坑廃水処理施設試運転の解説書 - Minister of...

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坑廃水処理施設試運転の解説書 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構

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坑廃水処理施設試運転の解説書

独立行政法人

石油天然ガス・金属鉱物資源機構

金属鉱山の坑口等から排出される坑廃水は、一般的に強酸性であり、また、有害金属を含有して

いることから、これらによる鉱害を防止するため、中和処理等による坑廃水処理を行っている。

また、坑廃水は鉱山の閉山後も排出されるため、生産活動を伴わない坑廃水処理が半永久的に必

要である。

したがって、鉱山鉱害防止対策では、永続する坑廃水の処理対策がきわめて重要な課題である。

このようななか、将来各坑廃水処理場の老朽化・陳腐化は進み、順次、新設または改修等が必要と

なってくる。一方、坑廃水処理に係る技術は、一般産業の処理と異なり特殊な技術である。また、技

術者の高年齢化による人材不足が予想されることから、人材育成のために坑廃水処理の理解を深め

る技術的な解説書が求められている。

独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構は、昭和 48 年度から鉱害防止支援事業に携わ

っており、坑廃水処理の鉱害防止技術ノウハウを蓄積してきている。

本書は、機構の有しているノウハウの一例を解説書としてテキスト化することにより、鉱害防止事業

関係者の技術の一層の向上を目的としているものである。

平成 17 年度においては「坑廃水処理の原理」、「坑廃水処理施設試運転」及び「坑廃水処理施設

導入」について解説書を作成した。

関係業務に携わる方々の坑廃水処理施設の解説書として有効に活用されることを願うものである。

また、本書の刊行にあたって御指導を賜った関係各位に対して感謝申し上げる次第である。

平成 18 年 2 月

独立行政法人

石油天然ガス・金属鉱物資源機構

鉱害防止支援業務グループ

目次

総論 ............................................................................................................................ 1

1.想定する水処理の概要 ................................................................................................ 2

(1)坑廃水処理施設調査結果 ........................................................................................ 2

1)主要設備に関する集計結果 .................................................................................... 6

2)主要薬剤に関する集計結果 .................................................................................... 6

3)基本処理フローの分類 ........................................................................................... 6

(2)原水の水量・水質に関する仕様 ................................................................................. 9

1)水量 ................................................................................................................... 9

2)水質 ................................................................................................................... 9

(3) 設備・装置に関する仕様 ......................................................................................... 9

1)原水槽 ................................................................................................................ 9

2)原水貯水槽 ......................................................................................................... 9

3)中和反応槽 ....................................................................................................... 10

4)凝集反応槽 ....................................................................................................... 11

5)沈降分離槽 ....................................................................................................... 11

2.試運転実施要領 ........................................................................................................ 12

(1)試運転準備作業 ................................................................................................... 17

1)場内および機器の清掃 ........................................................................................ 17

2)槽類および機器の点検 ........................................................................................ 17

3)配管類の気密検査 .............................................................................................. 17

4)機器の潤滑油の点検 ........................................................................................... 17

5)動力・計装設備の点検 ......................................................................................... 17

(2)無負荷試運転 ....................................................................................................... 17

1)機器の回転方向の点検 ........................................................................................ 17

2)用水による試運転 ............................................................................................... 18

3)試薬の受入および溶解 ........................................................................................ 19

(3)負荷試運転 ......................................................................................................... 21

1)負荷試運転の概要 .............................................................................................. 21

2)負荷試運転の方法 .............................................................................................. 21

3.オプション工程・設備への対応 ...................................................................................... 26

(1)逆中和工程 .......................................................................................................... 26

(2) 殿物繰返し工程 .................................................................................................. 27

(3)砂ろ過工程 .......................................................................................................... 28

参考文献等 ................................................................................................................. 29

坑廃水処理用語解説 ..................................................................................................... 30

あとがき ....................................................................................................................... 32

1

総論

日本全国の坑廃水処理施設について処理内容(処理設備の構成、使用薬剤等)の概要を調べた

ところ、坑廃水の導水路に直接中和剤を投入しそのまま堆積場に送泥し固液分離する簡易な施設か

ら、原水槽・中和槽・凝集槽・沈降分離槽・殿物繰返し設備・砂ろ過設備・逆中和槽・脱水設備等、

坑廃水処理施設に関連する設備が一通り完備されている施設まで、施設によってその設備の内容は

さまざまです。本稿ではまず、中和剤の添加後に撹拌設備があるかないか、沈降分離槽があるかな

いか等により、全国 81箇所の処理施設を 5つのタイプに分類しました。原水槽、原水貯水槽、中和反

応槽、凝集反応槽および沈降分離槽からなる坑廃水処理施設が標準的といえます。したがいまして、

この設備構成を本稿の試運転の対象としました。また中和剤については、消石灰を使用しているとこ

ろが大半であり、また凝集剤も大半のところで使用されていますので、試運転の対象とします。

水処理の仕様につきましては、酸性坑廃水を消石灰添加により pHを 8前後に単純中和するだけで

処理後の水質が排水基準を満足するものを想定します。したがいまして、カドミウムやマンガンを多く

含有するため高 pHに中和して、その後硫酸で逆中和する必要のある処理施設や高濃度の殿物を得

るため殿物繰返し工程を採用する処理施設、また、砂ろ過工程のある施設は想定外とし、別途オプ

ション工程として記述します。

試運転実施要領の内容につきましては、試運転準備作業として場内および機器の清掃、槽類や機

器の外観検査、配管類の気密検査、機器の潤滑油点検、動力・計装設備の点検について記述しま

す。次に、無負荷試運転として、機器の回転方向の点検、用水を通水したときの槽類、配管、ポンプ、

撹拌機、シックナ駆動装置、計器の点検内容、試薬の受入および溶解等を記述します。最後に、負

荷試運転として、負荷試運転の概要、負荷試運転の方法について記述します。

2

1.想定する水処理の概要 (1)坑廃水処理施設調査結果

全国の 81箇所の坑廃水処理施設それぞれについて調べました処理フローの一部を図 1-1(事

例 1~事例 6)に示します。また、鉱山別の処理設備構成(その 1、その 2)を表 1-1,2 に、鉱山別

の主な使用薬剤を表 1-3 に示します。ここでこれらの図表より、以下の 1)~ 3)の以下の知見が

得られました。

3

表 1-1.鉱山別処理設備構成(その 1)

設備名

鉱山番号

1 ○ ○ ○2 ○3 ○ ○4 ○ ○ ○ ○ ○ ○5 ○ ○6 ○ ○ ○7 ○8 ○ ○ ○ ○ ○9 ○ ○10 ○ ○11 ○ ○ ○12 ○ ○13 ○ ○ ○14 ○ ○ ○15 ○ ○ ○ ○16 ○ ○ ○ ○17 ○ ○ ○ ○ ○ ○18 ○ ○ ○19 ○ ○ ○  20 ○ ○ ○  21 ○ ○ ○ ○ ○22 ○ ○ ○ ○23 ○ ○ ○ ○24 ○ ○25 ○ ○26 ○ ○27 ○ ○ ○28 ○ ○29 ○ ○ ○    30 ○ ○ ○    31 ○ ○ ○ ○32 ○ ○ ○ ○ ○33 ○ ○ ○34 ○35 ○ ○36 ○ ○37 ○ ○ ○38 ○ ○39 ○40 ○ ○41 ○ ○ ○

注1:硫酸による逆中和設備注2:殿物の繰返し設備

表  鉱 設備構 そ

貯水槽 中和槽 凝集槽 沈降槽 沈殿池 逆中和 注1繰返し 注2 砂ろ過

4

表 1-2.鉱山別処理設備構成(その 2)

設備名

鉱山番号

42 ○ ○ ○43 ○ ○ ○ ○44 ○ ○ ○ ○45   ○46 ○ ○47 ○48 ○ ○ ○ ○49 ○ ○50 ○51 ○ ○52 ○ ○53 ○ ○ ○ ○ ○ ○54 ○ ○ ○55 ○56 ○ ○ ○ ○ ○57 ○58 ○ ○ ○ ○59 ○ ○ ○60   ○61 ○ ○62 ○ ○ ○ ○63 ○ ○64 ○65 ○ ○66 ○67 ○ ○68 ○ ○ ○69 ○ ○70 ○ ○71 ○ ○72 ○73 ○74 ○75 ○ ○76 ○ ○ ○77 ○ ○ ○78 ○ ○ ○79 ○ ○80 ○ ○ ○81 ○ ○

合計 13 64 24 45 44 10 9 5

沈殿池 逆中和 注1繰返し 注2 砂ろ過貯水槽 中和槽 凝集槽 沈降槽

表  鉱 設備構 そ

5

表 1-3.鉱山別使用薬剤

薬剤名 薬剤名

鉱山番号 鉱山番号

1 ○ 42 ○ ○ ○2 ○ 43 ○ ○3 ○ ○ ○ 44 ○ ○4 ○ ○ 45 ○5 ○ ○ 46 ○6 ○ ○ 47 ○7 ○ 48 ○8 ○ 49 ○9 ○ ○ 50 ○10 ○ ○ 51 ○11 ○ 5212 53 ○ ○13 ○ ○ 54 ○14 ○ ○ 55 ○ ○15 ○ ○ 56 ○ ○16 ○ ○ 57 ○17 ○ ○ 58 ○ ○18 ○ ○ 59 ○ ○19 ○ ○ 60 ○20 ○ ○ ○ 61 ○21 ○ ○ 62 ○ ○22 ○ ○ 63 ○23 ○ ○ ○ 64 ○24 ○ ○ 65 ○25 ○ ○ 66 ○ ○26 ○ ○ 67 ○ ○27 ○ ○ 68 ○ ○28 ○   69 ○ ○29 ○ ○ 70 ○ ○30 ○ ○ 71 ○31 ○ ○ 72 ○32 ○ ○ 73 ○33 ○ 74 ○34 ○ 7535 ○ 76 ○ ○36 ○ 77 ○ ○37 ○ 78 ○38 ○ 79 ○ ○39 ○ 80 ○ ○40 ○ 81 ○41 ○ ○

合計 59 6 4 13 46

凝集剤

表  鉱 使 薬剤

消石灰 炭カル 生石灰 苛性ソーダ 凝集剤 消石灰 炭カル 生石灰 苛性ソーダ

6

1)主要設備に関する集計結果 81 鉱山のうち、それぞれの主要処理設備について保有している鉱山の総数は以下のとおりです。

ただし、設備更新中の鉱山については旧設備を集計に入れました。

表 1-4.各主要処理設備を保有している鉱山の総数

設備名 貯水槽 中和槽 凝集槽 沈降槽 沈殿池 逆中和 繰返し 砂ろ過

鉱山数(箇所) 13 64 24 45 44 10 9 5

2)主要薬剤に関する集計結果

81 の鉱山が使用している薬剤について集計すると以下のようになり、中和剤として最も使用されて

いる薬剤は消石灰であることがわかります。

表 1-5.各薬剤を使用している鉱山の総数

薬剤名 消石灰 炭カル 苛性ソーダ 生石灰 凝集剤

鉱山数(箇所) 59 6 13 4 46

3)基本処理フローの分類

81 鉱山の基本処理フローを、固液分離設備の違い(シックナ、沈殿池あるいは沈殿槽等)、中和

槽(あるいは撹拌槽)設置の有無等により分類すると、表 1-6 のように 5 つのタイプに分かれます。

(各タイプのフロー図は図 1-2 参照) ここで、それぞれのタイプに該当する鉱山数を集計すると、タ

イプ 4(32 鉱山)が最も多い処理フローであることがわかります。これより、本稿では図 1-3 のような処

理フローを想定しました。

表 1-6.基本処理フローのタイプ別概略と該当鉱山数

タイプ 基本処理フローの概要 鉱山数

1

処理場に導水される坑廃水は中和剤が添加された後、直接殿物堆積場に送ら

れて、殿物はそこで堆積され、処理後の水は底設暗渠経由排水されます。凝集

剤は添加されておりません。

1

2

とくに中和槽や撹拌槽は設置せず、坑廃水の導水路に直接中和剤が添加され

その後の流れの中で中和反応させた後、沈殿池または沈殿槽で固液分離が行

われます。過半の処理場では凝集剤の添加はありません。

16

3

中和槽(あるいは撹拌槽)に坑廃水とともに中和剤が添加され中和反応が行わ

れた後、沈殿池(あるいは沈殿槽)で固液分離が行われます。凝集剤は沈殿池

への導水路に添加されます。

18

4

中和槽(あるいは撹拌槽)に坑廃水とともに中和剤を添加して中和反応が行われ

た後、シックナ(沈降分離槽)で固液分離が行われます。凝集剤は凝集反応槽に

添加され適切な撹拌時間が与えられます。

32

5

タイプ 4 の処理フローに逆中和工程、殿物繰返し工程、砂ろ過工程等のオプショ

ン工程の一つあるいは複数が付加されています。凝集剤は凝集反応槽に添加さ

れ適切な撹拌時間が与えられます。

14

7

図 1-2.坑廃水処理施設のタイプ別処理フロー

坑廃水 坑廃水 坑廃水  

消石灰 消石灰

処理場 集水槽 原水槽

条件槽

堆積場 原水槽 中和槽

消石灰 凝集剤

  暗渠排水

中和槽 凝集槽タイプ 1

凝集剤

溢流水

凝集槽 沈降槽坑廃水

殿物

NaOH

沈降槽 砂ろ過槽導水路

脱水機 硫酸

放流

逆中和槽沈殿池 タイプ 4

放流放流

タイプ 5タイプ 2

坑廃水

消石灰

中和槽

凝集剤

沈殿池

放流

タイプ 3

 

8

注:点線矢印は原水量が設計水量(0.9m3/min)より過剰な時は貯水し、

原水量が少なくなるときに処理することを示します。

図 1-3. 想定する処理フロー図

坑廃水

原水槽

0.9m3/min

消石灰

凝集剤

凝集槽 中和槽

原水貯水槽

沈降分離槽

殿物

上澄水 放流

脱水機

沈殿池

堆積場

9

(2)原水の水量・水質に関する仕様 義務者不存在鉱山の処理水量の平均と水質範囲をまとめますと、下記の表となります。

表 1-7.義務者不存在鉱山の水量平均(m3/min)と水質範囲(mg/L)

水量 pH Cu Pb Zn Cd T-Fe

0.41 2.2 – 7 0.01–7.85 0.005-1.128 0.15-42.2 0.007-0.128 0.56-830

(一部鉱山は除いてあります)

1)水量 上記のデータを参考にして、坑廃水処理の原水水量としては、平時の水量が 0.5m3/min 程度、

最大水量が 3m3/minを超えない(設計水量 0.9m3/min)程度の、比較的小規模な施設を想定しま

す。 2)水質

上記のデータに示す水質であれば、消石灰添加による単純中和により pH を 8 前後に高めると、

処理水の含有重金属を全て排水基準以下にすることが可能と思われますので、このテキストで想

定する水質は上記データ範囲とします。苛性ソーダ、炭酸カルシウムなど異なる中和剤を用いる

場合、多段中和方式の場合、バクテリアや曝気などによる酸化工程を含む場合などは、想定して

いません。 (3) 設備・装置に関する仕様

設備・装置の内容・仕様は坑廃水処理施設の詳細設計によって決定されるものですが、設備

内容の目安は全国の坑廃水処理施設の調査結果を参考として、図 1-3に示す基本処理フローを

想定します。ただし、中和 pH を排水基準を超える領域まで高める必要があるために放流前に沈

降分離槽の上澄水に対して硫酸添加による逆中和工程を必要とする場合、殿物濃度を高めるた

め殿物繰り返し工程を行う場合、上澄水の濁りをとるため砂ろ過工程が必要な場合等に関しまし

てはオプションとして別に記述します。図 1-3 に基づき、主要設備(槽類)について仕様の目安を

以下に示します。

1)原水槽

各所からの坑廃水を集水し、そこから原水ポンプ

により処理原水を中和槽に送水するために設置しま

す。(写真 1-1 参照)原水槽のサイズを決めるに当た

り、目安として経験的に平均水量に対して 10 分程度

の滞留時間を与えますが、これを参考にしますと原

水槽の容量は 0.5m3/min×10min=5 m3となります。

設計水量以上の原水発生量がある場合は、原水槽

の溢流は原水貯水槽に自然流送し貯留して、発生

原水量が減少した時に処理します。

2)原水貯水槽 設計水量を超過する発生原水量は原水貯水槽に貯めて、原水量の少ない時に処理すること

になります。目安としては、最大水量時に 16 時間程度貯められる大きさが必要なので、貯水槽の

容量は( 3.0m3/min - 0.9m3/min )×60min/h×16h=約 2,000 m3となります。 原水貯水槽内にはレベル計(超音波式液面指示警報計)と原水移送ポンプ 2 台を設置します。

原水移送ポンプの交互運転により、発生源水量が少ない時に、移送ポンプ配管を通して原水槽

に導水します。同ポンプは、原水貯水槽水位が H 以上で運転状態となり、原水槽水位が L 未満

写真 1-1. 原水槽の概要

10

で停止します。ここで以下に貯水槽の水位制御模式図を示します。(図 1-4) このような貯水槽を設けることが立地的に無理な場合は、設計水量を超過する原水を処理する

ために中和槽以下の工程に予備系統を配置する必要があります。

図 1‐4. 原水貯水槽水位制御模式図

3)中和反応槽

設計水量に対して 20 分の中和反応時間を与える大きさの中和槽が経験的に認められています。

したがって、中和反応槽の容量は 0.9m3/min×20min=18 m3となります。予備の中和槽を設ける場

合は、その大きさとして、(3.0m3/min - 0.9m3/min)×20min=42m3の中和槽が必要となります。中

和反応槽の模式図を図 1-5 に示します。

写真 1‐2. 図 1‐5. 中和反応槽の模式図及び概要

P

*原水槽水位と併せて制御(原水槽水位L未満で停止、H以上で運転)

*原水槽水位と併せて制御(原水槽水位L未満で停止、H以上で運転)

原水槽へ 原水槽から

原水移送ポンプ

撹拌機(駆動部)

中和水

シャフト

撹拌羽根

原水+

消石灰懸濁液

仕切り板

液面

(オーバーフロー)

(短絡流防止)

H: ポンプ自動運転開始水位

*原水槽水位と併せて制御 (原水槽水位 L 未満で停止、H 以上で運転)

L: ポンプ自動停止水位

11

溢流板

集水樋

フィードウェル

レーキ駆動部

レーキ

排泥弁 排泥ポンプ

スピゴットコーン

放流または砂ろ過設備へ

中和水

たい積場または脱水設備へ

殿物

4)凝集反応槽

坑廃水処理施設の凝集反応槽のサイズを決めるに際しては、経験的に目安として設計水量に

対して 2 分程度の凝集反応時間を与えています。したがって、凝集反応槽の容量は 0.9m3/min×

2min=1.8 m3となります。ここで、凝集反応槽の模式図を図 1‐6 に示します。

図 1‐6 凝集反応槽の模式図

5)沈降分離槽

沈降分離槽の水面積負荷 *は単純中和の

場合、経験的に 1m/h とされます。したがって、

沈降分離槽の面積は 0.9m3/min×60min/h÷

1m/h=54 m2となります。これより、沈降分離槽

の直径は 8.3m となります。また、垂直部分の

高さは 2m 以上とするのが一般的です。ここで、

シックナの模式図及び概要を図 1-7,写真 1-3

に示します。

【水面積負荷量について】

シックナの流入量を Q(m3/min)、シックナの面

積をA(m2)、上澄水の上昇速度をV(m/h)とすれ

ば次式が成立します。

Q/A=V ∴A=Q/V

シックナの所要面積を求めるにあたり、シックナ

内で分離された殿物が底部に沈降堆積するため

にはその沈降速度は V より大きいことが前提とな

ります。沈降試験で得られた沈降速度に安全率

を加味し V に代入して A を求めます。したがいま

して、V をシックナの水面積負荷と称します。

図 1-7. シックナの模式図

写真 1-3. シックナの概要

撹拌機(駆動部)

シックナへ(オーバフロー)

シャフト

撹拌羽根

中和水+凝集剤溶液

仕切り板(短絡流防止)

液面

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2.試運転実施要領 坑廃水処理施設の試運転は、各種試運転の準備作業、実坑廃水を使用しないで行う無負荷試

運転及び実坑廃水を使用して行う負荷試運転から構成されております。

また、試運転に先立ちまして、工事請負会社に対して試運転に関する各種チェックリストを準備

させることが必要です。その参考として表 2-1 に警報関係チェックリスト例を、表 2-2 に自動運転チ

ェックリスト例を、表 2‐3~6 に試運転記録例(1/4~4/4)を示します。

表 2‐1. 警報関係チェックリスト例

盤名称 警報名称 警報発報条件 警報復帰条件 判定 備考原水ポンプ制御盤 主電源漏電 主幹漏電アラーム異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰

〃 原水ポンプ 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 原水槽  水位上限 原水槽レベル計HH以上でON 原水槽レベル計HH未満で復帰〃 原水槽  水位下限 原水槽レベル計LL以上でON 原水槽レベル計LL未満で復帰〃 送水ポンプ 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 貯水槽  水位上限 貯水槽レベル計HH以上でON 貯水槽レベル計HH未満で復帰〃 貯水槽  水位下限 貯水槽レベル計LL以上でON 貯水槽レベル計LL未満で復帰

中和設備制御盤 主電源漏電 主幹漏電アラーム異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 中和槽撹拌機 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 消石灰フィーダ 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 バイブレータ 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 消石灰コンプレッサ 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 消石灰溶解槽撹拌機 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 消石灰溶解槽 水位上限 溶解槽レベル計HH以上でON 溶解槽レベル計HH未満で復帰〃 消石灰溶解槽 水位下限 溶解槽レベル計LL以上でON 溶解槽レベル計LL未満で復帰〃 消石灰添加ポンプ 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 中和反応槽 pH高 中和反応槽pH計HH以上でON 中和反応槽pH計HH未満で復帰〃 中和反応槽 pH低 中和反応槽pH計LL未満でON 中和反応槽pH計LL以上で復帰

〃 凝集剤溶解槽撹拌機 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 凝集剤添加ポンプ 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 凝集剤反応槽撹拌機 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰〃 凝集剤溶解槽 水位上限 溶解槽レベル計HH以上でON 溶解槽レベル計HH未満で復帰〃 凝集剤溶解槽 水位下限 溶解槽レベル計LL以上でON 溶解槽レベル計LL未満で復帰

〃 沈降分離槽駆動装置 故障 異常信号有りでON 異常信号無しで、リセット復帰

 

表 2‐2. 自動運転チェックリスト例

停止 運転原水ポンプ 原水槽レベル計H以上で運転

原水槽レベル計L未満で停止

送水ポンプ 貯水槽レベル計H以上で運転貯水槽レベル計L未満で停止

中和槽撹拌機 手動運転のみ

消石灰フィーダ 消石灰溶解槽レベル計L未満で運転消石灰溶解槽レベル計H以上で停止

消石灰添加ポンプ 中和槽pH指示調節計によるPID制御

バイブレータ バイブレータ運転タイマー、設定時間内運転バイブレータ待機タイマー、設定時間内ていし上記タイマーによる間欠運転

凝集剤溶解槽撹拌機 凝集剤溶解槽レベル計M以上、凝集剤自動溶解装置運転、  凝集剤給水弁開で運転凝集剤溶解槽レベル計M未満で停止

凝集剤自動溶解装置 凝集剤溶解槽レベル計M未満、給水弁開で運転凝集剤溶解槽レベル計MH以上で停止

凝集反応槽撹拌機 送水ポンプと連動

回転方向 総合判定

表   動 転

自動運転条件 備考機器名称 手動 自動表示灯

13

表 2-3. 試運転記録例(1/4)

1:ポンプ仕様(1) 機器名称(2) ITEM No.(3) 形式(4) 型番(5) メーカー名(6) 容量×揚程(7) 羽根形状(8) 回転数(9) 減速機(10) 電動機(11)(12)(13)(14)

2.検査

No. 合・不123456789

10111213

手順書番号確認者 ○  ○  ○

客先名対象機器

○  ○  ○原水ポンプ

○  ○  ○平成  年  月  日

場所検査日

客先確認者判定

○  ○  ○

○  ○  ○□ 合格   □ 不合格

表  試 転 録

検査内容 設計値 測定値

○  ○  ○□ 合格   □ 不合格

工事名図面番号

社内検査者判定

バルブ類・機器廻りボルト点検槽内異物等の清掃状態給油状態回転方向の確認電流値の確認液漏れ等の確認運転状態の確認(異音・振動)吐出量の確認

14

表 2-4. 試運転記録例(2/4)

1:ポンプ仕様(1) 機器名称(2) ITEM No.(3) 形式(4) 型番(5) メーカー名(6) 容量×揚程(7) 羽根形状(8) 回転数(9) 減速機(10) 電動機(11)(12)(13)(14)

2.検査

No. 合・不123456789

1011121310111213

表  試 転記録例( )客先名 ○  ○  ○ 工事名 ○  ○  ○

対象機器 送水ポンプ 図面番号場所 ○  ○  ○ 社内検査者 ○  ○  ○

検査日 平成  年  月  日 判定 □ 合格   □ 不合格

手順書番号 客先確認者 ○  ○  ○確認者 ○  ○  ○ 判定 □ 合格   □ 不合格

検査内容 設計値 測定値バルブ類・機器廻りボルト点検槽内異物等の清掃状態給油状態回転方向の確認電流値の確認液漏れ等の確認運転状態の確認(異音・振動)吐出量の確認

15

表 2-5. 試運転記録例(3/4)

1:撹拌機仕様(1) 機器名称 中和槽撹拌機(2) ITEM No.(3) 形式(4) 型番(5) メーカー名(6) 撹拌目的(7) 軸封形式(8) 軸径×長さ(9) 羽根形状(10) 回転数(11) 減速機(12) 電動機(13)(14)

2.検査

No. 合・不123456789

10111213

表  試 転 録客先名 ○  ○  ○ 工事名 ○  ○  ○

対象機器 中和槽撹拌機 図面番号場所 ○  ○  ○ 社内検査者 ○  ○  ○

検査日 平成  年  月  日 判定 □ 合格   □ 不合格手順書番号 客先確認者

確認者 ○  ○  ○ 判定 □ 合格   □ 不合格

検査内容 設計値 測定値オイル量の確認回転方向の確認電流値の確認電動機の発熱の確認減速機の異常音の確認撹拌軸のブレの確認

16

表 2-6. 試運転記録例(4/4)

1:撹拌機仕様(1) 機器名称 凝集反応槽撹拌機(2) ITEM No.(3) 形式(4) 型番(5) メーカー名(6) 撹拌目的(7) 軸封形式(8) 軸径×長さ(9) 羽根形状(10) 回転数(11) 減速機(12) 電動機(13)(14)

2.検査

No. 合・不123456789

10111213

表  試 転 録客先名 ○  ○  ○ 工事名 ○  ○  ○

対象機器 凝集反応槽撹拌機 図面番号場所 ○  ○  ○ 社内検査者 ○  ○  ○

検査日 平成  年  月  日 判定 □ 合格   □ 不合格手順書番号 客先確認者 ○  ○  ○

確認者 ○  ○  ○ 判定 □ 合格   □ 不合格

検査内容 設計値 測定値オイル量の確認回転方向の確認電流値の確認電動機の発熱の確認減速機の異常音の確認撹拌軸のブレの確認

17

水処理施設の試運転は、以下に示す要領に基づいて実施します。 (1)試運転準備作業 主として工事施工業者によって行われるものですが、運転管理を実施する者がその場に立ち会

うことによりまして、試運転に先立って準備作業が不具合なく実施されたことを確認します。不具合

があれば改善作業が行われますので、それも確認します。

1)場内および機器の清掃

① 試運転に先立って施工した範囲内の敷地を清掃し、残材、ゴミ等があれば廃掃法等に基づ

き処分します。 ② 槽類、機器類を清掃し、工具、残材、ゴミ等の異物が有れば取り除きます。

2)槽類および機器の点検

・ 溶接箇所および塗装の外観検査、ボルトの締め付けの確認を行い、不良箇所があれば補修

します。 3)配管類の気密検査

・ 各配管の両端を閉じ、この中に空気を入れ 30 分間保持し、圧力計の指針を見て配管から空

気の漏洩が有れば補修します。漏洩箇所は石鹸水等を塗布してそこから発泡が生じるかどうか

で確認します。 開放型で気密検査が困難な場合は、通水して目視により漏洩のないことを確認します。

4)機器の潤滑油の点検 ① すでに注油されている機器については、輸送中および据付時における油脂の漏洩の有無を

点検し、漏洩がある場合は漏洩箇所を補修すると同時に不足分の補給をします。 ② 据付後に注油する機器については、機器に付属されている油脂またはメーカーの指定する

油脂を所定量注油します。 5)動力・計装設備の点検 ① 受電前に、配線チェック、絶縁抵抗測定を行います。 ② 受電の上、シーケンサーの立ち上げを行い、連動運転、インターロック、タイマーの設定等、

自動制御の動作確認を行います。 ③ 機器類の発停を行い、漏電遮断器、熱動継電器の動作確認を行います。

なお、点検は不具合箇所がなくなるまで継続されます。

(2)無負荷試運転 無負荷試運転の目的は、実負荷(実際の坑廃水を処理する)による試運転を行う前に、各機器

の回転方向の点検、清水(汚染されていない用水)を通水する試運転の確認、試薬類の受入、溶

解及び添加装置の調整ならびに性能曲線等の確認を実施することです。そのために、すべての機

器に関して冒頭に例示しましたような各種チェックリストを工事請負会社に事前に用意させることが

必要です。

1)機器の回転方向の点検 機器の回転方向の点検に関しましては、機器の特性により以下の手順で行います。不具合は

18

ただちに直します。 ① 逆転を禁止されている機器(渦巻きポンプ等)でベルト駆動の機器については、伝動ベルトを

取り外した後にモータを運転し回転方向を点検します。逆転を禁止されている機器で伝動ベル

トのない機器についてはモータを瞬間的に運転して回転方向を点検します。 ② 空転を禁止されている機器(撹拌機等)でベルト駆動方式の機器については、伝動ベルトを

取り外した後にモータを運転し、回転方向を点検します。空転を禁止されている機器で伝動ベ

ルトのない機器については、槽内に所定量の水を入れた後にモータを瞬間的に運転し、回転

方向を点検します。 ③ 回転部分が見えない機器(水中ポンプ等)については、水運転における揚水の量の観察、ま

たは、電流計の指針の振れを見て回転方向を点検します。 2)用水による試運転

① 槽類 それぞれの槽内に所定量の用水を入れ、槽からの水漏れ、槽およびライニング部分のふくらみ

を目視により点検します。漏水があった場合は槽から水を抜き取った後に補修します。 なお、薬品の貯槽および溶解槽に貯えた水は、点検終了後に水抜きを行います。

② 配管および架台 ポンプ内に用水を満たし、ポンプを運転してポンプおよび配管からの水の漏れ、配管架台のた

わみおよび振動を目視により点検します。漏水、たわみおよび振動があった場合は、ポンプおよ

び配管から水を抜き取った後に補修します。 なお、薬液系統の配管および貯えた水は、点検終了後に水抜きを行います。

③ポンプ類 ポンプについては、用水の運転時における、異常な騒音、振動、電流の有無の点検および軸

温度の測定を行います。異常が認められたら早急に改善します。これらの判断基準は、以下のと

おりとします。 ・騒音については、聴覚により異常な音が発生しないことを確認します。 ・振動については、目視により異常な振動が発生しないことを確認します。 ・電流については、クランプメータにより電流値を測定し、定格電流以下であることを確認します。 ・軸受温度については、棒温度計により測定し、温度が大気温度+40℃以下でかつ最高温度が

75℃以下であることを確認します。 ④撹拌機類

槽に水を入れた後に撹拌機を運転し、聴覚により異常な音が発生しないこと、目視により異常

な振動が発生しないことを確認します。異常が認められたら早急に改善します。 ⑤シックナ駆動装置

シックナ駆動装置については、シックナに用水を入れる前および入れた後において、レーキを

回転させ、以下の点について点検します。 ・レーキが側板および底板に当たらないことを確認します。

・空転運転時におけるトルクを測定します。 ・水運転時におけるトルクを測定します。

・モータ、ウオームおよびシャフト等の回転部分において、異常音、発熱および振動の有無を点

検します。 ⑥流量計

流量計の測定範囲等の設定は取扱説明書に基づいて行い、仕様書どおりの性能が得られる

ように調整します。

19

⑦pH 計

pH 計の測定範囲、警報接点等の設定は取扱説明書に基づいて行い、仕様書どおりの性能

が得られるように調整します。

⑧レベル計 レベル計の測定範囲、警報接点等の設定は取扱説明書に基づいて行い、所定の水位でポ

ンプ等が作動するように調整すると同時に、警報設定水位で警報装置が作動することを確認し

ます。不具合があれば修正します。

3)試薬の受入および溶解 ①消石灰

消石灰の受入および添加は、以下の手順に従います。

不具合があれば修正します。

・消石灰貯槽内(写真 2-1,図 2-1 参照)を点検し、ボル

ト、石、ゴミ等の異物があれば取り除きます。

・消石灰貯槽下部のゲートを閉じ、ジェットパック車によ

って運搬されてきた消石灰を取扱説明書に従って貯

槽に受け入れます。

・コンプレッサ、エアドライヤ、バグフィルター、粉体レベ

ル計、エアブロー電磁弁等の付属機器が正常に作動

することを確認します。

・消石灰貯槽下部のゲートを開き、取扱説明書に従い

定量フィーダを運転して、所定の量が排出されることを

確認します。

・定量フィーダから排出される消石灰の量と溶解水の水

量との関係から、消石灰ミルクが所定の濃度になるよう

に消石灰溶解槽に流入する溶解水の水量を流量計

により調整します。

・定量フィーダの電動機と溶解水供給用電動弁が、消

石灰溶解槽(写真 2-1,図 2-2参照)に設置されている

レベル計によって自動制御されることを確認します。

・定量フィーダおよび消石灰ミルク添加量制御弁の性能曲線(それぞれの出力%に対する粉体

排出量あるいはミルク吐出量の関係)が仕様どおりであるか確認します。

写真 2-1.消石灰ホッパ及び溶解槽

20

図 2-1. 消石灰貯槽の模式図

図 2-2. 消石灰溶解槽の模式図

②高分子凝集剤

高分子凝集剤の概要を写真 2‐2 に示します。凝

集剤の補充および溶解方法は以下の手順に従いま

す。 ・ 凝集剤ホッパの内部を点検し、石、ゴミ等の異物

があれば取り除きます。 ・ 凝集剤ホッパの蓋を開け、市販の袋より手作業

により補充します。 ・ 凝集剤は吸湿性が高いので、密閉して室内で保

管します。 ・ コンプレッサ、エアドライヤ、エア電磁弁等の付属

機器が正常に作動することを確認します。

抜き出し装置

(ロータリフィーダまたはテーブルフィーダ)

貯槽(円筒部)

貯槽(ホッパ部)

貯槽

集塵機

受入配管

満槽レベル

補給レベル(残量確保)

▽GL

圧送車受入口

超音波式レベル計

1 車分以上の容量が必要

満槽レベル

補給レベル

撹拌機インタロック停止レベル

有効容量

撹拌機(駆動部)

超音波式レベル計

中和槽へ送液

消石灰+水

(自動供給)

シャフト

撹拌羽根

写真 2-2.凝集剤溶解槽の概要

21

・ 取扱説明書に従い、定量フィーダを運転して所定の量が排出されることを確認します。 ・ 定量フィーダから排出される凝集剤の量と溶解水の水量との関係から、凝集剤の溶解濃度が

所定の濃度になるように凝集剤溶解槽に流入する溶解水の水量を流量計により調整します。 ・ 定量フィーダの電動機と溶解水供給用の電動弁が、凝集剤溶解槽に設置されているレベル

計によって自動制御されることを確認します。 ・ 凝集剤溶解槽の撹拌機は、タイマーにより設定した時間運転します。 ・ フィーダおよび凝集剤添加ポンプの性能曲線(出力(%)に対する排出量の関係)を確認しま

す。 粉末の凝集剤と水を供給し、凝集剤溶液を作製する凝集剤溶解槽の模式図を図 2-3 に示しま

す。

図 2-3. 凝集剤溶解槽の模式図

(3)負荷試運転

1)負荷試運転の概要 ①負荷試運転の目的

負荷試運転は、実坑廃水により機器の連続運転を行い、機器の性能および処理水の水質が

設計値を満足することを確認します。 ②負荷試運転準備

負荷試運転の準備は以下の手順で行います。 ・シックナにはあらかじめ水を張ります。 ・各薬剤をそれぞれの貯槽に投入します。 ・原水槽に原水を導入します。 ・原水槽にある程度水が溜まったら、原水ポンプを自動スタンバイします。

2)負荷試運転の方法 ①概要 負荷試運転の方法・手順については別途定める「取扱説明書」によりますが、概要について

以下に記載します。 ・試薬の受入および溶解、希釈が正確に行われていることを確認します。

・消石灰定量フィーダおよび消石灰ミルク添加量ポンプの性能曲線(それぞれの出力%に対

する粉体排出量あるいはミルク吐出量)を再確認します。

満槽レベル

補給レベル

有効容量

撹拌機(駆動部)

超音波式レベル計

添加ポンプ

シャフト

撹拌羽根

定量供給機

水(自動供給)

凝集剤

凝集反応槽へ P

22

・凝集剤フィーダおよび添加ポンプの性能曲線(出力と添加量の関係)を再確認するとともにス

トロークを再調整します。 ・原水貯水槽に原水が貯留されていることを確認し、送水ポンプを運転して中和槽に坑廃水を

受け入れます。 ・中和槽の水位が撹拌機上段の羽根以上となったら、撹拌機を運転します。

・中和槽に設置された pH 指示調節計の信号で、消石灰ミルク添加量制御弁が制御されて中

和液が設定された値に調節されていることを確認します。 ・中和液は規定の凝集剤が添加されて凝集反応槽に流送されます。凝集反応槽の水位が撹

拌機上段の羽根以上となったら、撹拌機を運転します。 ・凝集反応槽の溢流はシックナに自然流下します。シックナにはあらかじめ水を張ってレーキを

駆動します。 ・シックナの溢流水(上澄水)が放流水となります。 ・シックナ下部の濃縮層に堆積する殿物は、ある程度溜まった時点でポンプにより殿物処理施

設に送泥します。

②負荷試運転留意事項 坑廃水処理において最も肝心なことは中和 pH が設定目標値付近で安定的に制御されること

にあります。したがって、負荷試運転時はこの点に最大の留意を払う必要があります。

図 2-4 及び図 2-5 にある鉱山での pH 自動制御の事例を示します。この鉱山では、中和反応

槽内に設置した pH 電極からの信号と消石灰添加装置の出力とを連動させること(PID制御)によ

り中和槽の pH を自動制御しています。制御盤上に中和槽 pH および出力(%)が刻々と表示さ

れておりましたので、1 分毎のそれぞれの数値を 20 分間記録しました。図 2-4 は 1 分毎の pH の

設定値からのズレ(上下への振れの大きさ)をプロットしたものです。図 2-4 をみますと、20 分間に

おける pH の振れは+0.9~-0.4 程度であり、一見して自動制御がうまく作動しているように思えま

す。しかし、図 2-5 をみますと、20 分間のうち 13 分間は消石灰出力ゼロつまり消石灰添加量ゼロ

の時間帯が継続し、その後に消石灰過剰添加の状態が数分間継続する、ことが繰り返されてい

ることを示します。したがいまして、消石灰が添加されない生の原水がシックナへ送られ、中和反

応がシックナまで持ち越される状態が継続していたことになります。そのときのシックナ溢流水の

性状は、消石灰が連続して添加されている(pH の振れが小さい)ときの性状と比べて、SS(殿物

微粒子)が増加しているとともにオーバーフロー・リップ・ノッチ及び樋への殿物付着量が増加して

いました。

上記の pH の振れが収束しない原因は、十分な試運転時間が確保できなかったため、PID(比

例帯、積分動作、微分動作)制御のP、I、Dの各設定値の組合せが最適なものとなっていなかっ

たことにあります。PID の初期値を設定するためのシステムとしてオートチューニング機能が組み

込まれていて、取り敢えずの初期値は設定されるのですが、最適な設定値の組み合わせ見つけ

るまでには相当な時間が掛かるようです。消石灰の添加がうまくいかない応急の解決策として、

pH の自動制御を止め、手動で消石灰の添加量を調整し pH が安定した後に自動に切替える方

法が採られました。その後の運転は安定的に推移しました。

参考として、図 2-6 および図 2-7 に比較的に pH 自動制御がうまくいっている他の事例(pH の

振れ、出力変化)を示します。

したがいまして、最適P、I、D設定値の組合せは、水量や pH電極の槽内への取付位置等で変

わるので、将来予想される各処理水量に対するそれぞれの最適組合せや電極位置等を把握す

るために十分な負荷試運転時間(1~2 週間程度)を確保します。

それぞれの水量に対するP、I、D設定値の最適組合せや電極位置等の把握が済んだら、設

23

計水量に切り換え後PIDや電極位置も再調整して、pH の自動制御状況を観察します。pH の振

れが目標設定値に収束する状況になれば試運転は完了となりますので、その時点で以下の項目

について調査を行います。

・ 処理原水量と消石灰添加量ならびに殿物発生量について把握し、スラリーあるいは脱水ケー

キを処分するときの基礎データとします。

・ 処理水量に対する最適な凝集剤添加量の把握に努めます(シックナ内における沈降状況、シ

ックナ溢流中の SS 発生状況およびシックナ・オーバーフロー・リップのノッチの殿物付着状況に

より判断します。)

・ 処理原水および放流水の水質分析、殿物の濃度測定および成分分析を行い、試運転成績

評価の基礎データとします。

24

-0.6

-0.4

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

時間の経過(分)

pH

の振

れの

大き

系列1

図 2-4. 自動制御による pH 変化の事例

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

時間の経過(分)

添加

装置

出力

(%

系列1

図 2-5. pH 自動制御における出力変化の事例

25

-0.6

-0.4

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

時間の経過(分)

pH

の振

れの

大き

系列1

図 2-6. 自動制御による pH 変化の事例 2

0

10

20

30

40

50

60

70

80

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

時間の経過(分)

添加

ポン

プ出

力(%

系列1

図 2-7. pH 自動制御における出力変化の事例 2

26

3.オプション工程・設備への対応 標準的水処理施設にオプションとして硫酸による逆中和が必要な場合は、硫酸逆中和槽、硫酸

添加設備を付加します。また、殿物繰返しを行う場合は、返泥ポンプが必要になるほか、併せて砂

ろ過設備を付加する必要もでてきます。 (1)逆中和工程

カドミウムやマンガンを含有する坑廃水の場合、消石灰中和後の沈降分離槽のオーバーフロー

水の pH が排水基準値を超過することがありますので、その場合には、オーバーフロー水を硫酸中

和槽(逆中和槽)に導水して硫酸を添加することにより、pH を排水基準内にしてから放流する必要

が出てきます。付加設備として、硫酸貯槽、硫酸添加ポンプ(予備含む)、逆中和槽、pH 制御機器

等が必要になります。図 3-1 に逆中和工程を実施している事例の処理フローを示します。

逆中和工程で留意すべきこととしては、硫酸添加ポンプ(予備含む)の選定と添加用配管の工

夫があります。まず、ポンプの選定ですが、最大設計水量に対する硫酸添加量に見合う能力のポ

ンプのみを選定すると水量が少ない時の pH 自動制御が乱れることが往々にしてありますので、少

量の水に見合う能力のポンプも併せて選定しておき、水量に合わせて切り換えて使用できるように

しておくことが必要です。

次に硫酸添加用配管は出来るだけ短くすること、運転中は常に満管とすること、先端に背圧弁

を取り付けること等によって、少量添加の場合でも実行遅れがないようにする必要があります。

図 3-1. 逆中和工程の事例

原水槽消石灰

凝集剤

pH=10.5

中和槽

原水

凝集槽溢流

貯水槽

硫酸

殿物pH=7.2

放流逆中和槽

堆積場

沈降分離槽

27

(2) 殿物繰返し工程 中和処理施設から発生する殿物の堆積場の余裕が少なくなってきた鉱山あるいは鉱山外に最

終処分する必要がある鉱山では、発生する殿物の容量を可能な限り減らす必要があります。そのた

めに脱水機を導入しますが、脱水ケーキの含水率を下げるためには、脱水機給泥濃度はできるだ

け高くしなくてはなりません。その方法として、シックナで生成される殿物の一部を中和槽に繰り返し

ます。付加設備として、返泥ポンプ(予備含む)、条件槽(繰返し殿物と消石灰を混合するための槽

で、混合後、坑廃水とともに中和槽に入れます)等が必要になります。図 3-2 に殿物繰返し工程を

実施している事例を示します。

殿物繰返しの留意点として、繰返し殿物の濃度が段々高くなってくると、休転中に配管が詰まっ

て次の運転に支障をきたすことがあります。対策として、休転時に配管から殿物を押し出せるように

清水配管を設置する必要があります。

図 3-2. 殿物繰返し工程の事例

調整池 消石灰 凝集剤

放流中和槽

脱水機

沈降分離槽

28

(3)砂ろ過工程 殿物繰返し工程を採用しますと、シックナのオーバフロー水の濁りが増す傾向にあるようです。

そのままでは放流できない場合が多く、濁りをできるだけ少なくするために砂ろ過工程が必要とな

ります。付加設備として、砂ろ過槽、逆洗水槽、逆洗ポンプ(予備含む)、逆洗排水槽、逆洗排水

ポンプ(予備含む)等が必要です。図 3-3 に砂ろ過工程を実施している事例を、図 3-4 に砂ろ過

設備の模式図を示します。

砂ろ過工程の留意点として、逆洗工程が運転されると、その排水が逆洗排水ポンプにより中和

槽(あるいは凝集槽)に戻るため工程への水量が増加することが挙げられます。pH 変動の要因と

なります。

図 3-3.砂ろ過工程の事例

図 3-4. 砂ろ過設備の模式図(重力式砂ろ過槽)

貯水槽 消石灰凝集剤

中和槽 凝集槽

砂ろ過槽

脱水機放流

沈降分離槽

アンスラサイト

細砂

粗砂

砂利

上澄水

処理水

逆洗用水

逆洗排水

29

参考文献等 ・「平成 15 年度尾花沢鉱山坑廃水中和処理施設調査設計業務報告書」(金属鉱業事業団)

・「平成 15 年度尾太鉱山鉱害防止工事調査設計業務報告書」(金属鉱業事業団)

・「平成 16 年度県営鉱害防止事業尾太第 55 号工事試運転チェック表」(三菱マテリアルテクノ株式

会社)

30

坑廃水処理用語解説 本紙では解説書に記載されている基本的な用語の解説を付したが、一般的に使用されている用語と異

なる場合も有り得ます。

用 語 用 語 解 説

坑水 坑内から湧き出る水。

廃水 選鉱場、製錬場その他鉱山の諸施設等において使用し、排水される

水。 坑廃水

坑水と廃水の混合した水。

原水

処理施設に導水した未処理の坑廃水。

中和水

中和槽において中和剤を添加された中和反応後の坑廃水。

上澄水

中和処理後に沈殿池、シックナ等で微粒子状の固形物を沈降分離した

後のオーバーフロー水。 処理水

坑廃水に中和剤添加等の水処理を行い、河川に放流する前の水。

放流水

施設から河川に放流する排水基準を満たしている処理水。

坑廃水処理施設 坑廃水を処理するための原水槽、中和反応槽、たい積場等の施設すべ

てを含んだ処理施設の総称。 中和処理施設

坑水、廃水が極端な酸性の場合に薬剤等による中和を行うための施

設。 沈殿池

中和反応後の坑廃水を固液分離(固形物を沈殿させ、上澄水を溢流さ

せる)するための池。 集水槽

各所からの坑廃水を処理施設の手前で集めるための水槽。

原水槽

処理施設で最初に坑廃水を受け入れる水槽。

原水貯水槽

設計水量を超える原水あるいは坑廃水処理施設の故障時に原水を一

時的に貯める水槽。 中和反応槽

中和反応促進目的の撹拌機を有し、中和剤(消石灰等)と坑廃水の中

和反応時間が十分確保されている大きさの槽。

条件槽

殿物繰返し中和法のとき、繰返し殿物と消石灰を中和反応槽の手前で

あらかじめ混合させるための槽。

酸化中和反応槽

坑廃水に空気を吹き込み、酸化反応を起こさせると共に、中和剤を添

加し中和反応を起こさせ重金属の水酸化物を形成させる槽 中和剤溶解槽

中和剤溶液(懸濁液)を作るための、撹拌機を有し、中和剤(消石灰

等)と水を混合させる槽。

31

用 語 用 語 解 説 消石灰溶解槽

中和剤が消石灰の場合の中和剤溶解槽。

導水受槽

中和槽とシックナ間の中継槽。

凝集剤溶解槽

凝集剤粉末に一定割合の水を加え一定濃度の凝集剤溶液を作る

槽。 沈降分離槽 (シックナ)

中和水を自然沈降により固液分離する殿物の集泥と自動排出機能

を有する槽。 砂ろ過槽

シックナまたは沈殿池で固液分離された上澄水の浮遊粒子をろ過に

より除去する槽。 中和剤

坑廃水に添加して中和反応を起こさせる薬剤。

スラリ

微粒子状の固形物と水が混合されたもの。

殿物

シックナまたは沈殿池で固液分離され沈降した金属水酸化物。

中和殿物

酸性の坑廃水に溶存している重金属イオンが、アルカリ中和剤の添

加により、水に不溶性の水酸化物として析出したもの。 二段中和

低 pH の坑廃水に対して、二段で2種類の中和剤を添加して中和反

応を起こさせる方法。 殿物繰返し中和法

たい積場の延命化等の目的で殿物濃度を高め殿物の脱水性を良く

するため、シックナ等で固液分離した殿物の一部を中和反応槽に戻

し、新たな坑廃水と中和剤を加えて中和反応を起こさせる方法。 粉じん

岩石などが粉砕されるときに発生して空中に舞い上がる微細な物

質。 pH

水中の水素イオン濃度指数であり、7が中性を、0に近いほど酸性が

強く、14 に近いほどアルカリ性が強いことを示す。 環境基準

環境基本法に基づいて、大気汚染・水質汚濁・騒音などから人の健

康を守り、生活環境を保全するために設けられた環境上の基準。 排水基準

事業所などの排水に含まれる有害物質等の量に対する許容限度。

水質汚濁防止法で規定され、遵守が義務づけられている。

上乗せ基準

大気汚染あるいは水質汚濁を防止するため国が定めた排出・排水

基準より厳しい基準。自治体が条例で定める。

32

あとがき

本「坑廃水処理施設試運転の解説書」は鉱害防止技術ノウハウ・テキスト化事業の一環として、

坑廃水処理施設の新設、更新の際の試運転における留意点等を、坑廃水処理の一事例を用い解

説したものである。

本書は、坑廃水処理事業関係者等を対象とし、坑廃水処理の理解を深めることに重点をおいて

記載した。記載に際しては、主要な事項は十分考慮したつもりであるが、坑廃水処理については各

処理場において状況がまったく異なっているため、本書ではすべての事例を網羅しているものでは

無い。したがって、本書はあくまでも坑廃水処理関係の一例における解説書として取り扱ってもらい

たい。

また、本書に記載の無い事項や実際の施工にあたっては、いたずらに文言の解釈にとらわれるこ

となく、工事等の担当者の創意、工夫及び経験並びに現場の状況を加味し、各処理場にあった事

業を進めることは当然のことである。

最後に、本書が鉱害防止事業関係者に広く用いられ、坑廃水処理への理解が深まることを願う

ものである。

「坑廃水処理施設試運転の解説書」

平成 18 年 2 月 発行(平成 21 年 2 月増刷)

発行 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構

鉱害防止支援部

〒212-8554

神奈川県川崎市幸区大宮町 1310 番

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