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1 2013年4月18日 調査部 伊原 天然ガスから液体燃料を製造する(GTL技術) 2 話のポイント 天然ガスに関わる企業は、ガス タービン・コンバインドサイクル 発電(GTCCシェールガス開発 といったように発電や資源の分 野で攻勢を強めていくことが予 想されるが、天然ガスの利用法 はなにも火力発電だけではない。 天然ガスを原料とする産業は日本国内ではまだ皆無と 言ってよい状況であるが、液体燃料にその有望性を見 出す動きが出て来た。

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2013年4月18日

調査部 伊原 賢

天然ガスから液体燃料を製造する(GTL技術)

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話のポイント

天然ガスに関わる企業は、ガスタービン・コンバインドサイクル発電(GTCC)やシェールガス開発

といったように発電や資源の分野で攻勢を強めていくことが予想されるが、天然ガスの利用法はなにも火力発電だけではない。

天然ガスを原料とする産業は日本国内ではまだ皆無と言ってよい状況であるが、液体燃料にその有望性を見出す動きが出て来た。

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常温常圧で使用できるGTL ①

GTLは常温常圧においてハンドリング容易な液体でエネルギー体の輸送コストの削減。

原油生産に伴うフレアガス(随伴ガス)の削減、GTL製造による石油開発プロジェクトの経済性向上。

硫黄分や芳香族(アロマ)を含まないクリーンな液体燃料。GTL軽油は、セタン価が高く燃焼性が良い。既存の原油生産インフラ(貯蔵タンク、出荷設備、輸送手段ほか)を活用。

原油からではなく天然ガスから液体炭化水素を手に入れることができ、液体燃料供給源の多様化。

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常温常圧で使用できるGTL ②GTLビジネスの成立

安い原料天然ガスと高い製品価格のギャップビジネス

GTL適用検討5ケース① ガス埋蔵量が豊富(カタール、北米): パイプラインやLNGに加えGTLがガス資源開発オプション。② ガス埋蔵量は豊富だが、自国での原油生産が少なく石油製品を輸入(オーストラリア、ウズベキスタン): 自国ガスからGTLで国内に石油製品の供給。③ ガス田はあるが、近くにパイプラインなどの輸送インフラがない(内陸、海洋、東シベリアほか): GTL(液体燃料)はガスよりも取り扱いが容易。④ ガスソースがCO2を含むなど低品位の場合(タイ、ベトナムなど): JOGMECと民間6社が共同で研究開発したJAPAN-GTLプロセス適用。⑤ 油田の随伴ガスのフレア“その場で燃やしてしまい利用しないガス”を削減(ブラジル、西アフリカ、西シベリア、カザフスタンほか): フレアから液体燃料を製造することで、フレアを削減。

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世界のGTLプロジェクト ①シェル社と南ア・サソール社が商業化を先行

出所:末廣能史、片倉和人 作成

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世界のGTLプロジェクト ②世界的に進むGTLプラント計画

北米のシェールガス生産急増に伴う天然ガスの大供給余力 ->アメリカにはGTLのビジネス機会。北米においてLNG輸出プラント以外にもGTLプラントの建設計画(サソール社、シェル社)。ベンチャー企業の計画。

今年2月の安倍総理とオバマ大統領の首脳会談で注目の「シェールガスを原料としたLNG輸出計画」 ->数多くのLNG輸出計画を認めると、ガスが高く売れるLNGにアメリカ国内の安価なシェールガスが消費され、アメリカ国内のガス化学産業の保護、エネルギー安全保障の観点から輸出計画は制限される可能性。GTL製品は、アメリカ国内の既存軽油価格と同等以上で販売できる。

3番手の企業は実験プラントのレベル。日本のプラント(JAPAN-GTL)は500バレル/日の生産を実現。同じレベルにあるのがノルウェーのスタットオイル社、南アフリカのペトロSA社、ドイツのルルギ社が構成する「GTL.F1」の1,000バレル/日のプラント。

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商業化が近い国産GTL ①国産GTL(JAPAN-GTL)の歴史

GTL先行企業はGTLを戦略技術と位置付けており、GTL技術をライセンスしない。よって、液体燃料化事業を行う場合、独自に開発する必要あり。

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商業化が近い国産GTL ②JAPAN-GTLプロセスの技術体系

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JAPAN-GTLと先行他社GTLとの比較 ①

GTLプラントの設備費の比較

GTLプラントの設備費の内訳

設備費、運転費ともに先行他社の公表データはないので、各種資料からの推定。原料ガスにCO2を含む場合、先行他社のA社、B社、C社と比較してJAPAN-GTLはCO2除去装置や酸素製造装置が不要なため設備費が10%~20%程度安価。

A社、B社、C社の設備費の40%~50%が合成ガス製造/天然ガス処理工程。

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JAPAN-GTLと先行他社GTLとの比較 ②

GTLのCO2排出量の比較

原料ガス中に含まれるCO2の割合が18%より小さい場合、CO2排出量は先行他社と同等。

一方、CO2の割合が18%より大きい場合は、先行他社よりもCO2排出量は少なくなる。CO2の割合が40%程度までJAPAN-GTLはCO2

を有効活用。これが長所。短所は、GTLプラントは化学プラントの一種なのでCO2排出量をゼロにすることはできない。CO2を有効活用するJAPAN-GTLも同様。

運転費については1年あたり設備費の4%~5%と、先行他社と同様。

原料ガスにCO2を18%含む場合のJAPAN-GTLプラントから排出されるCO2を100として、オートサーマルリフォーミング/ATR法(先行他社で言えばサソール社)との比較。

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中小ガス田ではLNGを上回る経済性 ①GTLのユニットコストの推移

GTL成立の目安としては、バレル/日(BPD)あたり10万ドル。

1バレルのGTL製品油を製造するのに、約10MMBtuのガスが必要と考えれば、1万5千バレル/日のGTLプラントで4ドル/ MMBtuのガスからGTLを製造する場合の1バレル当たりのGTL製造コスト=(原料費)+(設備償却費)+(運転費)=40+27+14=81ドル/バレル。これに税金などを加算し正味の製造コスト。

原油価格を100ドル/バレルとすると軽油価格は120ドル/バレル前後となるので、120ドル/バレルと81ドル/バレルの差で税金、輸送費、利益を配分。

原油価格が100ドル/バレル前後であれば、中東や北米のように井戸元のガス価格が安いところでは、GTLは経済合理的に成立。

原油生産に伴うガス(随伴ガス)からGTL製造を行えば、原料費は限りなくゼロに近づくと言えるので、商業GTL成立の可能性は更に高まる。

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中小ガス田ではLNGを上回る経済性 ②GTLとLNGの経済性比較の試算

1万5千バレル/日相当のGTLプラントに必要な天然ガス量に基づくと、LNGは年産で83万トン。この経済比較を実施した2008年3月時点の原油価格は現在より少し低めの77.4ドル/バレル。この時、GTL製品価格を原油由来のナフサ、灯油、軽油の製品価格の加重平均と仮定すると、94.6ドル/バレル。LNGのFOB(Free On Board:船積み価格)は7.97ドル/ MMBtu。これらを前提に20年間の運転でIRR(Internal Rate of Return:内部収益率)とガス価格の関係を試算。

原料ガス価格によらず、GTLの方が高い経済性を示す。天然ガスの可採埋蔵量が1兆立方フィート(GTL1万5千バレル/日を20年運転)と中小規模ガス田の場合、GTLの方が経済性は良い。

一般にLNGは3兆立方フィート以上の可採埋蔵量を有する大規模ガス田に適用されると言われており、さらにLNG受入れ施設を有するところに販売する必要。LNGは天然ガス市場においてパイプラインガスと比べて市場が限られているため、ほかの大型LNGプロジェクトとの競合。

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GTL製造はCO2排出量を増やすか? ①GTLの効率とCO2排出量

原料ガスの熱量を100 btu(british thermal unit: 1btu=252カロリー)とした場合、生成物の熱量は60 btu。即ちGTLの熱効率は60%。

炭素の利用率を見てみると、原料ガス中の炭素の77%がGTL生成物に取り込まれており、残りの炭素は燃料ロス。即ち、GTLプラントを動かすための燃料として使われ、結果CO2としてGTLプラントの外に逃げている。GTLのCO2問題を議論するときには、熱効率について議論すれば良いことが分かる。

熱効率の向上がCO2排出量を減らす。

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GTL製造はCO2排出量を増やすか? ②GTLのLCA: 石油製品のCO2排出量

Well-to-Tank、Tank-to-Wheelに分けて、ガソリンを1.0(両者の合計)とした場合のCO2排出量の相対比較。上から7番目が天然ガスから得られたFT軽油の排出量。ガソリン(一番上)よりは少ないが、軽油(5番目)よりは排出量が多い結果。これは一例だが、LCAを議論する場合、「Well-to-Tank」と「Tank-to-Wheel」を足した「Well-to-Wheel」で、即ち井戸から車を動かすところまでのトータルでCO2がどれくらい排出されるのかということを議論する必要がある。

右図のようにGTLはLCAによれば良くないという人がいる。

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GTL製造はCO2排出量を増やすか? ③GTLのLCA: GTLに係るCO2排出量

その一方で、既存の油と変わらないと主張する人もいる。後者の根拠は、既存の油で比較する場合、製油所では連産品として重い油も出ているのに軽い油だけで比較するのはおかしい、重い油から出るCO2もカウントすべきではないかということだ。

図に示すようにGTLの方はCO2排出量が少なくなり、製油所と同じくらいになると試算される。さらに図の右側に示すように、今後GTLプロセスやGTL油を使用するエンジンの効率を上げることができれば、さらにCO2排出量を少なくすることができる。

熱効率を上げることは、CO2低減だけでなく、原料ガスの有効利用にもつながる。

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GTL製造はCO2排出量を増やすか? ④LNGのLCA

化学変化のGTLと比較して、物理変化のLNGのLCAはどうなるか?

LNGの熱効率は90%~95%なので、CO2の排出量は少ないと直感的に考えられる。しかしながら、カタールの天然ガスを例に取るとCO2は約3%含まれ、LNGプラントの液化能力は合計で7,700万トン程度になるので、CO2も約230万トン程度排出される。LNGはCO2排出量が少ないはずだが、規模が大きくなると、こうなる。

中東湾岸には油ガス田やプラントが多く存在するので、LNGプラントなどから排出されたCO2をソースとして、近傍の油田に対してCO2–EOR(CO2による油の増産)を行えば、炭化水素の有効利用と環境負荷低減の両立ができる。

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GTL製造はCO2排出量を増やすか? ⑤フレア規制にも対応

フレア規制への対応でもGTLは注目。フレアというのは、油田からの随伴ガス(Associated Gas : 油田の生産時に一緒に出てくるガス)とか、天然ガス田から出てくる圧力の低いガス(パイプライン輸送に適さない)などを井戸元で火を着けて燃やすこと。これらのガスは用途が限られ、しかたなく燃やされているが、これらによるCO2の大気放散は環境上の問題となっており、資源国は規制の方向に動いている。

公開データなどから計算すると、その量は世界で年間5兆立方フィート(約1,400億立方メートル)にも達する。これは年間100万トンの液化能力を持つLNGプラント5つ分に相当する(20年程度の稼働を想定)。もっと具体的に言えば、熱量換算で世界の原油消費量の8日分に相当し、日本のガス消費量で言えば1.3倍ほどのガスが放出されていることになる。

単に燃やすのでなく、これらの随伴ガスをGTLの原料として有効利用できれば、CO2対策だけでなくエネルギーの有効利用の観点からも有意義。

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天然ガス以外からも製造されるクリーンな液体燃料

CTL、BTL、DTL/WTLと呼ばれ、総称はXTL。

シェールガス増産で天然ガスの供給余力が顕在化している米国では、GTLのみならず、石炭を原料とするCTLや石炭直接液化法といった経路からも液体炭化水素を製造できるポジション。

メタン化学(C1化学)の復活となるのか注目。

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ご清聴いただきありがとうございました

• 製造プロセス等の詳細は、JOGMECホームページ「石油・天然ガス資源情報」にアクセスいただければ幸いです http://oilgas-info.jogmec.go.jp/