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1 23. Rehabilitation of Severe Stroke 重度脳卒中のリハビリテーショ Robert Teasell, J Ross Graham, Shelialah Pereira, Matthew Moses, Katherine Salter, Norine Foley, Hannah Kruger, Sarah Donaldson Key Points 重度脳卒中患者のリハビリテーションは,現在のヘルスケアやリハビリテーションシステムに重大 な課題を引き起こしている. 重度脳卒中という単一の定義はないが,一般的に使用されている指標は FIM の点数が 40 点未満の 者とされている. リハビリテーションの財源モデルは,重度脳卒中からの回復する患者のケアに直接的な密接関係が ある. 脳卒中での障害範囲が大きいほど,皮質が再組織化される可能性は低い. ICU に入棟する重度脳卒中患者はめったにいないが,死亡率を減尐させるのに有益であると示唆さ れている. 重症度は,脳卒中患者のより悪い機能帰結と関連がある. 学際的な脳卒中専門ユニットに入院した重度脳卒中患者は,標準の治療を受けた患者と比較して健 康状態を示すアウトカムがより改善したと報告されている. 学際的な脳卒中専門リハビリテーションユニットは,必ずしもよりよい機能的アウトカムをもたら すわけではない. 重度脳卒中患者のリハビリテーションは,退院計画と合併症の予防を重視すべきである. 現在では,“slow-stream(ゆっくりとした流れ)”脳卒中リハビリテーションは効果的な介入で あると提言するエビデンスは不十分である. 重度脳卒中患者に関しての倫理的な決定は,試験的な治療と,医療スタッフと患者の家族の連携を 基盤とすべきである.

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23. Rehabilitation of Severe Stroke 重度脳卒中のリハビリテーショ

Robert Teasell, J Ross Graham, Shelialah Pereira, Matthew Moses, Katherine Salter, Norine Foley, Hannah Kruger,

Sarah Donaldson

Key Points

重度脳卒中患者のリハビリテーションは,現在のヘルスケアやリハビリテーションシステムに重大

な課題を引き起こしている.

重度脳卒中という単一の定義はないが,一般的に使用されている指標は FIM の点数が 40 点未満の

者とされている.

リハビリテーションの財源モデルは,重度脳卒中からの回復する患者のケアに直接的な密接関係が

ある.

脳卒中での障害範囲が大きいほど,皮質が再組織化される可能性は低い.

ICU に入棟する重度脳卒中患者はめったにいないが,死亡率を減尐させるのに有益であると示唆さ

れている.

重症度は,脳卒中患者のより悪い機能帰結と関連がある.

学際的な脳卒中専門ユニットに入院した重度脳卒中患者は,標準の治療を受けた患者と比較して健

康状態を示すアウトカムがより改善したと報告されている.

学際的な脳卒中専門リハビリテーションユニットは,必ずしもよりよい機能的アウトカムをもたら

すわけではない.

重度脳卒中患者のリハビリテーションは,退院計画と合併症の予防を重視すべきである.

現在では,“slow-stream(ゆっくりとした流れ)”脳卒中リハビリテーションは効果的な介入で

あると提言するエビデンスは不十分である.

重度脳卒中患者に関しての倫理的な決定は,試験的な治療と,医療スタッフと患者の家族の連携を

基盤とすべきである.

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Table of Contents

Key Points ......................................................................................... 1

Contacts: .................................................................................................. 1

Table of Contents ............................................................................. 2

23. Rehabilitation of Severe Stroke ................................................ 3

23. 1 Issues in Severe Stroke Rehabilitation ...................................................................... 3

23. 1. 1 Defining Severe Strokes ....................................................................... 3

23. 1. 2 Impact of Funding Models on Severe Stroke Rehabilitation ................. 5

23. 2 Stroke Severity and Recovery .................................................................................... 7

23. 2. 1 Cortical Reorganization Following Stroke ............................................. 7

23. 2. 2 Role of Reciprocal Motor Area Connectivity in Reorganization …..…... 7

23. 2. 3 Effect of Lesion Size on Recovery ........................................................ 7

23. 2. 4 Summary of Stroke Severity and Recovery .......................................... 8

23. 3 Care of Individuals with Severe Stroke ....................................................................... 9

23. 3. 1 Admission to Intensive Care Units ........................................................ 9

23. 3. 2 Stroke Severity and Rehabilitation Outcomes ......................................11

23. 4 The Outcomes of Severe Stroke Rehabilitation ....................................................... 14

23. 5 Slow-Stream Rehabilitation ........................................................................................ 21

23. 6 The Ethical Issues in Severe Stroke Rehabilitation ................................................. 22

Summary ...................................................................................................................... 25

References ................................................................................................................... 28

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23. Rehabilitation of Severe Stroke 重度脳卒中のリハビリテーション

23. 1 Issues in Severe Stroke Rehabilitation 重度脳卒中患者リハビリテーションの課題

重度脳卒中患者は,しばしば著しい運動・感覚・認知機能障害を呈する.重度脳卒中患者は最も重い障害を

持ち,現在の重大なリハビリテーションの課題である.重度脳卒中患者は最も大きな障害を持つが,リハビリ

テーションの利用は制限されている可能性がある.彼らは入院している脳卒中患者のリハビリテーションにお

いて“不幸な志願者”と考えられている.なぜなら彼らにはリハビリテーションの可能性の限界があり

(Gladman&Sackley, 2003),また中等度脳卒中患者と比較し機能的な改善が得られにくく(Carey et al., 1988;

Asberg and Nydevik, 1991; Alexander, 1994; Ancheta et al., 2000),さらには彼らに対するリハビリテーショ

ンの対費用効果について関心があるためである(Gladman & Sackley, 2003).

脳卒中患者の約 20%が,リハビリテーションの努力に関わらず,今後も歩行不可能となり,ADL 動作時に

介助を必要としつづけるといった重度の能力障害を経験するであろうと推測されている(Preffer&Reding,

1998).さらに,機能的回復と最終的な在宅復帰の両方の最も有力な予測因子は,脳卒中直後の重症度,年

齢だと繰り返し報告されてきた.されども年齢の影響は,脳卒中の重症度ほど重要でないとされている

(Alexander, 1994; Stineman et al., 1998, Stineman and Granger, 1998).

しかしながら,重度脳卒中患者は専門の脳卒中リハビリテーションの恩恵を受けるという複数のエビデンス

がある.これらの患者らは専門的学際的な脳卒中リハビリテーションに反応する機能的回復には限界があるよ

うに思えるが,死亡率が減尐し,入院期間が短縮,また在宅復帰する傾向が大きくなる可能性がある(Jorgensen,

1995, 2000).

Conclusions Regarding the Issues in Severe Stroke Rehabilitation 重度脳卒中リハビリテーションに

おける課題に関する結論

多くの重大な機能障害や能力低下が生じるにも関わらず,重度脳卒中患者はリハビリテーションを受けるこ

とを制限される.

リハビリテーションの制限は,中等度脳卒中患者と比較して機能的回復の可能性を減尐させるといった多く

の要因を生み出す.重度脳卒中患者のリハビリテーションは資源の利用と大きく関係がある.

23. 1. 1 Defining Severe Strokes 重度脳卒中の定義

世界的に,脳卒中の重症度の評価,研究に様々な尺度が使用されている(Table23. 1).多くの著者がリハ

ビリテーション後の機能的アウトカムや退院後の発病率によって脳卒中の重症度を分類してきた一方で,

重度脳卒中患者のリハビリテーションは現在のヘルスケアとリハビリテーションシステムにおいて重要

な課題をもたらす.

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Appelros(2002)は,初期の外傷あるいは死亡リスクの程度は,重症度の評価として役立つ可能性があると提

言した(Nolfe,2003).急性期の尺度としてAPACHEⅡ&Ⅲ(客観的な侵襲重症度スコア法)やNational Institutes

of Health Stroke Scale (NIHSS)を使用している.能力障害の尺度としては Functional Independence Measure

(FIM),Barthel Index: ADL Scale (BI-ADL),Modified Rankin Scale (MRS)を使用している.これら

の評価法は自立度を評価するのに用いられ,組み合わせて使用される.

Garraway ら(1981, 1985)は,まず重度脳卒中患者を 3 つの帯域に分けることを提言した(Table23. 2).

発症時,意識がなく,一側性あるいは両側性に重度不全麻痺がある患者は重度脳卒中とした.彼らは重度な合

併症をもち,これが能力障害の重症度に影響する.Alexander(1994)と Nolfe ら(2003)は初期 FIM が 40

点未満を重度脳卒中とした.この尺度にあてはまる患者は若年者(55 歳未満)を沿いて,治療しても機能的

自立に到達する見込みがないとされている(Nolfe et al., 2003).

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最後に,重度脳卒中患者は,歩行不可で,身体的,認知的,知覚的障害,コミュニケーション障害により高い

リスクで在宅復帰が困難の者として説明されているが,一般的に上述の障害の合併による(Evans 1981).

詳細は Chapter 4 参照すること(Managing the Stroke Rehabilitation Triage Process: 4.3 Levels of Stroke

Severity).

Conclusions Regarding the Definition of Severe Stroke. 重度脳卒中の定義に関する結論

脳卒中の重症度は様々な方法で定義される.一般的な定義は,発症時に意識がなく,一側性あるいは両側性の

不全麻痺がある.そして,初期 FIM が 40 点未満,運動 FIM が 37 点未満である.身体的,認知的,知覚的障

害,コミュニケーション障害あるいはそれらの合併により高い確率で自宅復帰が困難な者と定義される.

23. 1. 2 Impact of Funding Models on Severe Stroke Rehabilitation 重度脳卒中リハビリテーションの財

源モデル

重度脳卒中患者は軽度,中等度脳卒中患者よりも医療財源,経済資源において負担が大きいというエビデンス

がある(Stineman 1997, Gladman and Sackley 1998, Brock et al. 2007).彼らが言うには,脳卒中の重症度

は脳卒中リハビリテーションユニットにおける財源に影響を与える.case-mix 資源モデルの使用によって,

他の群よりある特定の脳卒中患者のサブグループが有利にはたらく入院プロセスが生じるようになった(Ilett

et al., 2010).より重度の障害を持っている患者が“肝心な点”に悪い影響を与えるにつれて,リハビリテー

ションのためにそれほど重度でない脳卒中患者を選択する傾向になった. “[とある]財源モデルは,リハ

ビリテーションの過程によって重大な利益がある可能性がある患者よりむしろ,より収益がありそうな患者に

報奨金を供給することによってリハビリテーションを受ける可能性がある.”(Brock et al., 2007).概して

重度脳卒中患者は,入院期間が長いことや,アウトカムが乏しいこと,退院への課題が多いことや多くの看護

を必要とするために,リハビリテーションの対象として大きく不利な立場に置かれる.

北アメリカのリハビリテーション病院では,一般的な財源モデルにおいて FIM-FRGが使われている.FIM-FRG

は患者を区別する樹形図によって分類される(図 23.1)(Tesio, 2003).機能障害,能力低下の重症度,年齢

重度脳卒中に単一の定義はないが,一般的に初期 FIM が 40 点未満という指標が用いられている.

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が FIM-FRG の分類に含まれているすべての要素である(Stineman, 1997).このモデルはアメリカで広く使用

されており,また様々なヘルスケアセンターを網羅するようにより大きな case-mix 型システムの一端として

使用されている(Stineman 1997, Stineman et al. 1997).リハビリテーション後に最も効果のあった脳卒中患

者は,重度機能障害をもつ若年者である(FRG1)(Bates and Stineman 2000).FRG の中間域(4-7)は一般

的に良好な機能的利益がある.一方,高齢重度患者(FRG2.3)や軽度機能障害患者(FRG8.9)は退院時にお

いて機能的改善は尐ない(Bates and Stineman 2000, Han et al. 2002).Han ら(2002)は多くの機能障害の

ある脳卒中患者は単一の機能障害を有する患者と比較し,機能的改善は低いと報告している.

同様のシステムの導入を調査している研究によって効果が示されている.Brock ら(2007)の研究では,重度

脳卒中患者にとって FIM 分類システムはコストを減尐させるが,退院時の能力障害を増加させたと報告した.

Dejong ら(2005)は,FIM 分類システムを実施することにより,結果として治療資源が重度患者から中等度

患者へ移行していくことになると報告した.Stineman(1997)は FIM-FRG で分類された高齢者患者や重度患

者の両方は case-mix 財源システムの追加考慮が必要であるという結果や状態であることに同調している.

Conclusions Regarding Funding Models and Severe Strokes 重度脳卒中リハビリテーションの財源モデ

ルに関する結論

重度脳卒中患者は使用される財源モデルの種類によって最も不利な影響を受ける.

リハビリテーション財源モデルは,重度脳卒中患者の治療において直接的な関係がある.

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23.2 Stroke Severity and Recovery 脳卒中重症度と回復

23. 2. 1 Cortical Reorganization Following Stroke 脳卒中後の皮質の再組織化

動物において,皮質損傷後の神経学的回復と機能的回復は,樹状突起の増加や神経スパイン密度の増加を含め

た残存する皮質回路の再組織化に依存する(Kolb, 2000).構造学的変化は,脳卒中周囲の損傷していない皮

質組織に生じるというエビデンスが多く存在する.Nudo(2003)は,“運動学習中の正常動物の運動皮質にお

いて,機能修飾の基礎となるメカニズムは,運動皮質損傷後の回復に影響するメカニズムとおそらく同様”で

あり,このことは特に感覚運動皮質や一次運動野の手の領域といった小さな局所的な損傷に当てはまると示唆

した.また Nudo(2003)は,脳卒中のように,損傷が皮質部分に生じると,損傷部位との皮質内との投射が

減尐するため,損傷していないにも関わらず,周囲の非損傷組織の多くは影響を受ける.このことは損傷領域

と連絡している限り,遠隔領域でも当てはまる.それゆえに,脳の再組織化の過程は,損傷部位と連絡する皮

質の隣接領域と遠隔領域に期待される.

23. 2. 2 Role of Reciprocal Motor Area Connectivity in Reorganization 再組織化における運動領域との相

互連絡の役割

Frost(2003)は,サルの手の領域を示す一次運動野の梗塞後,腹側運動前皮質の手の領域の拡大した範囲が,

損傷した一次運動野の範囲と直接的に比例すると報告した.それは失った機能を補填するよう求められた二次

運動野と考えられる.大きな皮質損傷は,残存する皮質領域の再組織化をより広範囲にもたらす.しかし,そ

のような戦略は,より離れた領域や連絡の尐ない領域ではあまり有効でないため,脳の損傷領域の機能障害が

生じ続けるといった結果をもたらす.Frost(2003)は,以下の 2 つの法則を示唆した.“二次的な皮質領域の

再組織化は,損傷によって誘発された可塑性の一般的な特性”と,“遠隔領域の再組織化は,いくつもの運動

領域との相互連絡性に直接的に関係がある”.後者の法則に関して,機能的な再組織化を引き起こすためには,

損傷した運動領域との何らかの形で連絡している必要がある.これらは,より大きな脳卒中において,一次運

動野と二次運動野の両方が影響を受けると,神経学的な再組織化が起こる可能性が低くなることを意味する.

損傷によって,障害された機能に関与する一次領域だけでなく,隣接した正常領域も機能を失い,より重度な

脳卒中患者は神経学的な再組織化や神経学的回復が困難となる.それゆえに,相互連絡性をもつ皮質内経路の

損傷が大きいほど,損傷されていない二次領域での可塑性がより大きくみられる.しかし,二次的領域はほと

んど有効でなく,より重度な脳卒中においては保存されている可能性が尐ないため,結果として回復する可能

性は低い(Teasell et al. 2005a).

23. 2. 3 Effect of Lesion Size on Recovery 回復における損傷範囲の影響

損傷半球の可塑的な変化,特に梗塞周囲の活動を伴う領域の変化は,最善の回復に関係がある(Hallent 2001,

Cramer et al. 2002).脳の損傷領域が部分的に保たれ,隣接あるいは連絡領域が損傷を受けていない状態にあ

るより小さい脳卒中の影響を調査した研究では,ヒトと動物の両方において,ほぼ完全に,適時的な回復を示

したと示した(Whishaw 2000).小さい脳卒中後の回復は多くの場合完全であるが,小さい脳卒中の患者に対

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するリハビリテーションの全体的な利得は,“天井”効果のために,より重度な脳卒中患者と比べるとはるかに

尐ない.小さい脳卒中後の‘回復’は,多くの場合自然なものであり,すでに損傷された機能の役割を果たし

ている損傷を受けていない領域が含まれるため,リハビリテーション療法は回復に決定的に重要な意味を持つ

とは言い切れない.例として,Whishaw(2000)は重度な機能障害をもつ小さい運動皮質損傷を呈したラッ

トが,前肢のリーチ課題において,当初は下手であったが,15 日間以上で有意な改善を示したことを発見し

た.最終的に,これらのラットはほぼ正常にリーチ課題を遂行することができ,肢を持ち上げる,向ける,前

へ進めることにおいて軽度の機能障害のみを示した(Kolb 1995).対照的に,大きな損傷を伴ったラットにお

いては期間を大まかに数週間から数ヶ月に長期化しても完全な機能回復はほとんど得られなかった(Kolb

1995, 2003).Kolb(1995)は,より大きい損傷が慢性的な前肢の運動の低下をもたらすことを言及した.た

とえ動物が全身を使った戦略によって補填的な学習をしても,結局食物をつかむことにほとんど成功しなかっ

た.同様に,Green(2003)は,動物研究と臨床研究両方において,より重度な脳卒中症例の場合,代償的変

化は最大 6 ヶ月まで延長したと報告した.

23. 2. 4 Summary of Stroke Severity and Recovery 脳卒中の重症度と回復に関する要約

脳卒中後の皮質の回復は残存している皮質組織の再組織化に依存する.脳卒中と関係しているあらゆる皮質組

織は損傷組織への投射を経由して影響を受ける.このように,可塑的変化は,損傷を受けた同側半球内とより

遠隔皮質領域に生じる(Nudo 2003).同側半球で起こる変化,特に梗塞周囲の活動を伴う領域の変化は最善

の回復に関係がある(Hallett 2001, Cramer et al. 2002).さらにエビデンスでは,運動機能に関与している残

存した皮質領域の代償は,脳卒中により損傷を受けた範囲に比例するということが示されている(Frost et al.

2003).この再組織化の法則は,損傷組織と連絡がある限り,脳卒中に隣接する二次皮質領域や皮質のより遠

隔領域の再組織化にも当てはまるようである.最終的にエビデンスでは,より大きい損傷を伴うと,皮質内の

代償的変化は事実上生じると示されているが,そのような変化は,小さい損傷がもたらす変化と比較すると長

期間に及ぶとされている(Kolb 1995, 2003, Green 2003).これは,より重度な脳卒中者は,時間がかかり,

回復はほとんど完全とまではいかないけれども,リハビリテーションによって効果を得ることを意味する.

Conclusions Regarding Stroke Severity and Recovery in Animal Studies 動物研究における脳卒中の重症

度と回復に関する結論

ヒトのニューロイメージングと組み合わせた動物実験において,脳卒中後の回復は,損傷部位と同様の機能を

含んだ,損傷周囲の損傷されていない皮質領域に大きく依存し,失った機能の補填ができるということが示さ

れた. 大きな脳卒中ではこのことが引き起こる可能性は低い.

より大きな脳卒中は,皮質の再組織化が起こる可能性が低い.

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23. 3 Care of Individuals with Severe Stroke 重度脳卒中患者における治療

重度脳卒中患者は,多数の機能障害と制限を有する.それゆえに長期間施設に入るリスクが最も高い(Gladman

and Sackley 1998).しかし,このリスクをよそに重度脳卒中患者はしばしばリハビリテーションのために入

院する手段を奪われている.4章を参照(Managing the Stroke Rehabilitation Triage Process: 4.4 Age as a

Modifier in Rehabilitation Triage).

23. 3. 1 Admission to Intensive Care Units ICUへの入院

エビデンスでは,重度脳卒中患者はICUあるいはNICUへの入院により恩恵を受けうると示している(Nguyen

and Koroshetz 2003, Jeng et al. 2008).しかし,ICUsへの入院を認められた脳卒中患者は5-7%とほんのわず

かだった(Navarrete-Navarro et al. 2003, Riachy et al. 2008).Riachy(2008)は,他疾患患者と比較して,

脳卒中患者のICUs入院率は,ほんのわずかあるいは存在しないと報告した(Riachy et al. 2008).

Jeng(2008)は,ICUで治療を受けた重度脳卒中患者の1年間の死亡率が減尐することを報告した.しかし,

彼らは重度脳卒中患者への集中治療における決定的な利益を立証するためにはより多くの研究が必須である

と言及する.ICU治療の利益は,継続的なモニタリングが必要な患者にとって最良であると報告されてきた

(Nguyen & Koroshetz 2003).これは,人工呼吸器,脳卒中後減圧手術,脳還流拡大や低体温療法を受けた患

者を含んでいるかもしれない.同様に,血栓溶解後,血管形成術対象者,ステント植込術,凝血塊回復や重度

神経学的障害のために脳出血の危険がある患者は,集中治療への入院により重要な利益をもたらすかもしれな

い(Nguyen & Koroshetz 2003, Jeng et al. 2008).集中治療が脳卒中急性期での死亡率を減尐させ,また短期

あるいは長期でのアウトカムを改善するのに重大な役割を担っているため,重度脳卒中患者が入院できないと

いう傾向はやや矛盾している.これは,ICUケアと関連する重要な出資資源と重度脳卒中患者の治療における

一般的な虚無主義的な態度の組み合わせかもしれない.4章を参照(Managing the Stroke Rehabilitation Triage

Process: 4.2 Triaging Stroke Patients).

Conclusions Regarding Severe Stroke Admission to ICUs 重度脳卒中患者ののICUs入院に関する結論

重度脳卒中患者は他の重篤疾患や外傷患者と比較して,ICUへの入院はほとんどない.

重篤な健康問題をもつ重度脳卒中患者は,集中治療への入院によって死亡率が減尐するようである.他の明確

なアウトカムを確立するためにさらなる研究が必要である.

重度脳卒中患者のICUへの入院はめったにないが,それらのアウトカムは死亡率の

減尐において有益であるかもしれないことを示唆する.

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23. 3. 2 Stroke Severity and Rehabilitation Outcomes 脳卒中重症度とリハビリテーションアウトカム

重度脳卒中患者は,軽度脳卒中患者と比較して,様々な領域においてより低いアウトカムを示すという臨床研

究がある(Ween et al. 1996, 2000; Oczkowski & Barreca 1993; Kammersgaard et al. 2004; McKenna et al.

2002; Jeng et al. 2008).表23. 4で示される研究は,より重度脳卒中が否定的なアウトカム,例えばより長い

LOS,より高い死亡率,依存度,収容率とより低い機能的能力と関係していると示している.

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Discussion 考察

エビデンスは,高い死亡率に加えて,重度脳卒中患者らはより長いLOSを経験しやすく(同年代と比較すると),

そして軽度脳卒中患者と比較して,重度な障害が残存する(Ween et al. 1996, 2000, Oczkowski & Barreca 1993,

Kammersgaard et al. 2004, McKenna et al. 2002).また重度脳卒中患者は,リハビリテーションによる機能回

復を示しそうにない(Jeng et al. 2008).概して,脳卒中重症度は,退院先,生活様式の変化,入院期間(LOS),

機能的能力と死亡率の予測因子とされている.

Conclusions regarding Stroke Severity and Rehabilitation Outcomes. 脳卒中重症度とリハビリテーショ

ンアウトカムに関する結論

より重度脳卒中患者は,軽度脳卒中患者と比較し,リハビリテーション後の乏しいアウトカムと関係がある.

23. 4 The Outcomes of Severe Stroke Rehabilitation 重度脳卒中リハビリテーションにおけるア

ウトカム

重度脳卒中患者がリハビリテーションによって大いに恩恵を受けることを示唆したエビデンスが成長してい

る.数人の著者らが次のように報告している.専門のリハビリテーションによって,重度脳卒中患者の死亡率

が減尐し,自宅退院への可能性の増加,入院期間の短縮がみられた(Stineman and Granger 1998, Kalra and

Eade 1995, Kalra et al. 1993, Jorgensen et al. 1995, 2000, Ronning and Guldvog 1998, Teasell et al. 2005b,

Yagura et al. 2005)(Table 23. 5).

脳卒中重症度が大きいほど,より乏しいリハビリテーションアウトカムと関連がある.

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Discussion 考察

多くの異なるアウトカムを調査している様々な研究者は,重度脳卒中患者に対する特有のリハビリテーション

は脳卒中患者において利益があると強調してきた.重度脳卒中患者に対する専門の学際的リハビリテーション

における最も一致した利益は,死亡率の減尐(Jorgensen et al. 1995, Ronning & Guldvog 1998)と在宅復帰

の可能性の増加である(Ween et al. 1996, McKenna et al. 2002).

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Jorgensenら(2000)は,死亡率に関して,より重度な脳卒中患者は発症初期において,他の脳卒中患者と比

較して,献身的なリハビリテーションユニットのもとでのリハビリテーションの恩恵を受けるようであると報

告している.同様な報告がRonningとGuldvog(1998)によってなされている.彼らは,死亡率と依存度に関

して,中等度あるいは重度の機能障害を有する患者は入院リハビリテーションの恩恵を受けることを立証した.

Yaguraら(2005)は,脳卒中ユニットへの入院を許可された重度脳卒中患者の47.4%は在宅復帰が可能だっ

た.これに対して,一般的なリハビリテーション病棟への入院で在宅復帰した患者はいなかった.また,専門

脳卒中リハビリテーションプログラムを受けた重度脳卒中患者の43%が在宅へ退院できたという似たような

報告がTeasellら(2005)によってなされた.Deutschら(2006)は,アメリカにおける631ヶ所の入院リハビ

リテーション施設(IRFs)と239ヶ所の介護ケア施設(SNFs)に入所している脳卒中患者の後ろ向きな検討

を実施した.IRFsに入院した重度脳卒中患者は,SNFsに入所した患者と比較して有意に地域へ退院されたこ

とが示された.

2つのRCTによって重度脳卒中患者の短期間の脳卒中ユニットへの入院について報告されている(Kalra et al.

1993, Kalra & Eade.1995).Deutschら(2006)は,IRFsへ入院した重度脳卒中患者のLOS平均は,SNFsへ

の入所患者よりも短縮すると発見した.

最後にJorgensenら(2000)とYaguraら(2005)は,LOSに関して重度脳卒中患者の脳卒中ユニットへの入

棟と一般的な内科病棟への入棟では有意差はみられないと結論づけた.機能的利得に関して,重度脳卒中患者

のリハビリテーションの恩恵は明らかでない.Nolfeら(2003)は,6ケ月間の追跡調査にて,入院リハビリテ

ーションを受けた重度脳卒中患者のFIM点数平均が有意に改善したと発見した.またこの傾向はTeasellら

(2005)とDeutschら(2006)によっても示されている.Ronning とGuldvog (11)は,中等度あるいは重

度脳卒中患者は自立度において最も恩恵を受けると報告した.しかし,Kalraら(1993)やKalraとEade(1995)

は重度脳卒中患者の研究において,有意な機能的利得はなかった(Barthel Indexにより評価)と報告し,Lofgren

ら(1999)は専門の高齢脳卒中ユニットに入棟した重度脳卒中患者は追跡調査6ヶ月時点で精神的健康が改善

したと報告した.また,専門的な治療は心疾患の合併を患う重度脳卒中患者に恩恵を与えるようである

(Fagerberg et al. 2000).臨床研究からのエビデンスでは,重度脳卒中患者は学際的な脳卒中専門リハビリ

テーションの恩恵を大いに受けており,それは中等度脳卒中患者よりも大きいだろうと示されている.

重度脳卒中リハビリテーションの研究結果はTable23. 4に詳細を示す.

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Conclusions Regarding the Benefits if Rehabilitation for Severe Strokes 重度脳卒中患者のリハビリテ

ーションの利益に関する結論

重度脳卒中患者において学際的な脳卒中専門リハビリテーションは有益であるというエビデンスがある.これ

らは,入院期間の短縮,施設入所や死亡率の減尐と,それほどにないにせよ機能的改善をもたらす.

重度脳卒中患者において,学際的な専門脳卒中リハビリテーションは,一般的なリハビリテーション部ログラ

ムと比較して死亡率を減尐させるという強いエビデンスがある(レベル1a).

学際的な脳卒中専門リハビリテーションプログラムを受けた重度脳卒中患者は,より在宅復帰が可能であると

いう中等度のエビデンスがある(レベル1b).

学際的な脳卒中専門リハビリテーションプログラムは入院期間を短縮するという強いエビデンスがある(レベ

ル1a).

学際的な専門脳卒中ユニットへの入院患者の機能的利得に関しては相反するエビデンスがある(レベル4).

機能的アウトカムは,重度脳卒中患者のリハビリテーションでは,退院計画と脳卒中後の合併症の減尐を重視

すべきであると示唆している.

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23. 5 Slow-Stream Rehabilitation Slow-Stream(ゆっくりとした流れの)リハビリテーション

Slow-Streamリハビリテーションは,重度脳卒中で高強度の治療は許容できないが,低強度なら許容しうる患

者に対する新たな可能性をもつ治療として示唆されてきた(Tourangeau et al., 2011).それは,従来の入院

リハビリテーションの対象となりえないようなより重篤な障害をもつ患者に対して,専門的な脳卒中リハビリ

テーションサービスを長期にわたって提供することを目的とする(O’Neill,McCarthy & Newton, 1987).O’Neill

ら(1987)は,混在した診断を受けた(mixed diagnoses)52名の患者をslow-streamリハビリテーションユ

ニットへ入棟させ,これにより社会的,経済的に有益であることを研究で示した.しかし,Richmond,Baskett

とBonitaら(1988)はこの結論に対し興味深い疑問を立てた.slow-streamリハビリテーション実施後,患者

の36%(n= 19/52)が在宅復帰したが,6~30か月後在宅生活に留まっていた患者はわずか9名しかいなかった.

さらに,彼らは,slow-streamリハビリテーションと介護老人ホームのコストを比較したところ,前者の方が

高額であることを示唆した.カナダでは,入院患者の脳卒中リハビリテーションに関する費用の大部分は,主

要な治療(理学療法,作業療法,言語聴覚療法)の提供というよりむしろ看護と施設設備に関連している.実

際,主要な治療は費用の中の20%未満である.それゆえ,患者が短期間内に耐えうる,できるだけ多くの主要

な治療を受けられるよう保証することが重要である.重度脳卒中患者のリハビリテーションにおいて従来の治

療を通して有意な改善を示した全ての研究には,学際的な脳卒中リハビリテーションユニットや比較的強度の

強いユニットやあまり強度の強くないユニットが含まれた(表23. 3と23. 4に示す).それゆえに,slow-stream

脳卒中リハビリテーションの強度は,個々の患者の治療に対する許容量によって決められるべきであり,重度

脳卒中患者が耐えうることができる治療量についての先入観によって決められるべきではないとした(Teasell

et al. 2005b).

現在,重度脳卒中患者に対するslow-stream脳卒中リハビリテーションの構想は比較的まだ未試験のままであ

る.Torangeauら(2011)は,オンタリオ州にある6ヶ所の施設で“低強度,長期間”ユニットに81名の患者

のアウトカムを報告した.彼らは,患者(従来の高強度リハビリテーションの対象でないと考えられる者)の

48%が在宅復帰,35%が低水準の治療が必要な施設(例:介護施設)への退院,17%がより高水準の治療が可

能な施設へ退院となったと報告した.

アメリカでは,大きな比較研究によって3ヶ月・6ヶ月時点での長期的な配置,機能状態,費用に関して,脳卒

中リハビリテーションアウトカムが調査された(Kramer et al. 1997).この研究にはリハビリテーション病院

や専門的なリハビリテーション介護施設,従来の介護施設で治療を受けた,様々な症例が混合し調整された集

学際的な専門脳卒中リハビリテーションユニットに入棟した重度脳卒中患者が標準的治療と比

較して健康アウトカムが良好である.

学際的な専門脳卒中リハビリテーションユニットは必ずしも良好な機能的アウトカムをもたら

すわけではない.

重度脳卒中患者のリハビリテーションでは退院計画と合併症の減尐を重視すべきである.

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団を対象とした.研究結果から,リハビリテーション病院の患者は,介護施設で専門的なリハビリテーション

を受けた患者や従来の介護施設で治療を受けた患者と比べて,有意な機能回復をしたことが示された.さらに,

リハビリテーション病院内で提供されたサービスにかかる医療保険費用は,亜急性期リハビリテーション病院

の1.5倍であり,従来の介護施設でのリハビリテーションの2倍であったが,リハビリテーション病院の患者の

地域社会への復帰の可能性は,他の2グループと比べて2倍であった.さらに,専門的な介護施設でリハビリテ

ーションを受けた患者の方が,従来の介護施設の患者より地域社会に復帰する傾向にあるが,有意性には至ら

なかった.この研究によって脳卒中リハビリテーションが高強度で,専門的であるほど,在宅復帰する可能性

が高まることが示された(Teasell et al. 2005b).chapter 4(Managing the Stroke Rehabilitation Triage Process:

4.6 A Potential Triage System)を参照.

Conclusions Regarding Slow-Stream Rehabilitation Slow-Streamリハビリテーションに関する結論

複数のデータでは,より高強度脳卒中リハビリテーションプログラムと比べて,有益なアウトカムをもたらさ

ないかもしれないということが示されている.

slow-stream脳卒中リハビリテーションの利用は,個々の患者の治療に対する許容量によって決められるべき

であり,重度脳卒中患者が十分耐えうることができる治療量についての先入観によって決められるべきではな

い.

23. 6 The Ethical Issues in Severe Stroke Rehabilitation 重度脳卒中リハビリテーションにおけ

る倫理的問題

重度脳卒中患者は軽度あるいは中等度脳卒中患者よりも予後不良とされ,より多くの援助を必要とし,より多

額の財政的負担を伴う可能性がある(Gladman and Sackley 1998).このことにより,重度脳卒中からの回復

は大変重要であり,介護施設への退院や長期的治療もしくは在宅復帰へと移行するため病院での入院期間は比

較的短いと言われている(Kalra et al. 1993, 1995).これらの意見は,重度脳卒中患者に提供されるサービス

の量と質に関する倫理的なジレンマの基礎を成す.

「ある患者が重度の脳卒中を患った場合に,検査と治療がもはや有益でないときには,それらは終了されるべ

きである」(Asplund and Britton 1989).多くの研究に関して,AsplundとBritton(1989)は,重度脳卒中倫理

学に関するこの従来の見解を示し分析している.彼らは,倫理的な意思決定において考慮されるべきガイドラ

インを提示している.

現在,slow-stream脳卒中リハビリテーションが効果的な介入であることを示すエビ

デンスは不十分である.

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「脳卒中1週間後に意識障害のある患

者において,意味をもった意思伝達困難

とセルフケア困難を合併した場合,生命

維持や予防措置(対症療法,看護とおそ

らく体液サポートは除く)は断つべきか

もしれない.我々はまた,患者の望みや

以前の永続的な病的な状態,家族の意向,

倫理原理,主治医と医療スタッフの経験

といった付加的因子を提案した.そして

異文化間の異なる倫理基準は,倫理的な

意思決定において考慮されるべきであ

る.」

しかし,彼らは後にこれらの考察はあま

りに挑発的である可能性があることを

注意している.重度脳卒中患者の予後に

基づく決定は,必ずしも正確でないかも

しれない(Asplund & Britton 1989).彼

らは,倫理的な意思決定方法の基準を確

立するために,より明確なデータが求め

られることを推奨している.より最近の

レビューでは,Hollowayら(2005)は,重度脳卒中患者において倫理的な意思決定方法を援助するために,

より大規模なガイドラインを作成した(表23.7参照).

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倫理的かつ法律上でのもう1つの問題は,サービス(生命維持を含む)の保留あるいは中止に関する権限であ

る(Asplund and Britton 1989, Holloway et al. 2005).地域によって様々だが,医師や医療チームが代わりに

意思決定者となることもしばしばある(Asplund & Britton 1989).文章化されていない間ずっと,患者の家族

がこの過程において常に重要な役割を果たしてきたと考えられる.生命決定に関するこの協同は,ますます支

持されている(Holloway et al. 2005, Aita et al. 2008).重度脳卒中患者における生命維持の提供を保留や中止

にすることに関して調査された研究において,Aitaら(2008)は,倫理的意思決定に関して27名の日本人医師

と会談した.意思決定の際に,医師らは直観的知識と主観的な法律の解釈を最も拠りどころとすることを明ら

かにした.全体として,医師は機械的人工換気よりも栄養や水分補給の提供を中止することをより気が進まな

いとした.Aitaら(2008)やHollowayら(2005)は,専門的な短期予後を確実にするために試験的な治療の

利用を推奨した.この方法は,うまくいけば,重度脳卒中患者の治療に関して,倫理的な意思決定を実施する

にあたってより正確な基礎となるであろう.

リハビリテーションにおけるさらなる倫理的な関心は,めったに記されないがよく遭遇することで,急性期を

乗り越えた重度脳卒中患者が,限られた資源に直面した中で,学際的な脳卒中専門リハビリテーションユニッ

トに入棟するべきかどうかに関する決定である.言い換えれば,脳卒中リハビリテーション専門家はしばしば,

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中等度から重度脳卒中患者の間で決定するよう求められ,若年でない限り,必然的により重度脳卒中患者は延

期される.この種の医学的な意思決定は,医療においてかなり一般的であるが,重度脳卒中患者のリハビリテ

ーションを延期されているという結果は多くの場合評価されていない.さらに,これらの患者は,より取り組

みがいがあり,病院に長く入院するが,あまり改善せず,学際的な脳卒中専門リハビリテーションユニットの

総合的なアウトカムに否定的な影響を与える.それにより,これらの患者を社会復帰させる誘因はたいてい尐

ない.

Conclusions Regarding Severe Stroke Rehabilitation Ethics 重度脳卒中リハビリテーション倫理に関す

る結論

重度の脳卒中の予後予測に関するさらなる調査が実行される必要があるという合意(レベル3のエビデンス)

がある.

主治医医療チームは,患者の幸福に関して倫理的な意思決定法で患者の家族と協同するべきである.

試験的な治療は,倫理的な意思決定のより正確な基礎を援助する可能性がある.

23. 6 Summary 要約

重度脳卒中患者は,すべての脳卒中患者の中で最も著しい機能障害と能力低下を呈している事実があるにもか

かわらず,リハビリテーションの利用が制限されている.なぜなら,機能的利得の可能性がより低く,入院期

間が長引き,資源に関する課題が大きいためである.重度脳卒中患者は,死亡率と依存度の減尐に関して,学

際的な脳卒中専門ユニットから重大な恩恵を受けることが調査によって示された.また,この患者らの機能的

アウトカムに関してはほとんどの場合一致した改善はみられないけれども,脳卒中ユニットによって入院期間

の短縮と在宅復帰への可能性の増加に関連している.カナダでは,この種の治療が明らかに有益をもたらすに

もかかわらず,重度脳卒中患者はしばしばリハビリテーションユニットの利用を許されない(Teasell et al.

2005b).同様に,この問題がさらに悪化している可能性を示唆するオンタリオ州のデータもある(OSSMEI

2005).その上,重度脳卒中患者の入院リハビリテーションを通して実現される潜在的な費用便宜がある

(Gladmand & Sackley 1998).しかしながら,これらの利点は,注意深い選考過程に依存しており,リハビリ

テーション目標は機能的なアウトカムの改善から退院計画と合併症の減尐を目指すよう変化している.最後に,

この点に関して,slow-stream脳卒中リハビリテーションが効果的な介入であることを示唆する十分なデータ

はなく,それがあまり効果的な介入でないことを示唆するデータがある.

重度脳卒中患者の治療に関する倫理的な決定は,試験的な治療や,医療スタッフと患者

の家族間の協同に基づくべきである.

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Summary 要約

1.重度脳卒中患者は,多くの重大な機能障害を呈し,著しい能力低下をきたしているにも関わらず,彼ら

はリハビリテーションの利用を制限されている.

2.重度脳卒中患者のリハビリテーションの利用制限は,中等度脳卒中患者と比較し機能的改善の可能性が

低下するというような様々な要因を引き起こすだろう.

3.重度脳卒中患者のリハビリテーションは,多くの資金使用と関連する.

4.脳卒中あるいは重症度のアウトカムは様々な方法で定義される.一般的な定義は,発症時に無意識下で

重度の一側性あるいは両側性に不全麻痺・知覚障害がある;FIMスコア40点未満あるいはFIM運動項目37

点未満,身体的・認知的・知覚的障害,コミュニケーション障害,あるいはそれらを合併すると在宅復

帰が困難な可能性が高い.

5.重度の脳卒中患者は財政的支援の種類によって否定的に影響を受けるかもしれない.

6.ヒトのニューロイメージングを組み合わせた動物研究では,脳卒中後の回復は,類似した機能をもつ病

変部位周辺の損傷されていない皮質領域に依存し,その領域が失われた機能を代償することを示した.

より重度の脳卒中ではこの代償機構が生じる可能性は低くなる.

7.重度脳卒中患者は,他の重病患者と比較して,めったに集中治療室に入ることを許されない.

8.重大な健康問題をもつ重度脳卒中患者は,集中治療室に入ると死亡率が減尐するようである.さらに他

の研究では,他の特異的なアウトカムを定める必要があるとされている.

9.より重度な脳卒中では,軽度脳卒中と比べリハビリテーション後の乏しいアウトカムと関連がある.

10.重度脳卒中患者は専門の学際的脳卒中リハビリテーションから恩恵を受けるというエビデンスがある.

11.一般的なリハビリテーションプログラムを比較して,専門の学際的脳卒中リハビリテーションは重度脳

卒中患者の死亡率を減尐させるという強いエビデンスがある(レベル1a).

12.学際的な専門脳卒中リハビリテーションプログラムを受けた重度脳卒中患者は,より在宅へ退院する傾

向があるという中等度のエビデンスがある(レベル1b).

13.学際的な専門脳卒中リハビリテーションプログラムを受けた重度脳卒中患者は,入院期間が短縮すると

いう結果をもたらすといった強いエビデンスがある(レベル1a).

14.学際的な専門脳卒中へ入院した重度脳卒中患者の機能的利得に関して相反したエビデンスがある(レベ

ル4).

15.重度脳卒中患者のリハビリテーションでは退院計画と脳卒中後の合併症の減尐を重視することを機能的

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アウトカムによって示した.

16.重度脳卒中患者のリハビリテーションでは,退院計画と脳卒中後の合併症の減尐を重視すべきである.

17.より集中的な脳卒中リハビリテーションプログラムと比較して,多くの時間を要するリハビリテーショ

ンはあまり有益でないアウトカムに帰結すると複数のデータで示唆されている.

18.多くの時間を要するリハビリテーションの利用は,治療を受ける患者が決定すべきであり,患者が許容

できるであろう治療量を治療者の先入観によって決定すべきでない.

19.重度脳卒中の予後予測に関する領域において,より多くの調査が実行される必要があるという合意があ

る(レベル 3).

20.患者の幸福に関して,医療チームは患者の家族と協同して倫理的な意思決定をすべきである.

21.試験的な治療は,倫理的な意思決定のより正確な基礎を援助する可能性がある.

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