滅させられた日本の悲劇に深く学び、日本の教訓を反面教師としようとしているからであり、もう一つは、中国が独自にハイテク技術を開発する能力をすでに備えたからである。さて、今後の展望だが、現在の中国と世界の経済関係の諸側面から観察し

90  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

て、トランプの関税引上げにより、当面は中国側がより多くの経済的損失をこうむる――これが大方の見方であろう。しかしながら、中国側は朝鮮戦争以来長期にわたって、ダレス流の「和平演変」という名の封じ込め戦略を堪えた経験があり、「打たれ強い」体質をもつことは証明済みだ。犠牲は大きくとも堪える点では現行の共産党独裁の国家体制は、ことのほか有効だ。これが中国の国情・体質である。むろん、このような「我慢比べ」が双方に大きな痛みをもたらすことは言う

までもない。両国のすみやかな和解を期待しつつも、「衰える米国 vs勃興する中国」という対立の構図に決着がつくには 10~ 20年単位の時間を要することも覚悟しておく必要があると思われる。それは米国主導のチャイメリカ体制から、中国主導のチャイメリカ体制への過渡期を示す矛盾にほかならない。日本は両大国の狭間でどのように生き延びるか、遺憾ながら政府も経済界もマスメディアも、的確な認識を欠いており、ひたすら日本沈没への道を歩んでいるように見える。(2019.6.12)

注 1 Executive Order 13806 ASSESSING AND STRENGTHENING THE MANUFACTURING AND DEFENSE INDUSTRIAL BASE AND SUPPLY CHAIN RESILIENCY OF THE UNITED STATES.

注 2 国務院関于印発新一代人工智能発展規劃的通知、新華社。注 3 中国は 16日午前 1時 40分、「長征 2号丁」ロケットを使い、酒泉衛星発射センターか

ら世界初の量子科学実験衛星(略称は「量子衛星」)「墨子号」を打ち上げたと新華社が伝えた。量子衛星は中国科学院宇宙科学先導特別プロジェクト第 1陣の科学実験衛星の一つで、その主な科学目標は、①衛星・地球間高速量子暗号通信実験を行い、これを踏まえたうえで広域量子暗号ネットワーク実験を行い、宇宙量子通信の実用化で重大な進展を目指す。②宇宙スケールで量子もつれ通信・量子テレポーテーション実験を行い、宇宙スケールの量子力学の整合性を確認する実験・研究を行う。

注 4 施堯耘の師匠は台湾出身のコンピュータ科学者「ヤオの法則」で知られる姚期智(アンドリュー・ヤオ)ミシガン大学教授である。

注 5 “量子京滬幹線”建成“量子互聯網”。注 6 取調べ書類には、「F7という企業が、制裁対象国での契約獲得のため、フロント企業を

活用している実態」も記されていた。取調べ書に記された「F7」とは華為技術を指す。注 7 中興通訊 ZTE(香港上場 0763.HK、深圳上場 000063.SZ)は、国有企業であり、華為技

術は従業員持ち株制度による未上場の民営企業。両社に対する数年がかりの捜査は、空港を通過する華為技術社員のノートパソコンや iPadから集めた情報による、とされた。

注 8 Supply Chain Vulnerabilities from China in U.S. Federal Information and Communications Technology, APRIL 2018.

注 9 19の会社の大半が国有持株会社、リーディング・カンパニー、国防関係会社である。注 10 トランプ大統領は、ロイターとのインタビューで、「対中通商交渉の妥結に資するなら、

この件に介入する」と発言し、2019年 2月にも同様の考えを繰り返した。注 11 ワシントン西部地区検察局の広報担当者は、華為技術の代表者が出廷すると述べたが、

同社からのコメントは得られていない。これとは別に、FBIは華為技術とその子会社について、銀行や通信詐欺、米国の対イラン制裁に違反する取引への関与など 13の罪で起訴した。

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 91

注 12 訴えによると、孟晩舟は 2018年 12月1日、バンクーバーの空港で飛行機を降りたところを呼び止められた。国境警備の当局者がパスポートを確認した上で、孟を別室に移動させ、携帯電話 2台とタブレット端末 iPad、私用のコンピュータを提出させた。さらにパスワードも教えるよう求められ、担当官が機器の中身を確認した由。

注 13 Niels Bohr, Essays 1932-1957 on Atomic Physics and Human Knowledge, Dover Books on Physics, 1957.

注 14 Bruce R. Auburn, “Quantum Encryption – A Means to Perfect Security,” SANS Institute, 2003注 15 Stephen Chen, “Chinese scientists solve quantum communicationʼs ʻnocturnal curseʼ, paving way

for sending of secure messages 24/7,” South China Morning Post, January 3, 2017,注 16 Ling Ji et al., “Towards quantum communications in free-space seawater,” Optics Express, 25 no.

17,2017注 17 “Quantum computing for the qubit curious,” Cosmos, August 8, 2016,注 18 “D-Wave: Scientists Line Up for Worldʼs Most Controversial Quantum Computer,” Scientific

American, January 25, 2017. Troels F. Rønnow, “Defining and detecting quantum speedup,” Science, July 25, 2014

注 19 https://www.wired.com/story/google-alibaba-spar-over-time-line-for-quantum-supremacy/注 20 “Chinese scientists make quantum leap in computing,” University of Science Technology and of

China, May 3, 2017注 21 http://en.ustc.edu.cn/highlight/201705/t20170503_277041.html注 22 陸朝陽。中国科学技術大学教授、1982年 12月浙江東陽生まれ、28歳で中国科学技術大

学教授、博士生導師、九三学社社員。注 23 Sharon Weinberger, “Air Force Demonstrates Ghost Imaging,” WIRED, June 3, 2008注 24 Zhang Shoucheng “Electron Superhighway: A Quantum Leap for Computing,” Stanford Institute

for Theoretical Physics, February 1, 2017注 25 Topological-physics pioneer Shoucheng Zhang dies,Nature, 08 DECEMBER 2018. Zhangʼs

family said that the scientist died after “a battle with depression”.注 26 2018年 2月 14日、「全球“量子霸権”争奪戦観察」《瞭望》新聞周刊注 27 同上、要打贏量子霸権争奪戦,不能做游撃隊一定要組織集団軍注 28 2013年 9月 30日上午,習近平等中共中央政治局各同志集体来到中関村国家自主創新示

范区展示中心,以実施創新駆動発展戦略為題,采用調研、講解、討論相結合的形式,挙行了首次在中南海之外的中央政治局集体学習活動。新華社合肥。

注 29 量子革命 :開啓未来科技“新引擎”、『経済参考報』2017年 10月 23日。 注 30 “量子衛星之父”潘建偉[広州日報]、 2016年 11月 15日、 記者 周琳 徐海涛 董瑞豊。注 31 安徽量子通信創新成果、亮相中央政治局集体学習活動。2013年 9月 30日。注 32 習近平「加快推進網絡信息技術自主創新」新華社、 2016年 10月 9日。注 33 習近平「在中国共産党第 19次全国代表大会上的報告」新華社 , 2017年 10月 27日。注 34 国家主席習近平発表 2018年新年賀詞、 新華社、 2018年 12月 31日。注 35 「記中国科技大学創新研究群体」『科学報』2006年 3月 6日。注 36 中国将力争在 2030年前后建成全球量子通信網、新華社、 2016年 8月 16日。、注 37 http://news.xinhuanet.com/politics/2016-05/19/c_1118898033.htm注 38 http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-08/08/content_5098072.htm注 39 量子計算:第四次工業革命的引擎、 新華社、 2018年 1月 10日。注 40 “量子調控 与量子信息”重点専項 2017 年度項目申報指南、 国務院科技部。注 41 空間科学衛星科学研究基金啓動、 新華社、 2017年 5月 24。注 42 “Alibaba to spend more than US$15bn on technology research with launch of collaborative

academy,” South China Morning Post, October 11, 2017.注 43 百億元安徽 量子科学産業発展基金啓動運営、 China News Network, 2017年 12月 12日。注 44 山東省量子技術創新発展規劃、 2018年 3月 6日。注 45 済南将為量子通信安全做“国標”、2018年 3月 24日。

92  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

注 46 中国科学院量子信息与量子科技創新研究院揭牌儀式在合肥挙行。https://iat.ustc.edu.cn/new_expo/1045.html

注 47 「“十三五”科技軍民融合発展専項規劃」注 48 山東省量子技術創新発展規劃、2018年 3月 6日。注 49 中船重工与中国科大成立 量子聯合実験室、新浪、 2017年 11月 28日。注 50 薛其坤。1963年 12月山東省臨沂市生まれ、材料物理学家、中国科学院院士、中国科学

院物理研究所研究員、清華大学教授、博士生導師、第二届高等学校科学研究優秀成果奨(科学技術)奨励委員会委員、北京郵電大学電子工程学院院長、2017年 12月任北京量子信息科学研究院院長。

注 51 http://www.sohu.com/a/212602971_473283注 52 軍科院国防科技創新研究院多措并挙凝聚創新力量。注 53 http://www.mod.gov.cn/mobilization/2018-02/04/content_4804117.htm注 54 http://www.scmp.com/news/china/diplomacy-defence/article/2130777/china-en-lists-top-

scientists-mission-become-military注 55 空間科学先導専項伝播策略分析、2017年 6月 22日。注 56 量子通信技術研発与産業化進程加快、『人民郵電報』2017年 9月 21日。注 57 “Chinaʼs plan to recruit talented researchers,” Nature, January 17, 2018

“Chinaʼs programme for recruiting foreign scientists comes under scrutiny,” South China Morning Post, November 3, 2017

注 58 “Ten superconducting qubits entangled by physicists in China,” Physics World, April 13,2017注 59 “Yu-Ao Chen: About Me,”“Quantum cryptography can go the distance,” Nature, August 27,

2008注 60 “Chinese Quantum Wizard LU Chaoyang Honored with Fresnel Prize,” Chinese Academy of

Sciences, June 23, 2017注 61 http://quantum.ustc.edu.cn/member/homepage.php?uid=25注 62 https://www.linkedin.com/in/feihu-xu-7817aa26/注 63 https://www.researchgate.net/scientific-contributions/29932449_Haohua_Wang注 64 Pan Yue, “Chinaʼs Alibaba Hires Quantum Computer Scientist Mario Szegedy,” China Money

Network, January 18, 2018注 65 潘建偉 :量子物理最美妙的地方是包容 , 2018年 2月 12日。注 66 Liming Salvino is associate director at the Office of Naval Research Global in Singapore “Chinaʼs

Talent Recruitment Programs: The Road to a Nobel Prize and World Hegemony in Science?” Study of Innovation and Technology in China, 2015

注 67 清華大学量子科学与技術研究中心揭牌儀式、新華社、2012年」9月 11日。注 68 “Here, There, and Everywhere,” The Economist, March 9, 2017注 69 全球量子密碼専利分析『計算機科学与応用』 7、 No. 12 (2017)、 1234-1244注 70 我国将力争在 2030年前后建成全球量子通信網。http://www.81.cn/jfjbmap/

content/2016-08/16/content_153661.htm注 71 中国将力争在 2030年前后建成全球量子通信網、 新華社、 2016年 8月 16日。注 72 我国量子衛星在軌測試順利 11月中旬開始科学実験、 新華社、 2016年 10月 12日。

Lee Billings, “China Shatters ʻSpooky Action at a Distanceʼ Record, Preps for Quantum Internet,” Scientific American, June 15, 2017.

注 73 Ji-Gang Ren et al., “Ground-to-satellite quantum teleportation,” Nature, August 9 2017注 74 “China Demonstrates Quantum Encryption by Hosting a Video Call,” IEEE Spectrum, October 3,

2017注 75 量子創新研究院提五年目標将発多顆微納量子衛星 , China Daily, February 23, 2018注 76 量子計算機的発展現状与趨勢 , CAS注 77 ゲルマニウムとシリコンの化合物、光変調用の半導体材料にはシリコン基板に成長しや

すいゲルマニウムとシリコンの化合物を用いる。

特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 93

注 78 グラフェン (graphene) とは、1原子の厚さの sp2結合炭素原子のシート状物質。炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造をとっている。名称の由来はグラファイト (Graphite) から。グラファイト自体もグラフェンシートが多数積み重なってできている。グラフェンの炭素間結合距離は約 0.142 nm。炭素同素体(グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレンなど)の基本的な構造である。

注 79 “Chinese scientists break quantum computing world record,” CGTN, July 3, 2018注 80 https://news.cgtn.com/news/3d3d674d334d544e78457a6333566d54/share_p.html

“China Successfully Develops Semiconductor Quantum Chip,” Chinese Academy of Sciences, August 12,2016“China Makes New Breakthrough in Quantum Communications,” Chinese Academy of Sciences,

August 26, 2016注 81 我国学者実現国際最快量子控制為多比特量子計算基礎、 新華社、10月 26日。注 82 “Ten superconducting qubits entangled by physicists in China,” Physics World, April 2017 中

国首個量子計算機誕生 , 新華社 , 2017年 5月 3日。注 83 Xi-Lin Wang et al., “18-Qubit Entanglement with Six Photonsʼ Three Degrees of Freedom,”

Physical Review Letters, June 28, 2018注 84 Stephen Chen, “China Hits Milestone in Developing Quantum Computer ʻTo Eclipse All

Others,ʼ” South China Morning Post, June 12, 2017 注 85 搶占高地的安徽力量”、 新華社、 2018年 1月 19日。注 86 蒲雲飛 Yunfei Pu et al. “Experimental entanglement of 25 individually accessible atomic

quantum interfaces,” Science Advances, April 20, 2018注 87 “Chinese scientists develop largest-scaled photonic quantum chip,” Xinhua, May 12注 88 中国科学院―阿里巴巴量子計算実験室挂牌、 2015年 9月 2日。

中国科学院―阿里巴巴量子計算実験室挂牌、 Chinese Academy of Sciences, September 2, 2015。注 89 “Baidu has entered the race to build quantum computers,” MIT Technology Review, March 8, 2018注 90 中科院量子創新研究院聯合阿里雲発布量子計算雲平台、 新華社、 2017年 10月 12日。注 91 又一位量子計算頂級科学家加盟阿里、 2018年 1月 1日。注 92 “Well-known Quantum Technology Scientist施堯耘 Yaoyun Shi Joined Alibaba,” Medium注 93 ヤオの漢字表記は姚期智、著名なコンピュータ科学者にして計算理論家。ミニマックス

法を用い、「ヤオの法則」として知られる理論を証明した。 中国上海に生まれ台湾に移り、国立台湾大学で物理学を学び、1972年にハーバード大学で物理学の博士号を取得した。

注 94 潘建偉「”量子称霸”将会成為物理学和計算機科学的里程碑」、『科技日報』2016年 11月 6日。注 95 潘建偉「中国量子技術只在一両個点走在世界前列」、 Chinese Academy of Sciences,

December 30, 2016注 96 中科院拓扑量子計算卓越創新中心啓動籌建、 Chinese Academy of Sciences, December 4, 2017。注 97 Quantum Hegemony, p.17.注 98 清華大学 -悉尼科技大学量子計算与人工智能聯合研究中心、清華大学網頁。注 99 X.-D. Cai et al., “Entanglement-Based Machine Learning on a Quantum Computer,” arXiv, 2015注 100 He-Liang Huang et al., “Demonstration of Topological Data Analysis on a Quantum Processor,”

arXiv, January 19, 2018注 101 国務院関于印発新一代人工 智能発展規劃的通知、 2017年 8月 20日。注 102“The Quantum AI Revolution,” Project Q: Peace and Security in the Quantum Age, January 19,

2018注 103“Utility of Quantum Systems for the Air Force,” USAF Scientific Advisory Board, August 19, 2016注 104 Noah Shachtman, “Lockheedʼs Spooky Radar,” WIRED, March 8, 2007

Sharon Weinberger, “Lockheedʼs ʻSpooky Radarʼ Gets U.S. Patent,” WIRED, May 22, 201 “Quantum radar will expose stealth aircraft,” Institute for Quantum Computing, University of

Waterloo, April 12, 2018Mary- Ann Russon, “Canada developing quantum radar to detect stealth aircraft,” BBC, April 24, 2018

94  特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ

注 105 量子雷達洞察未来戦場“千里眼”、『解放軍報』2016年 9月 22日。注 106 譲隠形戦機顕形的量子雷達来了、Science and Technology Daily, September 13, 2016

中国首部単光子量子雷達系統研制成功、 CETC, September 18, 2016自主創新引領雷達探測領域跨入精微的量子世界、 CETC, June 16, 2017

注 107 中国電科首部単光子量子雷達系統研制成功、 CETC 14th Research Institute, September 7, 2016。

注 108“New research signals big future for quantum radar,” Phys.org, February 26, 2015注 109“Chinaʼs Latest Quantum Radar Wonʼt Just Track Stealth Bombers,” South China Morning Post,

June 15, 2018中国可用量子雷達技術可从太空監視高速飛行器、 Global Times, June 18, 2018

注 110 It is worth noting that this research institute and its affiliates have a fairly limited track record of available publications on these issues, which could imply that these efforts are overstated or simply could reflect the secrecy associated with their research.Elsa B. Kania & John K. Costello,QUANTUM HEGEMONY? Chinaʼs Ambitions and the Challenge to U.S. Innovation Leadership,Center for a New American Security,p.19.

注 111 我国微波光子雷達様機誕生、 中国軍網 China Military Online。注 112 同上。verifying the platform experimentally, and achieving systems integration and a series of

field tests that involved the rapid imaging of random targets, demonstrating fast imaging and the capability to identify even subtler details of an aircraft.

注 113 http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:9s4e97kjlFYJ:www.siom.cas.cn/jgsz/lzgxzdsys/lz_yjdw/201607/t20160707_4637212.htmlStephen Chen, “Could ghost imaging spy satellite be a game changer for Chinese military?” South China Morning Post, November 26, 2017

注 114 中国研制世界首台激光単像素 3D照相機 , Seeking Truth注 115 量子成像:看穿戦場迷霧的“慧眼”,『解放軍報』, December 15, 2017注 116 量子技術再獲突破:鬼成像衛星助中国追踪 B2], Peopleʼs Daily, November 28, 2017,注 117 同上。注 118 量子遥感研究獲得重大進展 , Optics Journal, December 4, 2017注 119 航天 13所量子成像研 究取得重要進展 ], CASC, August 20, 2015注 120 航天 508所籌建国内首個量子遥感実験室 , China Space News, July 26, 2012注 121「中船重工推進量子技術産業化、搶占海防応用制高点」『中国証券報』 2018年 2月 5日。 注 122 中船重工与中国科大成立量子聯合実験室、 新浪、 2017年 11月 28日。注 123 胡問鳴到七一七、七二二所専題調研量子技術研究進展情。注 124 Stephen Chen, “Has China developed the worldʼs most powerful submarine detector?” South

China Morning Post, June 24, 2017,David Hambling, “Chinaʼs quantum submarine detector could seal South China Sea,” New Scientist, August 22, 2017,

注 125 中船重工推進量子技術産業化 搶占海防応用制高点『中国証券報』 2018年 2月 5日。注 126 中国量子技術爆発:首台核磁共振量子陀螺様機問世、 新浪 , 2016年 8月 31日。注 127 首個基于磁共振的原子自旋陀螺儀原理様機研制成功、新華社、 2016年 4月 2日。注 128 全国性量子伝感技術会議在蘇州高新区召開、 蘇州高新区、2017年 11月 20日。注 129 清華大学量子科学与技術研究中心揭牌儀式、新華社、2012年 9月 11日。注 130 新奥集団将世界頂尖物理学理論応用于清洁能源技術研究、 『人民日報』2014年 10月 3日。注 131 Topological-physics pioneer Shoucheng Zhang dies. Nature, Dec.8, 2018.注 132 量子通信引発軍事領域変革重塑戦争体系、解放軍報、 2016年 9月 27日。注 133 William C. Hannas, James Mulvenon, and Anna B. Puglisi,Chinese Industrial Espionage:

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特集1 5G量子覇権――米中冷戦のゆくえ 95

注 136 Xiaomeng Lu et al., “Progress, Pauses, and Power Shifts in Chinaʼs Cybersecurity Law Regime,” DigiChina, July 18, 2018,

注 137 十年鋳就信息安全之“盾”、 中国科学報、 2016年 8月 16日。注 138 安衛平 ,量子通信引発軍事領域変革、重塑戦争体系、 解放軍報 2016年 9月 27日。注 139 Yu Dawei, “In China, Quantum Communications Comes of Age,”財新、2015年 2月 6日。注 140 中国軍用量子手機将投入試用 没有網絡照様能 発信息、 Military Observer, June 29, 2018。注 141 中船重工推進量子技術産業化搶占海防応用制高点、 China Securities News, February 5, 2018。注 142 Ling Ji et al., “Towards quantum communications in free-space seawater,” Optics Express, 25 no.

17 (2017)Raymond Wang, “Quantum Communications and Chinese SSBN Strategy,” The Diplomat, November 4, 2017

注 143 専家:下一代潜艇顛覆性革命、2017年 9月 22日。注 144 屠晨昕 ,量子技術:重塑人类軍事力量、 黔江晩報 ,2014年 6月 4日。

袁芸「量子密碼:未来戦争“神器”」『光明日報』May 28, 2014。 注 145“Candidate Quantum- Resistant Cryptographic Algorithms Publicly Available,” NIST, December

28, 2017.Lily Chen et al., “Report on Post-Quantum Cryptography,” National Institute of Standards and Technology Internal Report 8105, 2016.

注 146 The distinct but interrelated disciplines of quantum radar, sensing, imaging, metrology, and navigation have direct and significant military applications that could make possible enhanced situational awareness in all domains of warfare.

注 147 ギリシア神話に登場する女神、人間が神に働く無礼に対する、神の憤りと罰を擬人化したもの。注 148 量子成像:看穿戦場迷霧的“慧眼”、解放軍報、 2017年 12月 15日。注 149“Quantum-enhanced radar canʼt be fooled by electronic detection countermeasures,” New Atlas,

January 11,2013注 150 量子伝感顛覆未来戦場、 China Military Online, August 18, 2018。注 151“Quantum Technology & The Military,” May 27, 2013注 152 鄒宏新、新一代慣性導航技術 -量子導航、National Defense Science and Technology, June

2014. 注 153 Paul Marks, “Quantum positioning system steps in when GPS fails,” New Scientist, May 14, 2014注 154 中船重工推進量子技術産業化 搶占海防応用制高点、 China Securities News, February 5, 2018。注 155 the University of Science and Technology of China注 156 打造量子通信産業、 Sina, October 12, 2016。注 157 済南到 2025年将 成全省百億級量子産業集群中心、 済南日報、2018年 3月 6日。注 158 球首款商用“量子手機”問世、量子通信走出実験室 , Anhui Business Daily, February 7, 2018。注 159“AliCloud unveils cloud-based quantum cryptography solution,” Computerworld, September

15,2015。注 160“Entanglement-Based Machine Learning on a Quantum Computer,” arXiv, 2015注 161“China Builds ʻtwo bombs, one satelliteʼ Memorial Museum,” Chinese Academy of Sciences,

September14, 2015。注 162“Advancing Quantum Information Science: National Challenges and Opportunities,” National

Science and Technology Council, July 22, 2017注 163 Kate Conger, “Google Employees Resign in Protest Against Pentagon Contract,” Gizmodo, May

14, 2018注 164 Elsa B. Kania, “Tech Entanglement– China, the United States, and Artificial Intelligence,”

Bulletin of the Atomic Scientists, February 6, 2018