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スイートソルガム研究会報告書 平成28年8月19日 一般社団法人 アルコール協会

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スイートソルガム研究会報告書

平成28年8月19日

一般社団法人 アルコール協会

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はじめに

バイオ燃料としてのエタノールの利用が世界規模で増加し、その原料としてサトウキビ及びトウ

モロコシに大きく依存している状況の中で、スイートソルガムはサトウキビに匹敵する糖分を含有

し、新たなエタノール製造原料して注目されている。

このため、平成 25 年 11 月 8 日に開催したアルコール協会第 5 回理事会において、アルコ

ール協会スイートソルガム研究会(以下、「研究会」という。)の設置が決議され、これにより、同研

究会において、スイートソルガムのエタノール製造原料としての技術適性等に関する基礎的な

情報を収集し、エタノール製造原料としての可能性と今後の調査事項等について検討が行われ

た。以下に研究会の調査結果をとりまとめた。

調査は、資料収集、問合せ、5 箇所の現地訪問、実農場での栽培試験及び海外現地調査等

と多岐に亘って精力的に実施された。ここに、委員各位及びアルコール協会事務局の尽力に対

し感謝する。

なお、研究会は、平成 25 年 11 月 18 日に林正憲氏を委員長として発足し、平成 26 年 7 月

からは岡留伸一郎が委員長を引き継いだ。 岡留 伸一郎

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目次 1. スイートソルガムとは 2. スイートソルガムのエタノール製造原料としての技術適性 3. スイートソルガムをエタノール製造原料として利用するに当たっての今後の調査事項 4. スイートソルガムを原料とするエタノール製造の基本構想 5. まとめ

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1.スイートソルガムとは スイートソルガムとは、ソルガム(蜀黍、唐黍、学名 Sorghum bicolor)に属する作物の

なかで、糖分の高い品種の一般的呼称であるが、近年バイオエタノール製造用の資源作物と

して注目されている。 ソルガムとは、イネ科モロコシ属の一年草であり、中国での呼称であるコーリャン(高粱)

と呼ばれることもある。熱帯アフリカのエチオピア・スーダンを中心とする地域が原産地で、

世界各地の熱帯、亜熱帯に広がった。30 ヵ国で 5 億人以上の人々の主食となっている主要

な栽培食物の一つであり、乾燥に強く、イネ、コムギなどが育たない地域でも成長する。穀

物としての生産面積ではコムギ、イネ、トウモロコシ、オオムギに次いで世界第 5 位であ

る。 ソルガムは、世界では食糧用作物として栽培されているが、日本では雑穀として飼料作物

や緑肥用に栽培されている。

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2.スイートソルガムのエタノール製造原料としての技術適性 スイートソルガムは、その搾汁液にはサトウキビに匹敵する 10%以上の糖分が含まれ、

サトウキビと比較して以下のような特性を持つことから考えて、エタノール製造原料とし

ての技術適性を有するとされている。

スイートソルガムは、サトウキビと比べて生育可能地域が広く、国内、海外の広い地

域で生育可能 ○ スイートソルガムは、平均 15℃以上であれば生育可能で、国内では北海道南部

より以南の地域で栽培が可能とみられる。 ○ 根は深根性で耐乾性が強く、半乾燥地域でも生育可能。 ○ 過湿土壌、幅広い土壌pHでも比較的よく生育し、環境適応能力が高い。

スイートソルガムは、サトウキビと比べて生育期間が短く、海外においては二期作が

可能で、日本でも地域によっては二期作可能 ○ スイートソルガムの生育期間が 4~5 ヶ月であるのに対し、サトウキビは 12~18 ヶ月

である。このためスイートソルガムは、理論上は二期作が可能であることから、単

位当たり面積の収穫量が向上する可能性がある。日本においても沖縄、鹿児島

など地域によっては二期作も可能とされる。 ○ 成長速度が速いため、主作物の間作として農地の有効利用が可能。

今後の品種改良によっては、更なる糖度や生育性の向上が期待される(但し、新品

種の開発には 10 年程度の期間を要するとされている)。

表1 スイートソルガムのエタノール製造原料としての技術適性 (サトウキビとの比較)

生育期間 生育地域 総生体重 エタノール収量 スイートソルガム

(茨城大学農学部で

の 2007 年結果、

品種 FS902)

4~5 ヶ月 熱帯~寒冷地

(日本国内では

ほぼ全域) 71~77 トン/ha

3.4~4.4 トン/ha (4.4~5.7 kL/ha)

サトウキビ 12~18 ヶ月 熱帯・亜熱帯 60~90 トン/ha 3.1~5.5 トン/ha

(4~7 kL/ha) 資料: 茨城大学バイオ燃料産業化シンポジウム 2013-12-10

以上の技術適性を踏まえて、茨城大学バイオ燃料社会プロジェクトにおいては、スイー

トソルガムの栽培・搾汁・発酵・蒸留・精製に係る試験事業が実施されてきているほか、

国内では以下のような試験研究が実施されている。 ・長野県畜産試験場において、長年にわたって家畜の飼料開発を目的として高糖度のソ

ルガムを開発してきたところであるが、エタノール発酵原料としての利用も視野に入れ

た研究も実施。 ・国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)において、エタノー

ル原料用ソルガムの品種開発と低コスト省力的栽培・貯蔵技術の開発を実施。

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・信州大学農学部において、スイートソルガムの栽培条件、生産性等の研究を実施。 また、海外においては、ブラジルでサトウキビに対する補完的な役割を期待し、大規模

な実証試験事業(作付面積 3,000ha)が実施されたほか、インドネシア等でも試験的取組

が実施された。しかしながら、現状においては、スイートソルガムを原料とするエタノー

ルの商業的生産は未だ実施されていない。

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3.スイートソルガムをエタノール製造原料として利用するに当たっての今後の調査事項 スイートソルガムを原料とするエタノールの商業的海外生産を実現するためには、以下

に示す事項について、なお今後の調査が望まれる。

栽培・収穫方法等の改善 ○ 大規模栽培に対応した農地確保及び効率的収集運搬方法 ○ 農家からの収穫物の引き取り条件の確立及び低廉な肥料の確保(高価な化成肥

料の節約)等による原料作物コストの低減 ○ 強風に対する耐倒伏性がサトウキビに劣り、倒伏により生産性が低下する。

このため、強風被害回避の方策(耐倒伏品種、強風シーズンを回避する2回収

穫方式)の検討が必要。 ○ 省力・低コスト栽培方法の検討が必要。

施肥量の削減、無除草栽培の可能性調査等

育種 ○ 現地の気候や土壌性状等に適した品種の育種・選定

連作障害の防止 ○ 限られた土壌(酸性火山灰地)で連作障害発生の可能性があり、品種の改良や

他の作物との輪作等が望まれる。

エタノール製造、農業、畜産を含めた循環型システムの構築 ○ スイートソルガムをエタノール原料として利用することのほかに、茎葉を緑肥・堆

肥や家畜飼料として、子実を食糧・家畜飼料として利用することが可能であり、こ

れらの利用方法を資源循環型の農業サイクルに組み込むことによって食料農畜

産物の生産に寄与する可能性がある。 ○ 飼料・肥料を含めた総合的生産方法の確立についての検討が望まれる。

副産物の有効活用

○ バガス(搾汁残渣)の発電用燃料としての活用による収入源の拡大 ○ 発酵残渣等の副産物の高付加価値化等による収入源の拡大

市場動向・政策動向等の事前調査

○ 土地法制、投資規制等、海外立地対象国の関連法制の事前調査によるプロジェ

クトリスクの軽減 ○ タイ、パキスタン、インドネシア等の主要エタノール生産国におけるエタノール市

場動向(生産、消費、輸出入等)及びアルコール関連施策(バイオ燃料導入施策

を含む)の把握 ○ 新たなエタノール原料作物としてスイートソルガムと競合する可能性のある作物

(キャッサバ等)の生産動向調査

その他 ○ JICA、NEDO、JETRO 等政府関係機関による支援策の活用 ○ 現地人材の育成・活用及び現地での積極的な雇用創出等、現地への貢献

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4.スイートソルガムを原料とするエタノール製造の基本構想 スイートソルガムは、前述したようにエタノール製造原料としての技術適性を有すると

考えられ、新たなエタノール原料として利用可能性があるため、スイートソルガムを原料と

するエタノール製造事業の基本構想について検討した。 商業的な事業規模として、エタノール生産規模 5 万 kL/年を前提とした。その根拠は、ア

ジアにおける主要エタノール生産国であるタイの1工場当たりの平均生産量(2014 年実績)

が 5.1 万 kL/年(107 万 kL÷21 工場=5.1 万 kL)であることを根拠とした。 また、必要となるスイートソルガム栽培面積は、単位面積あたりのエタノール生産量

5kL/ha を前提として、10,000ha(5 万 KL÷5kL/ha=1 万 ha)となる。 なお、二期作の実施や栽培方法の効率化等によって、栽培面積は縮小できる可能性がある。

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スイートソルガム栽培(栽培面積:10,000ha)

単位面積当たりのエタノール生産量:5kLを前提

(副産物の有効活用)茎・葉を肥料(緑肥・堆肥)や子実を家畜飼料等として活用

(今後の調査事項(栽培に係る事項))

・栽培コスト等の経済性の検討・大規模栽培に対応した農地確保及び効率的収集運搬方法・現地の気候や土壌性状に適した品種の育種・選定

・強風による倒伏で単位面積当たり収量が低下するため、耐倒伏性の向上・連作障害の防止・省力、低コスト栽培方法

・施肥量の削減、無除草栽培の可能性調査等

搾汁(搾汁量:40万kL/年)

(副産物の有効活用)搾汁残渣(バガス)を発電

用燃料等として活用

発酵(製造量:5万KL/年)

(副産物の有効活用)蒸留残渣及び残渣酵母

の高付加価値化

スイートソルガムを原料とするエタノール製造の基本構想

(今後の調査事項(全般的事項))

・プラント建設費用及びその他初期投資額の検討

・現地の土地法制、投資規制等、海外立地対象国の関連法制の事前調査によるプロジェクトリスクの軽減・現地への貢献(現地人材の育成・活用、現地での積極的な雇用創出等)

政府関係機関の支援を受けたフィージビリティ調査の実施

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5.まとめ スイートソルガムは、サトウキビに匹敵する糖分を含有し、その生育期間、生育可能地域

等の特性からエタノール製造原料としての技術適性を有するとされ、新たなエタノール製

造原料として利用できる可能性があるため、エタノール製造原料の多様化等の観点から、今

後更なる調査研究が望まれる。 また、前述したスイートソルガムを原料とするエタノール製造の基本構想を具体化して

いく上でも、なお一層の調査研究が期待される。 とりわけ、スイートソルガム栽培に関し、その商業的生産の採算性がある程度検証され、

早期に政府支援を受けたフィージビリティ調査が実施されることが期待される。

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(参考1)

本研究会で実施した栽培試験及び現地調査の結果とりまとめ 内容 1. 実農場におけるスイートソルガムの栽培試験 (茨城大学、ワタミファーム及びアルコール協会の3者による共同事業)

1.1 スイートソルガム栽培条件等 1.2 栽培試験の結果 1.3 栽培試験から得られた知見

2. カンボジア国におけるスイートソルガム栽培に関する現地調査

2.1 現地調査の目的 2.2 現地調査の内容 2.3 現地調査の結果 2.4 土壌調査関係 2.5 総括

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1 実農場におけるスイートソルガムの栽培試験

(茨城大学、ワタミファーム及びアルコール協会の 3 者による共同事業)

茨城大学とワタミファームとアルコール協会の 3 者による共同研究の形で、実農場におけるス

イートソルガムの栽培試験を実施した。茨城大学は、農学部を中心に推進しているバイオ燃料

産業化プロジェクトの中でスイートソルガムを研究しており、農地・種子の選択、植え付け時期・

方法、収穫、搾汁、発酵試験等について全面的に指導していただいた。ワタミファームでは、農

地改良のための緑肥としてスイートソルガムの利用を開始していたこともあり、栽培試験に適切な

農地と作業のための労力を提供していただいた。

ワタミファームでは化学肥料を使わない有機農法を採用しており、この栽培試験も化学肥料を

全く使わないこととした。スイートソルガムの栽培では、多量の肥料を使用するのが一般的であっ

たので、化学肥料の不使用は本邦初の試みと思われる。

なお、化学肥料は、石油化学工業が存在する先進国においては安価に入手できるが、発展

途上国では入手が困難で高価なものとなる可能性がある。その意味でも有機農法での栽培試

験は貴重なものと考えられた。

写真 1 生育状況(出穂) 資料: 2014 年 9 月 2 日、山武農場

写真 2 生育状況(4 m ほどの草高)

資料: 2014 年 9 月 2 日、山武農場

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1.1 スイートソルガム栽培条件等

茨城大学農学部、ワタミファーム、アルコール協会 3 者が協力して、栽培試験を実

施 事前調査 2014 年 5 月 2 日、茨城大学による農場事前調査が実施された 当日、土壌のサンプリングも行われた 栽培時期 2014 年 5 月 10 日、播種

2014 年 10 月 2 日(白浜農場)、刈取 2014 年 10 月 3 日(山武農場)、刈取

農場 (1) ワタミファーム山武農場内 15 a 土壌は黒ボク土 通常栽培作物はニンジン・大根等 (2) ワタミファーム白浜農場内 10 a 粘土分が多いグライ土、塩分濃度が高い 通常栽培作物はオクラ、ナス、ショウガ等

品種 両農場とも下記の 3 品種 高消化ソルゴー(カネコ種苗)早生 高糖分ソルゴー(雪印種苗)中生 スーパーシュガーソルゴー(カネコ種苗)晩生

栽培密度 両農場とも下記の 2 種類 80 cm×15 cm ( 8,300 株/10 a) 60 cm×15 cm (11,000 株/10 a)

施肥 両農場とも有機栽培(堆肥、緑肥を使用)

山武農場および白浜農場の位置

1. 山武農場千葉県山武市横田191作物:ニンジン,ダイコ

ンなど

2. 白浜農場千葉県南房総市白浜町滝口5477作物:オクラ,ナス,ショウガなど

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1.2 栽培試験の結果

表 1 栽培開始前の両農場における土壌分析

表 2 収穫期におけるバイオマス量(kg/10a)

栽培開始前の両農場における土壌分析項目 単位 白浜農場 山武農場pH 7.34 7.20EC mS/cm 0.073 0.169有効態リン酸 P2O5 mg/kg 814 61塩基交換容量(CEC) cmol/kg 40.4 32交換性カリウム cmol/kg 2.88 1.73交換性カルシウム cmol/kg 25.4 31.7交換性マグネシウム cmol/kg 7.35 2.46交換性ナトリウム cmol/kg 0.32 0.42

両農場ともに,微アルカリ性で,ECは低かった.有効態リン酸は,白浜と山武で大きく異なった.その他の項目に大きな差異は認められなかった.→両農場の数値の違いは,異なる前歴や有機物の種類が影響.

収穫期におけるバイオマス量(kg/10a)

No 品種 条間白浜(播種後145日目) 山武(播種後146日目)生体重

(茎のみ)生体重

(地上部)乾物重

(地上部)生体重

(茎のみ)生体重

(地上部)乾物重

(地上部)1 高消化

80cm3446 4890 1150 3120 4879 1110

2 高糖分 7900 10835 2373 7490 10049 1814 3 スーパー 7094 9556 2080 8164 10789 2105 4 高消化

60cm4360 6227 1380 3912 5673 1396

5 高糖分 6511 8741 1890 8516 11437 2279 6 スーパー 7002 10301 2014 8790 11971 2347 ●白浜:高糖分80cm区とスーパー60cm区で大きかった.●山武:高糖分とスーパーの80cm区と60cm区で大きかった.●両農場の比較:処理区間でバイオマス量に差異が認められた.全体的には白浜よりも山武で大きかった.60cmの条間で十分なバイオマス量が得られた.

※白浜の圃場では,風雨による倒伏とイノシシによる食害が発生した.とくに,高消化は壊滅的な被害であった.そのため,サンプリング個体は生存している株を採取した.

塩津ら(2015)日本作物学会第 240 回講演会要旨集.60.

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表 3 収穫期における Brix 値,搾汁液量

表 4 理論上のエタノール収量の算出方法について

収穫期におけるBrix値および搾汁液量No 品種 条間

白浜(播種後145日目) 山武(播種後146日目)

Brix値(%)

搾汁液量

(kg/10a)

搾汁効率*1

(%)糖収量*2

(kg/10a)Brix値(%)

搾汁液量

(kg/10a)

搾汁効率*1

(%)糖収量*2

(kg/10a)

1 高消化80cm

14.3 1327 38.8 222 10.7 1352 43.2 163 2 高糖分 17.0 3613 45.8 741 13.3 4021 53.8 617 3 スーパー 16.7 3435 48.6 689 12.3 4245 52.1 598 4 高消化

60cm16.2 1803 41.7 348 11.1 1834 46.5 228

5 高糖分 16.0 2912 44.4 555 13.8 4320 50.7 690 6 スーパー 15.6 3400 48.7 626 13.6 4301 48.8 680

●白浜:Brix値はいずれの処理区も高い.糖収量は高糖分80cm区で高かった.●山武:高糖分とスーパーの80cm区と60cm区で搾汁液量が多い●両農場の比較:Brix値はいずれの処理区においても白浜が山武より高い傾向である.搾汁液量は,高消化は少なく,高糖分とスーパーで多い傾向である.糖収量は,Brix値と搾汁液量のバランスから両農場間(処理区間)で差異が認められた.

*1搾汁効率:搾汁液量/茎のみの生体重×100*2糖収量の算出方法:糖収量=搾汁液量×Brix値/(100- Brix値)

理論上のエタノール収量の算出方法について

・計算式A(Lipinski 1978):エタノール生産量(L/ha)= total sugar content (%) in fresh matter ×6.5 (a conversion factor) × 0.85 (the process efficiency) × fresh biomass in Mg/ha

・計算式B(Pari and Rango 1998):エタノール生産量(L/ha)=1 kg fresh biomass of sweet sorghum can produce 0.081 l of ethanol

・計算式C(Soldatos and Chatzidaki 1999):エタノール生産量(L/ha)=64.8 l ethanol × total fresh biomass (Mg/ha) × percentage of stalks in total fresh biomass (%)

・計算式D(Mamma et al. 1996):エタノール生産量(L/ha)=5.2 g ethanol per 100 g of fresh biomass

Brix値 バイオマス量 糖収量

塩津ら(2015)日本作物学会第 240 回講演会要旨集.60.

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表 5 理論上のエタノール収量

表 6 山武農場のエタノール(100%)の実測値

(注)白浜農場の搾汁液は大学までに持ち帰るまでに変性したため、測定できなかった。

理論上のエタノール収量(L/10a)場所 処理区 条間 品種 計算式A 計算式B 計算式C 計算式D A-Dの平均処理区平均白浜 1

80 cm高消化 387 279 224 179 267

白浜 2 高糖分 1018 640 515 411 646 495白浜 3 スーパー 882 575 460 369 571 白浜 4

60 cm高消化 557 353 282 227 355

白浜 5 高糖分 773 527 421 339 515 479白浜 6 スーパー 885 567 449 364 567山武 1

80 cm高消化 289 253 203 162 227

山武 2 高糖分 739 607 485 390 555 456山武 3 スーパー 736 661 529 424 588山武 4

60 cm高消化 347 317 254 203 280

山武 5 高糖分 870 690 553 443 639 527山武 6 スーパー 902 712 574 457 662

●エタノール収量(平均)は227~662 L/haの範囲であった.●品種では,高糖分とスーパーで高く,高消化で低かった.●処理区では,白浜では80cm区,山武では60cm区で高かった.

地上部バイオマス量:1613~1829 kg/10a理論上のエタノール収量(平均):270~570 L/10a

茨城大学のこれまでの実績

10aあたりに換算した発酵,蒸留および算出したエタノール(100%)の数値

No 品種 条間10aあたり搾汁液量(L)

蒸留後のアルコール量

(L)

アルコール濃度

(%)※2

エタノール収量(L)※3

1と4 高消化 1593※1 206 34.8 72 2 高糖分

80cm4021 431 53 229

3 スーパー 4245 440 45.4 200 5 高糖分

60cm4320 574 50.7 291

6 スーパー 4301 605 44.5 269

●高消化は,エタノール収量が低い.Brix値と搾汁液量が低いことが原因である.●品種で見た場合,高糖分とスーパーのエタノール収量は同程度である.●処理区で見た場合, 60cm区 > 80cm区 であった.

*1処理区1(1352 L)と処理区4(1834 L)の10aあたりの搾汁液量の平均値.*2実際に得られたアルコール濃度の値を使用(前スライド参照).*3実際の発酵・蒸留過程で得られた数値をもとに,エタノール収量(アルコール濃度100%)として算出.

塩津ら(2015)日本作物学会第 240 回講演会要旨集.60.

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1.3 栽培試験から得られた知見

品種は、両農場ともにスーパーシュガーソルゴー(晩生)と高糖分ソルゴー(中生)が

高消化ソルゴー(早生)よりもバイオマス量、糖収量に優れていた(表 2、表 3)。 高消化ソルゴーは他の 2 品種よりも生育が劣る結果が得られたが、高消化のメリット

を生かした栽培方法もあると考えられる。すなわち、生育期間の短さを利用した再生

作栽培や雨季や乾季がある海外地域での栽培には適しているのではないかと考え

られる。 バイオマス量は、山武が白浜よりも有意に大きかった。また、白浜では 80cm 区が

60cm 区よりも高い傾向、山武では 60cm 区が 80cm 区よりも有意に高く、両農場で

異なる結果が得られた(表 2)。 Brix 値は、両農場における 80cm 区と 60cm 区に差は認められなかったが、農場間

では白浜が山武よりも有意に高かった。 糖収量は、Brix 値と搾汁液量のバランス

から両農場間(処理区間)で差異が認められた。また、白浜では条間 80cm、山武で

は条間 60cm が適していると考えられた(表 3)。 理論上のエタノール収量は、品種と農場によって異なっており,平均値は 227~662

L/ha であった(表 5)。また,山武農場の実測値によるエタノール収量は高糖分ソル

ゴーとスーパーシュガーソルゴーの 60cm 区で高かった。

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2 カンボジア国におけるスイートソルガム栽培に関する現地調査

(八十島委員から茨城大学への依頼による調査)

海外におけるスイートソルガム栽培の可能性を検討するため、茨城大学と八十島委員とが共

同で、2015 年 6 月 11 日から 16 日にかけて以下の調査を実施した。その結果は以下のとおり

で、カンボジアでのスィートソルガム栽培が可能であることを確認した。

2.1 現地調査の目的

カンボジア国におけるスイートソルガム栽培を技術的に確立するために、プノンペン市(SAJ

ファーム)、パイリン市(AGRIBUDDY 社)及びそれらの近郊地域の農地や農業生産の状況を調

査する。本報告書では、パイリン市を中心に記載する。

2.2 現地調査の内容

作物栽培関係(調査畑・周辺農家の畑) 作物の栽培スケジュール 作物の栽培方法(作物の種類、耕起方法、肥料の種類と量) 堆肥の種類と入手方法や使用方法 農薬の種類と量 雑草管理 灌漑方法

土壌関係(各畑における代表地点) 土壌断面調査(層位分布、土性、土色、土壌硬度) 表層土壌(Ph、EC、水溶性塩基、アンモニア態・硝酸体窒素の簡易測定)

農業資材販売店及びマーケットの視察 農業器具・農業機械,農薬,肥料,種子などの価格調査

2.3 現地調査の結果

AGRIBUDDY 社の農地での調査

調査地の場所

コンポンチュナン州(SAJファーム)

パイリン市(AGRIBUDDY社)

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パイリン市在の AGRIBUDDY 社の農地を調査した(写真 3)。

(1) AGRIBUDDY 社が栽培しているスイートソルガムの生育状況

2015 年 6 月に訪問時には、カンボジアで入手したスイートソルガムを事務所隣の農地

(約 0.2 a)で栽培していた。 視察時、1 回目の収穫(2015 年 4 月上旬に収穫)が終わったあとの、無施肥の 2 期作目

(再生作)にあたり、草丈は約 2.0m で出穂していた(写真 4、5)。なお、写真内の小さな

スイートソルガムは、1 回目の収穫の際に種子が落ち、生育したものである。2 本の茎の Brix値は平均 16.9%と高かった(写真 6)。今回の調査で得られた生育状況は断片的であったが、

スイートソルガムの生育に問題はないと考えられた。

写真 4 AGRIBUDDY 圃場のスィートソルガム栽培

写真 3 AGRIBUDDY 社前での集合写真

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(2) キャッサバ企業(Agrirex Cambodia Co., Ltd.)の農地の調査

パイリン市在のキャッサバ企業 Agrirex Cambodia Co., Ltd.(以下、Agr 社、HP:

agrirexcambodia.com/、買い取り所も経営(Silo:近隣のキャッサバ農家の多くがこの買い

取り所にキャッサバを出荷している))の現地圃場の視察、情報交換を行った。 Agr 社はキャッサバ農地を合計 508 ha を所有している。農地は以前、森林であったが、

開墾し、キャッサバ栽培を開始した(写真 7)。

写真 5 2 期作目のスイート

ソルガム

写真 7 キャッサバ農地

写真 6 Brix 値の最高値

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(3) 周辺農家への調査

AGRIBUDDY 社周辺の 5 軒の農家での調査結果を下表にまとめた。いずれもキャッサバ

栽培のみ、月収は約 400-600 ドルである。ただし、兼業農家の E 氏は商店(飲料やお菓子)

を経営しているため、約 1000 ドルと高い。現地関係者からの情報でも周辺農家の月収は

400-500 ドルであった。1 人当たりの所有農地面積は 3-7 ha であった。農地の所有形態は、

所有地と借地で、所有の場合の農地購入金額は 1 ha あたり約 5500-6000 ドル、借地の場合

は 1 ha あたり年間 375 ドルであった。

また、5 軒の農家のキャッサバの作付体系を下表にまとめた。いずれの農家も 3-4 月に定

植して、翌年 1-2 月に収穫する作付体系であった。 農地は、ディスクロータリーを装着したトラクターで耕起していた。また、畝立てもアタ

ッチメントを装着したトラクターでうね立てをしていた。無施肥だが、現地関係者によると

村名 氏名(年齢) 職業 家族構成 月収 農地面積 農地購入金額 (ドル/ha)

Krochab krom

A 氏 (56) 男性

農家

9 名 ・本人 ・妻 ・子供 7 名

400 ドル

5 ha 5500

Krochab krom

B 氏 (32) 男性

農家 4 名 ・本人 ・妻 ・子供 2 名

400 ドル

3 ha 6000-6500

Krochab krom

C 氏 (30) 男性

農家 3 名 ・本人 ・妻 ・子供 1 名

520 ドル

7 ha 5 ha:所有

地 2 ha:年間

375 ドルで

借地

5500-6000

Krochab krom

D 氏 (不明) 男性

農家 4 名 ・本人 ・妻・ ・子供 2 名

570 ドル

4.5 ha 5500

Tmon Reang

E 氏 (56) 男性

兼業

農家 (商

店経

営)

7 名 ・本人 ・妻 ・子供 4 名 ・母親

1000 ドル 農業と商

店の合計

6 ha 7500-8000

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平均収量は ha あたり 25-35 トンとのことであった。土壌が肥沃であることが推察された。 定植してから約 2 カ月後と約 4 カ月後に除草剤を畝間の雑草に散布するのが一般的であ

った。除草剤にかかる 1 ha あたりの人件費のコストは 15-18 ドル、農薬のコストは 18-20ドルであった。灌漑はせず、降雨のみでの栽培であった。 全ての農家のキャッサバの出荷先は Silo(買い取り所)であった。売値は、生重で 1 kg

あたり 2.1-2.3 バーツ(タイの通貨:1 バーツは約 3.65 円:2015 年 6 月調査時)であった。

なお、AGRIBUDDY 社内の HP では、パイリン市内のキャッサバ買い取り所における取引

価格について情報提供している。

(4) 農業資材店での調査

パイリン市内の農業資材店で、肥料、種子、農薬等の種類や価格を調査した(写真 9、10、11)。次表に結果をまとめた。なお、野菜(ハクサイなどの葉物野菜)の種子が多く販売さ

れていたが、これらの種子はいずれもタイ産であった。 上記の商品に加えて、鍬やスコップ、遮光シート等のネット類、農薬散布用の小型噴霧器、

パイプや灌水設備等の農業資材などもあり、日本と同様に様々な商品を取り揃えていた。

赤文字は乾季、青文字は雨季 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec

収穫 定植 除草剤 1 回目

除草

剤 2回目

写真 8 現地農家へのヒアリング

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種類 品名 数量 価格(ドル) 備考

徐草剤 SENKO(quizalofop-p-ethyl) 1 L 23.75 タイ産 SENKO(qlyphosate isoproplyammmonium)

4 L 13.75 タイ産

種子 (Maize)

8888 12 kg 20 タイ産 9889 30 kg 25 タイ産 99999 30 kg 27 タイ産 95 30 kg 36.25 タイ産 999 20 kg 85 タイ産

肥料

Urea(尿素) 50 kg 22.5 Chemical (16: 16: 16) 50 kg 34.5 トウモロコシ用 Chemical (12: 4: 40) 50 kg 31.75 キャッサバ用 MONTO-P(液肥) 4 L 41.25 キャッサバ葉面散布

用、1ha に 4L 使用。

写真 9 農業資材店で販売されていたトウ

モロコシの種子 写真 10 農業資材店で販売されていた肥料

写真 11 農業資材店の外観

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2.4 土壌調査関係

(1) 概要および採取試料

① SAJ ファーム(ソルガム跡)

可能性のある土壌型:Arenosol(砂質土) メコンデルタ地域であり、肥沃な水成堆積土壌が分布する地域であるが、微高地のため粘土

分が流亡し、砂質土壌が残積していると考えられた。20cm 以深には鉄やマンガンの斑紋が

あり、地下水の影響が認められた。

② HUGS(AGRIBUDDY 社)事務所(ソルガム跡)

可能性のある土壌型:Luvisol(ルビソル) 石灰岩の影響があり十分に肥沃。ただし微高地は礫が多く耕作不適となる可能性がある。下

層土は KC1 圃場の赤色土部分と類似しているが、石灰岩の影響がより強く比較的肥沃であ

ると推察された。

③ Agriex 圃場(ソルガム予定地)

SAJ-1(5-20cm)7.5YR5/4(にぶい褐色)

SAJ-2(20-50cm)7.5YR6/4(にぶい橙色)

HUG-1(0-10cm)7.5YR3/4(暗褐色)

HUG-2(20-30cm)7.5YR3/4(暗褐色)

AGX-1(0-25cm)10YR3/3(暗褐色)

AGX-2(25-30cm)10YR4/3(にぶい黄褐色)

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可能性のある土壌型:Ultisol(赤黄色土) おそらく堆積岩母材で肥沃度は高くないと推察された。

④ KC4a 圃場(スイカ跡)

可能性のある土壌型:Nitisol(ニティソル) 石灰岩の影響が強く非常に肥沃であった。ただし、土壌層が浅く表土流失に注意が必要と考

えられた。

⑤ KC1 圃場(赤黄色土)

可能性のある土壌型:Ultisol(赤黄色土) Agriex 圃場に比べて水溶性 Ca 量が多く、石灰岩の影響がわずかに認められた。赤色土部

分は黄色土部分に比べて鉄・アルミニウムが高く、残積性と考えられた。それぞれ粘土(特

に鉄酸化物)の性質は異なるが、大きな違いは無いと考えられた。

KC4a(0-5cm)7.5YR3/2(黒褐色)

KC1-R(0-5cm)7.5YR3/4(暗褐色)

※20cm以下の下層土は7.5YR4/6(褐色)

KC1-Y(0-5cm)10YR3/4(暗褐色)

※20cm以下の下層土は10YR4/6(褐色)

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(2) 分析値

① 土壌 pH、炭素・窒素量、水溶性陽イオン

・AGX や KC1 は水溶性 Al 含量が高く赤黄色土と考えられるが、pH が高く、風化が進み

切っていないと推察された。 ・KC4a は高い炭素量を示し、有機物の集積が認められる。HUG と併せて石灰岩の影響が

顕著であると思われるが、KC4a の黒色土壌は土壌層位が発達している訳ではない可能性

もあり、侵食に注意が必要と考えられた。

② 元素組成(エネルギー分散型 XRF による半定量分析:Mg より重い元素のみ定量)

・SAJ は微高地のため粘土分が流亡し、砂質土壌が残積していた。 ・HUG と KC4a はカルシウム含量が高く、石灰岩の影響が比較的強かった。 ・KC1の赤色部分と黄色部分は粘土の性質が異なるが、元素組成に大きな違いはなかった。

2.5 総括

パイリン市内におけるスイートソルガム栽培の技術的可能性について ・気象条件 パイリン市の正確な気象データは未入手だが、生育に必要な降水量と気温が確保できる

こと、現在までの畑での種々の作物の栽培状況、農耕地の植生、農家への聞き取り結果、農

業資材店での販売物品等の状況から、同市内でスイートソルガムの栽培は可能と判断され

た。 ・土壌条件

全炭素量 全窒素量 水溶性Ca 水溶性Mg 水溶性K 水溶性Na 水溶性Al

% % ppm ppm ppm ppm ppmSAJ-1 5.4 0.36 0.02 14.6 6 1 22 11 19SAJ-2 4.7 0.02 - - 8 0 4 10 1HUG-1 6.2 2.37 0.24 10.0 324 15 8 12 1HUG-2 6.7 1.69 0.17 9.7 345 16 5 17 1AGX-1 6.6 0.94 0.07 14.2 11 4 5 37 14AGX-2 7.0 0.63 0.05 12.1 1 1 3 34 14KC4a 7.1 3.72 0.24 15.2 426 23 18 26 1KC1-R 6.8 1.76 0.16 11.2 106 11 9 12 25KC1-Y 6.8 1.11 0.08 13.5 30 7 12 15 33

pH(H2O) C/N比

Si Al Fe Ca Mg K Ti P S Mn Cu Cr Ni Zr Sr Zn

wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt% wt%SAJ-1 91 4 2 - - 1.6 0.8 - 0.3 - 0.03 - - 0.21 - -SAJ-2 90 6 2 - - - 0.9 - 0.3 - 0.04 - - 0.19 - -HUG-1 46 14 27 3.1 2.8 2.0 3.0 0.3 0.1 0.97 0.07 0.20 0.12 0.07 0.03 0.03HUG-2 45 15 27 4.5 2.6 1.8 3.0 0.1 0.1 0.94 0.06 0.15 0.11 0.06 0.03 0.02AGX-1 67 14 12 2.2 1.5 0.8 1.5 - 0.2 0.31 0.05 0.01 - 0.06 0.03 0.02AGX-2 64 16 14 1.7 1.6 0.8 1.4 - 0.1 0.19 0.05 - - 0.01 0.02 0.02KC4a 39 14 26 11.1 2.0 1.1 5.2 1.0 0.1 0.38 0.06 0.08 0.02 0.15 0.10 0.05KC1-R 53 20 20 1.8 0.8 0.3 2.3 0.3 0.2 0.55 0.10 0.05 - 0.08 0.02 0.02KC1-Y 68 13 13 1.4 0.8 0.5 2.4 0.3 0.2 0.24 0.07 - - 0.09 0.02 0.03

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パイリン市周辺は堆積砂岩を母材とする赤黄色土が広く分布するが、丘陵地地形である

ことから新鮮母材の供給もあり、土壌 pH は中性に近く、風化が進んだ状態ではないと推察

された。また、場所によっては露頭に石灰岩が観察され、石灰岩を母材とする肥沃な土壌が

分布していた。とくに高い水溶性 Ca 含量を示す地点は Luvisol,Nitisol あるいはそれらに

類似する土壌と考えられ、肥料を施用しなくてもある程度の作物収量が期待できる。 ・栽培技術および環境 気象条件から年 2 回のスイートソルガム栽培が可能と判断される。下表はそのイメージ

である。なお、試験的に栽培して、スイートソルガムの生育ステージの経過を確認する必要

がある。 ・試験栽培の候補の畑

今回の調査および土壌分析の結果から、スイートソルガム栽培地として、AGRIBUDDY(HUGS)事務所裏および KC4a 圃場が適当であると考えられた。事務所裏では微高地に

5~10cm 大の石礫が露出しているため、管理の手間を考慮してキャッサバと植え分けるこ

とが可能である。また、KC4a 圃場に認められた黒色土壌は、周辺土壌(赤黄色土)の上位

に有機物に富む土壌物質が堆積しているだけである場合が多く、流亡に注意が必要と考え

られた。実際、KC4a 圃場では下層部に礫が非常に多く、周辺の赤黄色土のような土壌層の

発達が弱い可能性もある。

赤文字は乾季,青文字は雨季 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec

収穫 播種 収穫 再生

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(参考2) 1. スイートソルガム研究会について

1.1 研究会に係る主な活動 1.2 研究会の構成

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1. スイートソルガム研究会について

1.1 研究会に係る主な活動

◆第 1 回スイートソルガム研究会(平成 25 年 11 月 18 日(月)) ① 研究会設立の趣旨

山田専務理事から、理事会資料により研究会設立の趣旨を説明し、意見交換を

行った。 ② 調査研究の進め方(意見交換)

研究機関、研究者、種苗会社等の資料と委員からの情報を参考にして、研究会

の今後の調査研究の進め方を検討した。

◆第 2 回スイートソルガム研究会(平成 25 年 11 月 26 日(火)) ① スイートソルガムの特性等

林委員長からの情報提供により、スイートソルガムに関する基本的な知識を

共有することができた。 ② 宮古島での燃料用エタノール製造について

本城委員から、宮古島でのスイートソルガム利用構想が紹介された。 ③ ブラジルでのスイートソルガム利用について

住田委員から、ブラジルにおけるスイートソルガム利用研究の状況と問題点

が紹介された。 ④ 国内外におけるスイートソルガムの利用等について

磯野委員から、スイートソルガムを介する農業とエタノールの融合の可能性

と、カンボジアにおけるスイートソルガムの試験栽培の状況が紹介された。

◆第 3 回スイートソルガム研究会(平成 25 年 12 月 4 日(水)) 茨城大学農学部阿見町キャンパスを訪問して、太田寛行学部長以下、関係者か

ら研究開発状況説明、意見交換を行った。同大では、農学部をあげての組織的な

プロジェクトとして、地域でのスイートソルガムの応用的活用を考えており、ス

イートソルガムの栽培・収穫、搾汁、濃縮、発酵、脱水から実車利用までを実証

している。特に、搾汁液の濃縮による保存性の向上は、実際に工業化するときの

工場設備稼働の平準化効果が見込め、コストダウンに有用と考えられる。実用化

へのスケールアップに際しては、問題点の抽出と検証が必要。 同大では、休耕地を活用した地域プロジェクトとしてスイートソルガムの実証

研究を行うとして準備を進めている。

(茨城大学農学部の主な出席者)

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太田寛行教授(農学部長)、新田洋司教授、久留主泰朗教授、塩津文隆講師、

小久保敏明非常勤講師、加藤明非常勤講師 ① バイオ燃料社会プロジェクトの状況 ② スイートソルガムに関する質疑 ③ 圃場、施設(搾汁、濃縮、発酵、脱水等)見学

◆茨城大学発バイオ燃料産業化シンポジウム(平成 25 年 12 月 10 日(火)) 茨城県水戸市三の丸 1-5-18 常陽藝文センター常陽藝文ホール (委員長のみ参加)

① 「スイートソルガムの栽培とエタノールの生産」 茨城大学農学部教授 新田洋司氏

② 「茨城県における再生可能エネルギーの取組」 茨城県企画部理事兼科学技術振興監 増子千勝氏

③ 「農林水産省におけるバイオマス利用の研究開発について」 農林水産省農林水産会議事務局研究専門官 井上宏之氏

④ パネル・ディスカッション 耕作放棄地等を活用するスイートソルガムを原料としたバイオ燃料産業化

の課題

◆第 4 回スイートソルガム研究会(平成 26 年 1 月 20 日(月)) ワタミファーム(千葉県山武市)を訪問して、農場、森等の見学を行った。同

社は、有機農業を食品サイクルに組み込んだ循環型社会の創造を目指しており、

これにスイートソルガムを原料としたエタノール生産が効果的に融合できる可

能性があると考えている。 ① ワタミの森、山武農場、土づくりセンター、集荷センターの見学 ② 有機農業による循環型社会の創造

(有機肥料・土壌管理、耕作管理、高機能性食品等)

◆第 5 回スイートソルガム研究会(平成 26 年 2 月 26 日(水)) 長野県畜産試験場を訪問し、東條博之場長、後藤和美飼料環境部長、清沢敦志

研究員からスイートソルガムに係る研究開発状況説明、意見交換を行った。同試

験場は、家畜の飼料開発を目的として高糖度のスイートソルガムを開発してき

た。これまでに開発した F1 品種(一代雑種)は 12 種あり、品種により高収量、

耐倒伏性、高消化性、紫斑点病抵抗性等の特徴を有している。糖収量・糖組成に

ついても、サトウキビに匹敵する好成績の品種が出来ている。東京大学との共同

研究により、地域燃料と飼料のコラボによる持続循環型総合利用システムを開

発しようとしている。スイートソルガム利用により発生する発酵残渣の有効利

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用が未着手だが、飼料成分としての栄養価に期待している。 ① 飼料作物としてのソルガムの栽培状況 ② 長野県畜産試験場におけるソルガムの育種 ③ ソルガムの栽培技術の特徴と注意点

○ 気候、土壌等の生育環境条件 ○ エタノール発酵原料の栽培に対応した糖生産性を高める栽培方法 ○ 多収ソルガム品種・系統を用いた多収栽培法

④ ソルガム搾汁後の「絞りかす」活用の可能性

◆第 6 回スイートソルガム研究会(平成 26 年 3 月 6 日(木)) ① 「スイートソルガムを活用した産業化」シンポジウム報告 ② スイートソルガムの可能性と実証化すべき課題 ③ 今後の調査活動について

○ スイートソルガムの生育試験の実施 ワタミファーム(山武市、南房総市) ○ 農研機構農村工学研究所 資源循環システム研究チーム ○ 雪印種苗 高糖分ソルゴー

④ スイートソルガム研究会の活動延長について

◆第 7 回スイートソルガム研究会(平成 26 年 4 月 17 日) ① 雪印種苗(株)からヒアリング

○ ソルガム市販品および新品種について ○ ソルガムの栽培技術について ○ ソルガム収穫後の保管時における茎の糖度の維持の可能性について ○ ソルガム搾汁後の「絞りかす」活用の可能性について

② 実農場での生育試験(共同研究)の実施について

◆実農場での生育試験事前調査(平成 26 年 5 月 2 日) ① ワタミファーム白浜農場(南房総市白浜町滝口 5477) ② ワタミファーム山武農場(山武市横田 191)

◆実農場での生育試験を開始(平成 26 年 5 月 10 日) ① ワタミファーム白浜農場 ② ワタミファーム山武農場

ワタミファームの農場において、下記 3 品種を播種 ○ 高消化ソルゴー(カネコ種苗)早生品種 ○ 高糖分ソルゴー(雪印種苗)中生品種 ○ スーパーシュガーソルゴー(カネコ種苗)晩生品種

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◆第 8 回スイートソルガム研究会(平成 26 年 5 月 15 日) ① 農業・食品産業技術総合研究機構(九州沖縄農業研究センター)

○ 日本におけるソルガムの育種 ○ エタノ-ル原料としての可能性

② スイートソルガムの生育試験の概要

◆第 9 回スイートソルガム研究会(平成 26 年 6 月 11 日) ① スイートソルガムの収量とエタノール生産性 ② スイートソルガムの生育試験の概要 ③ 工業用エタノール原料の可能性 ④ スイートソルガムを原料とするエタノール海外生産の可能性 ⑤ 信州大学農学部(南箕輪キャンパス)訪問計画

◆第 10 回スイートソルガム研究会(平成 26 年 9 月 2 日)

実農場での生育試験状況を現地視察(ワタミファーム山武農場)

◆第 11 回スイートソルガム研究会(平成 26 年 9 月 30 日) 信州大学農学部(南箕輪キャンパス)訪問 ① スイートソルガムの伝統的品種の特性 ② 新品種の開発方法

◆実農場での生育試験(刈取り) ① ワタミファーム白浜農場(平成 26 年 10 月 2 日) ② ワタミファーム山武農場(平成 26 年 10 月 3 日)

◆実農場での生育試験結果 速報(平成 26 年 10 月 23 日) 茨城大学

◆実農場での生育試験結果 最終報告(平成 27 年 3 月 9 日) 茨城大学 ① 有機栽培によるコスト削減方法 ② スイートソルガムのバイオマス生産量とエタノール収量

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◆茨城大学地域連携シンポジウム(平成 27 年 3 月 21 日) (事務局、山田正仁参加)

① スイートソルガムの最適栽培システムの開発 ② スイートソルガム・エタノール生産システム導入の経済効果 ③ バイオ燃料の地産地消

◆第 12 回スイートソルガム研究会(平成 27 年 8 月 10 日) ① カンボジアにおけるスイートソルガム栽培に関する現地調査 ② スイートソルガム研究会中間とりまとめ報告(素案)の検討

◆第 13 回スイートソルガム研究会(平成 28 年 6 月 1 日) ① 栽培試験結果等のとりまとめ ② 本研究会で得られた知見の整理 ③ エタノール製造の基本イメージ

◆第 14 回スイートソルガム研究会(平成 28 年 8 月 9 日) ① スイートソルガム研究会報告書のとりまとめ

Page 34: スイートソルガム研究会報告書Sorghum bicolor )に属する作物の なかで、糖分の高い品種の一般的呼称であるが、近年バイオエタノール製造用の資源作物と

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1.2 スイートソルガム研究会の構成 (委員長) 林 正憲 日本アルコール産業グループ(平成 26 年 6 月まで) 岡留 伸一郎 日本アルコール産業グループ(平成 26 年 7 月から) (委員) 新田 洋司 茨城大学 八十島 正雄 京葉糖蜜輸送株式会社 本城 薫 日本アルコール産業株式会社(平成 28 年 6 月まで) 高橋 衛 日本アルコール産業株式会社(平成 28 年 6 月から) 住田 和美 日本アルコール物流株式会社 北野 重孝 日本化薬フードテクノ株式会社(平成 27 年 6 月まで) 望月 千年 日本化薬フードテクノ株式会社(平成 27 年 7 月から) 小原 孝之 前田建設工業株式会社 磯野 健雄 農業生産法人 有限会社ワタミファーム (オブザーバー) 上村 秀紀 経済産業省製造産業局(平成 26 年 5 月まで) 山本 哲次 経済産業省製造産業局(平成 26 年 4 月まで) 國府田 勝行 経済産業省製造産業局(平成 27 年 6 月まで) 岩崎 元志 経済産業省製造産業局(平成 27 年 7月から平成 28年 3 月まで) 高橋 達也 経済産業省製造産業局(平成 28 年 4 月から)

金 E

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A 実 沖縄県商工労働部 塩津 文隆 茨城大学農学部 小久保 敏郎 茨城大学農学部(平成 27 年 3 月まで) 野里女 勇一 京葉糖蜜輸送株式会社 富重 敏郎 日本アルコール産業株式会社(平成 28 年 3 月まで) (事務局) 山田 正仁 一般社団法人アルコール協会(平成 28 年 6 月まで) 本城 薫 一般社団法人アルコール協会(平成 28 年 6 月から) 渡辺 仁 一般社団法人アルコール協会(平成 27 年 3 月まで) 及川 信一 一般社団法人アルコール協会(平成 28 年 6 月から) (以上、敬称略・順不同) Jaa0819_V1